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4.冒険屋ギルド

 
 
「うおぉぉぉ、こういう出し物を待ってたッス!」
 アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)は、雄叫びをあげながら冒険屋ギルドのブースに入っていった。
「オレがどれだけ成長したか師匠に見てもらうにはうってつけ、一番下のレベルからガンガン蹴散らしていくッスよ!」
「まあ、頑張って成果とやらを見せてよ」
 少しはしゃぎすぎだと思いつつ、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、併設されている喫茶部の方へとむかった。
「ふむ、よく来たな」
 テーブルに着くなり、天津 麻羅(あまつ・まら)が水の入ったコップをドンとテーブルの上においた。
「だめでしょが!」
 間髪入れず、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)がスパーンっと天津麻羅の頭を叩いた。
「く〜ぅ。効くのう〜」(V)
「すいません、接客が悪くて。この子たちに免じて、許してくださいね」
 水心子緋雨が、取り巻きのペンギンたちをさして言った。
「わーい、ペンギンさんがたくさん。うん、私はここでペンギンさんたちと遊んでるんだもん」
 サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)は、ペンギンを見るなりあっさりとアレックス・キャッツアイについていくことをやめてしまった。
 一人だって問題ないと、アレックス・キャッツアイが受付に飛びつく。その後ろから、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)がゆっくりとついていった。
「はーい、ミラクルルンルン、特製ランチ完成だよー♪」
 厨房の方から、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が叫んだ。
「ルイたちがモンスターとして頑張ってる分、セラたちがしっかりとお手伝いしなくちゃね」
 そう言われてシュリュズベリィ著・セラエノ断章から渡された料理を、ペンギンたちと共に天津麻羅がリカイン・フェルマータたちに運んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「『体験! 空大冒険王!!』のアトラクションですか。こちらは、モンスターとの仮想バトル体験コーナーになるんだよね」
 アレックス・キャッツアイに聞かれて、案内役の琳 鳳明(りん・ほうめい)が説明を始めた。
「難易度は四つ。まずは戦闘が苦手な人も安心! むしろストレス解消にも最適な難易度【雑魚】。次に、力自慢な人の腕試しにもオススメな難易度【下級】。そして、しっかり訓練を積んだ契約者さんむけな、難易度【上級】。最後に、難易度【鬼畜】。この難易度に関して安全は保障できないよ!」
「本気で殺しちゃ……」
「それはだめだよ。あくまでも、仮想バトルだから」
 物騒なことを言うシルフィスティ・ロスヴァイセに、琳鳳明が注意した。
「というわけなら今日はパス。で、アレックスはどうするの?」
「もちろん、全部挑戦ッス。隠しモードがあれば、それも含めて全制覇してやるッス」
 リカイン・フェルマータにいいところを見せようとしているアレックス・キャッツアイにためらいはなかった。
「まあ、たまには、若者の無茶っぷりをただ眺めてるのも平和でいいかもね」
 ということで、シルフィスティ・ロスヴァイセはお留守番だ。
「では、ボクが説明するのだよ。基本的に仮想バトルなので、テントまで破壊しちゃうような攻撃や、相手を殺しちゃうような攻撃は禁止だよ。武器は竹刀を貸すのでそれで戦ってね。参ったって言ったら、攻撃中止。言った方が負けだからね」
 案内を引き継いだハンニバル・バルカ(はんにばる・ばるか)が、バトルの説明をしていく。
「よっし、とにかく倒せばいいんッスね」
「ちゃんと聞いてる?」
 少し不安になって、ハンニバル・バルカが聞き返した。
「さて、じゃあ雑魚から軽く片づけてくるッス」
 アレックス・キャッツアイが、竹刀を持って雑魚エリアと名づけられた隣接するブースへと入っていった。
 全体の設計はウルス・アヴァローン(うるす・あばろーん)が行っている。喫茶部から入り口があって、エントランス部から各ゲートをくぐって異なるシチュエーションの部屋に入っていく形だ。それぞれの部屋が、各レベルの戦闘部屋になっている。昔流行ったダンジョン型のゲームのミニミニ番といったところだった。
 さすがにほとんどの制作を手がけたウルス・アヴァローンは、疲れ切ってブースの裏で虎の姿になって眠り込んでいる。獣人にとっては、ごろ寝は人間よりもこちらの姿の方が楽らしい。
 
    ★    ★    ★
 
「しかし、雑魚って、オレの扱い酷くなくない? しかも、強いといけないから素手で戦えって言われましたしい」
 町の裏通りを模した雑魚レベルの部屋で待機していたクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)が、ちょっとぼやいた。モンスター名はストレンジャー。直訳すれば変な人。
「ええ、ただの変態の役ですよ。やられ役です。できれば、可愛い女の子が来ればいいなあ……」
 そんなクド・ストレイフの期待を裏切って、やってきたのは血気盛んなあんちゃんであった。
「お兄さん頑張っちゃいまーす。よく来たな、オレは……」(V)
「先手必勝!」
 名乗りも聞かず、アレックス・キャッツアイが容赦なくクド・ストレイフを竹刀で殴り倒す。
「ぐえっ」
 思いっきり中段の構えから胴を叩かれて、クド・ストレイフが奇妙な声をあげて地面に転がった。
「よし、クリア。次ッス、次!」
 意気揚々と、アレックス・キャッツアイがその部屋を出ていく。
「うげえ、酷い目に遭いました。なんですかあ今のはあ、酷い客だなあ」
 自分にヒールをかけつつ、クド・ストレイフがよっこらせっと立ちあがった。
 どうやら、すぐに次の客が来ているらしい。意外と盛況のようだ。
「おっ、今度は女の子の三人組らしいですねえ。楽しみですよお。お兄さん頑張っちゃいまーす。ちょっとだきついちゃったりしてえ。さあ、よく来たな、あんたたち……」(V)
「……降臨♪ 避けて通れぬ戦いですか……」(V)
「はうあっ! お先に失礼しますよっと……」(V)
 
    ★    ★    ★
 
 下級の部屋は、水辺を想定して、草が一面に生えて足場がよくない設定だ。ウレタンシートを下に敷いて、その上に土を被せてあるので、意外とそれらしくできている。
 ここを守るのは志方 綾乃(しかた・あやの)扮するリザードウーマンだった。竜騎士の仮面を被り、スパンコールの鱗のついた着ぐるみを着て、木刀と盾を持っている。
「問答無用!」
 さっきと同じく、アレックス・キャッツアイがいきなり打ちかかっていった。
「なんの! 貴様の攻撃など見切っておるわ。我はエリュシオンから来たトカゲナイト。このトカゲ頭に誓って、簡単にやられはせんぞ!」
 努めて悪役っぽく演じながら、志方綾乃が言い返した。さすがに、雑魚とは違って少しは反撃していいことになっている。
「そんなこと知るかッス!」
 せっかくの設定を完全無視して、アレックス・キャッツアイが轟雷閃を竹刀に纏わせて打ちかかっていった。
「うっ、演じ甲斐のない相手ですね……」
 エンデュアで雷撃に耐えながら、志方綾乃がつぶやいた。さすがに、相手は本気、こちらは手加減では分が悪い。それ以前に、このまま本気で戦っていったら、エスカレートしていったアレックス・キャッツアイがブースを破壊してしまいそうだ。そうなったら、志方綾乃がここの責任者であるヴァル・ゴライオンに叱られるだろうし、せっかく大道具や小道具を作ったウルス・アヴァローンが泣く。
「や、やられたあ……」
 実際、いい勝負だったのだが、適当なところで志方綾乃はやられることにした。
「よっしゃあッス。次行くッスよ!」
 肩で息をしながらも、意気揚々とアレックス・キャッツアイが外に出ていく。
 これは、いつか別の機会で本気で勝負したいものだと志方綾乃が思っていると、次のお客さんがぞろぞろと入ってきた。
「三対一なんて聞いてないけど、しかたないですね。――よく来たな。このトカゲ頭に誓って、貴様たちをこの先に通すわけには……」
「……降臨。行く手を阻むなら、倒すだけ!」(V)
「ああ、ひどい……」(V)
 
    ★    ★    ★
 
 上級の部屋は、岩山という設定で、オーガ役のルイ・フリード(るい・ふりーど)が頭に鬼の角を貼りつけて待ち構えていた。
「うがあああああ、でございます。さあ、かかっていらっしゃい」
 待ちかねたとばかりに、ルイ・フリードがポーズをとってアレックス・キャッツアイを迎えた。
「なら、遠慮なく行くッスよ」
 アレックス・キャッツアイが、竹刀の一撃をルイ・フリードに叩き込んだ。まったく避けようとせずに、それをルイ・フリードが身体で受けとめた。
「あなたの力、見させていただきました。では、今度はこちらからいきます!」
「うおッス!」
 ルイ・フリードの則天去私を食らって、アレックス・キャッツアイが思わず後退した。さすがにここまで全力全開だったので息切れが激しい。
「よくぞ耐えました。でも、次で終わりです!」
 間合いをとりなおしたルイ・フリードが、一気に突っ込んでくる。アレックス・キャッツアイも前に出てそれを迎え撃とうとした。だが、足がもつれて、うっかりとうずくまる。予想していなかったその動きに、止まることができなかったルイ・フリードがアレックス・キャッツアイの身体に躓く形でつんのめった。もんどり打って倒れることはなかったが、ルイ・フリードの両手は地面につけられていた。
「この私に土をつけるとは。参りました」
 あっさりと、ルイ・フリードが負けを認める。
「よっしゃあ、次行くッス!」
 うやむやのうちの勝利だが、勝ちは勝ちだ。アレックス・キャッツアイは意気揚々と次のレベルにむかっていった。
「おや、もう次の方ですか。早いですね」
 アレックス・キャッツアイを送り出したルイ・フリードだったが、すぐに次の挑戦者たちを迎えることとなった。
「……降臨。活躍させていただきます」
「痛いです! 後は……頼みます……」(V)