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【カナン再生記】襲い来る軍団

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【カナン再生記】襲い来る軍団

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第3章 モンスター軍団を倒せ!

 パートナーの乃木坂 みと(のぎさか・みと)と共に、サンタのトナカイに乗り込んだ相沢 洋(あいざわ・ひろし)はイノシシたちが見えるなり、その先頭部分に向かって近付いた。
「これより空対地無差別攻撃を実施する。みと! 敵飛行戦力がいれば警告! 空対空戦闘に切り替える。操縦に専念しろ。飛行戦力、対空戦力がなければ魔力爆撃もしてもらう」
 構えたパワードレーザーの出力を確認しながら、洋が声を上げる。
「はいっ!」とみとは返事と共に、イノシシの群れの先頭へと距離を縮めた。
 射撃範囲内に捉えるなり、洋は引鉄を引く。
 放たれたレーザーが先頭を行くイノシシの身体を貫いた。
 けれども一撃くらいでは倒れることのないイノシシは、己に痛みを与えてきた相手――洋の乗るサンタのトナカイを見つけると、火炎弾を吐き出してくる。
「回避します! しっかりと! 捕まってください!」
 みとが声を上げ、サンタのトナカイを駆る。
 ソリの際を火炎弾が掠り、飛んでいった。
「聞こえてくるのは戦乙女の進撃の音、BGMはワルキューレの騎行、もちろん音源はワルシャワフィルと洒落込みたい所だ」
「申し訳ありません。余計な装備品調達の時間もありませんでしたし、戦闘機動と重量を考えると大音響スピーカーユニットは積んで来ませんでした」
 パワードレーザーの引鉄を連続して引き、イノシシの群れに向けて、次々と撃ち込む洋の言葉を聞きつけたみとが謝罪の言葉を口にする。
「みと! 対空戦力、飛行戦力がいないと判断したら、かまわん! 全力全開の魔力爆撃を好きな時に落とせ! わざわざ来てくれた皆さまには歓迎の宴を。ただし、進呈するのは死と苦痛であるがな!」
「爆撃については了解しました。進呈しましょう。村の名物になるかもしれませんが」
 そうか、と残念そうに相槌を打った後、洋の告げる作戦に、みとは頷き答えた。
 攻撃の手段として火炎弾が飛んでくることはあれども戦力であるイノシシたちは皆、地を行くモノたちだ。
 それを確認したみとは、ハーフムーンロッドを掲げると、イノシシ目掛けて雷を落とした。
 痺れが身体を行き渡ったようで、一瞬、動きを止めたイノシシであるが、次の瞬間、再び火炎弾を吐き出してくる。

 イノシシの群れへと近付いた真口 悠希(まぐち・ゆき)は、吸い込むと身体の動きが鈍くなる毒粉を周囲に撒いた。
 次第にイノシシの動きが鈍くなっていく。
「百合園の騎士……真口悠希が相手になりますっ!」
 ウルクの剣を構えながら、悠希は告げると、鬼のような目で睨み、イノシシを脅す。
 脅されたイノシシは、軽く砂を蹴ったかと思うと、スピードを上げ、悠希に向かって突進してきた。
 イノシシの気配が最も近付いてきたところで、身を翻し、その突進を回避する。
 突進してきたイノシシは彼女の後方にあった建物にぶつかって止まった。
 倒れ込んだ巨体を起こし、方向転換しながら、悠希の姿を探す。
 イノシシは彼女の姿を見つけると、再び突進してきた。
 再び、近付いてくる気配を感じ取りながら、悠希はギリギリのところで交わす。
 今回はその際、構えたウルクの剣で以って、イノシシの脚を斬りつけた。
 微弱ながらも痛みを与えたようで、よろけるように建物にぶつかって、動きを止める。
 痛みを受けながらも尚、彼女を狙って走り出すイノシシに三度、悠希は構えた。

 目的地に向かうマウロや村人たちを見つけたイノシシが、トラップ――テキサスゲートを牙で突いて破壊しながら、突進していく。
「うわぁっ!!」
 破壊されていく音に気付いて声を上げた村人たちの前に、1人の男が立った。
 棗 絃弥(なつめ・げんや)だ。
「ここから先は俺に任せな」
 冷水を入れておいた水筒を一番傍に居た男へと渡した絃弥は、彼らが去っていくのを確認してから、両の手にそれぞれ構えたレーザーガトリングでイノシシの牙を狙って、引鉄を引いた。
 貫き、穴が開いたくらいでは折れない牙に、何度も引鉄を引く。
 イノシシは怒り、絃弥に向かって突進してきた。
 ギリギリまで引き付けて、舞踏のような動きで避ける。
 後方にあった建物にぶつかったイノシシは、首を振って、落ちてきた瓦礫を振り払うと、再び絃弥に向かって駆け出した。

「メイ、絶対に箒から降りないで下さい、あと、的にされないように動き回って下さい」
 光る箒に乗って、隣を飛んできたパートナーのメイ・アドネラ(めい・あどねら)へと、そう声を掛けた赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は、跡地に辿り着くと、レッサーワイバーンから降りてしまう。
 視界に彼女の姿を納めながら、建物越しにでも見えるイノシシの巨体を確認しながら、それらが暴れ回っている場所へと向かった。
「む〜霜月から箒から降りるなって釘を刺された……」
 箒に乗って、イノシシに近付きながら、メイはぼやく。
「まあ、空からでも援護できるし、上からモンスターの動きを霜月に教えられるけど、なんだかなぁ〜。……あ、霜月、あっちにフリーなのがいるみたいだ」
 ぼやきつつもメイは、先行してきた学生たちが相対するイノシシたちとは別の、逃げた村人たちを探し回っているイノシシを見つけると、霜月に伝えた。
「ありがとうございます、メイ」
 霜月は答えると、早速、その方向へ駆け出す。
 建物の陰から通りへと出ると、イノシシと鉢合わせた。
 鉢合わせ様、ゴウッと吐き出される火炎弾にぶつけるように、霜月は構えた強化型光条兵器――ブライトシャムシールから冷気を放つ。
 冷気に包まれ、火炎弾は小さくなるものの完全には消えず、霜月に襲い掛かる
「く……っ」
 正面から飛来した火炎弾を咄嗟に交わそうと横に飛ぶものの、避けきれず、肩に傷を負った。
「援護するぜっ!」
 光る拳銃――ラスターハンドガンを両手に構え、メイが声を上げる。
 イノシシに向かって左右の引鉄を次々と引き、弾幕を張るほど、打ち込んだ。
 視界を奪われても尚、突進してくるイノシシに、霜月はブライトシャムシールを構えた。
 避ける素振りを一切見せず、真っ直ぐとイノシシを己の方へと引き寄せる。
 ギリギリのところで身体をずらして、すれ違い様に足を斬りつけた。
「――ッ!」
 痛みに声を上げながら、建物へとイノシシはぶつかっていく。
 崩れた瓦礫を振り払いながら立ち上がったイノシシはゆっくりとした動作で振り返る。
「氷の壁にぶつかってしまうがいい!」
 再び走り出したイノシシの前に、氷術で作られた壁が現れた。
 作り出したのは、キュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)だ。
 イノシシがぶつかった壁ははじけるように砕け散ってしまったが、足を止めることは出来た。
「今だ、リカ。思い切り殴り飛ばして明後日の方向に向けてやるといい」
「ええ」
 キューが促すと、様々な手段で以って攻撃力を高めたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、イノシシの足元に潜り込もうと駆け出す。
「フン、詰めが甘いぞ! 猪が足を止めている状態でそっぽを向かせたところで走り出す前に再び向きを変えられてしまえば意味がないではないか」
 それを見ながら、禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)がそう告げて、
「俺様が足元を凍らせてやるから独楽のごとくきりきり舞いさせて走れなくしてしまうがいいわ」
 氷術を放つと、イノシシの腹の下を避け、足元のみを凍らせた。
 イノシシの身体の下に潜り込んだリカインは、その腹を力の限り蹴り上げる。
 様々なスキルで上げられた彼女の攻撃力は爆発的な力となり、イノシシの巨体を傾かせた。
 そして、凍りつき、滑りやすくなった足元が手伝って、イノシシは転んでしまう。
「俺様はな、この地を荒らしている輩が許せんのだ。そやつのせいでここに住む者たちの『せいの営み』が踏みにじられていることがな。さあ皆の者よ、この河馬が貴様等の『せい活』を取り戻してやるから安心するがよいっ!」
 河馬吸虎が声を上げ、倒れたイノシシに向かって、氷の礫を飛ばす。
 倒れ、露になった腹に向かって、リカインは拳を突き出した。

 小型飛空艇オイレに乗り、上空から建物や壁などの様子を探るのは、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)だ。
 パートナーであるトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が考えた作戦を実行しやすそうな場所を探し出すと、その場所を連絡した。
 見つけた場所で待っていると、トマスが、彼の他のパートナー、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)の2人と共にやって来る。
「完成したら、再び連絡が来るのね」
 段取りを確認し合った後、ミカエラは再び小型飛空艇オイレに乗ると、上空へと飛び立つ。
 作戦に必要なもの――落とし穴が完成するまで、この場所にイノシシを近づけないようにしに行ったのだ。
「さて、僕たちは落とし穴の作成だ」
 トマスが告げると、武器などを用いて穴を掘り始めた。
 用意するのは、イノシシがすっぽり嵌るほどの大きな穴ではない。脚を傷付けるための落とし穴だ。
 トマスは砂の表面を全体的に凍らせると、次は火を用いてところどころ溶かして穴を開けていく。
 穴が開いたところで、再び凍らせて、獣が脚を取られるような凹凸の激しい地形を作っていった。
「それにしても、随分大きな猪でしたね。……どのくらい、猪鍋で食べられますかねぇ。猪なんて、要は『野良豚』ですから。ちょっと臭みはあるかもしれませんが、料理して食べたら、みなさんも体があったまるでしょうね」
 子敬が呟く。
「そのためにも一生懸命、穴を作りましょうか」
 深緑の槍の刃先で只管穴を掘る子敬の言葉に、トマスとテノーリオは手を止めた。
「いや、食べるためではないから」
「うんうん」
 目的が違うことを指摘され、子敬は不思議そうに首を傾げたかと思うと、次の瞬間には微笑んだ。
「いいじゃないですか、途中の経過的に行うことは同じになるんです、『ひたすら落とし穴を掘りまくる』と。食欲の為に、であっても悪い事ではないでしょう。うん。元気に陽気に、がんばりましょう〜!」
 確かに、子敬の言葉には一理ある。
 目的がどうあれ、穴を掘ることに違いがないのであれば良いか、とトマスはそれ以上を突っ込むことはしなかった。
「……掘れ、俺!」
 テノーリオも気にしないことにして、穴掘り作業に戻った。
 程なくして、3人は壁沿いにいくつもの落とし穴を掘り終える。
 トマスがミカエラに連絡を取り、自分たちは落とし穴のあるところから少し距離を取って、待った。
 連絡を受けたミカエラは、イノシシの目の前を横切るなどして、注意を引き寄せる。
 何度か火炎弾を吐き出されるものの、それでは撃ち落すことができないと判断したイノシシは、ミカエラ目掛けて突進を始めた。
 着いてくるのを確認したミカエラは全速力で、その場所に向かう。
 壁が見えてくると、直前で小型飛空艇オイレを上昇させ、ミカエラ自身がその壁にぶつかるのを避ける。
 追いかけていたイノシシは、止まることが出来ず、壁を破って、その反対側へと抜けた。
 そして、トマスたちが作成した落とし穴に脚を嵌らせ、倒れ込んだ。