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不思議な花は地下に咲く

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不思議な花は地下に咲く

リアクション

     

「ああ、もう! なんなのよ、あの先輩!」
 セルファが怒りに震えながら走っている。彼女に追いついた三人は、特に何を言うでもなく、地鳴りのする方向へと向かっていた。と――。
「いやいやいやいや! 全然余裕じゃないじゃん、この状況!」
 彼女は思わず声を荒げ、驚きを見せた。勿論、真人、北都、リオンも驚きは隠せない。
 崩れ落ちた壁、その瓦礫の中に埋もれるラナロックと、それを守ろうとしている満夜、ミハエルが懸命にゴーレムと闘っている光景が眼下に広がる。どうやらラナロックたちのルートは、彼らが進んでいたルートの下に位置していたらしい。四人が慌ててそこから飛び降り、満夜、ミハエルの横に並んだ。
「みんなぁ!」
「……ようやく助けがきたか」
 満夜とミハエルがそう言うと、再びゴーレムの方へと向かう。
「先輩がやられた。動けん様だ、だから我々で守っていたが、この洞窟、どうにも脆い。周囲に影響するほどの大きな魔法を使えば、通路も何もかも埋もれてしまうやもしれん……」
「うわぁ……少し危ない、とかのレベルじゃないねぇ」
「怖いですね、案外」
 北都とリオンが緊張感なくそんなリアクションを取る。と――。
「皆さん、攻撃きますよ!」
 真人の一声に全員が反応し、四散する。ゴーレムの動きは遅く、一塊にならなければ攻撃は当たらない様である。
「あれは何よ! 通路壊れてるじゃない……」
 セルファが呆れた様に呟くが、ゴーレムに聞こえるはずもない。
「さて、増援はうれしいが、どうしたものか。先輩を守りながら、と言うのが……」
 ミハエルが聳え立つゴーレムを忌々しそうに見つめていると、途端、何かが前を横切った。慌てて一同を確認するが、どうやらその“何か”が見えていたのは、ミハエルだけではないらしい。辺りをきょろきょろと見回す一同を余所に、何処かで聞いた、人の神経を逆撫でするような声が聞こえる。
「おや、ラナ。君まだ寝ぼけてたのかい? みっともない」
「げっ……嘘っ」
 ラナロックの声が微かに聞こえ、全員で思わず彼女が横たわっていた場所を見やるが、そこにラナロックの姿はない。そして彼女は、倒れた場所から少し離れた位置で、ウォウルに抱きかかえられていた。
「――先輩!?」
「いつの間に!」
 セルファと満夜の声が間髪入れずにこだまする。
「いつから可愛い後輩君たちに守られる様になったんだろうねぇ、君は」
「……」
 ウォウルの言葉に思わず顔を赤らめるラナロック。そしてその言葉は、同行していた二人としては随分な一言に聞こえたようだ。
「待ってください! 先輩は私たちの相談に――」
「我輩たちに責任があって――」
「ありがとう、お二人さん」
 満夜、ミハエルの弁明はそこで一気に打ち消された。いままで通りの軽い口調ではないウォウルの言葉に、一同が止まる。
「心遣いはうれしいけれどね、それは“これ”の慢心に過ぎないんだよ。手本になるならしっかりしないと手本にならない。足手纏いは手本じゃあ、ないのさ」
 重苦しい声。威圧感に溢れた声。先輩としての、重圧のある言葉。
「馬鹿はよしなよ、ラナ」
「……はい」
 自分の力でようやっと立ち上がるラナが、力の限り銃を握った。
「これはみんなの戦いだからね、単に活路だけ作っておくよ。お膳立てだ、後はみんなで頑張って」
 急に今までの口調に戻ったウォウルが、両手に握るナイフでくるくると手遊びを始める。
「行こうか」
「はい――」
 ウォウルが途端、ゴーレムへ向けて走り始める。何故か、両の手を外に広げて。と、後方からの銃声が聞こえるや、彼の握るナイフはその姿を消す。
「あれ――?」
 北都は首を傾げた。ウォウルは徒手空拳のままに走り始めるのだから、誰しもが疑問を持ってもしょうがない。更に彼は走りながらに、一同へと言葉をつなげた。
「僕が合図したら、とびっきりの魔法を頼むよ」
 言われるがまま、リオン、真人、満夜、ミハエルが魔法を放つ準備にかかる。
彼らが準備を始めるのを確認したウォウルはその勢いのままゴーレムに向けて突進した。
「いやいやいや! 危ないでしょ!素手って」
 セルファの言葉はしかし、彼には届いていない。どころかウォウルは、緊張感のない、しかしどこにも隙のないシニカルな笑顔を、いつの様に浮かべている。
猛然と走り込む彼に目を奪われたいた飛鳥が、そこで気づく。成程、と、一言呟いた。
「持ってたナイフ、そこにあったんだ」
 彼が持っていたはずの、突然消えたナイフ。それはゴーレムの両胸に突き立っている。彼が投擲したわけではない、ナイフ。駆け寄った彼がそれを手にし、引き抜いた瞬間――。
「今だよ!」
 合図があった。準備されていた魔法が一斉にはなたれ、ゴーレム目掛けて飛んでいく。
「セルファちゃん、北都君! 魔法が消え次第切りつけて!」
「あ、は……はい!」
「わかりました!」
 今の勢いで宙に投げ出されたウォウルの言葉に咄嗟に反応したセルファと北都が、疾風が如く駆け抜けた。
「よし、魔法の支援、次行きましょう!」
 真人の言葉で、更に次弾を構えるリオン、満夜、ミハエル。
「でぇいやぁぁ!」
「これでっ!」
 ガリガリと、しかし確かな手ごたえを感じたセルファ、北都がそのまま駆け抜け、魔法を当てる為の射線を開けた。
「今です!」
 今度はリオンの掛け声共に一斉に攻撃が放たれる。
「す……凄い!」
 その攻撃たるや、隙はない。故に満夜は驚きと共に興奮にも似た感情を露わにした。
「やれる……! なんだ、僕たちこんなに強いんだ」
 北都も驚きを持っていた。戦いには勝てたとして、此処まで圧倒的とは誰が予測しただろうか。
「これが協力……と言うものか」
 魔法が着弾し、ゴーレムの回りに舞う土埃を見つめながらに、ミハエルは呟いた。
徐々に晴れ始めた煙に目を凝らす一同は、しかし全員で安堵のため息を漏らした。
「やった、みたいですね」
「うん。あれは流石に、ねぇ」
 真人の言葉に対し、北都が苦笑しながら近付いてくる。
「はぁ……疲れた」
 ラナロックがその場に崩れると、慌てて満夜とミハエルがやってくる。
「大丈夫ですか? 先輩」
「怪我の具合はどうなのだ?」
「あら、ありがとう。大丈夫ですわ、この程度」
 苦笑しながらに二人へ返事を返す彼女の体は、とても大丈夫とは言えない見た目ではある。が、すぐさま立ち上がるところを見ると、其処まで重症ではないらしい。
「いやぁ、凄かったねぇ!僕はビックリしたよ」
 今までの様に緊張感のない口調で近付いてきたウォウルに、思わず一同が言葉を失う。
「あの……」
「うんうん、君の言いたい事はわかってるよ、セルファちゃん。だからほら、僕たちは僕たちの仕事をしようじゃないか。大丈夫だろう? 満夜ちゃんに、ミハエル君」
「………」
「あぁ、問題はない。我輩たちが、ラナロック先輩を守るとしよう」
「うんうん、よろしく頼んだよ。さぁみんな、お花探しの続きと行こうか!」
 ウォウルはそう言うと、再び満夜、ミハエル、ラナロックのルートとは違う方角へと歩みを。
「……やっぱりあの先輩、なんだかなじめないよねぇ」
「北都もですか、私も今、そう思っていたところです」
「うん、適当なんだかなんなんだか、わからないわよね」
「どちらにしても、俺たちの仕事はまだ終わってないですし、行きましょう」
 四人はそう言うと、満夜、ミハエル、ラナロックと簡単に挨拶を交わすと、ウォウルが消えていった通路へと歩みを進めた。
「綾瀬、見てたかい? やっぱりあの先輩、面白いね」
「そうですわね、お兄様」
「我々も早く行った方が、いいんじゃないですか?」
 綾瀬、飛鳥の会話をドレスが区切り、彼女たちもウォウルの後を追う。



     ◆

 彼らが戦闘に奮迅しているその頃、泰輔、レイチェル、昌毅にマイア、カスケードは一足先にとある広まった場所に到着していた。
「凄いですね、レイチェルさん」
「何がです?」
 マイアが関心しながら呟くと、さらりとレイチェルが返事をした。
「だって、殆ど迷ってないですよ。此処まで」
「せやろ! ウチのレイチェルは凄いんやで?」
「やめてください、泰輔さん。それにマイアさん、今回はたまたまです。あくまで勘ですから、確証はないんですよ。だから偶然です」
「驕らない姿勢がまた良いのぅ、美人じゃし」
「お?おっちゃん、レイチェルに惚れたん?せやけどダメや、おっちゃんやった、ちょっとアウトや」
「な、何でじゃ!」
「若さが足りんって。うははは」
「何をぅ!? 見るか!? わしの自慢の――」
「カスケード、いちいち自慢しなくていい」
 昌毅の言葉に項垂れるカスケードを笑いながら、一同は遂に目的地に到着した。
「此処が、一応噂になってるっちゅう場所なんやけども……」
「幻の花、何処でしょうね」
 泰輔とマイアが辺りを見回す、と、レイチェルが何かを発見した。
「みなさん、あそこ――」
 思わず――五人は息を呑んだ。ようやくたどり着いた目的。そこに咲く花を見つけたのだから。
「す、凄いやん! これは花見のし甲斐があるなぁ!」
「おいおい、まじかよ……」
「まるで心が洗われるようじゃの……」
 かくして、彼らは季節外れの花見をするのだ。“幻の花”と言う噂を秘めた、花を肴に――。