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らばーず・いん・きゃんぱす

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らばーず・いん・きゃんぱす

リアクション


●リアジュウ・ノーサンキュー

 リア充、もとい『リアジュウ』と呼ばれて戸惑う者もいる。それは和原 樹(なぎはら・いつき)、彼は倒した桃ゴムを足元に、険しい表情を浮かべていた。
「今こいつ、初対面でいきなりリア充扱いしなかったか? フォルクスと俺を」
 手がぷるぷると震えている。それだけは、そんなことだけは言われたくなかった。
 少しだけ時間を巻き戻そう。

「これが空京大学のキャンパスかぁ。見学だけの参加もおっけーでよかったよ」
 ローブの裾を翻しながら、和原樹は物珍しげに空京大学のキャンパスを歩いていた。
「理数苦手だから進学は全然考えてないんだけど、最新の設備とかも揃ってるし見る価値はあるよな」
「確かに、見る価値はある」
 同行のヨルム・モリオン(よるむ・もりおん)が頷いたので、樹は少々驚いた様子で振り返った。
「ヨルムさんも、こういうの結構興味あるんだ?」
「知識として知っておく必要はあると思っている」
 ヨルムは静かに返答した。彼は続ける。
「高度な機械文明を自らが直接扱うのは性に合わないが……携帯電話や飛空挺は使えると何かと便利だな」
「あはは、まぁ俺もあんまりハイテク過ぎるのは苦手かも」
 といった塩梅で樹とヨルムの会話が弾んできたので、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)も片手を挙げて存在感をアピールした。
「確かに、乗り物や通信機器は一通り使えた方が楽でいいとは思うな。無論、あまりそれに頼るのは我も性に合わないが」
 かくて三人、その『機械文明』の一端を目にすべく、工学部を歩んだものの、あまりにも予想外の展開によってその見学は遮られるはめになったのである。
「!?」
 基本的にヨルムは冷静な人間である。ゆえに背中からトリモチ状、白いゴムが襲ってきても取り乱したりはしない。むしろ淡泊なくらいの仕草で、二人の同行者に背を向けて問うた。
「なにか付着したようだな。蠢いているところからして、ただの液体ではないだろう」
 ところが樹は落ちついてはいられない。
「うわぁ!? なんか白いシーツのお化けみたいなのがくっついてるよ! ヨルムさん!」
 と声を上げ引き剥がしにかかろうとするのを、腕を伸ばしてフォルクスが制止した。
「なんだこれは。新種の魔法生物か? 樹、相手の性質も分からないうちから下手に手を出すのは危険だ」
 そのまま、身を抱くようにしてフォルクスは樹を下がらせる。
「まずは距離を取ってから魔法攻撃で様子を見るぞ」
 さりげなく密着した状態でヨルムから距離を取り、じりじりと後退した。なお、このときフォルクスに下心はなかったことをここに明言しておく。
 ところがこのときフォルクスと樹の体勢は、抱き合いながら踊っているようにでも見えたらしい。
 オンリーロンリーなシャウトをひとつ、耳をつんざくほどに甲高く叫んで空から、あの桃色ゴムが飛んできたというわけだ。
「ってうわぁ! 今度はピンクい物体が!?」
 樹は反射的に神聖なる力(バニッシュ)を発動していた。光は一直線に奔り、桃ゴムの中央をずぶりと貫いた。ゴムは甲高い声で一声鳴くと、床に落ちて動かなくなった。
 そして、本ページ冒頭部に戻る。

 驚かされたからと言うよりは、言葉の暴力(?)による精神的なショックによって樹は動揺し、肩で息をしていた。
「誰と誰が『リア充』だってんだよ、そんな馬鹿な……なんかちょっと屈辱だ……」
「リア充? 言葉の意味はよく分からんが、我と樹が愛し合っているのは本当のことだろう」
 まんざらでもない顔でフォルクスは応じた。
「やーめーろー! 絶対分かって言ってるだろあんたっ」
「我の心がわかるというのか。やはり、我とお前は以心伝心というやつだな」
「なに都合良く解釈してるんだー!」
「……」
 なにやら樹とフォルクスがほのぼの痴話喧嘩をはじめたようなので、ヨルムは無言で剣を振るい、自身の背中についた白ゴムにダメージを与えて床に落としている。
(「伸び縮みする材質のようだな」)
 すぐにその性質を見極めると、彼は天井を睨んだ。どこからやってきたのか、いつの間にかそこには、天井を覆い尽くすほどにびっしりと桃と白の怪ゴムがへばりついていたのだ。
「行くぞ。物理攻撃も有効のようだが、氷結魔法で固めれば比較的楽に対処できるだろう」
「ふむ。ならば任せておけ」
 ヨルムの呼びかけに応え、フォルクスがブリザードを頭上に放射する。
「うわまだあんなにいるのか。なんか紅白でおめでたいけど、しつっこいっての!」
 凍って落ちてきたゴムは樹の担当、メイスを振り下ろして粉砕する。
 彼らの攻勢に怒りが沸騰したのか、桃ゴムたちが唱和した。
「リアジュウシネェェェ!」
「リア充じゃなーい!」
「その通り、リア充だ」
 樹の否定、フォルクスの断定が同時に飛び出す。
 賑やかなことだ、とヨルムは思ったものの、感慨は口にせず戦いに集中することにした。