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第三章 B−1グランプリ初日

 昼近くになると裏メニューを売り出す担当が駄菓子屋に集合し、区切られた露店に材料を並べて支度を始める。午前中に撒いたチラシの効果もあったのか、既に行列ができ始めていた
「皆さーん、こんにちは!」
 カメラに向かって羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)が手を振る。傍らにはパートナーのシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)もマイクを持って立っている。
「B級グルメ界に燦然と輝くものがある……そう、皆さんもご存じ伝説の焼きそばパンです! 村木お婆ちゃんが湯治に出かけた3日間、その伝説に挑むツワモノ達がココ駄菓子屋横の臨時テントに集結しました!」
 露店に右手を向けると、せわしく働く学生達と露店に並んだ客が映る。恒例のピースサインをするお調子者が少なからず映る。
「伝説に並ぶ者は、伝説を超える者は現れるのか!? 決戦の日は来た! 裏メニューB−1グランプリ! 開・催です!」
 並んだ客から拍手が起こった。 
「さて解説のシニィさん、今日は宜しくお願いします!」
「うむ、こちらこそ宜しくなのじゃ」
 テンションの高いまゆりをよそに、シニィは落ち着いて頭を下げる。ただし目が明らかに座っている。
「多種多様なB級グルメの登場が予想されますが、注目するポイントはなんでしょうか!?」
「そうじゃな、酒のツマミに良さそうなモノがあると良いのう」
「…………とりあえず順にお店を回ってみましょう!」

クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、コテを動かしながら愛想良く接客していた。ソースの香りにつられた客が長く列を作っている。
「はーい! こちらはインスミール魔法学校のクロセルさんのそば飯です! こんにちは、かなり繁盛してますね」
 クロセルはカメラにVサインする。
「ばっちり読みが当たりました。まぁ、このお焦げの匂いに逆らえる人は少ないでしょう」
 インタビューに答えているクロセルがそっちを向いている隙に、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が、んまい棒を砕いたものをパッとそば飯にかける。素早くコテで分からないようにかき混ぜた。
 小皿に盛ったそば飯を、猫舌のシニィがフーフーと冷ました後で試食する。
「いかがですか? シニィさん」
「これは酒が進みそうじゃな。とりあえず日本酒、いや焼酎でも、うわっ、何をするんじゃ…………」
 まゆりは強引にシニィを追いやると、クロセルにマイクを向ける。
「それはともかく、その格好は暑くないんですか?」
 クロセルはいつもながらのマントに目出し仮面の姿。違っているのはエプロンをしていることだ。
「これは俺のヒーローたる証ですからね」
 自慢げに胸を張る背後では、マナがんまい棒を砕いたものを更に追加すると、カシャカシャとコテで混ぜ合わせた。マナの意図した通り、混ぜ込まれたんまい棒は、隠し味となって売れ行きに大きく貢献していた。

「次はシャンバラ教導団からルカルカ・ルー(るかるか・るー)さんの登場でーす! これはプチチョコですね」
「ええ、駄菓子屋はロマン、ロマンといったら甘いのよ! スイートよ!」
 まゆりとシニィが一つずつ頬張る。
「こちらはいかがですか? シニィさん」と聞いた後、「今度はちゃんとコメントしてよ」と小声で付け加える。
「ロマンはともかく、チョコは定番中の定番じゃな。値段も手頃じゃし、味とパッケージが12種類あるのも、子供だけでなく大人心をもくすぐるじゃろう」
「そうそう」とルカルカが鼻を高くする。シニィのまともな解説に、まゆりもホッと一息ついた。
「しかし甘いものを口にすると、酒が欲しくなるのぉ。ここはウイスキーかブランデーを、コラッ、何をするんじゃと言うのに…………」

「はい! 今日の最後は、蒼空学園の夜月 鴉(やづき・からす)さんでーす。これはクレープですね」
「ああ、どうぞ」
 口数も少なく、鴉はクレープを差し出した。まゆりは一口食べると、「おいしい!」と感想をもらす。もはや解説に振る気はない。
「フルーツたっぷりでとってもジューシー、生クリームともピッタリあってますね」
「まぁな」
 無愛想ながらも、鴉の口元がわずかにほころぶ。シニィは売り子をしていた魏延 文長(ぎえん・ぶんちょう)に近づく。
「そなた、それは酒ではないのか?」
 シニィは魏延の持ち歩いているひょうたんに目を付けた。
「あんたもいける口か?」
「うむ、酒なくて何でこの世が楽しかろ、じゃな」
「なんや気が合いそうやな。これはわての特製やで」
 ひょうたんを受け取ったシニィは栓を抜くと、漂う香りを楽しむ。一口飲んで「これはなかなか」と言うと、一気にひょうたんを傾けた。
「ああっ! 全部はあかんてー」
 あわてて魏延がひょうたんをひったくる。軽くなったひょうたんを振ると、途端に悲しそうな顔になる。
「すまん、さっきから美味いアテばかりが続いたんで、酒に飢えておったんじゃ。おわびに今度一杯ご馳走させてくれ」
 酒飲み同士で意気投合すると、今後の飲み予定について語り出した。
「はーい、今日はここまでですが、裏メニューB−1グランプリは、明日明後日もあるので、ぜひ来て下さいね!」
 まゆりの締めコメントを最後に、カメラが行列を映して中継が終了した。

 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は偶然訪れた駄菓子屋で、裏メニューB−1グランプリを見かけた。
「おにーちゃん、お財布ちょっと使わせてね」
 マスターである影野 陽太(かげの・ようた)の財布を取り出すと、中身がしっかり入っていることを確認して行列に並ぶ。最初にマスクをした店員からでき立てのそば飯を受け取る。
「これがそば飯と言うんですね」湯気のたっているのを、もぐもぐと食べる。
「うん、辛いけど悪くないよ! ソース味と思ったら、隠し味にいろいろ入ってるんだね。なんか不思議な味だけど……これはこれでアリかな?」
 ノーンがそば飯を食べながら見ていると、マスターらしき仮面をつけた男性が調理をしている横で、ドラゴニュートが何やら怪しげな動きをしているのが目に入る。と言うか、マスターが気付いていないだけで、ノーンも含めて来店客は皆気付いていた。
 仮面マスターが調理をしているときは、いそいそと呼び込みなどをしている。マスターが鉄板から目を離すと、隠していた袋から粉を取り出し、そば飯に振りかけてかき混ぜる。その袋も何種類もあるようで、粉の色が異なっていた。
「何してるの?」
 物陰に引っ張り込んで尋ねると、ドラゴニュートは「秘密だぞっ」と袋の口をそっと開ける。ノーンが覗き込むと、いろいろな粉がつまっていた。
「いろんな‘んまい棒’をこなごなにしてあるんだ。これを混ぜるとそば飯の味がグンと良くなるのだよ」
「ん……、でもこっそり……してるよね?」
「クロセルは目立ちたがりで自信過剰なところがあるからな。手伝いを申し出てもOKしないだろうから、こっそり手伝ってやってるんだ」
「ねぇ、甘いそば飯ってないの?」
 いきなりの質問に、マナの頭の中に甘い味の‘んまい棒’が次々に浮かぶ。しかしどれもそば飯と味が合うとは思えない。
「うーん、難しい……、基本ソース味だからな」
「そっか、残念。甘いのがあったら、食べてみたかったな」
 クロセルがマナを呼ぶ声が聞こえる。マナはバイバイをして店に戻っていった。マナも大きく手を振る。
「でもこれもおいしかったよー」
 次に同い年くらいの女の子が売り子をしていた店でチョコを買う。
「12種類あるってのはすごいねー。もう駄菓子の域を超えてるなぁ」
 最後にクレープ屋では背の高いお姉さんが「可愛い女の子にはおまけしちゃうでー」とフルーツ山盛り、生クリームとチョコ増量で手渡される。
「こんなにいっぱい、食べきれるかな」と言いつつ、あっと言う間に平らげる。
「果物の甘さとすっぱさ、クリームやチョコの甘味が素敵! 何度でも食べたくなっちゃう」
 傍らのアンケート用紙に気がつく。
「そっか、これを書くとキャンデーが貰えるんだー。明日も明後日もあるみたいだし、絶対来るんだもんね」