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虹の根元を見に行こう!

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虹の根元を見に行こう!

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★2章



「虹の根元には何も無いけど、そいつは地上の虹の話だろ。パラミタの虹はもっと浪漫にあふれた別の何かがあるに決まってんじゃん!」
 シルキス達が通る道とは迂回した少し遠回りの平原を、フェルブレイドの御弾 知恵子(みたま・ちえこ)が全力疾走していた。
 虹の根元には何もないと知りつつも、見なければ気が済まないという思いと、大々的に虹の根元を見に行こうとする一行の存在が後押ししての行動だった。
 知恵子の前方に、黒い塊があった。
 それは一見でわかるパラ実生達で、集会でもしているのかと思うほどの人数だった。
「おう、あんたらもあたいと一緒に虹の根元を探しにいかないか!?」
「アアン!? 虹の根元とか胸糞ワリィ言葉吹かしてンじゃねぇよ!」
「ヒャッハー! レインボーホテルでガチンコなら大歓迎だぜ!」
「オウ、いいぜ、オメェだけベッドの上で踊ってこいヤ! その間に俺たちゃあのアマ掻っ攫って、金せしめるかんよ!」
「モヒカンの友、さっきも言ったが、セレブ女を誘拐して身代金はダメだ! 俺様も協力してやるからメイドおっぱいを狙おうぜ! 1つのセレブおっぱいはその家のたくさんメイドおっぱいと交換可能ってもんだ? そしたらみんなでおっぱいムニムニフガフガできるんだぜ? メイドおっぱいはご主人様になんでもしてくれるんだぜ? どうよ?」
「さ、さすがゲブーさん……スケールがデケェ……」
 グラップラーのゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)の一言に、顔を腫らしたパラ実生の1人が同意すると、それは一気に回りに広がり、口々に同意した。
 そんな明らかにリーダー格を倒して乗っ取った感のあるゲブーの一言で、知恵子はピンと来た。
「はあん、アッ! 浪漫を忘れたパラ実生ほど見苦しい物ったらありゃしないよ!」
「んだと、このアマッ!」
「へん! 女のケツでも追いかけてきやがれ!」
 そう挑発して、知恵子は再び走り出した。
(ん……そういえば依頼主の1人はあたいのセーラー服ライバルこと瑛菜の相棒か……。でもセーラー服じゃないなら別にどうでもいいな。浪漫あるお嬢ちゃんのために、一肌脱いでやるか!)
 シルキス達と同行するわけではないが、だからと言って浪漫あるシルキスに仲間意識がないわけでもない。
「あ、こらぁ、テメェら! そんなのホッとけ! メイドおっぱいはあっちだ!」
 明らかにシルキスを狙うパラ実生の目を引く鬼ごっこが始まったのは、シルキス達が丁度森に差し掛かった頃だった。



 明るい歌声を響かせながら歩くのは、それはそれで体力がいるものだった。
 少しばかり疲労の色が見え始めたシルキスは、歌うのを一時止め、歌声に耳を傾けながら歩いていた。
「もう歌は終わりですか?」
 そんなシルキスに話しかけたのはフェイタルリーパーの志方 綾乃(しかた・あやの)だ。
「ええ、歌いながら歩くのって、疲れるものなんですね」
「じゃあ、宇宙を目指したドラゴンライダーこと、志方 綾乃の武勇伝でもいかがですか?」
「宇宙……ですか?」
「私の夢はあの空の果て、パラミタの宇宙に辿り着くことです。エリュシオンでドラゴンに乗って試してみたんですが、その時は謎の力場に阻まれて辿り着けませんでした。宇宙に行くにはまず力場をどうにかしなければならない。どうにかするには力場の正体を突き止めなきゃいけない。突き止めるには機材や人手が必要。そしてそのために、先立つお金が必要なんです――つまり――」
 気の緩みがあったのかもしれない。
 当のシルキスも状況を掴めなかった。
 喉元に綾乃からウルクの剣を突きつけられている事態に――。
「る〜る〜る〜……って、シルキス……ッ!?」
「……ッ! あなた! 何をしてるか……ッ!?」
「動かないで下さい……ッ!」
 綾乃は警告を発して、周りの動きを制した。
 ――クッ!
 誰かが唇を噛んで己が緩みを呪った。
 そんな仲間を尻目に綾乃はシルキスの耳元で囁いた。
「――つまり、シルキスさんを利用して身代金をせびり取れば、それだけ私は夢に近づける訳です。夢は大事ですよね。だから……志方ない」
 遠くの空から、機械音が響きだした。

 ――……ら、…………ス。……んが……て……す!



「ヒャッハー! 俺達が地上でしか乗り回せねぇと思ったら大間違いだよ!」
「裏切り者もいることだしな!」
「華亜弐刃流・夜(カーニバル・ナイト)だ、ヒャッハー!」
 3人のパラ実生が小型飛空艇に跨って、空中から先行し、仕掛けてくるのが見えた。

 しかし、上空からの監視や対策は、シルキス側が一枚も二枚も上手だった。
 それは、セリエや菊だけではなく、彼女らとは別に結束したチームが上空で先行監視していたのだ。
 だが、その中の1人、ソルジャーの湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)は、地上に配置しておいたパートナーの剣の花嫁、高嶋 梓(たかしま・あずさ)からの連絡に耳を疑った。
「すまない! もう一度頼む!」
「こちら、ホームベース。シルキスさんが人質にとられています!」
 小さな小さな声で、もう一度事実が伝えられた。
「マジかよ……」
「私達もついつい綺麗な歌声に聴き入ってしまいましたわ。素敵な方が多くて困ります」
 頭を抱える亮一の耳に、パートナーである機晶姫のソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)の冷静な言葉が届いた。
「ふむ、迂闊でしたな。どうします? 強硬手段でシルキス嬢を取り戻しますか?」
 同じく梓とソフィアと一緒にホームベースとして地上にいるパートナー、シャンバラ人のアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)が提案するが、それは到底ゴーサインを出せるものではなかった。
「困ったな。どうする?」
 亮一の異変に気付き、ワイルドペガサスに乗って共に上空監視をしていたコンジュラーの源 鉄心(みなもと・てっしん)は一度引き返し、連絡に耳を傾けていた。
「地上に戻るわけにもいかないし、ティーはどう思う?」
 鉄心はパートナー、ヴァルキリーのティー・ティー(てぃー・てぃー)に意見を求めた。
「皆様を信じましょう」
 ティーのペガサスが嘶いた。
「あなたの力が必要です……よろしくお願いしますね。もちろん、あなた達も……」
 と、ペガサスの首筋を優しく撫で、後方で付いてくるフライングヒューマノイド達に振り向いた。
「ティーがそう言うなら……。亮一」
「……わかった。状況が好転することを信じて、作戦通りに」
「了解したぜ。俺達はペガサスで迂回する。正面の奴らを挟撃してやろうぜ」
 亮一と鉄心は拳をこつんと合わせ、ティーを連れて弧を描くように広がって行った。

 一方地上では、未だ緊迫の睨み合いが続いていた。
 綾乃はペガサスで逃げる算段ではいたが、少しでも隙を見せれば、今にも飛び掛ってきそうな者達を見て、じりじりと後退をしながら距離を取るので精一杯でいた。
 パラ実生とシルキス達がぶつかり合う時間と場所を打ち合わせておいたのだが、未だに爆音のスパイクバイクの音は聞こえてこなかった。
 早まったか。
 それとも、遅れているのか。
「クソアマを追いかけてたら遅れちまったぜ、クソが!」
 綾乃が根負けしそうな頃、ようやくパラ実生が虹の根元に向かう集団を捉えた。
 しかし、
 ――ドォォォンッ!
 地を震わすほどの爆音が、後方から耳を劈いた。
「おお……派手に散ったのお。後は亮一殿の報告次第じゃな……」
 こっそりと先回りし、破壊工作で爆薬を仕込んでいたソルジャーの犬神 狛(いぬがみ・こま)が、遠くを望むように手で陽光を遮りながら、自画自賛といった感じで胸を張った。
「シルキス……ッ!」
 本能的に振り返ってしまった綾乃の懐には、アテネが潜り込んでいた。
「アリスびーむ!」
 至近距離からの攻撃が綾乃に直撃し、シルキスの首元を捉えた刃がかっさかないように、ラナがシルキスを抱き寄せた。
 好転。
 それが、交戦の始まりだった。