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リアクション
第4章 そして現れる犯人たち――多すぎだろッ!
不審者たちは、何も廊下に出て調査団の邪魔をするような手合いだけではない。当然といえば当然かもしれないが、表には出ず、部屋の中に閉じこもっている者もいる。
「のう、望よ。やはりそのプラグコードを挿すというのはやめてほしいのだ。痛みは別に無いが、動きにくくてかなわん」
「しょうがないだろクシナダ、こうしないとメンテできねえんだからよ」
3階研究室Bにてモンキーレンチ片手に月夜見 望(つきよみ・のぞむ)は、自身のパートナーである機晶姫、クシナダこと須佐之 櫛名田姫(すさの・くしなだひめ)のメンテナンスを行っていた。明かりは月光とペンライトのみであり、必要な電力は「ライトニングブラスト」の技術でどうにかする。そしてこの場における最大の武器は【天御柱学院 イコン&機晶姫研究部】で鍛えた機械処理の腕だ。
「そもそも我としてはこのような場所で『めんて』など受けるのは癪なんじゃが……」
「つべこべ言うなよまったく。ここの方が集中できるんだからさ。……っと、神無。そっちはどうだ?」
レンチを片手に櫛名田姫のパーツを分解していた望は、背後で動いていた影に呼びかける。
2人から離れ、研究室内を捜索していた天原 神無(あまはら・かんな)が戻ってくる。
戻ってくるなり彼女は、2人に対して首を横に振った。
「そうか、見つからないか……」
「『あの子』のことが少しでもわかれば、って思ってるのに……。何も情報が無いのよ。それも、情報の書かれた記録媒体それ自体がどこにも無いわ……」
かつてこのイコン・超能力実験棟にて出会った、ある強化人間。神無はその人物に会いたくて調査を行っていたが、成果は全く挙がらなかった。
「まあ、その内見つかるって。な?」
「……そうね。まだ探してないスペースもあることだし……」
「それよりも、我はいつになったら動けるのだ……?」
そうして櫛名田姫が愚痴をこぼした時だった。研究室の外から元気な男の声が聞こえてきたのである。
「まったく教官の奴め、『こういうのが好きそうなお調子者が来る』って? そんな餌にオレが釣られクマー! と盛大に釣られたわけだが……」
「釣り? 魚釣り? それともこの場合はかおるん釣りかな?」
「ま、そんなとこだな。というわけでオレらはここを探検だー!」
「探検だー!」
能天気な会話を交わしながら入ってきたのは大羽 薫(おおば・かおる)とリディア・カンター(りでぃあ・かんたー)の2人である。この2人にとって、現在の状況とは探検以外の何物でもなく、不審者の捜索という部分はどちらかといえば「ついで」だった。
「不審者探しもいいけど、こういうのって……わくわくするよな!」
「何が見つかるか楽しみだねー。ところでかおるん、強化人間は仲間に引き込まれるって何? お友達になるってこと?」
「へ? ん〜と、そうだな〜。まあ、そんなとこかもしれないな!」
「そうなんだー! 誰かいたらお友達になれるかな〜?」
この2人、特にリディアの方はその噂の状況がどれほど危険であるかということに気がついていない。強化人間である彼女は、その手術の影響なのかそれまでの記憶を失い、頭の中が年中お花畑モードなのだ。
だからこそ彼らはわかっていなかった。たった今足を踏み入れたその部屋に誰がいて、しかも何をしてくるのかということを。
「さてと、この部屋には何がありますのかね――っと!?」
じっくりと部屋の中を調べようと周囲を見回した薫だったが、突然彼の眼前を何かが通り過ぎた。顔を掠るか否かというポイントを高速で飛んでいったのは、神無がサイコキネシスで動かした拳大の瓦礫だった。
「ん〜? 暗くてよく見えないが、何かいるのか?」
「……ええ、いるわよ」
薫の質問に反応し、神無がゆっくりとその姿を現す。
「おいおいマジかよ……。まさかおまえが噂の不審者ってやつなのか……?」
「……だとしたらどうするの?」
「……どうしようかねぇ」
確かに薫は不審者探しを行ってはいたが、まさかいきなりそれが見つかるというのは想定していなかった。そもそも彼は、何か面白そうなものが見つかればという程度の考えでこの調査に参加したのである。そのため、不審者とであった際の備えを一切していなかった。戦闘になれば、一応はセイバーとしての技で対抗することはできる。できるのだが、具体的にどうしようとまでは考えていない。
しかもそこでリディアの存在である。今の状況がいかにシリアスなのかということに全く気づかない彼女は、あろうことかずけずけと神無の前まで歩いていったのである。
「こんばんは不審者さん! リディアだよ!」
「……天原神無よ」
「よろしくね、カンナ様!」
「……普通に神無って呼んで頂戴。その言い方はちょっとだけマズイから」
「へ? そうなの? じゃあ神無月ちゃん!」
「……まあいいわ」
少なくとも目の前の天然な少女から悪意が見えなかったからか、神無は表情とペースを崩さずに話を合わせてやる。
「そんなことよりあなたたち、さっさとここから出て行ってくれない?」
リディアと名乗る少女のことは無視して、神無は薫を威圧する。
「あん、何でだよ?」
「邪魔なのよ、ぶっちゃけ」
「ぶっちゃけありえな〜い!」
「今じゃ戦隊ヒーローになっちゃった女の子はどうでもいいから。こっちはね、ちょっと立て込んでいるのよ。探し物とかメンテとか、ね。だからさっさと帰りなさい」
「ほほう、もし断ったら?」
「断らせないわ。あたしが帰らせるから」
腰から「禍心のカーマイン」と呼ばれる銃を抜き放ち、神無は目の前の2人を追い出そうとする。
「わかった? あたしは本気よ。望くんや調査の邪魔はさせないわ」
「残念ながら、こちらとしてもそうはいかないんですよね」
そこにまた別の声が入ってきた。隣がやけに騒がしいと3階研究室Aから出てきた、樹月刀真とそのパートナーたち、及び柚木貴瀬とそのパートナーたちである。
「まあ俺としては面白ければそれでいいんだけど、さすがに仕事を放り出すわけにはいかないからね」
「都合、8対1だぞ。どうするつもりだ?」
貴瀬と柚木瀬伊が進み出て神無を包囲しようとするが、相手の方はそれでも退く姿勢を見せない。
「言ったでしょ。こっちは立て込んでいるのよ。たとえ勝てないとしても、邪魔されるわけにはいかないのよ」
「ほう、どうしても捕まるつもりは無いと?」
次に前に出たのは玉藻前。彼女はただ威圧するだけではなく、アボミネーション――体からおぞましい気配を発するネクロマンサーの技を発動して、降伏を促そうとした。
「……当然よ」
だがそれでも神無は引き下がらなかった。彼女には、ここで引き下がる理由が無いのだ。
「ならば仕方が無い……。では、我らにとっ捕まってもらうとするか」
それからの展開は非常に早かった。神無が禍心のカーマインで発砲するよりも速く、刀真がレガースによる蹴りを叩き込み、貴瀬が持っていた薙刀――の握りの部分で彼女を殴りつけて弾き飛ばす。
「うおっ、神無!?」
これに慌てたのは望である。櫛名田姫のメンテナンスに集中していた彼は、自分の近くに吹き飛ばされてきた神無の姿を認めると、持っていたモンキーレンチを強く握り締めて有事に備える。
「い、いきなり何がどうなって!?」
「お、おい望! いつの間にか我々全員が取り囲まれておるぞ!」
「なにい!?」
望が持っていたペンライトを背後に向けると、確かに自分たちが8人の若者に包囲されているのがわかった。
「こら望! 我はいつまでこうしておればいいのだ! これでは暴れられんしピロシキ食べられんではないか!」
「……それ、もうちょっと後になりそう」
結局、そこにいた望、神無、櫛名田姫の3人は捕まった。異様にあっさり終わってしまったが、戦闘らしき戦闘にならぬ程度の動きがあったということだけ報告させていただこう。
「あのパーツは、そうねぇ、こっちの部分にしてぇ、それからこれはこの部分かしらぁ〜。ん〜、でもこうするとちょっとバランスが悪いのよね〜」
2階の倉庫、その奥まったところで師王 アスカ(しおう・あすか)は少々重い金属の塊をあれこれと動かしていた。それは見る者が見れば何事か判断できたであろう。
アスカは数々の金属パーツを使って、「イコンアート」を行っていたのだ。
「アスカったら本当に楽しそうね。ただあの不気味な笑い方は姉としてどうかと思うけど……」
「……半分、目がイッちゃってるな」
そんなアスカを少々遠巻きに見つめるのは、彼女のパートナーであるルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)とオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)であった。2人は倉庫内に積まれた木箱の上に座り、倉庫全体を見下ろしている。
「創作活動のためだけに、倉庫内にトラップまで仕掛ける……。ちょっと気合入れすぎじゃないかしら」
「まあアレはいわゆる泥棒避けのためだからな。何しろ、扱っているパーツがパーツなのだから……」
アスカがイコンアートに使用しているのは、文字通りイコンのパーツである。
イコン・超能力実験棟では、時折イコンのパーツが交換されることがあった。ではその際にデッドウェイトとなるパーツはどうなるのか。そう、不用品として倉庫に放り込まれるのである。アスカはその不要パーツを組み合わせてアートにしていたのだ。時に引きちぎるように分解し、時に突き刺すようにパーツをくっつけ、そしてそれらはこの暗闇において不気味な影を演出するのだ――もちろん、アスカはそのような想像までしていなかったが。
だが不要とはいえイコンのパーツである。ジャンク屋の類がこれを狙って盗みに入らないとも限らない。それを防ぐためのアスカのトラップであり、ルーツとオルベールの存在なのだ。
「それにしても、こんな夜中にあんな音立てて、近所迷惑にならないかしら?」
「……一応、コリマ校長に根回しして、倉庫の使用許可は取りつけたがな――ん?」
小声で話し合っていると、倉庫の入り口の辺りから何やら物音が聞こえてくる。人間の声がすることから、何者かが入ってきたらしい。
「おでまし、か……」
闇に紛れ、2人はゆっくりと動き始める……。
「おや、鍵がかかっていませんか……。まあピッキングで開ける手間が省けていいのですが」
言うなりリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)は慎重に2階倉庫の扉を開けていく。
「さて、何も無ければいいんだけども、ね……」
開けられた扉に入り、清泉 北都(いずみ・ほくと)は自身に「禁猟区」による危険センサーを施した上、超感覚による犬の耳を頭から生やす。視界はダークビジョンを利用して確保済みだ。
「……明らかに奥の方で金属音がするね」
「ということは、私たちが『当たり』を引き当てたということでしょうか」
「かもしれないね。ただ、相手が何なのかはわからないけど……」
鋭くなった聴覚で、倉庫の奥の方に何者かがいるのを確認する。このまま進めば、何らかのリアクションがやってくるのは想像に難くない。
倉庫に入ると2人は手をつないだ。これはリオンが視界確保のためのスキルの持ち合わせが無いからということと、彼自身が非常に方向音痴であるため、その予防策としてである。
「薬品類の臭いは……無さそうだね。死体が隠れてるわけでもないみたい。ってことは殺人事件じゃないのかな。まあそれならむしろありがたいけどね」
「……まったくですね」
そうして2人が倉庫内をゆっくりと歩いていたその時だった。北都が急に足を滑らせたのである。
「わあっ!?」
「おうっ!?」
北都が足を滑らせるということは、繋がった手の持ち主であるリオンも同時に転ぶということである。揃ってその場に倒れこんだ2人は直後に、頭上から落下してきた金ダライ攻撃を受けた。
「いてっ!」
「あだっ!」
小、中、大の3種類のタライはそれぞれ北都やリオンに直撃すると、そのまま床に転げ落ちてカラカラという金属音をその場に残す。
「すみません北都。トラップは解除するつもりでいたんですが……」
「ん、いや、そんなに痛くなかったから大丈夫だよ。それよりも……」
ゆっくりと立ち上がりながら、北都は自身の足を滑らせた原因を特定する。それは床に撒かれた油だった。
「これがあらかじめ用意されていたのか……。そりゃ禁猟区にも引っかからないわけだ」
北都が使用した「禁猟区」とは「自分、もしくは技をかけている対象者に迫ってくる危険を感知するためのセンサー」であり、最初からそこにあったものや危険を感じなかったものに対しては無力なのである。よって落ちてくる金ダライが自分に迫ってくるためそこはセンサーに反応するが、最初から用意されている油トラップに関しては「油が迫ってくるわけではない」として反応しないのだ。
「しかしまあ、これではっきりしたことがありますね。今回の騒動は人の仕業である、ということです」
ただの幽霊や残留思念の類が、このようなトラップを仕掛けられるはずがないというわけである。とはいえ、いつぞやは――誰かに取り憑いているという条件付きではあったが、物体に干渉できる幽霊がいたことがある……。
相手がどのような存在であるのか目星はついたところで、2人は倉庫内の捜索を再開する。特にリオンがはぐれないように、再び手を繋いで、だ。
そして案の定というか何と言うか、またしても彼らをトラップが待ち受けていた。ただし、「たった今生み出した」という形で。
「……ん? なんだか霧が……?」
突然白い霧が周囲を覆いつくし、彼らの視界を遮る。それは魔法に通じている者ならわかるが、限界まで酸の濃度を落とした「アシッドミスト」だった。
アシッドミストとは、特にウィザードが操る広範囲攻撃の1つである。名前の通り酸の霧を発生させ、相手の皮膚や肺を焼き、酸の濃度が高ければ鉄板にさえダメージを与えられる代物である。そして酸の濃度は術者が自由にコントロールでき、高くは強酸から、低くはなんと無酸レベルにまで調節が可能なのだ。
この霧を発生させたオルベールは、相手にダメージを与えるつもりなど毛頭無かった。ただ視界を奪い、恐怖を演出できればいいと思っていたのである。そしてその重ね技として、倉庫内に響き渡るようにこっそりと泣き真似を行った。
「……泣き声?」
「幽霊がいるかも、という演出でしょうか?」
だがたった今「相手は人」と結論付けた2人にそれは通用しなかった。
とはいえ安心するのはまだ早い。霧が彼らに纏わりついたかと思うと、リオンが突然の金縛りに襲われたのである。ただし、上から押さえつけられる形で。
「うわっ重っ! っていうか寒っ!?」
それはルーツの発動した「奈落の鉄鎖」による重力付加の攻撃であった。しかもそこに軽い氷術を混ぜ、体を冷やしてもいたのである。
ある程度リオンを苦しめたルーツは、続けざまに近くの箱に対しサイコキネシスを発動した。そしてそれを操作して、北都の近くへと投げつける。
「ポルターガイストか! でも、僕だって!」
北都も負けじとサイコキネシスを放ち、飛んできた木箱を受け止め、別の方向へと投げ飛ばす。
「くっ、相手も結構やります――ねっ!?」
重力と冷気から解放されたリオンが次に目にしたのは、こちらに向かってまっすぐやってくる「ガーゴイル」だった。門番や家守として置かれる生きた石像で、パラミタでは乗り物として扱われ、その爪や牙の一撃を食らえばたちまち石化させられてしまうという。
「ちょ、いくらなんでもここまでやりますか!?」
即座に自らの光条兵器――女王器の1つでもある紅薔薇を取り出し応戦しようとするが、その願いは叶えられなかった。
横合いから銃弾の嵐がガーゴイルを襲ったのである。
「不審者っ! 動くと撃つぞ!」
「国境侵犯の不審船は発砲してもいい、ってリオが言ってた」
このようなセリフを「言いながら」弾丸を飛ばし続けるのは、2階研究室Bを捜索していた十七夜リオとフェルクレールト・フリューゲルだった。2人の後ろには同じく捜索していた葛葉杏もいる。
「って、どっちかといえば不審者じゃなくてガーゴイル?」
などと暢気に言いながらまだハンドガンの引き金を引き続ける。弾丸こそ当たらなかったものの、驚いたガーゴイルは即座に逃げ出した。
「いやはや、まさかあんなのが出るなんてね。大丈夫だった?」
ガーゴイルが逃げたのを確認し、リオとフェルクレールトはハンドガンをしまい込む。
「お、おかげさまで……」
突然現れて突然ハンドガンを撃ちまくる2人に、助けられた形の北都とリオンは愛想笑いを返すしかできなかった。
その様子を確認した杏は、4人の横を通り過ぎ、そのまま奥へと踏み込んでいく。この状況から考えて不審者は間違いなく奥にいる。それならばさっさと叩きのめしてさっさと教官に突き出すまでだ。
果たしてその不審者らしき人物が目の前に現れる。オルベールとルーツだ。ここまで用意したトラップが回避されたのであれば、後は自らの手で追い出すしかないと、オルベールが1歩進み出た。
「やだ、ここまで来ちゃったの? みんな、意外に暇なのね……。肝試しにはまだ早い――」
だがそのような口上をそのまま言わせる杏ではなかった。
「この野郎!」
「ぶぼはぁっ!?」
オルベールとルーツには見えない存在――杏のフラワシ「キャットストリート」が、オルベールの顔面に拳を叩き込み、彼女を奥へとぶっ飛ばしてしまう。
そしてその拳はルーツにも平等に叩き込まれた。
「うわっ、ベル!?」
「フラワシアッパー!」
「おぶうっ!?」
フラワシの拳から放たれるアッパーカットがルーツの顎にめり込み、これまた奥へとぶっ飛ばした。
そして2人が飛ばされた方向には、アスカが一生懸命作り上げたイコンアートがあった。鉄の塊と人間が衝突し、非常にうるさい音を立てながら、組み上がったアートは根元から崩れ落ちた。
「ぎにゃあああああああ!? 私のイコンアートがあああ!?」
自分のパートナーらしき人間2人を飛ばしたらしい人物の方へと振り返り、怒りのあまりに彼女もフラワシ――芸術は爆発と再生という彼女の理念を体現した、紅蓮の羽根の両腕を持つハーピーのような「ビッグバン・ホルベックス」を呼び出して、杏に攻撃を仕掛ける。
だが彼女の焔の一撃が放たれるよりも、杏のキャットストリートの拳が飛んでくる方が速かった。
「お前が不審者かー!」
「焼き尽くせビッグ――ばあっ!?」
せっかく完成するかもしれなかったイコンアートを崩された挙句、言い訳もさせてもらえないまま、アスカはビッグバン・ホルベックスが受けたダメージをそのまま受け、軽く吹き飛ばされる。
「い、いきなり何すんのよぉ! 私はここの使用許可もらって――!」
「えっと、言い訳は後で聞くから、とりあえず大人しく捕まってね」
「おうっ!?」
大暴れする杏に追いついた北都が、心身ともに調和の取れたモンクが扱うことを許された必殺の拳「則天去私」による当身を食らわし、気絶させる。則天去私とは、光輝属性のオーラをその手に纏い、至近距離の相手にパンチを繰り出すというのが基本的な動きである。使い方次第では、当身として威力を抑えることも可能なのだ。
「ふぅ、やれやれ……。とりあえずここはこれで終わったかな?」
「とどめを決めることはできなかったけど、ま、不審者を叩きのめせたし、これでいいわ」
アスカ、ルーツ、オルベールを順にロープで縛り上げる北都は、杏の非常に晴れやかな顔を眺めやる。何だろう、この「これでようやく帰れる」といった表情は……?
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