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カノン大戦

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カノン大戦

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第5章 カノン、背中を流してもらう

「はー、いいお湯ですねー!」
 カノンは広い湯槽に浸かって、非常に上機嫌だった。
 湯槽の中で立ち上がってお湯を波たてながら歩いたり、お湯につけたタオルをぶんぶん振りまわして自分の肩やお尻に叩きつけたりと、大はしゃぎである。
「カノンさん! ずいぶんやせてるんだね! ちょっとうらやましいな!」
 湯槽の中で、高島真理(たかしま・まり)がカノンに近づいてきた。
「ええ、そうですね、別にダイエットしてるわけじゃないんですけど、どんどんやせてくんですよね。どうしてでしょう? 死神にとりつかれたかな? アハハハハハ!」
 カノンは、お風呂の熱気で上気した顔をくしゃっと歪ませて、大笑いする。
「だが、少し細くなりすぎではござらんか? 栄養はきちんととった方が戦の備えにもなるでござる」
 高島とともにカノンに近づいていた源明日葉(みなもと・あすは)が、痛々しいまでにやせているカノンの身体をしみじみと眺めていった。
「管理棟の栄養士さんが献立を考えてくれてるので、大丈夫だと思いますけど? 今度量を増やしてもらうのもいいかもしれませんね。まっ、どんなにがんばっても、高島さんや源さんのように豊かな胸にはなれませんよ。アハハハハハ!」
 カノンは、掌ですくったお湯を高島と源の胸にかけながら、笑い続ける。
「えっ、豊かだなんて、そんなことないよ!」
 高島は、熱気とは別の理由から顔を真っ赤にして、両手で胸を隠そうとする。
「そうでござる。これは、少しばかり肉が余計についているというだけでござるよ」
 源も、神妙な顔で語っていた。
「でも、大きい方が身体にメリハリがつきますよね。まっ、私は戦士だから、胸があまり大きいと闘いに支障が出ちゃうんで、微妙なところですね」
「そんなことはありません。胸の大きな女性でも、戦士として立派に活躍している人はたくさんいます。まっ、多少肩は凝るみたいですけど」
 南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)が、しみじみとした口調でいった。
「そういう秋津洲さんも、なかなかのサイズですねー! 秋津洲さんを魔鎧として装着したら、ただでさえ大きい高島さんの胸が2倍になっちゃうとか? ウフフ」
 カノンは、秋津洲の胸に顔を接近させて、その豊かさをじっくりと観察している。
「……」
 元来無口な秋津洲は、その後口を開くこともなく、カノンが胸をみつめるのを放置していた。
「カノン様も、決して小さくはないと思いますよ。むしろ、わたくしの方が小さくて、こういう場所では恥ずかしいです」
 敷島桜(しきしま・さくら)がいった。
 みると、敷島はタオルを胸のところにおいて、隠している。
「小さい? 本当ですかー? どれどれー?」
 カノンは、そのタオルを剥ぎ取った。
「あっ! と、とらないで欲しいです!」
 敷島は慌ててカノンからタオルを奪い返そうとするが、カノンはタオルを持った手をたかだかと上げて、奪われないようにする。
「アハハハハ! 恥ずかしがる必要はないですよ。それなりにあると思いますよ。私は、身体がやせてるから、相対的に胸が大きくみえるんじゃないですか? 実際はたいしたことないですよー!」
 カノンは笑って、敷島の胸にお湯をひっかける。
「ひーん! 恥ずかしいですー!」
 敷島は、とぷんと、頭からお湯の中に潜って、姿を消してしまった。

「はー。ちょっと、のぼせそうですね。もう1回、身体を洗いましょうか」
 しばらくお湯に浸かっていたカノンが、立ち上がって、湯槽から出て、浴場の腰掛けに座ったとき。
「あ、あの、カノンさん! 背中を流してあげたいんですけど、いいですか?」
 洗面器とタオルを抱えた和泉結奈(いずみ・ゆいな)が、声をかけた。
「あっ、和泉さん! ありがとう。気がききますね。私も後で、やってあげますね」
 カノンは結奈に背中を向けて、嬉しそうにいった。
「はっ、はい。へ、下手ですけど、がんばります! うんせ、うんせ」
 結奈は、石けんの泡がついたタオルで、カノンの背中を一生懸命洗った。
「ああ、いい感じです。下手なんて、そんなことないですよ! やっぱり、大事なのは気持ちですよね!」
 カノンは、気持ちよさそうに目を細めていった。
「はい。ありがとうございます! あの、ところで、カノンさん」
 結奈は、カノンの前で緊張しながらも、勇気を振り絞って口を開いた。
「何ですか? いいたいことがあるなら、どうぞ」
「カノンさんも、好きな人とか、いるんですよね? それなら、戦場に出ても死なないよう頑張って欲しいんです」
 結奈は、ドキドキしながら言葉を紡いだ。
「ええ。そうですね。好きな人は、もちろんいますよ。私も、好きな人と愛をとことん深めるまで、死にたくはないですね」
 カノンは、背中を流す結奈に顔を振り向けて答える。
「そ、そうですか? でも、カノンさんをみてると、危なっかしくて」
 結奈は、カノンの答えが、正直意外だった。
「アハハハハハ! 私は、死に近づくのが好きですからね! もちろん、戦場では死を恐れず特攻する心構えが大事だと思ってますが、生きて勝利をつかめるならそっちの方が絶対いいし、死ぬのは最終手段だと思ってますから、ご安心下さいね!」
 カノンは、愉快そうに笑いながらいった。
「そうですか。それを聞いて安心しました」
 結奈は、心底ホッとしていった。
「和泉さん。あなただって、お兄さんを置いて一人で死ぬのは嫌ですよね?」
 カノンが尋ねた。
「は、はい。一人で死ぬのは寂しいですし、もし死ぬなら……」
 言葉の途中で、結奈の脳裏に不吉な妄想が広がった。
「死ぬなら?」
「兄さんと一緒がいいです! それが一番嬉しいんですよ。フフフ」
 瀕死の重傷を負った自分が、同じく瀕死の兄の胸に抱かれたまま一緒に死ぬ光景を思い浮かべて、結奈はなぜだか、不吉な笑みをもらしてしまった。
 結奈にとって、それは、ある意味最高の人生の幕切れなのだ。
 結奈もまた強化人間であり、パートナーである兄に対して、危なっかしいほどに依存しているのである。
 その想いが、最後まで兄を独占して死にたい、そして死後の世界で1つになりたい、という怪しい妄想を導きだすのであった。
「アッハッハ! 素晴らしいですね」
 結奈の言葉を聞いたカノンはポンと手を打ち鳴らして笑い声をあげた。
「私も、死ぬときは、できれば、『私の涼司くん』と一緒に死ぬのが理想ですよ! 2人、一緒に手を取り合って! あの淫売には邪魔させずに、2人きりで逝くのがいいですね! フフフフフ!」
 その瞬間、カノンと結奈は、お互いをみつめあって、微笑みながら、手をうちつけあっていた。
 周囲の生徒たちは、まさかこの2人が気が合うとは思っていなかったため、少々戸惑うものを感じていた。
 
「カノンさん。いまの言葉を聞いて安心しましたわ。死に急いでいるようにみえましたが、あくまで死を恐れぬ覚悟をみせてるだけだと、本心はともかく、そういう言葉もいえるんですね。それにしても、あのやせこけた身体、心配ですわ。せっかく美しい容貌に恵まれていますのに。精神が不安定なのは事実ですし、完全に安心はせず、ずっと見守る必要がありますわね」
 湯槽の中で、カノンと結奈のやりとりに耳を澄ませていたオリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)は、やや緊張がとけたように感じていた。
 先ほどまで、食堂でカノンと激しく意見を闘わせたオリガだったが、女子生徒同士で親睦を深めようという趣旨に反対ではないし、作戦会議に出席した女子生徒たちは半ば強制でお風呂にいきましょうという感じだったので、彼女もお風呂に入ったのである。
 お風呂の中でカノンとオリガの直接のやりとりはなかったが、2人とも、互いの身体をじろじろと観察していた様子だった。
 まさに、女同士、裸のおつきあいでわかりあいましょうという世界であった。
 そんな、2人の身体を、遠くから同時に観察している女子生徒が1人いた。
「はあ。みなさん、スタイルがよくて、うらやましいですね。特に、カノンさんとオリガさんが美しいです。もし、リョージュが覗きにきてお2人の身体をいっぺんにみたら、興奮のあまり卒倒してしまうでしょうね」
 湯槽の隅の方で、白石忍(しろいし・しのぶ)はカノンとオリガ、そして、他の女子生徒の身体もしみじみと観察しながら、賛嘆と羨望が入り交じった吐息をもらしていた。
 引っ込み思案の白石は、お風呂の中で女子生徒の輪に入ることができず、遠くから一人で観察に専念していたのである。
 カノンの身体は病的なまでにやせていたが、それでも、男子がその裸をみたら煩悩の虜になることは間違いないレベルに達しているものだった。
 オリガの裸もまた、その美貌を裏切らない美しいプロポーションをみせつけるものだった。
 先ほどまで背中を流してもらった御礼にいまカノンが背中を流している和泉結奈の裸もまた、カノンとオリガとは趣の異なる、はかなくも美しい姿だった。
 カノン、オリガ、結奈。
 この3者の裸を同時にみられるこの大浴場の光景は、女性からみても素晴らしいものだった。
 ここでさらに、真の意味でカノンに牙を剥いたともいえる白滝奏音(しらたき・かのん)が入浴していたなら、美しさの競演はますます磨きがかかったろうが、残念ながら、あの勢いで食堂を出ていった白滝がこの場にいるはずがなかった。
 それでも、この大浴場の光景は十分すぎるほどのクォリティに達していると、白石はしみじみ思うのである。
 すると。
「白石さん、さっきから何、私たちの身体をじっくりたっぷり観察してるんですか? こっちに来て、一緒にお話しましょう」
 カノンが、浴場中に響き渡る大声で、白石を呼んだ。
 女子生徒の輪に入らず一方的に観察している白石に対し、意地悪な気持ちになったようである。
「は、はい。よろしくお願いします」
 声をかけられてドキッとした白石は、緊張で胸が張り裂けそうになるのをこらえながら、湯槽を出て、カノンと結奈の側に近づいていった。
「別に、女同士だから、いいんですよ? 裸のおつきあいでわかりあいたいと思って、こういう場を設けたんですから」
 カノンは、白石の身体をじろじろみながらいった。
「はい。すみません」
 白石は、これから処刑でもされるのではないかという気分だった。
「でも、私たちの身体をみるなら、白石さんも、自分の身体をみせないと。そうですよね?」
「はい。あっ!」
 身体に巻きつけていたタオルをカノンが取ったので、白石は抗議の叫びをあげようとして、思いとどまる。
「わあ。白石さんも、きれいな身体ですね」
 詳細が明らかになった白石の身体をつぶさに眺めて、結奈が感嘆の声をもらす。
「アッハッハ! これでいいんです。お互い、わかりあえましたね?」
 カノンは心底からの笑顔を白石に向けた。
「はい。そうですね。正直、恥ずかしいですけど」
 白石は、カノンに全身をみられて、顔を真っ赤にしながらいった。
「恥ずかしがる必要はないですよ。さあ、和泉さん! 今度は、前を洗ってあげます」
 カノンは、結奈の肩に手をかけていった。
「えっ、カノンさん! ま、前はいいです! きゃあっ」
 両手で胸を隠そうとした結奈の手を強引に取り払って、カノンがタオルをこすりつけてきた。
「いいじゃないですか。今日だけの大サービスです! 白石さんもやってあげますね」
「え、ええっ!?」
 白石はさすがに抗議したくなったが、カノンは容赦しなかった。
「ほら、2人とも立って!」
 カノンは、結奈と白石の2人を自分の前で並び立たせた。
「じゃ、両足と、お尻を洗ってあげますね。そのままでいて下さいね」
 カノンはニコニコ笑いながら、2人の下半身をタオルで念入りに洗い始めた。
 2人の美少女が並び立って身体を洗われている姿は、まさに男子がみたら鼻血を吹いて失神しかねない艶かしさを放っていた。
「ほーら、みなさん、お2人の身体をよくみてあげて下さーい!」
 カノンは、大声で他の女子生徒に呼びかける。
 カノンは、やはり、白石に対して意地悪な気持ちでいて、白石の身体を思いきりさらしたいようだった。
「く、くううっ、かなり恥ずかしいですけど、耐えないと、カノンさんの怒りをかいますね」
 白石は、歯を食いしばって、視線の嵐を受けてたった。
 男子が覗きにきていないことが、唯一の救いだった。

「フフフ。カノンさん、かなり威勢がいいですね。気に入りましたわ」
 結奈と白石の身体を洗い終わったカノンに、カーマ スートラ(かーま・すーとら)が、妖艶な笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「カーマさん。あなたも、美しい身体ですね。わかりあえて嬉しいですよ」
 カノンも、カーマに笑顔を向ける。
「いえいえ、こちらこそ。でも、もっとわかりあいたいと思いませんか?」
 カーマが、カノンの手をとって囁く。
「もっと? どういうことですか?」
 カノンは尋ねた。
山葉涼司(やまは・りょうじ)さんともっと親しくなれるように、あなたに愛の奉仕を伝授したいのですわ」
 カーマは、カノンの肩をがしっとつかんでいった。
「『私の涼司くん』ともっと親しくなる方法ですか!? ぜ、是非教えて欲しいです。どんな方法ですか?」
 カノンは、最愛の人の名前を出されて、思わず興奮してしまった。
「カノンさん。あなたは、男性にセクハラ行為をされるのが大嫌いだと聞いてます。ですが、涼司さんに対しては、そうじゃないでしょう。むしろ、恥ずかしいことも含めて、親密さを証明できるいろんなことをして欲しいと思うことがありますよね?」
 カーマは、慎重に言葉を選びながら話した。
 こうした話題をカノンに対して振るのは、相当な勇気が要ることだった。
 どうしてそうまでしてカノンにその話をしたいのか、周囲の生徒は理解に苦しんだが、カーマはとにかく大真面目だった。
「はい。そうですね。『私の涼司くん』なら、私にどんな恥ずかしいことをしても構わないというか、むしろ、そういうこともやって欲しいという気持ちがありますね。といっても、いまいち漠然としてて、どういうことか具体的にはいえないんですが」
 カノンは、真剣な目でカーマをみて、いった。
 まず、興味をひくのには成功した。
 カーマは深呼吸して、次のステップに移る。
「なるほど。具体的に、とは、たとえば、抱きしめてもらったりとか、キスしてもらったりとか、そういうことももちろん望んでいると思いますが、それ以上のこともやっていかないと、本当に親密とはいえないでしょう。ですが、これは、涼司さんについてもいえることなのです」
 カーマは、そこで言葉を切った。
「どういうことですか? 『私の涼司くん』が、私にしてもらいたいと思っていることがあるんですか?」
 カノンは、子供のように純粋な気持ちで尋ねた。
「そうです。これは、男性なら、誰でも女性にしてもらいたいと望んでいることでしょう。カノンさん、それは、抱きしめたりとか、キスしたりとか、それ以上の、愛の奉仕なのです」
「それ以上の! わかりました。ちょっと肉体的なことですね。それをやれば『私の涼司くん』と親しくなれるというなら、やります。教えて下さい。どんなことですか?」
 カノンは、カーマの説明に全てうなずいていた。
「ここはお風呂ですので、お風呂での奉仕をお教えします。巷ではマットプレイと呼ばれるものです」
「そ、それでは、『私の涼司くん』とお風呂に入ったときのテクニックですか! ええっ!? そ、それを想像しながらやるんですね!」
 カノンは、思わず想像、というより妄想してしまって、興奮のあまり顔を真っ赤にした。
「はい。それでは真奈美さん、実演してあげて下さい」
 カーマは、傍らでやりとりを聞いていた結城真奈美(ゆうき・まなみ)を動かした。
「はい。って、カーマさん! ここでそんなことやるんですか!」
 結城も、顔を真っ赤にして叫んでいた。
「なに、難しいことではありません。カノンさんを誠一さんに見立てればいいんです。あなた自身にとっても勉強になると思いますわ」
 カーマは、落ち着き払っていった。
「そ、それは、誠一さんに対してだと思えば、何でもできますけど。あの人が喜ぶことなら、私は何でもやりますから! で、でも、本当にいいんでしょうか? わかりました。カノンさんも望んでいるなら、やりましょう」
 結城は、覚悟を決めた。
「それでは、真奈美さんの全身にボディソープを塗りたくりまして、真奈美さん自身がタオルの代わりになって、誠一さんの身体を洗ってあげる、そんな見立てで、カノンさんに実演して下さい! はい、スタート!」
 カーマは、結城の身体にボディソープをたらしながら、恐るべきプレイの開始を宣言した。