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リアクション
ペンギンが歩いている。
夜の暗い暗い森の中を8匹の『パラミタペンギン』が一列に並んで歩いていた。
よちヨチよちヨチと体を横に振りて、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)と共に元気いっぱいに行進していた。
「どこかな~? ユニコーンさんはどこかな~?」
パッフェルからのメールを受け取って、サバゲーの事を知った。皆が再び森を訪れるなら、自分たちも、そして以前に会ったイルミンスールのユニコーンに会いに行きたかった。麻羅が会いたそうにしていたし。
「わ、わしは別に…良い機会じゃから顔を見せに行くだけじゃ」
ホントもうツンデレさんだなぁ~、って言ったら殴られそうだから言わないけど。キョロキョロと頭を振る麻羅はとっても可愛いかった。
ふと麻羅が立ち止まる。緋雨も止まってペンギンたちも止まる。麻羅は茂みの中へと瞳を向けていた。
『ドルイド』である彼女は何者かの気配を感じたのだろう、緋雨には他の茂みよりも暗くて黒く見えただけだったのだが……。
茂みの中からイルミンスールのユニコーンが現れた。
「何だ、主ら、また来たのか」
ユニコーンは2人の足元を見て続けた。
「それか、不思議な気配の正体は」
「えっ? あぁ、ペンギンちゃんの事? 可愛いでしょ♪」
「普段は見ない種だ。興味深くはある」
ユニコーンはじっと『ペンギン』たちを見つめた。数を数えているようにも見えた。
「これらの他にも、多くの気配を感じたのだが」
「それならパッフェルさんたちよ。前に約束したんでしょ? サバゲーをしても良いって。それを今やってるから」
「純潔なる乙女か。ならば、今まさに森に近づいている気配も彼女の知る者たちか」
「今? どうかな。サバゲーはとっくに始まってるはずだから、遅刻した人たちなのかも」
緋雨はパッフェルから届いたメールの内容をユニコーンに伝えた。それを聞くと、ユニコーンはおもむろに踵を返そうとした。
「今夜は…………月が綺麗じゃのう」
これまで黙っていた麻羅が空を見上げていった。顔を上げたままなのは、星を見るからだろうか、直視するのが気恥ずかしいからだろうか。
「せっかくの夜じゃ。どうじゃ、一緒に月見酒でも」
心地よい風がユニコーンのたてがみをそっと揺らした。
木々が退けたような空き地を見つけてティセラの一行は小型飛空艇を着陸させた。
月明かりが照らす森の木々は眠っていても手に手を取りあっているように深く生い茂っていた。
「パッフェルを止めるのは賛成だけど」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はティセラの目線に合わせて森に瞳を向けた。「捜し出すのは、骨が折れそうね」
ティセラは改めて今回の目的を話した。目的はパッフェルを連れ戻すこと。武力で取り押さえる、または気絶させて連行するという方法もあるが、今回は敢えて彼女が主催するサバゲーに参加し、堂々たる勝利をおさめた上で彼女を連れ戻す、というものだった。
規律を破ってまで行いたかったというサバゲーとやらを一気に終わらせて連れ戻す。ティセラは並々ならぬ闘志と共に森にやってきていた。
「勝利条件には『敵の殲滅』というのもあるみたいだけど」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はパッフェルからの連絡メールの文面を見ながらに提案した。
「あえてパッフェルとは撃ち合わずに、旗を倒してパッフェル陣営を制圧したらどうかな」
「もちろん、サバイバルゲームにおける戦闘経験では圧倒的に不利ですから、陣を制圧する方が成功する可能性は高いのかもしれません。ですが『勝利』する為の方法が2つもあるのです、その内の1つをわざわざ消してしまうことはないでしょう」
「う~ん。という事は、パッフェルと戦う班と陣の制圧を狙う班に分けるって事?」
「というよりも、単純に2つの班に分けた上で敵陣営を目指せば良いのです。パッフェルと遭遇したなら戦闘、そうでないなら陣の占拠に全力を尽くす」
「あ、あれ? ちょっと待って」と首を傾げたのは芦原 郁乃(あはら・いくの)だった。
「私たちって、そもそも呼ばれてないでしょう? 敵の陣地を占拠できたとして、それで『私たちの勝ち』って認めてくれるかな」
「戦場では予期せぬ敵と遭遇する事だってあり得ますわ。ルールに則ってやれば何も問題ないはずです」
ティセラは他に疑問質問はないかを皆に訊ねた。さすがは十二星華のリーダーと言うべきか、皆を導き統率しようとする姿は様になっていたし、輝いて見えた。
その姿にノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は自分のパートナーである影野 陽太(かげの・ようた)の姿を重ねていた。
パッフェルを連れ戻す事が目的だとティセラは言ったが、今回の件が公になることでパッフェルの立場が悪くなるのを未然に防ぎたいというのが真の目的なのだろう。
陽太も今、ナカラの地にて御神楽 環菜(みかぐら・かんな)復活の為に尽力を尽くしている。たいせつなひとの力になりたいという想いが人を強く動かす姿に、ノーンはここでも出会ったのだった。
一行が出発するのに際し、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はティセラに衣装替えを提案した。
「せっかくのドレスが汚れてしまうわ」
祥子が手渡したのは野戦服だった。なるほど、これなら汚れも気にはならないし、サバゲーにもよっぽど合っている。
「待て」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が口端を曲げて言った。
「どうせ着替えるなら、オレに良い案がある」
「良い案?」
「あぁ。これは戦だ、念には念を、だろ?」
ティセラとリーブラの着替えを終え、各々がサバゲー用の武器の確認を終えた。
ティセラの出発の号令がゲーム参戦の合図、それくらいは静かに始まるはずに思えたのに。
突然、一行の足元へ手榴弾が投げ込まれた。
サバゲー仕様の為、煙しか発生しない。それでも爆ぜる音と光に煙は、瞬時に戦場の匂いを場に漂わせた。
面々は『殺気看破』や『ダークビジョン』を発動したが、その間にも手榴弾やペイント弾は撃ち込まれている。
暗闇の中、茂みの奥に射手の位置を特定したはずだった。しかしその時には既に射手は姿を消した後だった―――
追走しようとするセイニィをティセラが止めた。敵の正体が分からない上に、事実上見失っているのだ。無理に追う必要はないだろう。
森に入った時点でサバゲーは始まっている、すでに巻き込まれているという事を思い知らされた。誰かれ構わずに襲ってくるという点は容赦できないが、こちらとて正面から参戦するつるもりで来ているのだ。
一行はそれぞれに臨戦態勢をとりて、森の内へと駆けて行くのだった。
「ふぅ。危なかった」
緋山 政敏(ひやま・まさとし)は追っ手が来ないことを確認すると、ようやくに足を止めて一息ついた。
ティセラ一行に奇襲をかけたのは彼、そして一目散に逃げたのもまた彼である。
本当は手榴弾で注意を引いているうちにペイント弾でティセラを狙うつもりだったのだが、敵方の感知が思った以上に早く、狙いを定めている暇さえなかった。最後の手榴弾を放ると同時に一気に『バーストダッシュ』で駆け逃げた、それ経験が彼に危機感を抱かせたのだった。
「まぁ、でも、楽しんで貰えたんじゃないかな」
奇襲を受ける事もまたサバゲーをしていれば起こりうること。どうせならティセラたちにもサバゲーを楽しんで貰いたい、その一心での行動だった。
あそこで発見されたらと思うと寒気がしたが、政敏は一人、彼女たちの健闘を祈るのだった。
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