空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

暗がりに響く嘆き声

リアクション公開中!

暗がりに響く嘆き声
暗がりに響く嘆き声 暗がりに響く嘆き声

リアクション


【倉庫】

 バタン――、と物が落ちる。
「ひいいぃ!」
「あ、ごめん。羽がぶつかったみたい」
 春日井 薫(かすがい・かおる)神崎 翔太(かんざき・しょうた)に謝る。
「辞めてくれよ、ここすごく強い霊感があるんだからさぁ」
 どうやら翔太は霊感持ちらしい。でもって怖がりと見える。
 ここが非道な実験をしていた場所である故に、死に切れない魂も多いことが想像できる。それを感じられるか感じられないかで、霊的現象に対する恐怖感は段違いだろう。
「我は全くわからんの。その感覚」
 草薙 武尊(くさなぎ・たける)は翔太のような霊感はない。しかしそれ故に、冷静沈着に倉庫を調べていける。多少の物音では動じない。しかし、翔太の怖がりがわからないわけではない。
 この研究所で怪現象が幾つも起きているのだ。何が原因であれ、それによって近隣住民が困っている。
 とは言え、この倉庫に何かその原因と成るものがあるとは到底思えない。なんせ、実験用の道具や、予備の手袋に掃除道具。またまたは、サッカーボールに、バトミントンラケット。研究者たちの遊戯道具もある。
 昼休みにこれで白衣たちがスポーティーに遊んでいたと考えると、薫は微笑ましく思った。
「なんだろうこれ?」
 火村 加夜(ひむら・かや)が薫の落としたモノを屈んで拾う。プレート状のそれを。
「『ツァンダこども病院』? なんでこんなモノがあるんだろう?」
 ここで行われていた研究とは関係なさそうだと、彼女はプレートを元の場所に直した。
「まあ、めぼしいものはココにはなさそうだな。他のグループを手伝いに行ったほうがいいであろう」
 武尊の提案は尤もだ。この狭い倉庫をいくら探しても、重要な書類は見当たらない。ここにある紙媒体は古新聞とエロ雑誌と同人誌の束くらいだ。
「じゃあ、近場の班と合流しますか。 行きますよ、神崎様」
 薫が倉庫の片隅で震える翔太を呼ぶ。
「わ、わかったよ!」
 肩をつつかれて、パートナーへと振り向く。薫は既に、扉の外に立っていた。
「なにしているんです? 神崎様」
「あ、あれ??」
 漠然とした違和感に、翔太は血の気が引いてきた。
「おい、何突っ立っているのだ?」
 武尊が固まっている翔太の肩を掴む。
 しかし、それは不味かった。翔太の意識は「幽霊が肩を掴んだ」と勘違いをした。
 翔太は混乱した。混乱して、「悪霊退散、悪霊退散」と叫びながら、【マジックワンド】を振り回して暴れ始める。
「や、やめるのだ、翔太殿! 我がないのか!?」
 暴れる翔太に幽霊と勘違いされて、武尊が殴られる。
「もおおやだぁあああ!」
 バンバカと倉庫中を殴って回る翔太に、薫も加夜も武尊も手が付けられない。
 暴れる彼に、棚が倒れてくる。
「神崎様、危ない!」
 翔太が棚の下敷きになる間一髪の所を、後ろから、薫が捕まえた。
「大丈夫ですか?」
 薫が再び彼の肩を叩く。
「ギャー! オ〜バ〜ケ〜!!!」
 翔太の精神が限界に達し、気絶してしまった。
 気絶した翔太を呆れ顔で薫は抱える。お姫さま抱っこで。
 翔太が暴れたせいで、倉庫内はグチャグチャに散乱してしまった。

 カタン――ッ

 加夜の足元に一冊の本が落ちてきた。今まで探して見つからなかった、その一冊を彼女は拾った。
 それは日記だった。
「誰のだろう?」
 研究者かと思い、《サイコメトリー》してみる。
 日記の著者がわかる。アリサ アレンスキーだと。
 それと同時に、加夜に情報と感情の波が押し寄せる。大きな悲しみ、そして胸を抉る憎悪――
「加夜殿? 加夜殿!」
 武尊の呼びかけにはっとする。勝手に流れている涙を袖で拭うと、すぐに日記を捲った。
 ロシア語の日記だが、なんとか読める。

4月12日

 私、今日強化人間になったらしい。特別な、強化人間と研究者は私と興味深々に見る。
 名前がアリサだから、被験体αって勝手に付けられた。
 トランスヒューマンとしての能力は、手術前と変わったところはないけど。
 本当にパラミタ化したのかな? なんか不安。


5月14日

投与薬がまた変わった。前の抗うつ剤も効かなかったし、今回もだめだかも。
ああ、頭の中で別の自分が何か言っている。
研究者は私が解離性同一性障害と診断した。
今日も眠れそうもない。明日も、αネット計画の実験が待っているのに。


6月、、日

もう嫌だ! 早く頭の中の私を誰か取り除いて!
ああ、ああ、今日も研究者はワタシを弄る!
助けてよ! 助けにきてよ!


6月―2日

 もう、ダメ。わたし、人殺した。
中験実 、わしたしじゃない、 ワタシが。 私のせい/じゃない

牢屋に っれてかれる 殺されるかも しれない
 わたし がじぶん がじゃない さようなら

―月/日 

み                  

             な

               こ           
               ろ

           す


 月 日

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「なんだこれ!? この後のページが血糊でひらかないじゃないか!」
 異様な日記に薫が顔を顰めた。最後の日記のページは呪詛のようなエグイ血文字の応酬だった。
 加夜はこの日記の持ち主が、天御柱の探している“キケンブツ”だと確信する。
「この日記を書いた娘、実験が重なるにつれて別人格に精神を乗っ取られたのね……、もしかすると、私たちの調べている『嘆き声』はこの日記の本当の人格が発している《テレパシー》の気がする。暴走する別人格から助けてと」
「てことは、幽霊騒ぎってのも?」
 薫に加夜は頷く。
「たぶん、全部この娘のせい。人を襲うポスターガイストは別人格の仕業だとすると、危険なことになりそう……!」

「――早く他の人にも知らせないと!」