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一日駄菓子屋さんやりませんか?

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第三章 一日目の午後

 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は彼女のマスター、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)に尋ねる。
「レティ、レジはどこにありますの?」
「ああ、多分……これみたいねぇ」
 手渡されたのは、小銭の入ったザルだった。数枚のお札も混じっている。
「これが?」
「POSどころか、レジも無縁なんだろうねぇ」
「強盗でも来たらどうするのかしら」
「駄菓子屋に強盗は来ないだろうねぇ。もっともあちき達がいる時に、強盗が来たら面白いですぅ」
 レティシアはアサシンソードを抜き放つ。
「キャッ!」
 ソードはリティシアーナ・ルチェ(りてぃしあーな・るちぇ)の目の前で止まった。レティシアが腕を返したこともあったが、ヴェル・ガーディアナ(う゛ぇる・がーでぃあな)ノートルド・ロークロク(のーとるど・ろーくろく)がソードを受け止めてもいた。
「(あうら……どこ?)」
 ノートルドがテレパシーを飛ばすと、彼らのマスター、八日市 あうら(ようかいち・あうら)が走ってくる。
「みんな慣れないものだから。どうしました?」
 ミスティにせっつかれてレティシアが謝る。
「ごめんなさい。あちきの方が悪いんですぅ、こんなトコでこんなモノを振り回したもんだから……」
 アサシンソードを鞘に収める。
「これだけ人手があれば、まさか強盗も来ないでしょう。私が預かっておきますわ」
 肩を落とすレティシアから、ミスティがソードを受け取った。
「気にしないで! そろそろ学校帰りの子達が来るみたいですし、笑顔でいきましょう!」
 あうらが言うと、全員が笑顔を取り戻す。
「あちき、カステラを作ってきたんだけどぉ」
 レティシア自信をSD化したカステラを取り出した。あうらが1個手に取る。
「可愛い! でも……食べられちゃって平気なの?」
 今、気付いたと言うように、レティシアが目を見開く。そんなレティシアを見て、パートナーのミスティはニッコリ笑う。
「子供達に喜んでもらえれば良いと思うわ」
「そ、そうですぅ」
 その時、学校帰りの子供達が駆け込んできた。
「おばちゃーん、クジ引かせてー」
「もんじゃ作ってー」
「あたしもー」
 店の内外が一気に賑やかになってきた。

 散々、迷った末に鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は、ようやく駄菓子屋にたどり着く。
「こんにちはー、氷雨です。よろしくー」
「氷雨……ちゃん? いらっしゃいませだ……です」
 明らかにぎこちなく対応したのは、エプロン姿も似合わない神条 和麻(しんじょう・かずま)
「ああ、違う違う……」
 大きな体で、あわてて和麻は店内を見回す。
「チガウチガウね(そんなお菓子あったかな?)」
「そうじゃなくって……」
「ええと、ソウジャナクッテと(どこだったけ?)」
「迷って遅くなっちゃったんですが、お手伝いに来たんだってば!」
「なんだ、そうか。俺も手伝いの神条和麻だ」と和麻が戻ってくる。
「和麻さん、葦原明倫館? その格好、似合ってないね」
 180近い身長は、狭い駄菓子屋ではいかにも窮屈だ。しかし和麻も氷雨を見下ろす。
「しかたないだろ。氷雨だって、店員って言うよりは、客の子供だろ。俺が見間違えるのも無理ないぜ」
 互いに痛いところを突付きあう。しかし次々来る子供達に、にらみ合いは早々に解消された。
「俺は外で子供達の相手でもしてるぜ。氷雨は店の中を頼む」
「わかった。ボクに任せてよ」
 外に出かけて、和麻が振り返る。早くも氷雨は駄菓子屋の雰囲気になじんでいる。
「えっと、100円が一点。50円が一点……あ、ボクこのお菓子好きなんだー。美味しいよねー」
 その笑顔に子供達もなつく。和麻とは格段に手際の良さが違う。
「はい、全部で200円でーす。また来てねー」
 しかし和麻には一箇所引っかかるところがあった。
「……ボク? …………まさか」
 しばらく氷雨の接客を見ていたが、『まぁ、どっちでも良いか』と外で遊ぶ子供達に向かっていった。

「あらあら、手際が良くないね」
 アトゥ・ブランノワール(あとぅ・ぶらんのわーる)が鉄板の前に立つ。作り損ねたもんじゃと、しかめっ面をした子供達が集まっている。
「お好み焼きやトンペー焼きなら作れるんだが……あんたは?」
 ヴェル・ガーディアナ(う゛ぇる・がーでぃあな)がすまなそうに頭をかいた。  
「通りすがりのおばさんだよ。ここの店主殿とは顔見知りでね。ちょっと様子を見に来たんだ。どれ、替わってごらん」
 ヴェルは熱い鉄板の前に座ると、手馴れた感じでコテを操る。ようやく香ばしい匂いが漂い始める。
「ほら、熱いからヤケドに気をつけてね」
「おねーさん、ありがと!」
 子供達が次々に手を伸ばす。
「お姉さんって呼んでくれるのかい? うれしいね」
「お姉さんか……。俺からすりゃお嬢さんだぜ」
 ヴェルも「こりゃ美味いな」と言いながら、もんじゃを一口食べる。
「そうかい?」
 アトゥはヴェルの耳に口を近づけると、実際の年をささやいた。
「えっ! そりゃあ……てっきり高校生くらいかと。蒼空の制服だしな。本当ならまるでプレイ……」
 言いかけたところで、ヴェルの口がふさがれる。
「私は構わないけど、子供達に聞かせて良いことと悪いことがあるんじゃないかい?」
「全くだ。スマン。しかしいろんな学生がいるもんだ」
「同感だね。キミはなんでここに?」
「前は薬を売り歩いてたんだぜ」
「へぇ、私と似てるね」
 マスターのあうらをあごで指す。
「でもアイツ……あうらがあんまり危なっかしいもんだからな。あんたは1人なのか?」
「今日はね。引きこもってるようだから、お土産でも買って行くかな」
「だったら、コイツはどうだ? 同じ蒼空の生徒が作ったもんだ」
 レティカステラを取り出す。
「珍しいし、貰っていくか。っと帰る前にもんじゃの特訓をしていかないとね」
「すまん、頼む」
「ボクにも教えてー」
「あたしも習いたいですぅ」
「私も習っておこうかしら」
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)も鉄板周りに集まる。子供たちに囲まれて、アトゥのもんじゃ焼き教室が開かれる。  
 経験が役に立ったのかヴェルはすぐに上達する。氷雨とレティシアとミスティも、短時間のレクチャーながら、なんとか形にはなった。

 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)と共に、子供達と一緒になって遊んでいた。高島 恵美(たかしま・えみ)は優しく見守っている中に、ヒーローに扮した神条 和麻(しんじょう・かずま)も混じっている。
「よっしゃー! 隙あり!」
 ついつい熱血漢全開になる和麻にミーナがストップをかける。
「ちょっとやりすぎだよね」
「すまん、つい力が入って」
「戦闘なら、その調子でがんばって欲しいんだけどね」
「…………申し訳ない」
 大きな和麻が小柄なミーナの前でますます小さくなる。そんな和麻をフランカと子供達が楽しそうにはやす。
「ミーナちゃん、皆もお腹も空いたでしょうから、お店に行きましょうか」
 高島恵美が声をかけると、フランカと子供達は店内に走っていく。

 ── どうした綾瀬、いつまで見ているつもりだ? ──
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は、朝から駄菓子屋を興味深く観察していた。いつも身に纏っている漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)は何も言わずに付き合っていたが、憑依した実の兄、中願寺 飛鳥(ちゅうがんじ・あすか)はしびれを切らしていた。
「本当に『駄菓子屋』というのは不思議な空間ですのね。大人も子供も皆さん同じ様に楽しんでいらっしゃいますわ」
 ── 百聞は一見に如かずだが、百見は一経験に如かずとも言うぞ ──
 綾瀬は「ふふ……」と笑みを浮かべると、店内に足を運ぶ。たくさんの子供達、そして頑張っている臨時店員の学生達。
「申し訳ありませんが、『もんじゃ焼き』とは何なのでしょうか? 教えては頂けないでしょうか?」
 一番学生らしくない格好の者に声をかける。相手はヴェル・ガーディアナ(う゛ぇる・がーでぃあな)だった。
「毎度ありー、俺にとっちゃ、初のお客さんだぜ」
「すると、あなたもお手伝いの学生なのですか?」
「そうは見えないかもしれないがな」
 傍らにいたアトゥ・ブランノワール(あとぅ・ぶらんのわーる)が、ひょうひょうとしつつも笑みを浮かべる。
「まぁ、見た目だけなら、キミよりも私の方が学生らしいからね」
「ではあなたはお客様なのですね」
「この店の常連だよ。店主殿とも顔なじみさ。もんじゃ焼きの作り方を教えてやってたの」
「申し訳ありません。すっかり勘違いしていました」
 綾瀬はドレスの端をつまむと、ふんわり頭を下げた。
「気にしてないよ。それよりヴェルのもんじゃを試してやってよ。かなり上達したんだ」
「そうですか、ではお願いします」
 綾瀬が鉄板の前に座ると、子供達も興味津々でヴェルのコテ捌きを見つめる。注目の集まる中、なんとかもんじゃができあがりつつある。
 ── こ、これは食べものなのですか ──
 綾瀬は憑依した兄の飛鳥に聞く。飛鳥は笑いながら「そうだよ。しっかし味わって食べるんだぜ」と返答した。
 勧められるがままに、もんじゃをコテで少し削って口へと近づける。横からいたずらな子供が手を伸ばしかけてヴェルに止められたが、「構いませんわ。一緒に食べましょう」と微笑んだ。
「あ、おいしい」
 綾瀬にとっては、刺激的な初体験となった。綾瀬と子供達が味わってるのを見て、アトゥが席を立つ。 
「これで大丈夫だね。また暇があったら、覗きにくるよ」
 ヴェルと綾瀬が礼を述べると、ヒラヒラと手を振った。