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第11章 サッドを倒せ!

 朝倉たちの活躍によって、女子生徒たちは次々に館から脱出していく。
「おのれ! 小癪な真似を! たとえ連れ帰っても、またさらってやるぞ! 覚えておけ、次にさらったときは全員殺すといたそう」
 シビトは、燃えあがる玄関ホールでひたすら毒づく。
「じゃあ、お前を殺しとけば大丈夫だな!」
 天空寺の拳が、シビトの顎をまっこうからとらえていた。
「ぐ、ぐわっ! おのれ!」
 シビトは、鼻血を流しながら呪文を唱える。
 巨大な龍の幻影が現れ、天空寺に襲いかかる。
「何だ、こんなもの!」
 天空寺が龍に殴りかかっている間に、シビトは背後にまわり、その喉をかき切ろうとした。
 と。
 その足が止まる。
「お、お前は!」
 シビトの目が大きく見開かれる。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、そこに立っていた。
 ルカルカは、拘束されていた拷問室から自力で脱出してきたのである。
「バ、バカな! 薬の効き目がもう切れたのか? にしても回復がはやすぎる!」
 愕然とするシビトに、ルカルカが近づく。
「普段から鍛えていれば、違うんだよ! あんな鎖が何だ!」
 ルカルカは、引きちぎった鎖を投げ捨てて、いう。
「く!」
 シビトは、蛇に睨まれたカエルのように身体が硬直するのを覚えた。
「いったよね! 必ず殺すって!」
 ルカルカがダッシュしたとき、それでも、シビトは背中を向けて逃げ出すだけの度胸があった。
 シビトが向けたその背中に、ルカルカは容赦のない飛び蹴りを放つ。
「ぐ、ぐぎゃああ!」
 シビトの背骨が砕け、肉が裂ける。
 血しぶきをあげるシビトの身体を捕えて、仰向けに寝かせると、その股間を、ルカルカは踵で思いきり踏み砕いていた。
「あ、あおああああ!」
 シビトは血を吹きながら手足をばたつかせていたが、やがて、動かなくなる。
 館で、何十年もの間、おびただしい人数の美少女を監禁し、好き放題にいたぶって陵辱し、殺してきた極悪人は、ついに息絶えたのだ。
「よし、これで、ここの敵はザコばかりになったぜ!」
 天空寺が歓声をあげる。
 ルカルカは、シビトの冷たくなった身体を、燃えるような怒りの目でじっとみつめていた。
 
「いよいよ、燃え上がってきましたわ。闘いも、この館も!」
 ごうごうという炎に包まれ、壁の一部は崩落さえしてきた食堂の中で、メニエス・レインは微笑む。
「まるで、祝福してくれているようだな」
 坂上来栖も、凶暴な笑みを浮かべる。
「祝福しているって、あたしとあなた、どっちをかしら?」
 メニエスは尋ねた。
「もちろん、私をだ!」
 叫びながら、坂上は氷術を放ち、同時にダッシュして短刀で斬りつける。
(何、いってんでしょ? いい加減、バカ神父についていけなくなってきましたね)
 魔鎧であるナナ・シエルスは、パートナーの精神状態を本気で疑い始めた。
 坂上の攻撃をかわしたメニエスは、跳躍して相手の背後にまわった。
「少し頭を冷やしたらどうかしら? エンドレスナイトメア!」
 メニエスのつくりだした闇黒が、坂上を背後から包み込む。
「どのような闇も、神父の心の光までは打ち消せないんだよ!」
 視界を塞がれながらても、坂上は戸惑わない。
 対抗して闇術を放ち、闇で闇を払おうとする。
(心の光、とかいいながら自分も闇をつくりだしてるけど。いいのか?)
 ナナは突っ込みたかったが、あえて黙る。
 メニエスの動きを本能で追いながら、坂上は疲れ知らずの連続攻撃を仕掛ける。
 2人の闘いは、いつ果てるともなく続いていた。
 ちなみに、メニエスの護衛役のミストラル・フォーセットは坂上のタフな攻撃を防ぎきれずに倒れて、床に伸びてしまっていた。
「ここが食堂か」
 ナガン ウェルロッドが、佐伯梓とともに、炎がダンスを踊る食堂に入り込む。
「ナガン! ちょっとだけだぞ」
 佐伯は、食堂の様子に息をのみながらいった。
「ああ」
 ナガンは崩れかかった食堂の椅子に腰かけ、招待客の一人が置いていったグラスの酒に口をつける。
「みろ。闘っている奴がいる。文字通り生命を賭けてな!」
 メニエスと坂上の死闘を見物し始めるナガン。
 サッドのすさまじい拷問をくぐり抜けてきたナガンは、他者の死闘にじっと見入ることで、自分の体験をみつめ直しているかのようだ。
「ここにも、敵がいるな。どこだ!」
 興奮した様子の鬼崎朔が、食堂に踏み入ってくる。
「あれ、メニエスだよ。殺っちゃおうか」
 アテフェフ・アル・カイユームも、鬼崎に続いて食堂に入る。
「殺し続ける! 私の怒りが鎮まるまで!」
 アテフェフの言葉が終わる前に、鬼崎はメニエスに襲いかかっていた。
「手出しをするな!」
 怒鳴る坂上。
 だが。
 ガクッ
「うっ、力が!」
 急に力が入らなくなり、坂上は膝をついた。
(いくら私がついてるからって、やりすぎですよ。もう身体がボロボロですぜ)
 ナナが警告する。
「そろそろギブアップかしら」
 鬼崎の放ったアウタナの戦輪をゆらりとかわしながら、メニエスが坂上にいう。
「まだだ。まだ! うわー!」
 メニエスの放ったファイアストームをモロにくらって、坂上は爆炎の中に倒れた。
「やり甲斐のありそうな相手だ! いくぞ!」
 鬼崎がメニエスに迫る。
「あたしたちを一人で相手して、勝てるかしら?」
 アテフェフが残忍な笑みを浮かべる。
 だが、メニエスは平気だった。
「自信はあるわよ。ええ。なぜなら、今宵は、悪魔の夜だから! 感じるわ! この館中に邪悪な力が、いよいよ満ちてくる! 邪神の召還が近いのね!」
 メニエスは高らかに笑いながら、鬼崎たちに地獄の炎を放つ。
 さっきよりも、炎の勢いが強まっているように思えた。
「おう。あのネクロマンサー、かなりヤバいな。強さのインフレが起きてるぜ」
 ナガンはグラスの酒を飲み干し、酔った目でメニエスをみつめていた。

「フフフ。ハハハハハハ! あともう少しだ、もう少しで邪神が!」
 Sの館から突き出る尖塔の最上階、狂える闇に最も近い屋上において、サッドはわんこ状態の泉美緒を侍らせ、邪神召還の儀式をとり行っていた。
 屋上には、炎の五芒星形が描かれており、サッドが呪文を唱える傍らで、四つん這いになっている泉美緒が、足で耳をかきながらきょとんとしている。
 やがて、サッドは美緒の身体を抱えて、仰向けにして、大股開きの格好にさせると、動くなという仕草をして、美緒には理解できない儀式を続行する。
「わんわん! 雲行きが怪しいですね。何だか、闇の中から恥ずかしい部分をみられているようですわ」
 美緒は、仰向けで大股開きのその状態を寒いと感じたが、サッドにいわれたとおり、同じ態勢を維持して、上空の闇にわだかまる汚らわしき暗雲をぼうっとみつめていた。
 強い風が吹き、天を突く巨乳を、ゆさゆさと揺らす。
 その夜、Sの館で起きた全ての拷問、全ての闘い、全ての血と汗と涙などは、館の中に恐怖や憎悪といった負の感情を充満させ、邪悪な気を増幅させて、触れることができそうなくらい濃縮されたその気塊が、螺旋を描きながら館の最上部にあたる尖塔の頂点に流れ込み、サッドに恐るべきエネルギーを与えるとともに、遥か上空の、人が知ってはならない領域からの歓迎されざる到来を導こうとしていた。
「サッド! やはりあなたは! 彼の者を軽々しく呼ぶことを、許すわけには! うう!」
 塔の屋上にたどり着いたエッツェル・アザトースは、サッドを止めようとして、全身に異様なうずきを覚え、倒れて息を喘がせた。
 エッツェルはアンデッドであり痛みは感じないはずだが、身体の中の何かが、上空からの異様な気配に強い刺激を受けているようだった。
「バイオリズム、異常アリトミウケルガ、詳細不明」
 アーマード・レッドには、パートナーの身体に起きた異変の原因がわからないようだ。
「美緒! 何て姿勢をさせられてるの!」
 崩城亜璃珠は、屋上の異様な光景の中でも、美緒の姿態に衝撃を受け、危険も恐れず駆け寄ろうとする。
 だが。
「邪魔はさせんぞ!」
 サッドが手を振っただけで、みえない力が亜璃珠を押し戻し、身体を転倒させる。
「すごい力だわ! さっきとは比べものにならない! 美緒!」
 亜璃珠は、美緒に手を差し伸べ、這ってでも近づこうとする。
「あれれ。すごい力だよ、どうしよ」
 小鳥遊美羽たちも、異様な光景を目のあたりにしながら、サッドの尋常ならざる力を前に、なすすべもなく立ち尽くしている。
 儀式が進むにつれ、上空にわだかまる闇の中に、光り輝く何かが姿を現そうとしていた。
「お、おおおおお! 私の身体が! 混沌に還ろうとしているのでしょうか!?」
 エッツェルの身体が異様にざわめいて溶けたように崩れ始め、恐怖からとも歓喜からともつかない悲鳴をあげた。
「美緒、逃げて! 生け贄にされるわ! でなかったら、もっとひどいことに!」
 亜璃珠は、美緒を待ち受ける運命について、何かしら虫酸がはしるものを覚え、けたたましく叫ぶ。
 だが、美緒は、上空から現れるものに見入ってしまい、器を開いた姿勢を変えずに、ぽかんとしている。
「う、うわああああ、頭がおかしくなっちゃいそう! 助けてー!」
 感受性の強い小鳥遊は、おぼろげに姿をみせ始めた何者かを前に、限界に近い恐怖で精神が破綻しそうになり、崩壊を防ぐため、不思議なダンスを踊って、自分の注意を究極の存在からそらせようとする。
 そのほか、その場にいた者はみな、知覚の外から押し寄せる異様な恐怖に、気も狂わんばかりになっていた。
 唯一、アーマード・レッドが遠まきにサッドに近づこうとするが、自己防衛機能が敏感に働き、非常に強い警戒モードに移行していた。
「きたれ! ヨグ・ソトース! そして、私の、私の願いを! 究極の破滅を!」 
 サッドは、歓喜に満ちた表情で、それの到来を待ち受けていた。

「みんな、勇気を出して☆ 全力で打ちかかっても、死ぬことはないよ。だって、海人がきているんだもん! 守ってくれてるんだもん☆」
 地上から、サイコキネシスで儀式の場にまで浮かび上がってきた騎沙良詩穂(きさら・しほ)が、力強く呼びかけた。
「海人がいるって? どういうことだ?」
 和泉直哉(いずみ・なおや)もまた、騎沙良に続いて浮上してきたが、サイコキネシスの連続使用に疲れ、屋上の床にいったん着地する。
「詩穂にはわかる。海人が、みんなを守るために、力を貸してくれているって! だから、女の子たちの救出がわりとスローペースでも、死人が出ることはなかった! 海人が、館のどこかで、サイコキネシスで炎を抑えてくれていたから! いまだって、屋上のこの闘いを、海人は見守ってくれている! 詩穂たちが死ぬことがないように!」
 騎沙良は、瞳をキラキラさせて、直哉に語った。
 天御柱学院の強化人間・海人。
 非常に強い力を持つとされるが、普段は車椅子に乗っていて、瞳は虚ろで、話すこともろくにできないとされる、特異な存在だ。
 その海人が、このSの館にきているというのが、直哉には不思議だった。
「それが本当なら、あいつ、闘いを好まないから、俺たちを守る方向に超能力を使うのに専念してるんだな。まったく、そんな手助け、要らないってのに!」
 海人のライバルである直哉にしてみれば、海人の手助けで辛うじて闘えるというのが、面白くなかった。
 妹である和泉結奈を救出するために館にきた直哉だったが、結奈はもう、脱出している。
 後は、妹をひどい目にあわせたサッドを倒すだけだ。
 和泉は、燃え上がる自分の怒りをぶつければ、それだけでサッドを倒せると信じていた。
「そうか。あいつが海人か!」
 直哉に続いて屋上に現れた月谷要(つきたに・かなめ)が、直哉たちの会話を聞いて、やっと自分が出会ったのが誰なのか悟る。
 数多くの敵を葬り、返り血でずぶ濡れになりながら、ようやくこの場にたどり着いた月谷だった。
 その息は非常にニンニク臭いが、吸血鬼対策の一環でやっていることだった。
「さあ、みんなで、サッドの超能力を抑えこんで、攻撃を叩き込むんだもん! 詩穂たちなら、できるもん! こういう強いプレッシャーにも、校長や海人のを味わって、慣れてるから☆」
 騎沙良はそういって、念を凝らし始める。
「よし、俺も! ナメるなよ、サッド!」
 直哉も、念を凝らし、サッドのサイコキネシスに自分のそれをぶつけながら、少しずつ前進していく。
「けっ! 脳の小細工やってる場合かねぇ? オレは本能の赴くまま、あのド変態を屠らせてもらうぜぇ!」
 月谷は血の混じった唾をペッと吐くと、改造魔道銃「散」を構えて、サッドにじりじりと近づいていく。
「むうううううううう!」
「小賢しい真似を! もはや、誰にも破滅への流れは止められぬというのに!」
 サッドは牙を剥いて、騎沙良たちを睨む。
 騎沙良たちの超能力により、サッドが放つ押し返すような力は弱まり、比較的近づきやすい状況になっていた。
「みんな、いっちゃええ!」
 騎沙良は叫んだ。

「えーい、いくぞー!」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が魔法で宙を浮遊し、サッドに攻撃を仕掛ける。
 超能力バトルロイヤルで凄絶な闘いを経験したことのあるミューレリアは、騎沙良たちの力添えもあり、サッドのサイコキネシスによる妨害を突破して、特攻を仕掛けることもわりと楽にできた。
「愚かな! 近づければ勝てるとでも? 飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ!」
 サッドは使い魔のコウモリを放って、ミューレリアに対抗する。
「さーちあんどですとろい!」
 ミューレリアは炎熱の魔法を放ち、コウモリを焼き払う。
「くらえ!」
 サッドの頭上から、ミューレリアは銃を撃ち放った。
 どごーん!
 サッドの脳天に弾丸がめりこむが、貫通はしない。
 その目が、ギロリとミューレリアを睨む。
「ずいぶんと貧しいな」
「えっ?」
「わからんのか? あの女のと比べてみるがよい」
 サッドは、仰向け状態の美緒を指していった。
「はっ、もしかして私の胸のこと? いやーん!」
 ミューレリアはとっさに胸を両手で覆って、視線からガードする。
 その隙を、サッドは逃さなかった。
 ごちん!
 サッドの拳が、ミューレリアの頭を打つ。
「は、はれー」
 目をまわしながら、床に落ちるミューレリア。

「みんな、ひるまないで! 息つく暇もない連続攻撃を叩きこんで、いっきに倒すんだ!」
 倒れたミューレリアの身体を乗り越え、九条風天(くじょう・ふうてん)が、二刀流でサッドに突っ込んでゆく。
「貴様、自分がいままでしたことがわかっているのか! ここで終わっていけ!」
 九条は、刀の一撃をサッドの身体にくいこませ、そのまま切っ先を切り返して疾風突きで腹を串刺しにした。
「ぐ、ぐおっ」
 サッドは腹を貫く刀身をつかみ、うめく。
 その口から、血がこぼれた。
「もらった!」
 九条はそのまま刃を切り上げ、サッドを一刀両断にしようとする。
 ぶしゅー!
 サッドが、口から吹き出させた血で、九条の視界をふさぐ。
「うっ!」
 九条の目に痛みが走り、力が弱まる。
 同時に、腹から刀を抜こうとするサッド。
 力のバランスが、一瞬だけ崩れた。
「あっ、いない? どこだ?」
 サッドの姿を見失って、焦る九条。
 自分の手にあったはずの刀もない。
「風天、上だ!」
 白絹セレナ(しらきぬ・せれな)が叫ぶ。
 頭上をあおいだ九条の目に、腹から引き抜いた刀を振りかざしたサッドが、恐ろしい形相で斬りかかってくるのが目に入った。
「うおおお!」
 とっさに防御に入る九条を、杖をかざした白絹がかばう。
「くらえ、業火の裁きを!」
 杖をまわし、魔力を強化してファイアストームを放つ白絹。
「嵐の中で果てるがよい!」
 サッドもまた、火術を連発しながら刀を振りおろした。
 ちゅどどどどーん!
 炎と炎がぶつかり、大爆発が起きた。
 九条と白絹は身体は吹っ飛ばされて、塔の屋上の縁を超え、地上へと落下していく。
 炎の中で、サッドと思われる黒い影が、すっくと立ち上がって笑い声をあげる。
「2人とも、やられたか!?」
 直哉は思わず救出に行こうとする。
「大丈夫! 海人が守っているもん!」
 騎沙良のいったとおり、落下していく2人の身体は、みえない力に包まれ、墜落の衝撃から守られることになる。

「ハーハッハッハッハ! 盛り上がってきたところで! とうっ!」
 高い笑い声をあげながら、誰かが天高く跳躍した。
「誰だ?」
 炎に包まれ、皮膚がドロドロになりながら、サッドが叫ぶ。
「お前に名乗る名前はないっ!」
 頭にタヌキの被りものをかぶった、四条輪廻(しじょう・りんね)が着地して、両腕で不思議な図形を描き、ポーズを決める。
「イルミンスールのご当地ヒーロー2号、ぽんたろーマン、見参っ!!」
 四条の叫びが、邪神が姿を現しつつある夜空に響き渡る。
 ぽんたろーマンが現れた以上、いよいよサッドも終わりであろうか?
「お、おい、大丈夫か? 頭だけ被りもので、何だか変だぞ。名乗る名前はないとかいいながら、名乗ってるし」
 和泉直哉は、いいながら、掌に汗を握りしめる。
「す、すごいもん☆ このタイミングで、ぽんたろーマンが! 邪神にも負けない正義の味方だもん!」
 騎沙良は、ぽんたろーマンのファンになってしまった。
「さぁっ、極悪人よっ!! 俺の怒りの拳を、受けてみろっ!」
 ぽんたろーマンは、だだっと駆けて、銃を構える。
「ポンダーっ、ライフルっ!」
 ズキューン!
 ぽんたろーマンの銃撃は、標的のサッドから思いきり外れて、吹きゆく風の中に消えてゆく。
 ひゅううううう
 風の音が、虚しくとどろいた。
「タヌキのヒーローよ、お前も弾丸と一緒に飛んでゆけ!」
 サッドの拳が、ぽんたろーマンの身体をぶっ飛ばす。
「う、うわあああああ! ぽんたろー、マッハ、ジェット、スカイー!」
 よくわからないことを叫びながら、ぽんたろーマンは塔の屋上から転げ落ち、両手を大きく広げながら、地上へと墜落、いや、舞い降りてゆく。
「みろ、俺は、飛んでいるー!」
 ぽんたろーマンの絶叫が、遥か下方にとどろく。
「あれが、邪神か!?」
 地上の人々の中には、勘違いする者もいたという。