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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その3

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その3

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「何をやっているんだ。みんなバラバラで勝手なことをしていたら、鎮められる物も鎮められないじゃないか」
 この様子を丘の上で記録していた緋桜遙遠が、呆れて手を止めた。
「こば……」
「ええ。このままでは、被害は広がるばかりです」
 腕の中で心配そうに客寄せパンダ様を見つめる小ババ様に、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)がうなずいた。
 この位置からはそれなりの距離があるから安全だが、どうやら、暴れる客寄せパンダ様に対して、果敢にも戦いを挑んでいる者たちが何人もいるようだった。
「まあ、どうなることやら。結末が楽しみよねえ」
 アルディミアク・ミトゥナをなめるようにして客寄せパンダ様を撮影しながら、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)が言った。
 客寄せパンダ様がよく観察できるこの丘の上は、逆に言えば他の場所からもよく見えるということになる。それゆえに、丘の上に立って状況を見守っていたアルディミアク・ミトゥナと小ババ様の姿をめざとく見つけた者たちが、自然と集まってきていたのだった。
「ひゃああああ!!」
 そこへ、客寄せパンダ様に吹っ飛ばされたカレン・クレスティアとジュレール・リーヴェンディが落ちてきた。
「危ない」
 間一髪、その場にいたエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)と、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)がサイコキネシスで二人を受けとめた。
「ふう、き、緊張するわねー。のんびりペンギンたちと一緒にパンダを愛でていようと思ったのに、気が休まる隙もないわよねえ」(V)
 無事、気絶しているジュレール・リーヴェンディを地上に降ろした水心子緋雨に、取り巻きのパラミタペンギンたちがやんやの喝采を送った。
「最初から傍観者を決め込んだりするから、そういう目に遭うのじゃ」
 日頃の行いの結果だと、天津 麻羅(あまつ・まら)が突っ込んだ。
「それにしても、あのパンダ、なんとかできないのかのう?」
 天津麻羅が、チラリとアルディミアク・ミトゥナの方を見て言った。わざわざここまでやってきているのだから、自分のパートナーのように物見遊山ではないだろうと感じる。
「そうだよ。シェリルさんは何か知らないの?」
 朝野 未沙(あさの・みさ)も、アルディミアク・ミトゥナに訊ねた。
「もし、言いにくいことだったら、誰もいない茂みの中とかでしっぽりと……」
「それはおいといてですね、あれをなんとかできないですかね」
 邪なことを考える朝野未沙を、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が強引に横へと追いやった。
「いっそ、星拳で吹っ飛ばすとかできれば簡単なんですが。もちろん、サポートはいくらでもしますし、明倫館としても、原因の一端を担った責任はありますから、学校としての全面的協力を引き出せると思いますが」
 紫月唯斗が、そうアルディミアク・ミトゥナに持ちかけた。
 同じ明倫館所属の水心子緋雨と天津麻羅も、それに同意してうなずく。
「もちろん、協力は惜しまないが、戦ってすべての決着がつくとは考えにくいな」
 同じ明倫館所属でありながら、武神牙竜はそれに異を唱えた。
「もし、戦って勝てるのであれば、すでにけりはついているだろう。今だって、戦っている者たちもいる。それで、全然事態は解決していないじゃないか」
「それは、力で負けているからであろう。覚悟の違いではないのか」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が口をはさんだ。
「私もそう思います。ですが、私たちと、アルディミアクが力を合わせれば、それも打破できるでしょう」
 エシク・ジョーザ・ボルチェが、アルディミアク・ミトゥナに呼びかける。
「それじゃだめよ。もし戦うのなら、世界樹対パンダの一騎打ちでなくっちゃ……」
 目を覚ましたばかりのカレン・クレスティアが、ふらふらしながら言った。朦朧としているせいで、何かあらぬ妄想を見ているらしい。がぷりよつに組む客寄せパンダ様と世界樹という構図も凄まじいが、さすがに全高千メートルの世界樹と二十メートルの客寄せパンダ様では、五十倍も差があるので話にならないだろう。もっとも、世界樹に腕と足があって、動きだせればの話であるが。
「ハイナ・ウィルソンからは、パンダ像の破壊許可は出ている」
 携帯に届いたメールを見せて、紫月唯斗が言った。同じ物を、ローザマリア・クライツァールも見ている。二人の報告を聞いたハイナ・ウィルソンの決断であった。
「今こそ戦うときであろう」
「そうです」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の言葉に、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)がうなずいた。
「だめですよ。パンダさんとは友達にならなくちゃ」
 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が、それらの意見に異を唱えた。単純に、魅了してまで人々を集めたかった客寄せパンダ様は、人恋しかったのだと思っているようだ。
「俺は、ノアの意見を尊重する。だから、あのパンダの真実を知っているなら教えてほしい」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が、アルディミアク・ミトゥナに言った。
「こばっ……」
 小ババ様が、アルディミアク・ミトゥナを見あげる。
「私だって、詳しいことは知りません。あのアーティファクトを見るのは初めてなのですから。それに、この五千年間のことは何も知りませんし。ただし、あれと同じ性質の女王器を作ろうとして失敗したという話は聞いています。あのパンダ像は、人々の精神エネルギーを吸収して集める女王器の試作品なんだと思います。玄武甲のプロトタイプと言ってもいいかもしれません。なぜパンダ像の姿をしているかは謎ですが」
「きっと、制作者の趣味なんじゃない? クリエイターって、どうしてもそういうところで遊んじゃうんだよねえ」
 ちょっと自戒の念も込めて、朝野未沙が言った。
「こば」
 思わず、小ババ様が苦笑する。
「でも、なんで巨大化したんですぅ。それに、もう魅了の力はないみたいですぅ」
 すべての感情を客寄せパンダ様LOVEに変えてしまう魅了効果の恐ろしさを我が身で体感していた神代 明日香(かみしろ・あすか)が、ちょっと不思議そうに言った。エリザベートちゃん命の彼女でさえ、客寄せパンダ様の方がエリザベート・ワルプルギスよりも上と声高に言わせてしまうほどに恐ろしい魅了の力だったのだ。それが突然消えてしまうというのも変な話だ。
「玄武甲は、ほぼ無制限に精神力を補充してスキルを使える女王器ですが、あのパンダ像は、同じ効果を引き出すために、周囲の感情を自分にむけさせて、それを吸収するシステムであったと記憶しています。確か、どこかの竹林で、竹の中から発見された不思議な結晶が母体となっているとか……。ところが、普通のアイテムであればそれでもよかったのですが、なまじ女王器にしてしまったため、感情の吸収能力が暴走して強力な魅了の効果になってしまったのでしょう。当時、緊迫する世界情勢に数々のアイテムが試作されましたが、その中でも大失敗の部類に入るので、ずいぶんと話題になったものです。それで私も覚えていたわけですが……」
 あまり当時のことは思い出したくなさそうにアルディミアク・ミトゥナが言った。
「なにしろ、敵味方区別なく魅了してしまったのでは、使い道がないでしょう。そのため、遺棄されたと聞いていましたが、どうして今さら世に出てきたのか……。竹の中から発見されたので、竹で作った籠目で結界器を作って封印したと聞いていましたのに」
「それで、パンダ島の祠の封印や、編み笠が竹でできていたわけか。きっと、竹の耐久性から考えて、何年かに一度封印が解けかけて、その都度再封印を繰り返してきたから古文書に記載があったというわけでしょうね」
 一つ謎が解けたと、緋桜遙遠がすぐさまメモをとった。
「おそらく、巨大化は、エネルギーの反転現象かと。周囲の感情エネルギーを吸収するだけで、まったく消費はしていなかったわけですから、争いによる負のエネルギーが過剰に蓄積されて、自然放出の形で流れが反転したのでしょう。あの暴走は、内部のエネルギーが尽きるまでは止まらないと思います」
「それでは、いつ収束するか分からないわ。本当にどこかの町が破壊されてからでは遅いもの。私たちは、自分たちの意志で、あれを破壊します」
「残念です」
 ローザマリア・クライツァールが決断すると、彼女たちはアルディミアク・ミトゥナたちが止めるのも聞かずに出撃していった。
「マスター」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が、バイクを回してきて紫月唯斗に声をかけた。
「俺たちも、ハイナの命令に従う。失礼する」
 一礼して素早くサイドカーに飛び乗ると、紫月唯斗も丘を駆け下りていった。その後を、小型飛空艇に乗ったエクス・シュペルティアと紫月睡蓮が追いかけていく。
「まずいな。追いかけよう、ノア」
「うん」
 そんな彼らを止めようと、レン・オズワルドとノア・セイブレムが急いで追いかけていく。
「まったく、人の命令とか力だけで、正義は行えないっていうのに……」
 武神牙竜は、その場を動かなかった。
「しかし、パンダ島には謎の足跡があったそうじゃが」
「ええ、調査に行った人たちの報告に巨大な足跡を見つけたというのがありますね」
 天津麻羅の言葉に、緋桜遙遠がうなずいた。
「ということは、過去にも巨大化したことがあって、その後でまた縮んだというわけじゃな。その方法は知らぬのか?」
 天津麻羅が、アルディミアク・ミトゥナに訊ねた。
「でも、村は全滅してたはずです。人が誰もいなくなったら、吸収する精神エネルギーもないですから、エネルギー切れで縮んだんじゃないでしょうか」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が、ちょっと考えてから言った。
「もしかすると、争いのエネルギーは、パンダ像にとっては、マイナスの物なのかもしれないですね。だから、昔も今みたいにパンダ像の争奪戦で争いになって、身の危険を感じたパンダ像が対抗処置として巨大化して危害を加えようとする者たちを排除しようとしたとか」
「そうですね。ある程度エネルギーを放出させさえすれば、小さくなるかもしれません。でも、今みたいに攻撃を続けているのでは、負のエネルギーは絶えないはずです」
 御凪真人の推測に、アルディミアク・ミトゥナが同意した。
「きりがないな」
 やれやれといったふうに、武神牙竜がつぶやいた。
「なんとか、攻撃をやめさせて、怒りを相殺して外にむかっているエネルギーの流れを再び内側へ反転させないと」
「たぶん、あの島の生き残りの人たちが、それを実現してパンダ像を再封印したのでしょうね。村に残されていた言葉は、警告だったのでしょう。ただ、小さくなると再び魅了の効果が戻ってしまうでしょうから、へたをすると振り出しに戻ることになるでしょう」
 アルディミアク・ミトゥナの言葉に、少しだけ御凪真人が注意をうながした。村に残されていた言葉、「心に頼る者は、心により慢心し。力に頼る者は、力によって滅び。祈りに頼る者は、祈りによって救われる」とはそういう意味に違いない。なによりも、パンダ像の怒りを静めることが先決だ。
「よし。アルディミアクとか言ったな、力を貸してくれ。巨大化には巨大化だ。君に大きくなってもらって、パンダをだきしめて鎮めてほしい」
 武神牙竜が、何かを思いついてアルディミアク・ミトゥナの両肩をがしっとつかもうとした。が、さすがに、するりと体を躱されて、武神牙竜の両手は空をつかむに留まった。
「わたしは巨大化なんてできませんよ」
 人をなんだと思っているのだと、アルディミアク・ミトゥナがちょっとむっとして言い返した。
「こばっ!」
 私がやると言いたげに、小ババ様が手を挙げる。
「いや、小ババ様はいいからね。こほん。この重攻機リュウライザーのメモリプロジェクタで、アルディミアクの姿を空中に巨大投影するんだ。同じ大きさの者の言うことなら、さすがにパンダも耳をかたむけるだろう。そこで、優しくだきしめてやってくれ。きっと、思いは通じるはずだ」
「悪くない作戦だよね。やってみようよ、私もくっついていって、下から見守ってあげるんだもん」
 キランと目を輝かせながら、朝野未沙が武神牙竜を支持した。
 その言葉に、思わずアルディミアク・ミトゥナが赤くなってスカートを押さえる。立体映像を巨大投影でもされたら、アングルによっては見られ放題だ。
「辞退いたします」
 きっぱりと、アルディミアク・ミトゥナが言った。
「こばあ、こばこばあ」
 アルディミアク・ミトゥナの腕の中の小ババ様が、彼女の豊かな胸をペチペチと叩いて何か主張した。
「そうですね。このまま放っておくわけにもいきません」
 一同はジュレール・リーヴェンディを緋桜遙遠に頼むと、客寄せパンダ様にむかって丘の上を出発した。