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モンスターの婚活!?

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モンスターの婚活!?
モンスターの婚活!? モンスターの婚活!?

リアクション

 続いてハルピュイアたちの前に進み出たのは赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)アイリス・零式(あいりす・ぜろしき)戦闘舞踊服 朔望(せんとうぶようふく・さくぼう)の3人である。この3人もハルピュイアを説得に来たメンバーである。
「ホー、コレハマタイイ感ジノ雄ガ……ッテ、ぱーとなーラシイ雌ガ2人モイルノネ」
 霜月についている2人のパートナーを見渡すハルピュイア。一方は見た目14歳、もう一方は10歳のようだ。まさか子供の見ている前で目の前の雄を魅了するわけにもいかないだろうし、と年下の朔望の方を見た瞬間、彼女は一瞬驚いたかと思うと突然その姿を黒いローブに変え、霜月に背中から覆いかぶさってしまった。どうやら彼女は魔鎧だったらしい。
「ああ、すみません。この子はちょっと人見知りをしまして……。怒らないであげてほしいんですが……」
「ン、マアソレハ別ニイイワヨ」
「後、自分にはすでに妻、要するにもう『相手』がいますので……」
「アラ、ソウ。ソレハマタ残念……。ッテ、ソレハソコノ彼女? ソレトモ鎧ノ子?」
「いえ、どっちも違います。今日は来ていません」
 実はこの霜月、パートナーの1人と結婚している妻帯者なのだ。
「で、今日ここに来たのは、少しばかりあなたがたと交渉がしたいからです」
「交渉?」
「ええ。いくら繁殖のためとはいえ、歌で心を操るのはちょっとおかしいと思います。ですが、これはあくまでもこちらの意見に過ぎません。あなたがたとしても、いきなり『連れていった男たちを返せ』と言われてもすぐに『はい、どうぞ』と言えるわけではないんでしょう?」
「ソレハ、マア……」
「ですから、あなたがたの意見も聞いた上で、いい解決案が出せればと思うんですが……。その前に、本当に人間でなくてもいいんですか?」
「エエ、本当ニ人間ジャナクテモ大丈夫ヨ。トリアエズ雄デアレバ問題無イカラ」
「……雄なら何でもいい、と」
「雄ナラ何デモイイノヨ」
「でも、他のモンスターや動物は寄ってこないんですよね。となると、こちらからそういったモンスターなどを捕まえてくればいいんでしょうか……」
「それもいいんですが、それよりも、ワタシもお話がしたいであります」
 ショルダーキーボードを肩にかけ、アイリスが無理矢理霜月の前に進み出た。
「ワタシは別に交渉とか話し合いというわけではないのでありますが、ハルピュイアさん、ワタシに歌を教えていただけますか?」
「歌?」
 いきなり歌と言われても、一体どの歌を指すのかわからない、といった表情でハルピュイアは首をかしげる。
「できれば、魅了の歌以外がいいのですが、大丈夫でありますか?」
「アア、ソンナコト? 大丈夫ヨ」
 ハルピュイアの歌は全てが魅了の歌、というわけではない。魅了効果を持たない「ただの歌」も歌えるのである。元々ハルピュイアは歌好きの性格をしており、繁殖期以外では歌の技術を互いに磨きあうなどしているのである。
「ジャア、アッチノ方デ教エテアゲヨウカ?」
「本当でありますか。是非ともついていくであります!」
「一応、自分もついていきます。『家族』が心配ですので」
「ドウゾドウゾ」
 そのまま霜月とアイリスはハルピュイアに連れられてその場を離れていった。

「っていうかそもそもさぁ、攫われた人たちに聞いて、それでも構わないって人とだけすればいいと思うんだ。もちろん魅了は無しでね。そうじゃないとフェアじゃないでしょ?」
 歌の聴講のために離れた霜月たちに代わって、清泉北都とそのパートナーのソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)、そして鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)がハルピュイアの説得にあたっていた。もっとも、ソーマ自身は説得を行うのではなく、悪意の持ち主を感知できるようディテクトエビルを発動しているだけだったが。
(今のところ悪意を持っているようなのはいない、か……。まあ今回はどうも説得で行くらしいから、どうも俺の出番は無さそうなんだよな)
 警戒手段は大いに越したことは無い。それに、仮にハルピュイアと戦闘になったとしても、せいぜい吸精幻夜で攫った男たちの居場所に案内させる程度だ。だが場合によっては、パートナーの北都を守るために全力で戦わなければならないだろうとソーマは覚悟していたが、案外ハルピュイアが話の通じる相手であったため、結果的に手持ち無沙汰になってしまっていた。
「まあモンスターがあまり寄ってこない、っていうのは厳しいだろうけど、それでも人間よりは数が多いんだからさぁ。やっぱり、攫っていった人たち、返してくれない?」
「ウ〜ン……、モチロン返シテアゲテモイインダケドモ……」
 他に何か理由があるのか、ハルピュイアたちはどうも攫った男たちを返してくれそうにない。すでに男たちの方には何人か向かっているため、ここで事を荒立てても仕方がないことを北都は理解していたが、こうまで渋られるとどうしようもなくなるということも感じ始めていた。
「繁殖のために男性を攫う、か……。確かに種の保存ってのは大事だが――」
 話し合いが膠着状態に入りかけたところで洋兵が口を挟んだ。
「おじさんとしてはさ、どうせなら愛のある幸せな家庭を築き上げてもらいてぇと思ってんだ」
「か、家庭……?」
 モンスターに家庭という概念自体あるのだろうか。洋兵に向けられる北都の目はそう言っていた。
「……モンスターにそんなもん求めんな、って言いたそうだな。けどよ、人間だろうがモンスターだろうが、家族ってのは大切なもんなんだよ」
 元傭兵で現在はものぐさオヤジといった感じの彼だが、こと「家庭」というものに関してはかなり思うところがあった。戦災孤児として生き、愛する者とその家族を戦争で失った。そして今「娘」として愛するパートナーがいる。それだけに、単に繁殖が目当てで、家族になるつもりが無いような、だらしない男などは、彼にとって特に許しがたい存在なのだ。
 モンスターだから、人間だからなどという枠組みで決めたくはない。たとえ相手がモンスターであろうとも、家庭という概念は持ってほしいと洋兵は考えているのだ。
「キミたちも何となくは分かるんじゃねぇかな。両親が愛情を注いでこそ、子供は元気に育つってことをさ。だからさ、おじさんはキミたちハルピュイアにも『愛ある繁殖』『愛ある家族計画』をしてほしいと思うんだ。……生まれてくる子供たちのためにもな」
「…………」
 魅了の歌で無理矢理に繁殖するのではなく、愛ある繁殖をしてほしい。もちろん両者の間に愛があるのなら、異種族間は関係ない。洋兵はそう言った。
「言イタイコトハワカルンダケドモ、ヤッパリチョット難シイノヨネ……」
「というと?」
 ハルピュイアとしても、これだけの人数があの雄たちを返してほしいと願っているのは理解できた。だがやはりすぐに返すというわけにはいかないらしい。
「イヤ、早イ話、今アノ雄タチヲ返シチャッタラ、ソノ代ワリヲ探サナキャイケナイデショ? ソレハイインダケド、コレガ人間ダッタラ、マタコウシテ『返セ』ッテ言ッテクルデショ? ダカラもんすたートカニスルノガ一番イインダケド、ソレダト繁殖ガウマクイクカドウカ……」
「……そうか、時間がかかるとかそういうことなのか……」
「ブッチャケ、ソウイウコトナノヨ。ダカラスグニ結論ハ出セナイワ」
 こうなるともはや自分たちで代わりになるモンスターや動物を探し出し、ハルピュイアに献上した方がいいのではないだろうか。洋兵たちがそう思っていると、夢野 久(ゆめの・ひさし)佐野 豊実(さの・とよみ)が話に加わってきた。
「話は大体分かった。その上であえて言いたいことがある」
 そのまま久は続ける。
「人間と一口に言っても、色々いる。ぶっちゃけ貞操とかその辺の事を気にしねえ奴だっているんだ。だからそっちを狙えばいいんじゃねえか?」
「……ソレッテ、例エバドウイウノ?」
 ハルピュイアが尋ねるが、久は答えない。すると横にいた豊実が持っていた紙に、今のハルピュイアの言葉を書いていく。どうやら久はいまだ耳栓をつけた状態らしく、豊実の書いた文字を頼りにコミュニケーションを図っているようだ。ハルピュイアがわざわざ魅了のために歌ってくるということは無いとしても、はずみで聞こえてくる可能性もあるからだ。
「……まあ、捕まえた連中に聞いてみるとかすればいいんじゃねえかな? 1人くらいはいると思うぞ」
「1人、ネェ……」
「……俺らとしちゃ、本気で嫌がってる奴さえ返してもらえれば、お前らとやりあう必要は無えんだ」
 そもそも久にとって、この事件は他人事ではない。今は来ていない魔女のパートナーが、繁殖期のハルピュイアのような性格をしているのだ。だからこそ、せめて本気で嫌がるような者は返してもらいたいと久は思っていた。会ったことはないが、レオンという男もきっと正気に戻れば嫌がるだろう――もちろん嫌がらないのであれば好きにすればいい、とも考えていたが。
「お前らだって必要の無い喧嘩はしたくねえ――ん、なんだ豊実?」
 そのまま説得を続けようとした久を、文字を書いた豊実が制した。その顔はいかにも「妙案を思いついた」というそれである。
「いやねぇ、説得の文句それ自体は久君とほぼ同じなんだけど、そこに1つ提案を追加したいんだよね」
「提案?」
 耳栓で豊実の声が聞こえない久の代わりにハルピュイアが問いただす。
「今さ、君たちを狙って10数人程度のパラ実生がこっちに来ててね。まあ同じ『人間』ではあるんだけど、私らとしては別にどうなったっていいような連中なんだ。そこで、だ。その彼らに『ご協力』願えばいいんじゃないかな?」
「……おい豊実、お前さっきから何を言ってんだ?」
 穏やかな表情をする豊実の声は聞こえないが、何だか嫌な予感がする。そう思った久が豊実に事の詳細を筆談で聞くと、その瞬間、久は「何を言ってるんだ!?」という表情をした。
 豊実はそのまま久に紙を見せる。
「どの道『罰』は必要になるじゃあないか。どうせ相手はよからぬ事を考えてるんだろうし、貞操程度ならちょうどいい具合じゃないかなあ。ついでにハルピュイアたちの婚活の急場しのぎにもなる。一石二鳥じゃないか」
「……こりゃまた無茶なことを考えたもんだ」
 呆れたように久がつぶやく。確かに相手は全員が「雄」だ。しかも集まった学生ほぼ全員から敵と認識されている。
 豊実は「今からやってくるパラ実生と、捕まっている男たちを交換する」という案を出したのだ。これならば――もちろんパラ実生たちにとっては不本意かもしれないが、「レオンたちを返してもらう」こちらの望みを叶えられるし、ハルピュイアたちの「雄の子種が欲しい」という望みも叶えられる。
 ハルピュイアにとってもそれはいい話であった。だが、やはり今捕まえている雄たちも捨てがたいと思っているらしい。
「マア、絶対ニ嫌ッテイウワケジャナイカラ、何トカナルト思ウワ」
 そう言ったところで、何やら奇妙な声が遠くから聞こえてきた。魅了の歌ではない。別の所に行った学生のものでもない。この複数聞こえる特徴的な「ヒャッハー」とかいう声の持ち主といえば……。
「とか何とか言ってたら、来たみたいだねぇ」
 そう、瑛菜が見つけ、豊実が交換条件として提示しようとしている連中。件のパラ実生たちがやってきたのだった……。