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リアクション
仲良し苺
スイーツフェスタの一角を借りて、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)たちはオープンキッチンのスイーツショップを出すことにした。
「ユーリも手伝う!」
自分も何か手伝いたくて仕方ないユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)は、設営をする沢渡 真言(さわたり・まこと)にまとわりついた。
「それなら材料の苺を摘んできてもらえますか?」
メニューは苺たっぷりのロールケーキと苺ミルクと紅茶。ポイントとなる苺は新鮮なものがたくさん欲しい。
「分かった。任せてっ」
すぐにでも駆け出しそうなユーリエンテをマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)が止める。
「俺も一緒に行くよ」
ユーリエンテ1人に任せておいたら危ないからとマーリンも同行を申し出る。それを今度は新宮 こころ(しんぐう・こころ)が呼び止めた。
「途中で迷子にならないように、御守りをつけてあげるね」
こころは問答無用で2人の髪をツインテールにすると、可愛いリボンを結んだ。
「ユーリはともかく、俺にこのリボンはかーなり無理があるんじゃない?」
頭に手で触れてマーリンが苦笑する。
「外しちゃダメ。もし外したら罰として、ボクにスイーツおごってね!」
「スイーツ食べたいんなら、後でユーリと一緒にスイーツフェスタ巡りに連れて行ってあげるよ」
「えっ、いいの?」
「うんうん、じゃあまた後でね」
今は苺を採りに行かなければとマーリンは笑い、リボンの上からフードをすっぽり被ると苺摘みへと出かけていった。
「ただいま〜。たっくさん苺摘んできたよ!」
ユーリエンテがマーリンと一緒に摘んできた苺を持って戻ってくる頃には、店の設営もほぼ終わっていた。
「ありがとうございました。良い苺ですね」
この素材に負けない菓子を作らなければと、真言は摘んでもらったばかりのオープンキッチンに入っていった。
さすがに会場にオーブンを持ち込むことは出来なかったから、スポンジ生地はあらかじめ焼いてきてある。それにたっぷりの生クリームを巻き込んでロールケーキに仕立てる予定だ。
「えっと、巻きやすくするためにまず巻き終わりの端っこを斜めに切り落として……っと」
のぞみは向こう側の端を斜めにし、手前側には浅く切り目を数本入れると、刷毛でシロップをぺたぺたと塗る。
普段はお菓子作りはしていないのぞみだが、今日の為にロールケーキの巻き方を練習してきた。それを思い出しながら、生地にたっぷりと生クリームを塗り、苺をぽこぽこと散らす。巻きやすさを考えたら苺をカットした方が楽なのだけれど、せっかくの旬の苺だから丸ごとの美味しさを生かしたい。
「大丈夫ですか?」
「う、うん……練習してきたから多分……。どうか割れませんように〜」
練習中、何本のロールケーキを割ってしまったことやら分からない。
息を詰めてのぞみがケーキを巻き始めると、真言が手を出して真ん中をそっと支えて安定させてやる。
タイミングをあわせてゆっくり巻き込んでいけば、ロールケーキは割れることなく綺麗な円柱状になって転がった。
「やったー、成功だ!」
「きれいに巻けていますね。けれどこれに安心してしまわず、次のも慎重にお願いします」
「うん。目指せ全成功で頑張るよっ」
くるっと巻いたロールケーキは1時間ほどよく冷やして、今度は真言が切り分ける。
クリームも丸ごと苺もたっぷりと入っている為にカットするのは難しいが、切り口が汚くては商品にならない。真言はナイフを湿らせると、中に入っている苺の感触を確かめながらカッティングしていった。
「おねーさま、この端っこは売らないんだよね? もらっちゃってもいいかな」
「うんいいよ」
切り落としたケーキの端っこを指さすこころに、のぞみが答える。
「じゃ、いただきまーす」
遠慮なしにぱくりと試食したこころは、うんうんと大きく頷いた。
「おいしいよ、このケーキ! こう、ふんわりしてて、クリームがとろけそうで、苺はジューシー!」
全身を激しく動かして2人に感想を伝えると、もう1つ、とこころはまた端っこに手を伸ばす。
「これももらうね。ほら、ボクって食べ盛りだから。キミも食べる?」
こころはユーリエンテにも端っこを渡し、がっつりと味見した。ユーリエンテももらった端切れを頬張る。
「マコトとのんちゃんのロールケーキ、おいしいね。他にも美味しいお菓子とかいっぱいあるのかな? ユーリ、他のお菓子も食べに行きたいなー」
「苺摘みの仕事は終わったから、食べ歩きに行くか?」
自分たちに割り当てられた仕事は果たしたからとマーリンが言うと、ユーリエンテは嬉しそうに頷いた。
「うん、行きたい!」
すぐさま良い返事をしたユーリエンテを連れ、マーリンは
「美味しいものがあったら土産買ってくるよ」
と食べ歩きに出かけていった。
「ボクの分もお土産忘れないでねー」
こころはマーリンに向かって叫ぶと、食べた分はちゃんと働かないとと身にチラシを手に宣伝に出かけて行った。
「こころちゃんが呼び込みしてくれるから、そろそろお客さんも入るね」
ロールケーキの仕込みは終わり、飲み物用の苺の用意をしながらのぞみが言うと、ミツバ・グリーンヒル(みつば・ぐりーんひる)は不安そうな目で外を見やった。
ミツバの役目はウェイトレス。スイーツフェスタの売り子の制服を着せてもらって準備はしたけれど、自分にうまく出来るのか、心配でならない。
「私にできるのでしょうか……」
トレイをぎゅっと身に引き寄せるミツバにのぞみが大丈夫だよと笑いかける。
「どきどきしたら1回深呼吸するといいんだよ。そしたら落ち着けるの」
「深呼吸?」
「そう。だから頑張ってね」
のぞみにそう言われては頑張らないわけにはいかない。うまくできたらのぞみに褒めてもらえるかも知れないと、ミツバは小さな拳を握って自分に気合いを入れた。
「心配いらねーって。俺様もいるんだからさ」
そのミツバの背を木崎 光(きさき・こう)がバシッと叩いた。
料理の腕はからきしだからと、光はウェイトレスの役目を引き受けたのだが、可愛い制服にテンションは急上昇。地に足がつかない勢いで浮かれている。
「エプロンドレスかー。おまけにピンクと白。これでもかっつーくらい可愛い制服だな」
短いスカートの裾を引っ張る光に、ラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)の口から押さえきれない声が漏れる。
「……ッ…………ッッ!」
弟のように思っている光が、乙女でスイーツな恰好をしているのだから可笑しくて仕方がない。けれど笑ったら間違いなく手やら足やらが飛んでくるのは明白だ。特にこんな機嫌良くしているのに水を差そうものなら、無事では済まないだろう。
ラデルが肩をふるわせているのには気づかず、光は自分のウェイトレス姿に大満足の体でくるんと一回転、なんてやってみる。
「ふふーん! 可愛い制服を着た可愛い俺様が、超ウェイトレスしてやるし! 繁盛間違いナシだね!」
相変わらずの大股でずんずんと近づいてくると、どうだとばかりにラデルの前で胸を張る。
「……く……ッ……」
腹筋がよじれるのをぐっと堪え、ラデルは笑みらしきものを作る。
「そ、そうだね、可愛い制服だ」
「……何か言い足そうな口ぶりだな」
「ああ……ホラ、せっかく可愛い制服を着ているんだから、髪をちゃんとしたらマシに……いやその……もっと可愛くなるんじゃないかな?」
ラデルは素速く光の後ろに回り込んで表情を隠すと、そのぼさぼさの髪から大きなピンクリボンを取り、代わりに自分の髪にしていた光沢あるシルクのリボンを結んでやった。
「あ……りがとう。……うわははははは! これで俺様最強に女らしいぜ!」
満足そうな光から礼儀正しく視線を外すと、ラデルは店の一角にある席につき、優雅に紅茶を口に運んだ。
「真言とのぞみもそろそろ制服着ないといけないんじゃないの? おにーさん楽しみだなー」
「あっほんとだ。早く着替えなきゃ」
マーリンに促され、のぞみはすぐに更衣室に走ったけれど、真言はいつもの執事服に目を落とす。
「どうしても着なければいけないのでしょうか……」
「お客さんから見える可能性があるスタッフは全員制服着用ってことだからねー。どうしても嫌?」
「い、いえ、良いのです……」
制服を抱えるのさえ恥ずかしそうに、真言はのぞみの後を追っていった。
「おいしいケーキと飲み物はいかがですかー」
チラシ片手に出てきたこころは、積極的に宣伝をして回った。何せスイーツフェスタには多くの店が競うように並んでいる。その中で自分たちの店を選んでもらうには、やはり宣伝が物を言う。
「このロールケーキのスポンジ、ふわっふわの柔らかさでねー、甘さ控えめのクリームがすぅって口の中でとろけていって、もう、たまらなく美味しいの」
味見でケーキの美味しさは十分に味わったから、こころはそれを道行く人に伝えて呼び込みをした。こんなお菓子ですという説明よりも、実感のこもった感想の方が相手に届くだろうし、こころ向きでもある。
「美味しそうですね。こちらで食べていきましょうか」
家族連れでやってきていたコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)がこころの宣伝に惹かれ、店を訪れた。
「へい、いらっしゃい……じゃなくて、いらっしゃいませ!」
光が元気良すぎる声で挨拶するのを聞いて、店の片隅にいたラデルが手を額に当てた。
「あの……いらっしゃいませ。何になさいますか?」
知らない男性が苦手なミツバはルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)から一番距離を取れる位置からではあったが、丁寧に注文を尋ねる。
コトノハは自分とルオシンにはロールケーキと紅茶を、蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)だけは紅茶でなく苺ミルクを頼むと楽しそうに店内を見回した。
「ケーキ3つと、紅茶2つと苺ミルク1つです」
ミツバが注文を伝えると、のぞみがトレイの上にケーキの皿を載せた。
「気を付けて持っていってねー」
「はい……」
落とすまいと真剣な表情でミツバがケーキを運んでゆく。
「こちらは紅茶と苺ミルクです」
「おっしゃ任せろ」
真言が執事の鮮やかな手つきで淹れた紅茶とつぶした苺にミルクをかけた苺ミルクを、光はさっさとトレイに載せた。
「この日のために練習したんだもんねー。見よ、必殺ウェイトレス持ち!」
光は手の平の上にトレイを載せて運んで行く。この方が両手に持って運ぶよりもトレイが揺れないのだ。
「わーい、美味しそう〜。いただきます」
夜魅がさっそく苺ミルクをごくごくのんで、おいしいねと笑顔になった。
「本当にふんわりしてますね」
コトノハはロールケーキと紅茶をゆっくり楽しんでいたが、そうしているうちにもこころの宣伝が功を奏したのか、店はどんどん混み合ってくる。
「そのロールケーキをいただけるかね」
ゲームの為に、とりあえず基本のケーキ系を抑えておこうとメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は持ち帰り用にロールケーキを購入する。ダリルにナポレオンパイを作ってもらう権利を得る為に、かくれんぼは絶対に勝っておきたいところだ。スポンジにたっぷりの生クリーム、まるごと苺の入ったこのスイーツならば淵も満足してくれるのではないだろうかと思ったのだ。
「はーい。ロールケーキ一丁っ」
「なんというか、随分元気の良い売り子さんだね」
光からずいっと突き出されたケーキの包みを持つと、メシエはそれほど急いでいる風もなく、また別のスイーツの店を探しながら歩いていった。
「光〜、こっちを運んでくれる? 手が足りないからラデルも手伝って」
がしがしと苺を潰しながらのぞみが呼びかける。
「悪いけど、僕には下働きのことは良く分からないんだ。すまないね」
周囲が混雑してもラデルは一流のティールームにいるかのように、ゆったりとスイーツを紅茶を楽しんでいる。
「忙しそうですね。私が身重でなければ手伝うんですけれど……」
コトノハは大きく膨らんだお腹に手を当てた。産み月も近いこのお腹ではあの制服を着ることも、ウェイトレスをすることも難しい。
「ママ、代わりにあたしが手伝おうか?」
コトノハの憂い顔を見て、夜魅が言う。
「それは良い考えね。じゃあちょっと聞いてきますね」
コトノハはゆっくりと立ち上がると、真言の所に行って手伝いを申し出た。
「手伝ってもらえるのは助かりますけれど、ここでの手伝いは皆この制服を着用する決まりになっているんです。それでもいいですか?」
「はい。すぐに着替えてきてもらいますから」
そう請け合って戻ってきたコトノハは、夜魅とルオシンに制服を受け取る場所と更衣室の場所を伝えた。
「わ、我にも手伝えと言うのか。あの制服を着て?」
当惑するルオシンに、もちろんですとコトノハは笑う。
「私が手伝えない分、どうかよろしくお願いしますね。夜魅もお願いね」
「はーい、パパ、早く着替えようよー」
唸っているうちにルオシンは夜魅に引っ張られ、ヤケのようにスイーツフェスタの制服に着替えてきた。女装するのはクリスマスのミニスカサンタに続いて2度目だ。
「ルオシンさんも夜魅も可愛いです♪」
コトノハは大喜びで2人の姿をカメラに収めるが、ルオシンはいやいやと首を振る。
「あ、あまのジロジロ見るでないっ。可愛いはずがあるまいに」
エプロンドレスを着るにしてはごつ過ぎる身体つきを自覚しているルオシンは、スカートの裾を押さえて赤くなりながら反論する。ルオシンの体格の所為か、予想以上に短くなってしまっているスカートが気になって仕方がない。
「まあ……大差ないような気もするな」
ちらり、とラデルは光に目をやって呟いた。何か言われてると察したのだろう。光が表情を険しくしてやってくる。
「何だその目は。こーんな女らしいパーフェクトウェイトレスに何か文句でもあんのか?」
「文句なんかないよ。って光、やめろ!」
「よからぬことを考えてたのぐらい分かるんだからなっ!」
光はトレイを思いっきり振り上げた。
「誤解だよ、光。彼に君のそのトレイさばきを教えてあげたらどうかと思ってただけだ」
「そうなのか?」
ころっと騙された光は、それならそうとと言いながらルオシンの方に行ってしまった。ラデルはやれやれと胸をなで下ろしてお茶の時間に戻る。
「わー、苺がいっぱい」
その間に何か仕事はないかとオープンキッチンをのぞき込んだ夜魅は目を輝かせた。
「夜魅、つまま食いは行儀が悪いであろう」
気づいたルオシンに注意され、夜魅はもごもごと首を振る。
「ふぁべてないお」
「欲しければ帰りに買ってやるから、つまみ食いはやめるんだ。コトノハもあまり食べ過ぎるでないぞ」
ロールケーキのおかわりをしているコトノハを目敏くチェックし、ルオシンはそちらにも注意する。
「これはお腹の赤ちゃんの分……あら?」
楽しい気持ちが伝わりでもしたのだろうか。ぐっと中から押されたお腹に手を当てた。
「早く一緒に苺が食べられるようになるといいわね」
その時にもこんな楽しい場にいられますようにと、皆が立ち働く店を眺めてコトノハは微笑むのだった――。
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