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『ナイトサバゲーnight』

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『ナイトサバゲーnight』
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第四章 戦は鎮まる

 木々を見下ろせるばかりの小高い丘の上。
 夜はすっかり更けていて、真ん丸い月もすっかり傾いている。
 水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)天津 麻羅(あまつ・まら)は『イルミンスールのユニコーン』と共に、そんな月を見上げていた。
「ねぇ」
 ゆるりと流れる風を壊さないように。
「あなたの事、『白羅(はくら)』って呼んでも良い?」
 緋雨は訊いた。
「白い体に、麻羅の羅で『白羅』♪」
「ふむ。悪くはない」
「のぅ、白羅よ」
 麻羅はイタズラな笑みを浮かべると、名付けた緋雨よりも先にその名で呼んだ。
「どうじゃ。あの事件以来、何事もなく過ごせておるのか?」
「あぁ。穏やかなものだ」
「そうか。それは何よりじゃ」
 想いは緋雨も同じだった。せっかく『ユニコーン』が人への警戒を緩めてくれたのだ、失望させるような事件は何も起こっては欲しくない。
「困ったことがあったら、すぐに言ってね。私たちが力になるから」
「主らに頼むと、騒ぎが大きくなるからのう」
「ひどぉ〜い」
「ふむ。ヒドい言われようじゃ」
 『ユニコーン』が小さく頬を緩めて、すぐに戻した。
 月が眠りについてしまうまで。もう少しばかりは静かに楽しめそうである。



「まったく…この政治的に難しい時期に一体、何を考えているんですか!」
 『モデルガンツリー』の樹の下で、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)ティセラに説教していた。
「貴女たちは西シャンバラのロイヤルガードですよね? もうちょっと自覚を持ってください!」
 ザンスカール家への根回しを済ませて駆けつけてくれた、それだけにティセラは素直に聞いているようだったが。
「今回はうち(騎士団)の軍事演習という事にして誤魔化しておきましたが、何度も使える手じゃないんですよ! やるならやるで事前に申請を―――って……」
 フレデリカは顔向をパッフェルへ向けて……溜息をついた。
「当の本人が寝てるんじゃ、話になりませんけど」
 パッフェルはスヤスヤと穏やかな寝顔を見せていた。じっと見ていると吸い込まれそうで、フレデリカは仕方なくティセラに言った。
「も、もうちょっと自覚してください……貴方達を慕う生徒は多いんですから」
 言って僅かに顔を背けた隙に、パートナーのルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が頭を下げた。
「すみませんスミマセン! あの……フリッカはザンスカール家に許可を取るのに本当に熱心に動いたのでそれで、それでいつもよりずっと熱くなっているだけなんです」
「えぇ、わかっていますわ」
 ティセラは優しげにそう言うと、大きな瞳でパッフェルを見つめた。
 『サンタのトナカイ』に「ソリ」が付いており、その中でパッフェルは毛布にくるまって眠っていた。揺れが少なそうだからと桐生 円(きりゅう・まどか)が用意したものだが、パッフェルの寝顔を見る限り、寝心地も良いようだ。彼女は実に穏やかで幼い顔をしていた。
「まったく、手のかかる妹分ですわ」
 自分がした事も、自分の為に動いてくれた人が居る事もちゃんと理解した上で反省させる。同じ事は繰り返させまいとティセラは一人決意を固めたようだった。
「あの、こんな時に何なのですが」
 サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)が申し訳なさそうにに言った。
「彼女にこれを」
「何だぃ?」
 差し出したのはDVDだった。『銃撃戦闘研究会』の自主制作映画(PR用)だという。彼女をこのまま送ってゆくというに預かって貰いたいとの事だった。は「必ず渡すよ」と言ってこれを受け取った。
 夜が明ければパッフェルには要人警護の仕事が待っている。多少でも睡眠時間を取った方が良いと説いてが無理に眠らせた。ずいぶんと機嫌も悪そうだったし、仕事に支障を来す事があってはみんなの想いが無に帰してしまうかもしれない。
「ボクがしっかり送るからね。ゆっくり眠るんだよ」
 彼女の漆黒のグリフォンにはついてきて貰うとして。風避けと毛布をもう少しかけてあげようか。あぁそうだ、彼女に『ヒール』を頼んでみようかな。
 が思い浮かべたのはエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)だった。彼女は戦場に居た時から、そして『モデルガンツリー』に戻って来たからも、ずっとに怪我人の治療に当たっていた。
「おっ、こらぁ、なぜに暴れる! 大人しくせんか!」という声が聞こえてきた。『ヒール』をメインに治療しているはずに、時々あぁ言った荒い言葉が聴こえてくる。パッフェルが起きちゃうかもしてないから、やっぱり止めておこうか♪
 考えるたびに湧きあがってくる。は嬉しい悲鳴を噛みしめて、まずは毛布を手に取るのだった。
 パッフェルの力になりたいと願う朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、ティセラに直談判していた。パッフェルの要人警護の仕事を手伝いたい、と申し出たのだ。
「要はパッフェルがしっかり仕事をすれば問題はないんだろ? 手伝わせてくれよ」
「気持ちはとても嬉しいのですが」とティセラは言ったが、彼女は首を縦には振らなかった。いかに能力が高かろうともロイヤルガードの仕事を外部の者にさせるわけにはいかないようだ。
「さぁ。今は、ゆっくりするとしましょう」
 笑みを浮かべたティセラと共には辺りへ視線を向けた。ティセラの周りだけが難しい顔をしていたが、「立食パーティ」は既に始まっているのだった。
 長テーブルにはサンドイッチやらジュースやらが並んでいる。ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が用意したものだが、パートナーのルカルカ・ルー(るかるか・るー)ががっつくものだから、休む間もなく調理する事を要されていた。その度に鳥レバーの煮込みやらフォアグラを使った料理などの手のこんだメニューが増えてゆくのは彼の調理スキルの賜のようだ。
 セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)が食べているお弁当も彼が作ったようで、彼は今まさに、このパーティーを取り仕切る料理長の風格を纏っていた。
 隣のテーブルは素朴な味をテーマとしていた。
 棗 絃弥(なつめ・げんや)が握り飯を、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が豚汁を作る。皆から寄せ集った食材があれば、全員に振る舞えるだけの量は作れるだろう。牙竜は作っては手渡し、作っては手渡して回っていった。
 パーティ会場の隅で小さくなっているセイニィを見つけて、牙竜はそっと隣に座った。
「ほれ」
 握り飯と豚汁のセットを手渡した。「温まるぞ」
 言ってから気付いて、牙竜は頬が赤くなりゆくのを感じた。一緒に『鎖十手』に絡められた事を思い出すと、やはりに目は泳ぎっぱなしだった。
「どうした? 元気ないな。らしくねぇぞ」
 誤魔化すような口調で言ったが、元気がないように見えたのは確かだった。セイニィも初めは反発して返していたが、溜息を一つ吐くと「結局、何もできなかったぁ」と雫して呟いた。
「そんな事はないだろ。ティセラパッフェルの間に立って仲を取り持とうとしてたじゃねぇか」
「してただけ。実際は何もできてない」
「そうか? お前が居たおかげで2人が落ち着いたんだろ?」
「あの2人は結構冷静だったと思うよ」
「あん? どういうこった」
 セイニィは2人が斬撃と砲撃をぶつけた時の事を話した。あの時2人はそれぞれの星剣ではなく、『レプリカ・ビックディッパー』と『量産型パワー・ランチャー』を使っていたのだと。2人が全力でぶつかれば小さな山くらいは消し飛んでしまう、分かった上で敢えて偽物を使っていたようだ。
「レプリカと量産型であの威力かよ。とんでもねぇな」
「あたしなんてパッフェルに守ってもらっちゃったし。ほんと、何しに来たんだか分かんない」
「…………」
 牙竜は温かいお茶を振る舞っていた七那 禰子(ななな・ねね)から湯呑みを受け取ると、セイニィにズイと押し渡した。
「飲め。そして早く食え。今日は食いに来たんだ、みんなでここで美味いもん食いにきたんだよ」
 会場のどこを見ても、食べている顔も飲んでいる顔も笑んでいる。パッフェルの寝顔さえも薄く笑んでいるようにも見える。
 湯呑み茶碗が温かい。夜の風が冷やした体を、食べて話して温もって笑み合って。
 夜明けまでの僅かな『ひととき』を、みんなで温め合って過ごしたのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

古戝 正規

▼マスターコメント

 
 お待ちしておりました。古戝正規です。
 騒々しい場面もありました一夜のお話でしたが、いかがだったでしょうか。
 やはり夜という雰囲気が良かったですね、サバゲーの難易度も数段上がってましたが♪

 陽が暮れてから昇るまでという時間的制限の中で目一杯に暴れてもらったという印象です。 
 今回は短時間のものになりましたが、長時間のサバゲーについては今後のどこかで開催したいと考えております。
 
 最近は特に冷えます故、みなさまも温かい飲み物や人肌で十分に暖を取ってください。
 次回もまた、お会いできることを心よりお待ちしております。