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リアクション
【6・苦戦2】
「なんだか、穏やかじゃないですね」
「どうやら渦中の根本に足を踏み入れたようでございます」
現れたのは赤羽 美央(あかばね・みお)と魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)。
「ふぅ。これは間に合った、と言っていいのかな」
「少なくとも、最悪の状況ではないみたいだわ」
さらに反対方向から緋山 政敏(ひやま・まさとし)とカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)も走ってきた。
どちらも、戦闘の騒ぎを聞きつけてやってきたらしい。
美央はサイレントスノーを魔鎧化させて身につけておく。話はするつもりだが、気を抜くのは危険だと今の空気が教えてくれているからだ。
「あなたたちが、この事件の首謀者なんですよね?」
「さっきから同じ質問ばかりされて若干飽きてきましたけど……回答するとその通りですよ(頷)」
「どういうつもりですか。特にあなたは、騎士の中でも上にいるべきドラゴンライダーなのでしょう? こんなことはすぐに止めるべきです」
「そうですねぇ……あたしとしても、本当はやりたくないんです。上層部からの命令で仕方ないんですよ(泣)」
「えっ? どういうことですか」
声のトーンが落ちた少女に、わずかになにか理由があるのかと思いかけたが。
「美央。騙されてはだめでございます。彼女の発言には、違和感がありますよ」
サイレントスノーが油断せず、嘘感知を使っていたおかげで気を引き締めなおすことができた。
対する少女のほうは、打って変わってつまらなそうに舌打ちし、
「ちぇ……せっかくここからあたしの泣けるホラ話が始まる予定でしたのに……。はいはい、今のは嘘ですよー。おかげでテンションだだ下がりじゃないですか、あーウザい(疲)」
なんとも身勝手で真剣さが欠片もない少女に、怒りが込み上げてくる美央。
もしかしたらそれが狙いなのかもしれないが、どうしても嫌悪感がぬぐえなかった。
「しんじられません。どうしてこんな人が、上位の騎士なんですか……!」
「ハッハァ! 自分の感性だけで、物事を判断するのはいけないゼ! うだうだ言ってないで、もう戦いで白黒つけようゼ!」
いい加減、待っていられなくなったのか、大剣の少女が叫びながら獲物を振りかぶってきた。
すぐに美央は龍鱗化のスキルで耐久力を上げ、そのうえで飛竜の槍とコキュートスの盾によるファランクスの構えをとり。完全防御で、必殺の一撃を受け止めようとした。
できるか否か、賭けの部分は大きかったが。
これをしのげば相手の防御はがら空きになる。さっきのダメージもあるようだから、畳み掛ければ勝負は決まる。
そういった思惑の中で、互いの武器はぶつかりあった。
受け止めた瞬間、美央もサイレントスノーも全身の骨をすべて揺さぶられたんじゃないかというほどの衝撃をうけた。意識が飛びそうになるが、それでも負けたくない一心でふんばってどうにか大剣を受け止め。
気を抜かないまま、力を込めたランスバレストをカウンターとして腹にお見舞いする。
相手がくの字型に身体を歪め目を白黒させている隙に、龍飛翔突によって飛び上がった。
「これで、終わりです!」
落下してくる飛竜の槍が、大剣少女の瞳に映る。
このとき少女は一瞬だけ死を覚悟したが、その攻撃は彼女の耳元をかすめ雪を撒き散らしながら地面に突き刺さった。
「は、はずれたのかヨ……それとも、わざとはずしたのカ?」
「もちろん、わざとですよ。相手がどんな外道であろうと、こちらまでそうなるつもりはありませんので」
政敏は、美央の戦いに注意を向けている余裕はなかった。
なぜなら、
「名前を教えてくれるか? 後、電話番号もさ」
ジャージの少女にそんな質問をするのに忙しかったからだ。
「えぇー? あたし、純情可憐な女の子ですから……そういう質問は、困ってしまいます……(照)」
さっきのやり取りから、明らかに演技だとわかるセリフが返ってきた。
もちろん政敏としても真剣な返事を期待していたわけではなく、ただの時間稼ぎだ。その間にカチェアはエリザベートに耳打ちする。
「エリザベート校長。お得意の火術で、雪をとかして貰えますか。足をとられていたら戦闘が不利になりかねないので」
エリザベートが頷こうとしたところで、銃少女がまたも不意討ちで撃ってきた。
政敏は積もった雪に足をとられないよう、レビテートで地面のスレスレを移動しての回避をして。
カチェアもヴァーチャーシールドを構えて銃弾を弾いた。明日香とエリザベートはその後ろで武器を構えなおす。
「チッ。やっぱケガのせいで、うまく狙われへんな」
銃少女はぼやきながら、右から左に銃を持ち替えようとしたが。そうする暇も与えない勢いで魔道銃による攻撃が飛んできた。
「エリザベートちゃんをイジめた報いをうけなさい〜!」
放ったのは明日香。相当やる気になってる様子の彼女に、銃少女は舌打ちしながらも駆け出して射撃をかわしていく。
というより撃ち出される魔力は、ほとんど足元で弾けるばかりだった。
「やれやれ。レベルの低いヤツは、射撃も低レベルなんか……うっ!?」
と、雪の上を走っている途中。不自然な段差に足をとられる銃少女。
どうしてこんなところに段があるのかと、頭が混乱しかけたところで自分の周囲の状況に今更ながら気がついた。
エリザベートが火術で周りの雪を溶かし始めたことで、地面に高低差が生じており。
明日香はそこを利用して、こちらを段差の激しい方向へ誘導していたのだ。
「覚えておいてください〜。エリザベートちゃんへの思いのレベルなら、私は99……いえ、それ以上ですぅ」
バランスを崩した銃少女は、そのまま明日香のサンダーブラストに身体を撃ち抜かれた。
「さて……あたしも、そこそこちゃんとやりましょうか(渋)」
ジャージ少女は自分の身体を龍鱗化のスキルで硬質化させ、飛龍の槍を構えた。
そして雪の上にも関わらず軽やかなステップで、まずは政敏に斬りかかっていく。それに政敏のほうは、レビテートを駆使しての回避をつづけていくが。
やがて少女の俊敏さに負け、わずかに服が切り裂かれ始める。そしてついに腕へとその刃が届こうかというところで、カチェアがバーストダッシュで割って入り。盾で攻撃を食い止めた。
その際に政敏へと、
「雪の中に入って下さい。好機を作ります」
耳打ちするカチェア。
政敏は気取られぬようにしながら、相手の死角に入りながら雪へと身を潜ませた。
交代したカチェアはそのまま防御に徹し、剣をいなすことに集中する。足場は悪いが、防御に徹すればそう難しいことではない。
「せっかくやる気出してるのに……なに、亀みたいに殻にこもってるんですか(怒)」
相手が一向に攻撃してこないことにじれた少女は、龍飛翔突のスキルを直線移動に使用するという荒業で、突撃してきた。
しかし。それこそが狙いだった。
カウンター気味にカチェアは光術を発動させ、少女の目をくらませる。
そうしてわずかにひるませた隙に、政敏は雪から飛び出し、レビテートとバーストダッシュの併用で少女へ一気に接近する。
「ふん……この程度で勝ったつもりなら、甘いですよ……(狙)」
だが少女のほうは、わずかに響いた雪を踏みつけた音を聞き逃さなかった。それだけを頼りに、少女は槍を振りぬき。手ごたえがあったことに口元がほころんだ。
「なっ、この感触は……(?)」
が、少女が切ったのは僥倖のフラワシだった。
雪の音はフェイク。本当の政敏はもうすでに、少女の背後に迫っており。
次の攻撃にうつられる前に羽交い絞めにし、そして。
政敏はそのまま少女の唇を奪った。
時間にして三秒くらいの。
口づけ、キス、接吻。
「は……? え、あ……? ? ? ? (?)」
少女は自分がされたことを脳が理解しきれず、呆然とまぶたを瞬いた。
政敏としては。今の行為は意思を介在させずに大事なものを奪われるということの辛さを、少女に味わわせるためのことで。他意はない。らしい。
その隙にカチェアは少女の首筋を殴りつけ、昏倒させておいた。
ほかの戦闘も片がついたようなので、カチェアは息をついて政敏を睨んだ。
「ふう。これで、問題はあのワイバーンだけね。ひとまずはよかった、よかった。あーホントに、よかった」
「……そ、そのわりに何か声が怒ってないか? べ、べつに今のはやましい気持ちでやったんじゃないぜ? なんというか、お仕置き的な感じでさ」
「ハイ。ワカッテマスヨー」
「なんかカタコトになってない!?」
明らかに怒っているカチェアと、必死になだめる政敏。
ふたりは互いのことに注意がいって気づいていなかったが、ジャージ少女はもう目を覚ましていた。どうやら龍鱗化のおかげで、さほどダメージはなかったらしい。
しばらく倒れたままで、さきほどされた行為について考えどう報復しようかと思い。
「おい、ちょっといいか」
ふいに声をかけられた。
薄目を開くとゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)とシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が立っていた。
「…………なんですか、あなたたち(疑)」
「あん? 俺様たちが誰かなんてどうでもいいじゃんか。それより、あんたらが噂にあがってる三人組だよな?」
ゲドーからの質問は面倒なので答えなかった。
実際まだ首のあたりが痛くて、全身がやや痺れているからでもあるのだが。
「だひゃはは! 無視かよ! でも否定しないってことは図星ってことなのか!?」
「そういうことでしょうね。おそらく」
少女は龍飛翔突のスキルで飛びかかってやろうとかと考えたが、
それを見越したゲドーは、先んじて蒼い水晶の杖を構えてきた。これを使われたら、スキルを封じられてしまう。おまけにアンデッドのスケルトンとゾンビを控えさせて逃げ道も封じている。
「言っとくけど、飛んで逃げてもムダだぜ? 俺様の屍龍の餌食にさせたうえで、奈落の鉄鎖で叩き落すからな。だぁ〜ひゃっはっは!」
バカ笑いしながら嘲ってくるゲドーに、心底イラついてきた少女だが。ここで暴れてもしかたがないとして。
「まあいいです……聞ける程度の要求なら伺いましょうか(許)」
「だひゃはは、何でもいいから巨大化薬をさっさとよこせぇ!!」
言われて少女は、ポケットを指差した。
シメオンが手を入れると中からそれはそれは毒々しい色の液体が入った小瓶が出てきた。
「これが例の薬? ずいぶん素直なのですね? まさか、偽物とか?」
「安心してください……あたしの実験はもう現在進行形ですから。薬自体に興味ないってことですよ(真)」
それでも半信半疑なのか、ゲドーは包囲を続けたまま相方に目配せし、シメオンは頷いてとある人物へと向かっていく。
「ん? あなたたちが飲むのではないんですか(?)」
「だひゃは! 違う違う! あれは、俺様達イルミンスールの校長に、飲んでもらうんだよ!」
確かにシメオンは一直線にエリザベートの前に立つや否や、薬を片手に迫る。
「アハハハハハ!! さぁ、さっさと巨大化薬を飲み干し巨大ワイバーンを止めてくるのです!」
「え? あの、ちょっと待ってくださいですぅ。それより薬の成分を調べさせてくださいぃ。そうすれば、なんとか解毒薬が作れるかも……」
「そんな細かいことはいいって! ささ、グイッと!」
「ちょっと! エリザベートちゃんをイジめちゃダメですよぉ!」
そのまま明日香とぎゃいぎゃい喧嘩しだしたシメオン。
エリザベートは、それをほっといて薬を調べはじめていった。
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