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一日駄菓子屋さんやりませんか?

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一日駄菓子屋さんやりませんか?

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「ねぇねぇ、これちょーだい」
 店内は子供達で賑わっていた。ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が、お釣りを子供に渡す。
「はーい、おつり300万円ね(えへへ、一度いってみたかったんだ♪)」
 ところがその子は不思議そうにお金を見つめたままだ。
「どうしたのかな?」
「おねーちゃん、300万円だったら、299万9700円足りないよ!」
 予定外の反応に、ミーナの口がぱっくり開いたままになる。
「ごめんねぇ。こっちのお姉ちゃん、計算間違いしたみたいなのぉ。はい300円」
 子供は高島 恵美(たかしま・えみ)からお釣りを受け取って駆け出した。戸口で振り返ると手を振る。
「おねーちゃん、からかってゴメンネ。おばちゃん、ありがとー」
「子供って、子供じゃないのね」
「おばさんかぁ、ショックだわぁ」
 2人して深いため息をついた。

「子供達の相手って疲れるのね」
 八日市 あうら(ようかいち・あうら)が「んー」と背伸びをすると、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)も同意した。
「ほんの5・6年前は、あたしもあんなだったと思うと、不思議な感じがしますねぇ」
「言われてみれば、その通りね。私も少ないお小遣いをやり繰りして通ったなぁ」
「よかったら、どうぞぉ」
 レティカステラを勧めた。
「良いの!」
「はい、皆さんのおかげて、すっかり完売ですぅ。これは自分で食べようかなと思ってた分なので」
 疲れた体に甘いものがちょうど良かった。
 レジならぬザル当番として、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)ノートルド・ロークロク(のーとるど・ろーくろく)が活躍していた。ミスティが素早く暗算で対応するのに対し、ノートルドは一つ一つ計算機で計算してお釣りを渡す。 
 どちらもせいぜい数百円の小銭のやり取りに過ぎないが、ノートルドが1回こなすごとに、ミスティは5人分はやり取りをしていた。しかし子供達の人気は変わらない。それどころか計算機を操作するノートルドの手元をジッと見ている。出てくる数とお釣りの金額をしっかり見比べて確認すると、ニッコリ笑顔を見せる子供も多かった。
「こういうことってあるんですね」
 そんな2人を見ていたリティシアーナ・ルチェ(りてぃしあーな・るちぇ)がミスティに話しかける。
「子供達には驚かされることばかり。早ければ良いものでもないんですね」 
「ただノートルドが2人では、渋滞してしまいますね。やっぱりあなたも必要です」
「そう言っていただけるとうれしいです。レティに連れてこられたんですけど、素敵な経験になりました」
「ええ、本当に。ここはとっても暖かい匂いがしますね。お菓子と……夕方のお日様の匂いかしら」
「お菓子の甘い香りに、もんじゃ焼きのしょっぱい香り、そして子供達の歓声……良いものですね」

 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は都合3つ目のもんじゃ焼きを口にしていた。都合半分くらいは子供達に分けており、四半分は兄の中願寺 飛鳥(ちゅうがんじ・あすか)が味わっていた。それでも普段にない食欲を見せている。
 ── あんまり食べ過ぎるなよ ──
 ここを勧めた飛鳥の方が心配する番だった。
「せっかくの機会なのですから、十分味わっておきたいと思いまして」
 更にもんじゃ焼きを追加しようとして、飛鳥が漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を引っ張り出す。
 ── ドレスは何か興味ないのか? ──
「私にやらせていただけるのであれば、クジを引いてみたいと思うのですが」
 ── そうだろ、綾瀬、そう言うことだから ──
「それなら」と綾瀬は腰を上げた。他人から見えないようにドレスから袖を抜くと、魔鎧であるドレスに選ばせる。綾瀬同様、初めての経験におそらくホクホク顔をしているであろうドレスは、入念に勘を働かせながら飴のクジを選んだ。
「大当たり!」
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)が鐘を鳴らすと、高島 恵美(たかしま・えみ)が景品を持ってくる。
「はい、5等は飴2つでーす!」
 大きく膨らんだ、綾瀬、ドレス、飛鳥の期待はたちまちしぼんだ。
「綾瀬、もうひとつ良いですか」
「好きになさい。クジのひとつやふたつ、大した金額ではありませんわ」
 ドレスが袖を動かす。
「大当たり!!」
 さっきより大きく鐘が鳴らされる。
「3等は……」
 高島 恵美(たかしま・えみ)が景品を持ってくる 
「飴、10個でーす!」
「4等は飴5個でーす!」
「また5等でした。はい、飴2個!」
「おしい、2等は飴20個なんですよ!」
 そうして何十回かクジを引いた後に、待望の声がかかった。
「おめでとうございまーす! 1等でーす!」 
 店全体に歓声が上がった。高島 恵美(たかしま・えみ)が持ってきた景品は……。
「はーい、飴100個でーす!」
 綾瀬が腕を抜いていたドレスの袖から力が抜けた。
 ── なんとなく、予想はついたけどな ──
「良い経験になりましたわ。確率からすれば、こんなものなのでしょう。しかしこれらを全て食べるには、少々時間がかかりますわね」
 綾瀬は頬に引きつった笑みを浮かべる。
「あ……ごめんなさい。くじを引くのが楽しくて、つい」
「まぁ、いいわ。せっかくの経験なのだから、他のクジも試してみましょう」
 それからもドレスはクジを引きまくった。もちろん景品の駄菓子がたまるばかりだったが。

 日がすっかり落ちる頃、山葉 涼司(やまは・りょうじ)花音・アームルート(かのん・あーむるーと)が店にやってくる。
「お疲れさん、そろそろ店じまいにしようか」
 全員で後片付けに取り掛かる。人数がいるだけに、店の内外があっと言う間にきれいになる。
「それじゃあ、お疲れ様ー」
 それぞれの自宅に帰っていった。
「おーい」
 神条 和麻(しんじょう・かずま)鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)を呼び止める。
「なーに」
「氷雨って、男なのか? 女なのか?」
「どっちに見える?」
「…………じゃあ、年はいくつなんだよ」
「いくつだと思うー?」
「質問に質問で返すなよ」
「女の子に失礼な質問をしちゃダメだよね」
「やっぱり女なのか?」
「好みならそう言ってよ。ボクいつでもOKかもよ」
「ボクって、男なのか?」
 そんな2人をミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)達が見ている。
「あれ? カップル誕生? フランカにもお友達がいっぱいできたし、良いことばっかりね」
 遊びつかれたのか、少し眠い目をしたフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)も「ともだちいっぱいできたの。うれしいの」と笑う。
「いや、違うって」
 必死に否定する和麻の腕に氷雨が絡みつく。
「照れなくって良いのにー」

 八日市 あうら(ようかいち・あうら)達も帰路についた。
「ヴェルさん、いい経験になったみたいね」
「それを言うなら、ノートルドの方が大きく成長したんじゃないか」
 あうらとヴェル・ガーディアナ(う゛ぇる・がーでぃあな)を見て、ノートルド・ロークロク(のーとるど・ろーくろく)がしっかりうなずく。
「あの雰囲気を味わえただけでも、素敵な体験だったと思います。また行ってみたくなりますね」
 リティシアーナ・ルチェ(りてぃしあーな・るちぇ)の言葉に、あうらもヴェルも、無表情ながらノートルドもうなずいた。

「かなーり、儲かっちゃったねぇ」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)は、はちきれんばかりの笑顔を見せている。
「その分、小さなレティが子供達のお腹に納まっていると思うと複雑だわ」
「それを言わないでよぉ」
 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)の冷静な発言に、レティシアがかじられているところでも想像したのか首を振る。
「そのお金はどうするつもりなの?」
「そうねぇ…………明日、駄菓子でも買おうかぁ」
「……全くもう」

 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)も駄菓子屋を後にする。山となった駄菓子は、さすがに持ちきれないため家まで送ってもらう手続きをとった。
「なるほど……確かに、駄菓子屋というお店はある種の特別な空間の様ですわね。初めてなのにどことなく懐かしい様な」
 ── 郷愁みたいなものだな。そして童心に返れる場所でもある ──
 飛鳥の言葉が、ムキになってクジを引いていたことを指すのは言うまでもない。
「ただ、重要な何かが足りない感じがありましたの……今度は、村木のお婆様が居らっしゃる時に尋ねてみましょうか?」
 ── それも良いな ──