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リアクション
【5・苦戦1】
一方その頃。
エリザベートの傍に小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)たちがやって来ていた。
「つまりあのワイバーンを止めるには、巨大化薬を盗んだ犯人に解毒薬を作らせるしかないってことなの?」
「そうですぅ。まぁ最悪、完成された薬だけでも手に入れば、私でもなんとか調合してみますけどぉ」
「どちらにしろ、その人を探さないといけないということですね」
「でも一体どこにいるのか……。うっ……!? ちょっと、みんな!!」
一番に気づいたのはコハクで、すぐに龍殺しの槍を二本構えた。
美羽とベアトリーチェも、こちらに向かってくる殺気に背筋が震えた。
雪が霧のようになって視界を曇らせている中、やがて現れたのは黒一色の少女たち。
「あぁ、やっぱりぃ……エリザベェェェエト校長、じゃないですかぁ……(驚)」
「キャッハァ! こんなトコで会えるとは奇遇すぎて涙が出そうだゼ! 嘘だけどナ!」
「ウチの銃がぶるぶるうずいてきたわ。なぁ、撃ってええかな? ええよな? なあ!?」
幼くて可愛らしい声色とは裏腹に、言葉には悪意が篭っていた。
しかしエリザベートのほうは、かくんと首をかしげて緊張が薄かった。
「?? どなたでしたっけぇ? 私の学校の生徒じゃないですよねぇ?」
「あーあー……いいんですよぉ……あなたはどうせ、あたしの人生の端にいただけの存在なんですからぁ……(笑)」
不快感ばかりが伝わってくる言動に、美羽はのまれないように相手をにらみ。
刃渡り2メートルはあろうかという大剣型光条兵器をその手に出現させ、二、三度振ってみせる。怪力の籠手のおかげで、身の丈にあわないその剣もたやすく扱えるのだが。
「よくわかんないけど、あなた達がこの事態を引き起こしたの?」
「引き起こしたなんて、人聞き悪いナ! ま、その通りなんだケド! ハハッハァ!」
それでも相手は臆するどころか、余計に面白がっている風だった。
「いますぐ、あのワイバーンを元に戻してください。でないと……」
「でないと? なんやねん。かわいらしー顔、ゆがませて。あー、てかもうウチ限界や。さっさと撃ち殺したろーっと!」
銃使いの少女がはやくも撃ってこようと銃口を向けた。
が、引き金を引くよりも先に、ベアトリーチェの魔道銃が発射されていた。
打ち出された魔力が少女の銃を上にはじいた。少女のほうはちょっと驚いた風になったものの、すぐに平静を取り戻して落下してきた銃をすばやく掴みなおした。
「へぇぇえ、アンタもヘクススリンガーみたいやな。ちっとはオモロそうや」
銃少女はベアトリーチェに狙いを定め、引き金にかけた指をためらいなく引き続け銃弾を乱射させていく。ベアトリーチェのほうは、銃舞で攻撃を避けながら二丁の魔道銃を構えた。
戦闘に触発され、大剣少女も処刑人の剣で斬りかかってくるが、それは美羽が前に出て光条兵器の剣で受け止めた。どちらも桁外れなサイズの剣だが、それに振り回されずどちらも踊るような動きで切り結んでいく。
そして。
残された最後のひとりと対するコハク。
「僕は、あまり手荒なことはしたくないんだ。だから、できればはやく降参してほしい」
「ふーん……今時めずらしいくらいやさしい人なんですねー……といっても、降参なんてしませんけど……(悪)」
嘲笑する少女に、コハクは二本槍によるランスバレストで一気に突進していった。
少女はいきなりのことに反応できなかったのか、槍は容赦なく左右の脇腹を刺し貫き。血があたりに飛び散った。
人間は脇腹を刺されたくらいでは死なないが、少女はそのままがくりと首をうなだれて動かなくなった。コハクは意外に早い決着に逆に驚いた。
その隣では、
大剣少女に美羽が押されはじめていた。
相手の身体は、かなり筋肉質らしく切り結ぶうちにどうしても差が出始めており。
「ほらほらァ! 威勢がいいのは最初だけかヨ? だったらさっさとトドメといくゼ!」
交えた剣を、そのままぐいぐいと美羽の首元に近づけていく。
「まあ、相手が悪かったんだゼ。私の剣は、絶対無敵だからナ!」
「それは、すごいね……。でも、あいにく私の武器は、剣だけじゃないのよね!」
その言葉の意味を理解するより前に、
美羽のミニスカートが跳ね上がり、そこから見えた右脚に装備されたレガースの部分から、轟雷閃が放たれたのがわかった。
そこで大剣少女はようやく気づく。どうせ力負けしているのなら、剣の攻防は腕の力だけで戦い。腰の力を込めたキックを本命にとっておいたという美羽の戦略を。
わかった頃には、電撃がプラスされた脚蹴りをもろに喰らい。衝撃と感電によって気絶した。
「ふぅ……。剣にばかり気を取られているから、こうなるんだよ」
これでふたりが倒れ。
銃使いの少女との勝負も、決着がつこうとしていた。
「チッ、ちょこまか動いてばっかで鬱陶しいなぁホンマ!」
次々発射される弾丸を、華麗に避け続けるベアトリーチェ。
やがて弾切れになったらしい少女が、補充を試みようとしたところを狙い。サイコキネシスを発動させ、少女の銃を遥か後ろへと飛ばしてやった。
武器を失い、焦りを見せたところにベアトリーチェは、魔弾の射手で一気に4連射を少女の右腕へと命中させた。
「!? な、なんやて……!」
腕を押さえ、がくりと膝をつく少女。
どうやら勝敗は決したようだとコハクは思った。
すこし呆気ない気もしたが。苦戦するよりはよかっ――
ザクリ
「え、っ」
コハクの脇腹に、刃が突き刺さっていた。
じわじわと来る痛みを感じながら、まさか今自分が刺しているのは身代わりか偽者かとコハクは考えたが。違った。
「うふ……お返し、ですよ……(痛)」
目の前の少女は、間違いなく両の脇腹から血を流している。
つまりは単に、傷を負ってなお反撃してきただけの話で。コハクは戦慄しふたりに警告しようとしたが。それより先に、少女の手が口を塞いできた。代わりに相手が口を開いた。
「みんなぁ…………もう遠慮しないで、スキル、使っていいですよぉ……(殺)」
美羽とベアトリーチェはそのセリフを聞いて、ようやく気づいた。
相手がまだ、スキルのひとつさえ使っていなかったことに。
そして、そのままふたりは冗談のように、雷撃攻撃と銃弾の4連射をやり返された。
「きゃああああっ!」「うぁ、ぁあああああっ!」
美羽は、起き上がりざまに振りぬかれた大剣少女の迅雷斬によって気絶させられ。ベアトリーチェは、銃少女が胸元に隠し持っていた魔道銃による魔弾の射手を右腕と右足にお見舞いされたのである。
ふたりとも気を抜いていたわけではない。それ以上に、相手の攻撃が速かったのだ。
「あーア。ちっと油断しちゃったゼ。おかげで数秒くらいマジで気絶してたヨ」
「せやな。コイツらが甘ちゃんで助かったわ。殺す気で相手されとったら、右腕だけじゃ済まんかったかもな」
倒れた美羽たちとは対照的に、大剣少女は頭をふらつかせながらも銃少女の腕に手当てを施していく。
早すぎるほどに早く平静を取り戻した彼女たちに、コハクは脇腹を押さえて軽くよろめいた。その拍子にズプリという血の音とともに、槍が抜けてしまう。
そのせいで少女のジャージは黒色がさらに赤黒く変色していくが。本人はその傷をまるで絆創膏でも張ろうかという顔色で、淡々とヒールを使って治しはじめている。
なんとも異様な三人少女の様子に、コハクは傷と関係なく血の気がひいて言葉を失った。そのかわりに、エリザベートが口を開く。
「まさかとは思いますけどぉ。痛みを感じていないんですかぁ……? 私と関わりがあるということは、まさかなにかの実験で」
余計な不安が頭をよぎったが、少女達はヒラヒラと手と首を振って。
「あー……違います違います。あたしら元々こうなんですよ。人より痛みを感じにくいってだけです。正式な病名もあった気がしますけど……覚えてませんしね(忘)」
「まあ実際、校長の親戚の親戚の親戚くらいの相手に、実験台にされそうになったこともあったりなかったりするんだけどナ!」
「ま、ンな話どーでもええやん。ウチらが何者かなんて。ただの学生、鏖殺寺院の一員、大秘宝を狙う海賊、好きに想像しぃや。そのためにオツムついとんねやからな」
一方的に言うだけ言いながら、三人は治療をすませ。
目線の正面にエリザベートを置いた。六の冷たい瞳を感じ、わずかに後ずさるエリザベート。
「さあて……想像力を働かせたところで、問題です……あたしたちは、このあとどうするつもりでしょうか(問)」
「?傷ついた三人にトドメをさしてやル! ?目の前でマヌケ面してる子を攻撃すル!」
「答えは慎重になー? 間違えたら、罰ゲームやでー?」
残忍な性質のクイズに、当然エリザベートは答えられない。
張り詰めた空気の糸が、いまにも切れそうな沈黙が場を包み、
「エリザベートちゃんをイジめちゃダメですよ〜」
そこへのんびりな口調が介入してきた。
声の主は何処からともなく現れた神代 明日香(かみしろ・あすか)。
「ちょ、ちょっとあなた危」
「ここは任せてくださいですぅ。事情はわかんないですけど、とりあえずエリザベートちゃんが正義なのですから、目の前の三人が悪、ということは確かでしょう?」
なんだか盲目的な発言ではあったが、本人としては真面目に言っているらしい。
少女三人としても、また妙なのが現れたと言いたげな表情をしている。
明日香が魔道銃を構え、今にも撃ちだしそうな雰囲気なのを見て取り。エリザベートは話を切り替える方向に決めた。コハクとベアトリーチェが、美羽を連れて逃げる時間稼ぎの意味も込めて。
「あなたたち。ひとつ、確認したいことがあるですぅ」
「はぁ、なんですか? 聞くだけなら聞きますよぉ……(聴)」
「私が廃棄した巨大化薬を完成させたのなら、その解毒薬も持っているんですかぁ?」
三人は、はたと互いに顔を見合わせた後、声をあげて笑い出した。
「アッハァ! そんなもの、あるワケないじゃないかヨ!」
「というか、ウチら解毒方法とか考えて投薬してへんからな。元に戻す気もあらへんのに、そんな手間かけんの面倒やん」
エリザベートとしては、最悪に近い答えだった。
実験ごとに誇りを持つ人間なら、治す方法も踏まえて薬を調合する。しかし彼女たちはそうじゃない。冗談でも嘘でもなく、解毒のやり方をわかっていない。
廃棄した薬を利用している時点で予想していたとはいえ、額の血管が切れそうになった。
その怒りは明日香にも伝染したようで、
「エリザベートちゃんが廃棄したものを利用するなんて許せませんね! これは間違いなくストーカーです。悪は滅殺ですぅ!」
今度はエリザベートとしても、止めるどころか加勢しようと杖を構え。一触即発の両者だったが、
「待ってください、あなたたち!」
そこへまたも闖入者が登場した。
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