空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

イコンVS暴走巨大ワイバーン

リアクション公開中!

イコンVS暴走巨大ワイバーン

リアクション



【3・傷つくことを恐れない】

 出撃前のドックで、星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)時禰 凜(ときね・りん)は遠目に戦闘の様子を伺っていた。悠長にしている場合ではないとはいえ、十分な装備も作戦もないままだと攻略は難しいと踏んでいるらしい。
 しばらくして、凛は巨大ワイバーンの暴走するさまなどを分析した結果。ある提案をしていた。
「不自然な状況です。下手に傷つけて暴れさせるのは危険かもしれません」
 それを受けて智宏は、根回しであたふたと奔走している整備チームに、
「なるべくなら連中の体内に弾丸を残したくない、あと訓練用の装備を回してもらえるか?」
 換装を依頼し。片方の手に実弾入りのマシンガン、もう片方は訓練用のペイント弾を装填したライフルを装備させ。
「凜、俺達は周りの小さ……くもないが、とにかく周りの連中を追い払う!」
「了解。戦力比が厳しいので、回避に専念します」
 こうして出撃した彼らのイーグリットアイビスは、たいていのイコンは巨大ワイバーンのほうへ向かっているということで。傍に控える小ワイバーンの相手をすることに決めたようだった。
 ただ、智宏の言うように『小』といっても正確な種類はレッサーワイバーンらしいので。普通の人間からすれば十分な脅威となり、イコンとしても同等の体格をしているものも少なくない。油断をしていれば、当然やられる。
 なによりまずは戦闘の巻き添えにならないよう、小ワイバーンだけ引き剥がすことが第一条件と言えた。
「誰かが、ブレスを封じてくれていたようですが……そろそろそれも限界のようですね」
 凛のつぶやきのとおり、巨大ワイバーンの口元に巻かれたワイヤーロープはギヂギヂとかなり嫌な悲鳴をあげはじめている。
 凛は危険を感じ、すぐに反射回避からの高速機動で一旦距離をとっていく。
 直後、巨大ワイバーンの口が爆弾でも放り込んだかのように爆ぜた。ワイヤーが切れ、周囲に灼熱の炎が噴射される。どうやら溜まっていたぶんのブレスが口内で爆発するように吐き出されたらしい。
 熱波が周囲に吹き荒れ、距離をとったアイビスも軽く煽られた。
 顎が外れてもとに戻らなくなりそうな行いをした巨大ワイバーン本人は、口元から軽く血を流しながらも依然として飛行を続けている。さすがにわずかに高度が下がってはいたが。
 いろいろと無茶な怪物に呆れ驚きながら、再び智宏たちは機体を接近させる。
「今のところ、傍にいるワイバーンの数は、六。でもさっき見たときより数が増えてるな」
 親玉の後ろで固まって飛んでいる四匹に向け、軽くけん制として弾丸をお見舞いしてやると。
 意外にすぐさま滑空して近寄ってきた。だが凛は焦ることなく、あちらが反応したときには既に回避にうつり機体を旋回させていた。
「学院を、海京を荒らさせなんかしない!」
 徐々に巨大ワイバーンから距離を離していくと、おもしろいようにこっちに着いて来る。
「ちょっと痛いが、我慢してくれ……」
 智宏はその最中に、再び小ワイバーンたちへマシンガンを撃っていく。もちろん撃墜が目的ではなく、これも相手を分散させるためのけん制として。
 その証拠にかなり弾幕は広めに張られている。威力こそないが、相手は攻撃がかなりの高確率で当たることになり、小ワイバーンたちはたまらずばらばらに動いて避け始める。
 巨大ワイバーンに怯えて付き従っているような連中だけに、たやすく単体になる愚を犯してきて。その隙を智宏は見逃さない。
“凜! 一瞬だけ姿勢制御!”
“わかりました!”
 精神感応での合図とともに、アイビスは急速に減速し、数秒で射撃の姿勢をとった。
「悪いが、巣で洗ってくれ。撃ち貫く!」
 目を狙ったヘッドショットが、小ワイバーンの一匹に命中し。うなり声をあげさせる。もちろん撃ったのはペイント弾だが、視界を潰された相手はもだえながらあさっての方向へと逃げ去っていった。
「よし。このまま確実に戦力を削っていこう」

 小ワイバーンが散っていくさまを、地上に控えているイコン荒人の操縦者紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は確認していた。
 あとのパートナーのプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)は、魔鎧になって唯斗に纏われており。紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は、飛行歩兵として荒人の上で待機している。
「ワイバーン達の高度が下がってきましたね。チャンスが巡ってきたようです」
「戦況もわずかながら盛り返しているようであるし、いまを逃す手はないであろう」
 相手がこちらに近づいてきたのを機に、イコンボウによる狙撃を行なう唯斗。
 ほとんどは固い鱗に弾かれていたが、ときおり何本かの矢が身体を抉り血を噴出させている。いるのだが……。
「なんでしょう。本当に傷のダメージがあるのかわからないほど、派手に暴れていますね」
 観察していたプラチナムが、驚きの声をつぶやく。
 もとよりワイバーンは比較的攻撃的な生物ではあるけれど、それでも傷を気にする知力はちゃんと持ち合わせている。
 現に一匹の小ワイバーンがぐんぐんとこちらに接近してきたとき。すぐにクレイモアに武器を装備しなおして、風が巻き起こる薙ぎ払いを披露してやるとあっさり遁走していくほどだ。
 しかしあの巨大ワイバーンだけは少し違っている。
 さきほど口元で爆発を起こしたにも関わらず、再びブレスを放ってきたのである。しかも今度は地上へと。
「くっ……睡蓮! 荒人の後ろへ!」
「! は、はい!」
 巻き起こる灼熱の嵐を背に、睡蓮は急降下して機体の陰にまわる。
 それを確認するかしないかのところで、唯斗はイコン用光条サーベルを出現させ連続での切り払いをつづけていく。炎と熱風が、機体の前で散っていき。やがて脅威はおさまった。
「よし、食い止められたようであるな。ただ、エネルギーが35%も低下してしまった。あのブレスはかなり厄介のようだ」
 エクスの言葉に、改めて相手を脅威に感じていく一同。
 なにより傷つくことを恐れずに攻撃してくる相手ほど、怖いものはない。
「けれど、相手が消耗しているのは確かです。息遣いや、口元の傷の具合から考えても、ブレスはしばらく撃てないでしょう」
 プラチナムの分析が、わずかに唯斗の心を落ち着かせる。
 ただ。どうにも嫌な不安が心のなかに渦巻き始めていた。
「唯斗兄さん! なにかが近づいてきます。誰かが、こっちに……!」
 そこへ、睡蓮の警告の色が混じった声が届いた。
 睡蓮はアリスういんぐで上昇し、妖精の弓を構えた。相手を確認するよりさきに、手が動いて。しかも放たれた矢をサイコキネシスによってさらに加速させ、確実に当てる軌道修正も施すという念のいれよう。
 これならば音もなく、こちらに気づかれる前に仕留められる。確実にそう思えた。
 だがその予想は外れた。
 ただし、当たらなかったわけでも、矢を弾かれたりしたわけでもない。
 現れたその少女は、黒ジャージの肩に矢を食い込ませながらも。表情ひとつ変えずに近づいてきていたのだ。そして、無造作に矢をひっこいぬいた。
 地面の白に噴き出た紅を彩らせながら、少女は平然とヒールをかけて治療していく。
「はあ……赤目の人からやっと逃げられたと思ったら、今度は奇襲攻撃ですか……傷よりもナイーブなあたしのハートが痛みます(苦)」
「マスター! やったのはあいつらみたいだゼ! どうするヨ?」
「決まってるやろ。さっさと撃って、お返ししたればええんや」
 その後に続いてきた大剣少女と銃少女も、ケガを心配する素振りすらみせなぬまま殺気をこちらに向けている。
 やがて圧迫感に耐え切れなくなった睡蓮は、雪の空に身を隠したまま矢を連射させていくが。今度のそれは銃弾によって、見事に相殺され。睡蓮は息をのんだ。
「はぁん。そこに、おるんやな」
 空を見上げて邪悪に笑った銃少女は、銃口を持ち上げ。
 攻撃が放たれた。
 銃弾……よりも先に、荒人のイコンボウによる一撃が。
 念の為に残しておいた1本を、唯斗は惜しむことなく使っていた。でなければ睡蓮は撃たれていただろう。
 雪を盛大に抉りとって、放たれた巨大なる矢はようやく停止し。少女三人は攻撃の余波で倒れ伏していた。直撃しなかったようだが、本来イコンボウは人に向けて撃つものではないので、さすがにただでは済まなかったらしい。
「やったんでしょうか」
「どうであろう。威力が威力だけに、無傷というのはあり得ないだろうけれど」
「みんな、油断しちゃいけません。あのひとたち、普通じゃないです」
「……そのようですね。動きがありました」
 睡蓮は再び荒人の背後に避難し、唯斗たちも油断せずクレイモアを構えさせておいた。
「どうしよう、ワイちゃん呼び寄せて、叩き潰してあげようかな……(怒)」
「けどヨ! それまで、こいつらがぼんやり待っててくれるとも思えないゼ!」
「イコン相手でも、ウチならやってやれんことないけど。遊びでそこまでするん面倒やで」
 少女達は雪に埋もれながら、物騒すぎることを会議していたが。
 最終的にはどういう結論になったのか、三人はそそくさと逃げ去っていってしまった。
 後になって唯斗たちは、捕まえておいたほうがよかったのではないかと考えるが。
 このときはとても、そういう思考になることはできなかった。

 逃げながら、ジャージの少女は溜め息まじりにつぶやく。
「なんだか、面倒な人達が多くなってきましたねぇ……。まああたしとしても、受け身でいるばかりっていうのも飽きてきましたし。そろそろなにか行動しましょうか……(探)」
 そうして、しばらくきょろきょろとしていたかと思えば。
 突然、にぃぃと口元を歪め、駆け出した。
 その先にいたのは……