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モンスターの婚活!?

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モンスターの婚活!?
モンスターの婚活!? モンスターの婚活!?

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第1章 捕まった男たち

 ハルピュイア。
 地球で遊ばれるロールプレイングゲーム等では「ハーピー」という名前で知られるモンスターで、上半身は美しい女性や少女のそれだが、本来腕のある部分には腕ではなく鷲の翼が生えており、また下半身も鷲のそれで構成されている半鳥半人。
 鳥のような美しい歌声の持ち主であり、卵生で、繁殖期になれば人間を含めた「異種族の雄」を魅了の歌で連れ去ってしまう、かなり傍迷惑なモンスターである。

 そしてそんな傍迷惑な存在に歌で魅了され、連れ去られたのは、シャンバラ教導団の新入生レオン・ダンドリオンだけではなかった。ハルピュイアたちの「コノ雄『モ』」という言葉の通り、10人の「雄」が捕まっていたのである。
 男たちは大木の上、枝という枝に単独ないしは数人単位で座らされたり寝かされたりという形でそこにいた。ある者は森で調達してきたらしいツタで手足を、またある者は明らかに別の所で使われたらしいロープで縛られている。
 自力で脱出するにはそれらの戒めを解き放つ必要がある上に、ハルピュイアたちの魅了の歌を完全に防ぎ、魅了されないようにしなければならない。「契約者」である以上、前者はともかくとして後者が問題だ。彼女たちの魅了の歌を防ぎきるためには、蜜蝋でできた耳栓をしなければならないのだ。そして彼らはその耳栓を持っておらず、仮に逃げられたとしても再び魅了されるのが目に見えている。なんとかうまく立ち回らなければ、レオンと同じく「貞操の危機」に見舞われてしまう。

「気がついたらおっぱい丸出しモンスターたちに捕まっていたぜ……」
 ハルピュイアという名のおっぱい丸出しモンスターがいるという噂を聞きつけ、そんな彼女たちをビデオ撮影するためにイルミンスールの森に来ていたというこの男の名は国頭 武尊(くにがみ・たける)。知る人ぞ知る【パンツ番長】の異名を持つパラ実S級四天王の1人だ。
 なぜパンツ番長と呼ばれるのか。その理由は単純。とにかく「女性のパンツを奪うのが生きがい」と言わんばかりに下着を狙い続けるからである。「パンツ・オア・ダーイ!!」というかけ声が何よりの証拠だ。
「まあオレはパンツ派だから、おっぱい丸出しだからって魅了されることは無いんだけども……」
 とはいえ、さすがに魔力を持った歌には勝てなかったようだ。
(さて、逃げたくないような気がするが逃げ出すだけなら簡単だ。オレはこのままこのツタを引きちぎり、やりたくないがこの高さから飛び降りてそのままダッシュ、そのまま全力でここから離れる)
 中途半端に魅了がかかった状態で武尊は考える。なぜ彼は完全に魅了されていないのか。それはやはり頭の中がパンツで埋まっているからだろう。
(彼女たちはそんなオレを追いかける。そしていいところで歌う。オレはその歌に惹かれてまたここに戻ってくる。あのいい歌をどうにかしないと逃げられないし、というか逃げたくないし……いやいや、そうじゃなくてだな)
 その前にまずはこの魅了をどうにかすることの方が先らしい。そこまで考えた武尊はふと思いつく。
 今魅了されているのなら、それを上回る妄想で打ち破ればいい。そのまま助けを待てば……!
「おもしれえ、オレのパンツ力(ちから)が彼女たちの魅了に勝てるか、勝負だな……!」
 思えばハルピュイアは下着や服を身に着けていない。要するに全裸ということであり、武尊が望むパンツもはいていない。ならいっそ彼女たちに似合うパンツを考えればいい。天が与えた使命ということにしつつ、妄想をはじめる。
「う〜ん、あそこのロングの子は大人と子供の中間って感じだな。となるとオーソドックスに白か? お、あっちのツリ目の彼女、いかにもツンデレの典型例。やっぱ水玉だろ、あとは……」
 膨らむ妄想に武尊の顔はどんどんにやけていく。それを不気味に思ったのか、ハルピュイアたちは彼から少しずつ離れていった……。

「いやあ、ドジふんじゃいましたねぇ、鬼羅さん」
「ドジふんじゃったねぇ、クド君」
「イルミンスールの女子寮、その風呂をのぞきに行ったら」
「その女子に見つかって捕まった挙句、袋叩きにされちゃって」
「全裸にされて森の木に吊るされちゃったんですよねぇ」
「クドくんはまだいいよ。きみはそのピンクで花柄のトランクス1枚だけは助かったんだから。オレなんて完全に脱がされた上に体に落書きされちゃったんだぜ?」
「しかもその後でハルピュイアに捕まっちゃう間抜けっぷり!」
「もう笑うしかないなこれは、うむ!」
 などと馬鹿笑いするこの男2人。相手を「鬼羅さん」と呼ぶ眠そうな顔をした男はクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)、彼を「クド君」と呼ぶ熱血漢は天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)。会話を聞いて分かるように、変態コンビである。
 クドの方は戦災孤児で元傭兵という経歴を持っていながら、普段は自堕落でマイペースな上、会う女性に「今日の下着は何色?」と聞いて回る蒼空学園生。一方の鬼羅は天邪鬼で、女装をはじめとした非常識な行動を好む天御柱学院に所属するイコン乗りである。所属する学校こそ違うが、共に【蒼空学園武術部】や【冒険屋ギルド】にも参加しており、しかも2人とも変態なので、それなりに馬が合う間柄であろうことが読み取れる。
 ひとしきり笑った後、クドがぽつりともらした。
「……笑うのはいいんだけど、この後どうしようかねぇ。半分は想定してたけどもさぁ」
 このクドという男、実はパラ実生がハルピュイアを狙っているという噂を聞きつけ、それならばと彼女たちを守ることを考えていたのだ。だからハルピュイアに捕まるというこの展開は想定済みだったのだが、それにしてもなぜこうもボロボロになっているのだろうか。
「そもそも鬼羅さんさ、何でハルピュイアの懐に飛び込むだけでこんなことになったのかなぁ?」
「そりゃ決まってるだろ。女の子が大好きだから! 大好きだから!!」
「大事なことだから2回言ったんだろうけど、答えになってないよ。それじゃお兄さん納得しませんよ?」
 そもそもは鬼羅の計画が発端である。先ほどの会話の通り、イルミンスールの女子寮、その風呂をのぞきに行き、結果として女子に見つかり、服を剥ぎ取られ、袋叩きにされ、そしてロープでぐるぐる巻きにされた挙句、木に吊るされたのだ。そこでハルピュイアに見つかり、歌で魅了されながら、彼女たちのテリトリーにやってきたというわけであるのだが……。
「まあ普通に考えたら、何も考えずに彼女たちに魅了されるだけでよかったんだけどねぇ」
「だがオレたちはそんなことはしない。そうだろう? なぜならオレたちは――」
 そこで2人はニヤリと笑いあう。そして唱和した。
「変態だから」
 まともな人間ならこう思うだろう。駄目だこいつら、早く何とかしないと……、と。
 とはいえ彼らもただ無策で来たわけではない。クドは唯一残っていたトランクスに武器を隠し持っているし、鬼羅は武器こそ無いがいざとなれば武術の心得にサイコキネシスもある。後はハルピュイアをうまくかわし、パラ実生がやってきたら飛び出すだけだ。
 襲撃に備え、クドは殺気を感知するべく意識を集中させる。幸いにして全身の痛みのおかげで魅了効果は中途半端だ。
 時期を待つ。今はただ……。

 ただハルピュイアに捕まるだけではない、という男は他にもいる。斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)もその1人だ。
(参ったな。休日でだらけまくって油断していたとはいえ、こんな形で拉致られるとは、不覚だ……)
 折角の休日だからとイルミンスールの森に来ていたら、テリトリーに踏み込んでしまったのか、突然やってきたハルピュイアの魅了の歌を食らってしまい、そして今は別の痛みに耐えていた。
 彼はハルピュイアに魅了されそうになる瞬間に、持っていた忍びの短刀で自らの足を刺した上、自分の精神状態を自己診断する能力――セルフモニタリングの技術でテンションを無理矢理下げたのだ。そのおかげか、魅了の効果は中途半端で止まっており、それなりに正気を保つことができていたのだが、足を刺した分、戦闘は間違いなく不可能だった。
「ま、多勢に無勢だし、今は大人しくするかな」
 とはいえ、ただ大人しくしているだけでは非常にヤバイ。何がヤバイって、もちろん性的な意味でだ。さすがにこの状況下は危険極まりない。
 もちろんこれは差別しているという意味ではない。要は「全年齢対象」という問題があるからまずいのであって、実際にハルピュイアは人と同じように考え、行動することができるのだから、そんな彼女たちを差別する理由は邦彦には無い。人と「そういう仲」になることもあるだろう。実際全員が容姿端麗だし自分好みのタイプの女性もいるようだしこんな状況でなければ――と思ったところで邦彦は頭を振った。
「いやいやいやいや、私は何を言ってるんだ! まったく、魅了が中途半端に効いてるからタチが悪い。まったく早く誰か助けてくれ、これはさすがに長くもたんぞ……」
 たとえ戦うにしても状況が悪すぎる。ならば救助が来るまで時間稼ぎに徹するしかない。だが1人で全てを考えるのはさすがに厳しい。
「まったく、誰かいないのか……。っと?」
 周囲を見渡せば、1〜2メートル離れた所に学生らしき男が3人座らされている。魅了が効いているのかその目はうつろだ。
 足の痛みをこらえ、邦彦はどうにかして彼らの元にたどり着く。後ろ手に両手を縛られていたが、幸いにして足は縛られなかった。後は起こす手段だが、痛みがあるから蹴りは使えないし、手は後ろだから揺すれない。
 そう考えた邦彦は、あろうことか3人の男たちそれぞれに頭突きを食らわした。
「こういうのはキャラじゃないんだが……、ふん!」
 音それ自体はそれほど大きくなかったが、殴打特有のにぶい音が3連発で周囲に響き渡った。
「よう3人さん。目は覚めたかい?」
「覚めました……」
 頭を強く殴られたショックに耐え、異口同音に彼らは言った。
「気分はどうだ?」
「赤い髪のバスケットマンにやられた気分だ……」
「頭突きだけにか」
 割とどうでもいい話だが、邦彦は黒髪であり、バスケ部には所属していない。
「まあこんな方法で起こして悪かった。実はこの状況をどうしたものか相談に来たんだが……」
「だからってお前さん、他に方法は無かったのかよ」
 手を縛られているため殴られた頭をさすることができないまま、原田 左之助(はらだ・さのすけ)が邦彦を睨む。彼はパートナーの椎名 真(しいな・まこと)と一緒にイルミンスールの森に来ていたが、少しばかりパートナーと離れてしまったために、ハルピュイアの歌で魅了されて捕まったのである。
「手はこの状態だし、足は自分で刺したからなぁ」
「だったらせめて耳元で大声出すとかにしろよな」
「それはそれで耳が痛くなりそうだけどね……」
 同じく痛みに耐えながら霧島 玖朔(きりしま・くざく)トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)がぼやいた。
「それにしてもツイてない。まさか捕まっちまうとはな。すぐに食われるってわけじゃ無さそうだが……」
「とりあえず、この危機的状況から逃れたいけど……」
 レオンと同じ教導団の一員である玖朔とトマスは、イルミンスールの森で実地訓練を受けていたメンバーであった。
 学生だが軍人でもあるせいか、周囲の状況を確認するのは早かった。少なくとも自分たちを含め、捕まっているのは11人。周囲にはハルピュイア。魅了の歌が飛んでくるのは明白だろうから、逃げるのは難しい。
「脱走するとしても、またあの歌を聞いたらアウトだ」
「だよな。せめてあの歌に対抗することができればいいんだけど……」
 言ってトマスは思いついた。ハルピュイアの歌を聞くから魅了されるのだ。ならその歌自体を聞かないようにすることができればいいのではないのか。
「逆にこちらから大声で歌って、あの歌が聞こえないようにすれば多少はどうにかなるんじゃないかな」
「うまくいくのか?」
「ま、やらないよりはマシだと思うよ」
 足の痛みで魅了を抑えている人間が近くにいる。頭突きの痛みで魅了から多少解放されたのがここに3人もいる。ならば試してみる価値はあるはず。口には出さないがこの危機から逃れたいと思っているトマスは腹をくくった。その内にパートナーたちが来てくれる。せめてそれまでしのぐことができれば……。
「意思疎通ができるなら、説得するんだがな……」
「説得? どうやるつもりなんだ?」
 玖朔の言った説得という言葉に左之助が反応する。
「俺はこう見えてビーストマスターの技を知っている。相手は半分は人間だが、半分は鳥だ。ちょいとビビらせてやるくらいはできるだろ」
 適者生存――自分の方が食物連鎖における上位存在であると悟らせる、ビーストマスターの技のことだ。ハルピュイアにこれが通用するのなら、話し合う余裕を作ることができるはず。
「まあこれが失敗しても、他に手はあるけどな」
「面白いじゃないか。説得だったら俺もやらせてもらうぜ」
 玖朔の案に笑みを浮かべながら左之助は半分魅了されかかっている頭で気合を入れる。
 かつて新撰組十番隊組長だった英霊は、生前に妻子がいた。だからこそ思うところがあるのだろう。彼はハルピュイアに「結婚」について言葉をかけたいと思っていた。
「よし、それじゃ行動開始だ。ファーニナルは大声出すから、ちょっと俺たちから離れていた方がいいな。斎藤は……足が痛むだろうがファーニナルについててやってほしい」
「了解」
「わかった。行こう」
「で、原田は俺と一緒にここで待機だ」
「おう、わかったぜ」
 手段を確認し、玖朔は全員に指示を出す。後はうまくハルピュイアが引っかかってくれるのを願うだけだ。