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不思議な花は地下に咲く

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不思議な花は地下に咲く

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 2−コウフクソウにも幸福を……?

     ◆

 一方その頃、彼等がこれから向かうであろう洞窟の前に二つの人影が立っている。
「泰輔さん……本当に此処が目的地なのですか?」
 そう言いながらやや眉を顰め、洞窟の入り口を見つめるレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)
「んー……一応此処なはずなんやけどなぁ……如何せん、噂話を小耳に挟んだだけやしな、今は何とも言えへんよ」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は返事を返しながら、しかしその足を洞窟の入り口へと向けて踏みしめる。
「どちらにせよ、自分等で探してみいひん事には始まらんやろね。さぁ、行こか」
「はぁ……それは良いですが……」
 先に歩みを進めた泰輔に随伴する様に歩き出したレイチェルはそこで言葉を止めた。
「良いですが……なんやの?」
「何故私も一緒なんです?」
「そんなん……」
 わざとらしく考えるような仕草をした泰輔はしかし、にんまりと笑ってレイチェルの方を向く。既に洞窟内に入っている二人ではあるが、外からの微かな光で、何とかレイチェルからは泰輔の笑顔が見えた様である。
「うーん、今日はレイチェルと一緒に花見がしたかった。なん、それだけやった、あかんの?」
「…………」
 思わずレイチェルは言葉を失い、俯いた。
「それよかレイチェル、確か“トラッパー”、持っとるやんな?」
「え、ああ、はい。ありますが……?」
「よぉし。そこらかしこに罠張って貰いたいねんけど」
「はぁ……」
 何故だかわからない。とでも言いたそうにしながらも、彼女は早速罠を仕掛ける事にする。その様子がわかったのか、泰輔はすかさず補足を入れた。
「一応僕、花見のついでがあんねん」
「“ついで”……ですか?」
「そそ、ついで。うん。あんな、昨日小耳に挟んだんやけどな?どうやら小谷ちゃん等ぁ、その花摘むとか言いよんねん。せやからその妨害を、ちょいとな」
「……妨害、ですか」
 やはり少し腑に落ちないのか、首を傾げながら、設置していた罠から手を離すレイチェル。どうやら罠の設置が完了したようだ。
「お、一個目が出来たん?相変わらず手際がええなぁ、レイチェルは。さぁ、ならサクサク行こか。小谷ちゃん等ぁが来ん内に」
「泰輔さん、そこ、右かもしれません」
「おう、レイチェルの勘、頼りにしてるよ」
 言いながら、泰輔とレイチェルは先を急いだ。当然、道々罠を仕掛けながらに。



     ◆

「あぁ……眠い」
 洞窟周辺。リディア・カルニセル(りでぃあ・かるにせる)はそんな事を言いながら歩いている。“特に何処”と言う目的地はなく、それ故ふらふら、気ままな散歩になっていた。リディアの数歩後ろを歩くフィオレッラ・ベッセル(ふぃおれっら・べっせる)にしても、彼女が寝付けない時の日課として認識している以上、特に何を思うでもなく、自分は自分で楽しんでいる様だ。
「今日はのんびり寝れるといいねぇ」
「そだね、毎回付き合ってくれる姉さんにも悪いし」
「別に良いけどね、あたしはあたしで楽しんでるんだし、おまえが気にする事じゃあ、ないよ」
 のんびりと会話をしている二人。と、フィオレッラの方を向いて歩いていたリディアの背後から、わいわいと声が聞こえてきた。
「あれ?なんだろう、あの集まり」
「なんだかこっちにくるみたいだねぇ」
 二人で不思議そうに首を傾げていると、その先頭を歩いていた愛美も、二人に気付かずにリディアにぶつかる。
「あっ……ご、ごめんなさいっ!」
「ほら、後ろ向いて話しながら歩いてるからぶつかるんだぞ」
 慌てて謝った愛美と、脇から出てきたエヴァルトがリディアとフィオレッラに頭を下げた。
「いいのいいの、ワタシもぼーっとしてたのが悪いんだし、大丈夫だから」
「それより、お怪我はないかしら……」
「えっと、愛美です。小谷愛美!」
 フィオレッラの言葉に慌てて自己紹介をした愛美が続けた。
「私は大丈夫! 大丈夫です!」
「あらあら、元気がいいのねぇ」
 愛美を見ていたフィオレッラとリディアが笑う。と、リディアがふと、不思議そうな顔をして誰にともなく尋ねる。
「この集まりは……? これからピクニックかな?それともみんなでお散歩?」
「だったらあたしたちと同じだねぇ」
 リディアの言葉の後に、フィオレッラがぽんと、胸の前で手を叩いた。
「これから俺たち、ある噂を確かめに行くんです」
 今度は真人が一行からひょっこりと顔を出して、二人に返事を返す。「噂…?」と更に首をひねるリディアに、真人の隣にいた北都が言った。
「この先の洞窟の中に、どうやら不思議な花が咲いているんだってねぇ、そんな噂を聞いたのさ」
「で、俺たちは此処にいる先輩に無理やり探索させられに行く、と言う訳だ」
 北都の言葉に続けるエヴァルトは、隣にいたウォウルを一瞬だけ睨むと、リディア達にそう言った。
「いやいや、僕が悪者って感じになっちゃうねぇ。ま、それも面白いからいいけどさ」
 彼の言葉を聞いたウォウルはニヤニヤと笑いながらそんな事を言っている。
「兎に角、世にも不思議な花を探しに行こうって話で、これから俺たちはその探索にむかっているんですよ」
 話を纏めたのは、一行の後方にいた淳二である。
「なるほどねぇ……散歩には、もしかしたら持って来いかもしれないねぇ。ねぇ? リディア」
「うん、いいかも。ワタシたちも一緒に行けたり、するかな?」
 なんとも眠そうに、しかしどうやらそれは、彼女の中では十分やる気のある様子らしく、ぎゅっと拳を握りしめ、両手で小さくガッツポーズをとっている。
「噂が本当かはわかりませんが、それでもいいなら是非!」
 今まできょろきょろしていた愛美はしかし、にこやかな顔でそう言った。
「花探し……かぁ」
 心なし、フィオレッラの表情が明るくなっている。
 かくして、リディア、フィオレッラも探索隊一行に加わったのである。列の中に入り、ともに洞窟を目指すリディア周りに、どころかフィオレッラにさえ聞こえない様な小さな声で呟くのだ。
「良かったね、姉さん」