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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~

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【カナン再生記】風に舞いし鎮魂歌 ~彷徨える魂を救え~
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第2章「死霊術師の邂逅」
 
 
 イズルートの村人であるクリフの魂に導かれた篁 八雲(たかむら・やくも)達は一路、村を目指して歩いていた。
 マルドゥーク道から外れたこの辺りは現在でも砂漠化の影響が強く残り、大地は所々がひび割れている。
「西カナンは他の地方に比べて復興の手は入っていますが、やはりまだまだ万全とは行かないようですね……」
「そうですねぇ。私は南カナンで復興のお手伝いをしていましたけど、どこも人手は不足してるみたいです」
 寂しげな景色を見つめながら比島 真紀(ひしま・まき)メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がつぶやく。
 同様にカナン地方の現状を見て来た者は多いのだろう。榊 孝明(さかき・たかあき)もイズルートの話を聞き、心を痛めている一人だった。
「砂漠化に疫病、か……。神に依存したこの世界にとっては必然の出来事とはいえ、実際に死者を見ると厳しいな。本来、俺達はカナンに深く関わり過ぎない方が良い立場なのかもしれないが……」
「だが、現実に苦しんでいる人達がいるのだ。それを放っておく訳にもいくまい。それに、まだ助けられる生命があるのかも知れないのだからな」
 横を歩いていたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が孝明の吐露に答える。
 彼女は普段は軍人としての活動が目立っているが、今回は医学の道を志す者として、この付近に疫病が発生したという噂を聞きつけてやって来ていた。
「あぁ、それは分かっているさ。せめて手の届く範囲で出来る事なら……彼を弔うくらいなら、俺も手を差し伸べてやりたい」
 そう言って後方へと視線を移す。
 志半ばで倒れていたクリフの遺体はその場にいた者達の道具を組み合わせ、布に包まれた上で簡易的な担架によって運ばれていた。
 運んでいるのは三船 敬一(みふね・けいいち)ルイ・フリード(るい・ふりーど)。丁度その二人に篁 光奈(たかむら・みつな)が話しかけている所だった。
「お二人とも、一緒に来て頂いた上にクリフさんを運んで下さって……本当に有難うございます」
「何、気にするな。むしろ女子供に任せる訳には行かないからな」
「敬一さんの仰る通りです。こういう時こそ私達を頼って下さい。それにしても……幽霊の方と一緒に行動とは、私の人生でお初ですよ……」
 遺体を運ぶのに合わせ、一行の先頭にいる霊体となったクリフが皆を導くように進んでいる。
 彼を見つけた張本人である八雲はその手柄とは裏腹に沈んだ表情をしていた。
「僕……時々、死んだ人の言葉が聞こえて来る事があるんです。本当はこんな力なんて欲しく無いのに……」
 八雲はかつて空京サミットの前後に日本で起きた鏖殺寺院のテロ事件によって両親と妹を失っていた。
 その後、篁家に引き取られて兄や姉と過ごす事によって傷は癒えてきていたが、皮肉な事に兄弟で一番死に対して敏感で臆病な八雲がパラミタに来て開花した才能は死霊術師――ネクロマンサーとしての力だった。
 ネクロマンサーは他人から畏怖と嫌悪の情を持って見られる事が多い。死人を操り、死霊の声を聞く。どれも自然の摂理からは外れた物だからだ。
「でも八雲君。君がクリフさんの声に気付いたからこうやって村の危機に気付く事が出来たんだ」
「うん……だから、自分の力を嫌わないで。八雲君のその力はきっと意味がある物だから」
 シャンバラから八雲達と共に行動していた無限 大吾(むげん・だいご)一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)が優しく声をかける。
 確かに街道から外れた上に岩場の陰で倒れていたクリフに気付く者は滅多にいないだろう。八雲が霊体となったクリフの声を耳にしていなかったら、このまま彼の亡骸は大地に還り、あの地に無念を遺し続けていた事は想像に難くなかった。
「そう……なのかな?」
 兄の友人と、自身の友人の言葉に顔を上げる八雲。彼らと同じく出発から同行していた冴弥 永夜(さえわたり・とおや)匿名 某(とくな・なにがし)もそれに同意してくれた。
「二人の言う通りだな。力はあくまで手段。それをどう使うかは八雲、お前次第だ」
「ああ。少なくとも君の兄貴はそれに気付いてくれたさ」
「うん……ありがとう、皆」
 騒がしくも真っ直ぐな三番目の兄の事を思い浮かべながら、僅かに感謝の笑みを浮かべる八雲だった――
 
 
「それにしても久しぶりだな。まさかまた君に会えるとは思ってもいなかったよ」
「そいつはオレも同じだぜ。本当はこんな形じゃなくて、元気なうちに会いに来たかったけどな」
 先頭ではクリフとウルス・アヴァローン(うるす・あばろーん)が話しながら進んでいた。
 どうやら二人の間には面識があるらしく、それに気付いたテスラ・マグメル(てすら・まぐめる)がパートナーへと尋ねた。
「ウルス、あなたはイズルートに来た事があるのですか?」
「ああ。まだこの辺がこんなじゃ無かった頃に一度な。あの時は来る途中で食った物に当たっちまって、着いて早々にクリフとロナさんに世話になったんだ」
「ロナさん?」
 隣で話を聞いていたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が会話に混ざる。クリフは懐かしむような、それでいて少し悲しむような表情でその疑問に答えた。
「俺の妻だよ。村でたった一人の薬師でね、お腹を壊したって村に飛び込んできたウルス君を二人で介抱したんだ」
「あっ……」
 村唯一の薬師である妻。クリフの霊を発見した時の話によれば、その人はもう――
 言葉を失うカレン。幸いと言えば良いのか、月詠 司(つくよみ・つかさ)が皆の意識を前方へと向けた事でその声と表情を見られる事は無かった。
「ようやくイズルートですね。……おや? あそこに人影が見えませんか?」
「何、本当か!?」
 クリフを始めとして、その場にいた全員が村へと視線を向け、目を凝らす。すると確かに人と思われる影がゆっくりと歩いているのが見えた。
「ああ、良かった……まだ生きているやつがいるんだ……!」
 生存者を発見し、喜びを見せるクリフ。遺体のある周囲でしか行動出来ない為にこの場に留まっているが、もし身体があったなら一番に飛び出している事だろう。
「やったじゃねぇか、クリフ! 誰だか知らねぇけど、早く助けてやらねぇとな!」
 クリフの代わりとばかりにウルスが飛び出そうとする。だが、それを廿日 千結(はつか・ちゆ)ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)が呼び止めた。
「待つんだよ〜。村から伝わる感じ……あたいが6歳の時に飢饉で滅びた村と同じなんだよ〜」
「僕にも分かるよ……。あそこにいる人、生の意思を感じられない」
「それに他にも邪念を感じるね〜。これはただ事じゃ無いんだよ〜」
 二人の言葉に応えるかのように、一つの家の屋根に少年の姿が現れた。白髪のその少年は、僅かな笑みを浮かべながら赤い瞳でこちらを見下ろしている。
「生の意思なく動き回るなら、あれはアンデッド。そして、あの男の子は――」
 光奈が真剣な表情で少年を見据える。隣に立つ八雲も同じ表情で少年の――自身と同じ力を持つ者の正体をつぶやいた。
「彼は……ネクロマンサー――」