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女王陛下と兵隊アリ(S@MP第2回)

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女王陛下と兵隊アリ(S@MP第2回)

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第一章:胎動


「カノン様、お待ちください」
「カノン様――」
 設楽 カノン(したら・かのん)にイケメンの男子生徒がまとわりつきます。
 カノンと同じく、パートナーのいない強化人間部隊の生徒たちでした。
 強化人間部隊の社会構造は唯一の女性のカノンを女王アリとして、他の生徒を兵隊アリや働きアリとするアリ社会と同じでした。
 ことにカノンが強化人間部隊でも最高の成績を誇るトップエースというのが、彼ら強化人間部隊がカノンを女王様扱いする一因でもあります。
 ですが――
「うざいわね。寄って来ないでよ。あんた達なんか涼司くんの足元にも及ばないんだから」
「ご無体な。そもそも山葉涼司は我々の敵。蒼空学園の校長なのですよ?」
「……? どういうこと?」
 カノンにそう問い詰められて一人のイケメンが”しまった“という表情をしました。
(「おい、あの件はまだカノン様にはご内密だ」)
(「そうだったな、すまない」)
 イケメンたちはヒソヒソと話し合います。
「なに男同士で内緒話しているのよ、気持ち悪いわね。とにかく、あたしはこれから涼司君に会いに行くんだから邪魔をしないで」
(「どうする、グリモワール?」)
 金髪碧眼の優男。典型的なアーリア人がそういいました。
(「そうだな、ルシフェル……カノン様は天然だから仕方がない。それに、そのほうが山葉涼司に与えるダメージも大きいだろう。その線でどうだ、アザゼル?」)
 グリモワールは銀髪に赤い目のちょっと幼顔の少年です。
(「ふむ。なるほどな。それでいいだろう」)
 アザゼルは赤い髪に黒い瞳の熱血系の少年です。
 イケメンたちは何か会話をまとめるとカノンにこう提案しました。
「では、私たちがイコンで蒼空学園までエスコートしましょう。それくらいならよろしいですよね、カノン様?」
「仕方が無いわね。あたしもイコンでいくから警護しなさい。いいわね、ルシフェル、アザゼル、グリモワール?」
「了解です」
 それを聞いていたのは天御柱学院の生徒白滝 奏音(しらたき・かのん)水鏡 和葉(みかがみ・かずは)だった。

「御空、お腹がすきました」
「……またか。本当に奏音は燃費が悪いな。じゃあ、食堂に行こうか?」
「いえ、御空の部屋で……」
 奏音はパートナーの天司 御空(あまつかさ・みそら)にそう話を持ちかける。奏音の態度からなにか内密の話があるのだと判断した御空は、
「わかった。パスタでもご馳走しよう……」
「ボクたちもいいかな?」
 和葉がそう言うと、ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)
「人手は多いほうがいいだろう……協力しないか?」
 と尋ねる。
「わかった。パスタ4人前だね」
 御空はそう言うと部屋に向かって歩き出しました。
 そして、御空の部屋―――
「……というわけ。御空、『事件』かもしれません」
 パスタをすすりながら奏音がしゃべる。
「なるほど」
「ルシフェル、アザゼル、グリモワール……堕天使や魔術関連、か。本名じゃないだろうし……わざわざこの名前を使うっていう所からして怪しくない?」
「厨二病臭い名前だな。ことにルシフェルなんて裏切り者の象徴じゃないか……いや、まさかな」
 和葉とルアークがそう言うと奏音が
「……本件は、設楽カノン及びパートナーの居ない強化人間を利用し、蒼空学園と天御柱との間に禍根を残す物だと予想されます……同じ強化人間として看過出来ません」
「そうだな。要点は3つだ。
・設楽カノンのスケジュールの変更履歴
・その追っかけ達のスケジュールの変更履歴
・変更が有ったならその変更を行った者と変更の法則性
 そして、今回の件が「後々」を見越した計画であるなら「今後」の履修スケジュールに歪みが生じている筈。俺は生徒会の権限の範囲内で教官たちに聞いてみる」
 御空がそう言うと、奏音は
「私はコリマ校長に根回ししてみます」
 と答えた。
「ボクとルアークは学校内のPCのデータを調べてみる」
「一応俺はパートナーのいない強化人間部隊の行動にも気をつけてみるよ」
「了解。この件は他の人には内密に。事を大きくしても不味い」
 御空がそう言うと三人は頷いた。
「それじゃあ、早速行動に移そう」
『了解』
 四人はパスタを食べ終わってから御空の部屋をでるとそれぞれ思い思いに散っていった。

 パイロット科教官室

「……以上、3点についての情報開示を請求します。まあ、教官が代わりに調べてくださっても構わないですけどね。何事もなければ杞憂で終わったでいいでしょう。ですが、何かあったら責任問題になりますね?」
 御空は笑いながらそう言った。
「君は、私を脅しているつもりかね?」
「いえいえ決してそんなことは……」
「まあいい。調べてみよう。だが、設楽カノン達強化人間は我々とは指揮系統が違うのだ。どこまで行くかはわからんぞ?」
「かまいません。それと、校長から何か指示が出ていないかの確認もお願いします。俺は天御柱と蒼空が決裂して得をする可能性の高い極東新大陸研究所からの派遣職員及び京空大学の人脈を持っている教官に探りを入れてみます」
 御空の決意の満ちた言葉に教官も頷く。
「俺には蒼空学園にも友人が沢山居ます。生徒の代表たる生徒会の一員として学校の平和が乱される可能性を前に、安穏としてはいられません。生徒会より本件の調査許可を申請します」
「了解した。許可を出そう。そういえば、今度の何かのイベントで強化人間部隊と一緒に、強化人間部隊直属の教官たちがイコンで曲芸飛行をすると言っていたな。タイムリミットはおそらくそのへんだろう……」
「了解しました。感謝します」
「もし彼らが何らかの行動を起こすなら、そのタイミングだ。イコンという圧倒的武力を持っている状態でなら、たとえ山葉校長がいかに超人であろうとも周囲の人間ごとミンチにできるだろう」
「はい」
「気をつけて行動したまえ」
「ありがとうございます」
 御空は敬礼すると教官室をあとにした。

 端末室

「さすがに強化人間部隊のサーバーはセキュがきついなぁ……」
 和葉はハッキングを試みていたがなかなかにセキュリティレベルが高く、サーバーに侵入できないでいた。
「和葉、とりあえず強化人間部隊のプロフィールは名簿から引っ張り出してみたが、どいつもこいつも駄天使やら悪魔の名前がつけられてる。しかも素性は不明だ」
「素性が不明? どういう事?」
「アメリカのウォール街の一等地がこいつらの出身地になってる。適当にでっち上げたんだろう」
「……ますます怪しいね。ライブ当日は山葉校長の警護をしっかりとしないと」
「そうだな。山葉の安全第一だ。蒼空学園からの援助が打ち切られたら天御柱学院はやっていけなくなる」
 和葉とルアークはそう言いながら端末を操作すると、なにか手がかりがないかとデータをさらっていった。
 

 校長室
「―――というわけなのですが」
(残念ながら私も初耳だ、少女よ)
 コリマが奏音にそう告げる。
「そうですか。ですが調査許可だけでも……」
(それは構わん。だが、事は私がこの学院に来る前から始まっていることのようだ。おそらくは……強化人間技術の鏖殺寺院への漏洩とも関わっているだろう。それくらい根深い出来事だと覚悟しておけ。そう簡単には馬脚は表さぬぞ)
「はい」
(―――ここは静観を―――)
(―――だが裏切りならば―――)
(―――どちらにしろ予測がつかない。事が起きるまでは待つしかないだろう―――)
 コリマ校長の脳内で会議が紛糾する。
(私は事が起きるまでは静観する。私のあずかり知らぬところでこそこそと物事を進めている人間がいるようだ)
「では校長は――?」
(獅子身中の虫でいられるよりは外に追い出したほうが良い)
「なるほど……」
(調査の許可はだそう。だが強化人間部隊のコンピューターへのアクセス権限を与えることはできん。私のセキュリティクライアンスの範囲外でもあるし彼奴等は命令したところで拒むだろうからな)
「わかりました。慎重に捜査を進めます……」
(頼んだぞ、少女よ)
「はい」
(設楽カノンは私が倒す。他の奴らに獲物を横取りされるわけにはいかないのよ)
 奏音はそう考えながら校長室をあとにした。

 涼司とカノンの逢瀬中―――
「グリモワール、事の決行はいつなんだ?」
 ルシフェルが訪ねまる。
「まだはっきりとは決まっていないが、そのうちお迎えが来るそうだ」
「我らが敵、山葉涼司の――寺院――」
 アザゼルがそうつぶやくのを蒼空学園の生徒平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)が聞いていた。
 ガタン!
 驚いて物音を立ててしまう。
「誰だ!」
 アザゼルがそう叫ぶとレオは慌てて走りだした。
(山葉先輩に伝えないと―――よく聞き取れなかったけど奴らは寺院と……)
「待て!」
 しかしアザゼルが物音のした方向に駆け寄ったときはすでに誰もいなかった。

 校長室

「涼司様、平等院鳳凰堂さんがお見えです」
 花音・アームルート(かのん・あーむるーと)山葉 涼司(やまは・りょうじ)に取次ぐ。
「通してくれ」
 ちょうどカノンとフレイ・アスク(ふれい・あすく)アポロン・サン(あぽろん・さん)が退出するところだった。
「レオ……!」
 レオを見てカノンが動揺する。ゴーストイコンとの戦いの際にカノンに告白してきた男だったからだ。
「やあ、カノン。帰るところ?」
「うん……そうだけど……」
(「強化人間部隊には気をつけて。なにか企んでる」)
 レオはカノンに小声でそう囁きます。
(「……よくわからないけど、気をつけるわ」)
 カノンも小声で返した。
「さあ、カノンさん、帰ろうぜ」
 フレイがそう言うとカノンはしぶしぶといった様子でその場から引き上げて行った。
「失礼します」
 それからレオは校長室に入る」
「おう、どうした?」
「山葉先輩、カノンの追っかけの強化人間ですが……」
「ん?」
「絵話がよく聞き取れなかったのですが山葉先輩は敵ということと、寺院とつながりがありそうなことを話していました。もしかしたらこんどは山葉先輩が天学に命を狙われているのかもしれません」
「天学が? 解せないな……俺を狙う理由なら誰にだってあるが、天学と蒼空の間に溝を広めたら困るのは奴らだろ?」
 涼司の言葉にレオは少し考えこんでからこう言った。
「迎えが来ると言っていました。それからもうすぐS@MPのライブがあります。このライブの時にまた例のシュヴァルツ・フリーゲに乗ったミレリアとかいう女がやってきてもおかしくはありません。それが寺院からの迎えだったとしたら?」
「ありえない話じゃねーなー。わかった。用心はしておく。俺も当日はイーグリットアサルトで会場に向かう。何かあったらすぐにイコンに乗り込むようにする」
「わかりました。気をつけてください」
「ああ。情報サンキューな」
「当日は僕のパートナーの久遠乃 リーナ(くおんの・りーな)を先輩たちの護衛に付けます。僕はS@MPのコーラスとしてコームラントに乗る予定です。いざとなったら機体を盾にしてでもカノンと先輩は守ります」
「おう。あまり無茶はするなよ」
「はい。それと、カノンのことですが、告白しました」
「なっ!」
 涼司は驚いたようだった。
「もちろん、山葉先輩とカノンがくっつくことが望ましいのですが、山葉先輩にその気がないならカノンが傷つく前に僕がもらいます」
「…………」
「先輩」
「涼司様……」
 黙りこくる涼司にレオと花音が声をかける。そして涼司は沈黙を破った。
「これは加夜に言ったことだったかも知れないが、カノンは俺にとってあくまで妹的な存在だ。世界一大切で守ってやりたい相手だが、恋愛の対象になるような女じゃない。もしレオとカノンが結ばれるんだったら、俺は喜んで祝福する」
「先輩……」
「カノンが俺のことを男としてみているのは分かっているが、どうしてもその気にはなれない。もしカノンが誰かとくっつくんだったらレオのようなやつがいいな。レオ――」
「はい」
「もし寺院がライブの最中に攻めてくるようならカノンを守ってくれ。俺はあくまでカノンの保護者だ。カノンの王子様なんかじゃない」
「わかりました」
 レオは頷き、そして確認する。
「カノンは僕が貰っていいんですね?」
「カノンの意思次第だが、レオならカノンの心を引きつけられると思う。あー、娘を嫁に出す父親の気持ちってこんなものなのかな……」
 そう言って涼司は頭をかいた。
「とにかく、カノンのことはレオに任せる」
「はい。お任せください。それでは、ライブ当日はくれぐれも警戒してください」
「わかった。忠告に感謝する」
「では、失礼します」
 そう言うとレオは校長室を出て行った。
「涼司様、本当に設楽さんのことを任せていいんですか?」
「ああ。レオなら間違いない」
「それならいいんですけどね……」
 そう言うと花音は書類整理を始めた。涼司が苦手とする書類との格闘に、花音は意外なほど力を発揮していたのだった。