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『ナイトサバゲーnight』

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『ナイトサバゲーnight』
『ナイトサバゲーnight』 『ナイトサバゲーnight』

リアクション

 東に向かった甲陣営は、15分とかからずに全ての準備を終えていた。旗が風に揺れるのを視界に入れながら策を思い返す時間まであった。
 10km先の空に狼煙と花火が上がるのを確認すると、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が飛び出した。
「先手を取って前線を構築する」
「はい」
「後方は任せた」
 それぞれのパートナーを合わせれば6人の隊となる。誰よりもいち早く飛び出したが、奇襲部隊というわけではなく、地形的に有利なポイントを発見し、甲陣営が優位に戦える前線を構築することが目的である。
 後の事はチームメンバーに任せる、その趣旨は既に伝えてあったのだが。突然、後方からバイクの轟音が響き聞こえてきた。
「おらぁあぁぁぁぁ!!」
 久多 隆光(くた・たかみつ)がバイクに跨り駆けていた。
「爆走! 突撃!! 一番乗りだぜ!!!」
 隆光とバイクは勢いよくローザマリアの横を駆け抜けて行った。
「ねぇ、あれ……」
「構わん、好きにさせろ」
「えっ、でも」
 我々の目的を達する事がチームの為になるとセオボルトに諭されてローザマリアは顔を上げた。
 戦いは既に始まっている。勝利してこそのゲーム、まして日夜軍事訓練を受けている身としては陣営戦で負けるわけにはいかない。
 爆音と共に去りゆくバイクの背にローザマリアは自身の雑念を勝手に積み込んで、一緒にさっと消えて貰ったのだった。



 開始の合図を出した乙陣営だったが意外にも、すぐには動かなかった。
 相手方が狼煙と花火を見つける時間を考慮して、というのを口実に、意外にも緩く策を練っていた。極度の緊張状態が夜明けまで続く事を考えれば、最後の安息とも言える時間だった。
 改めてメンバーの顔をじっと見回しているパッフェルをじっと見つめて、七那 勿希(ななな・のんの)はモジモジしていた。
 大好きだから声をかけたい、でもできない。そんな勿希の想いを知っているからこそ、七那 夏菜(ななな・なな)はそっと背に手を添えて彼女をパッフェルの元へと導いた。
「あのっ」夏菜の優しい笑顔に後押しされて、勿希は思い切って声をかけた。
「どう、かな?」
「……私と同じ」
 『シャウラロリィタ』に『シャウラヘッドドレス』そして『ゴスロリ眼帯』と、勿希は正にパッフェルそのものの衣装を着ていた。
「……似合ってる」
「本当? 嬉しい」
 勿希はピョンピョン跳ね上がって喜んだ。少し泣いている勿希に抱きつかれながら夏菜パッフェルに言った。
「本陣はボクたちが守ります。進撃は任せましたよ」
 パッフェルはコクコクと頷いた。モデルガンを両手に持っている所を見ると、彼女の準備は整っているようにも見えた。
 そんな彼女とは対照的に、唸り声をあげている仲間に気付いて、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は顔を向けた。声をあげていたのは鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)だった。
「どうかしたか?」
「いや」 
 真一郎は用意していたサックを見つめていた。
「朝まで、という時間を考えれば、テントや寝袋は必要なかったかもしれないと思ってね」
 膨れ上がったサックの中には他にもロープやオイルランプ、小ナイフなどが入っていた。どうやら自給自足競技をやるものだと勘違いして用意してきたもののようだが、いざ確認してみると野戦で使えるものばかりに思えて、そのまま持参して出陣するつもりだったのだが、さすがにテントや寝袋はどうだろうかと思い返したようだ。
「それにしても…」
 ダリルが覗き込んで言った。「見事に、というか。武器の類は入ってないんだな」
「あぁ。サバゲーをやると聞いた、しかし俺が用意してきたのはサバイバルをするゲームの装備。ならばさらば、最後まで初期装備のままクリアしてみせるよ」
「ならばさらばって…初期装備という事は素手で戦うという事だよな?」
「あぁ。まさに野戦だな」
「ルカルカも素手でやるー」
 どさくさに紛れてルカルカ・ルー(るかるか・るー)真一郎に抱きついていた。「ルカルカも真一郎さんと一緒♪ 素手で戦うよっ」
「ルカは拳禁止だ」
 ダリルルカルカを引き剥がした。「今回はサバゲーなんだ、死者を出すわけにはいかないだろ」
「死者って……ルカルカの拳は凶器だってこと!」
「そういう事だ」
「酷いっ! カヨワキオトメにそんな事……真一郎さんもそう思う?」
「えぇ」
「うぐっ! ……真一郎さんまで……」
「あなたの拳をまともに受けられるのは、俺だけですよ」
「しっ! ………真一郎さぁ〜んっ!!」
 泣いて喜んで抱きついた。愛の言葉かどうかも怪しかったが、ほら、真一郎が引き剥がさないから余計に勘違いさせてしまうようだった。
 そんなルカルカのハッピー気分をブチ壊すような轟音が聞こえてきた。
 茂みの先から見えたのは久多 隆光(くた・たかみつ)の乗るバイクだったのだが―――
「ウルサイのう」
 光る箒に跨るセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)が光線の如くに駆けてゆき、
「サバイバルゲームで自らの姿を誇張するものがあるか」
 あっという間に、こめかみに水鉄砲を撃ち込まれた。氷術で凍らされた水が撃ち出る水鉄砲でこめかみを……。
「ぎゃあふっ!!」
 バイクが転がると一緒に投げ出されて、隆光が『脱退』第一号。
「ほれ、このような者もおるのじゃ。いい加減に出発せぬか!!」
 セシリアの喚声を合図に、乙陣営の面々も進撃を開始した。
 二手に分かれて、夜の森へと姿を消していくのだった。