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激闘、紳撰組!

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激闘、紳撰組!

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 その会合が行われていたのは、さざれ雨の滴る夜更けの事だった。
 羽が濡れぬように、鳥が柳の木の枝へと足を止める。
 正面にある逢海屋には、その時、暁津藩士である八川清郎と、朱辺虎衆の白虎及び朱雀と玄武、そして黒龍が同じ部屋にいた。
「我らが暁津藩は、単なるマホロバ西国の藩のひとつではない。二千五百年前の天下二分の戦いでは鬼城家につき、『戦功大なり』の褒章に預かった身だ。――しかし現在まで大名として優遇されてきたが、問題がないわけではない。藩政改革は進んでいない。暁津勤王党の一派が藩内で一大勢力となり、扶桑の都で活動を行っている。しかし最近では、その反体制運動に懐疑的な複数の同志達が決別、脱藩者を出している」
「即ち脱藩者は、必ずしも反体制運動に好意的ではない――例えば、梅谷才太郎も」
 白虎が呟くと、清郎が首を振った。
「あやつは、どちらか一方に傾く事自体に異を唱えておった。――誠にマホロバを想うがやきあれば、広い志を持たなければならん、それが梅谷の口癖だった、違うか?」
 清郎の声に、黒龍こと三道 六黒(みどう・むくろ)が頷いた。玄武が言う。
「攘夷運動だけでも、これまでの佐幕の体制を保ってばかり居る事も、梅谷さんの意には反するんですね」
 すると清郎が大きく頷いた。
 ――丁度その時の事だった。
「討ち入りだァァァァ」
 別の部屋にいた攘夷志士が声を上げる。
「ここは一度逃げて下さい、私目がおとりになります故」
 そう告げ玄武が部屋を出て行く。

 それが逢海屋事件の始まりだった。

 先発隊として突入してきたのは、黒野 奨護(くろの・しょうご)である。彼はいささか目付きの悪い黒い瞳をまじまじと、攘夷志士を名乗る不逞浪士へと向けていた。その瞳には、負けず嫌いの色が宿っている。同色の長い黒髪が揺れていた。
「覚悟!」
 そう告げ踏み込んだ彼の刀を、不逞浪士の一人が正面から受け止める。
 ――キンッ、そんな高い音が辺りへ響いた。
 愛刀である黒長刀・月狼をかざし、間合いを取った奨護は、一呼吸着くと、相手へと踏み込んだ。血飛沫が舞い、不逞浪士が床へと伏す。
 その後を追いかけてきた柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)徳川 家康(とくがわ・いえやす)、そして皇 玉藻(すめらぎ・たまも)が息を飲む。
不逞浪士の一人が、奨護に後ろから斬りかかろうとしていた。
 それを氷藍が制する。
 ――ガチン、高いそんな音が辺りに谺した。
 力の押し合いになり、氷藍が床の上で後ずさる。
 そこへ玉藻が、スキルの『トラッパー』を発揮した。
 そんな彼に載った状態で、家康が『スプレーショット』を放つ。
「儂も玉藻に乗って氷藍と共に暴れ回ってやるのじゃ」
 そう口にして家康は笑った。
「とにかくこの鬱憤を敵にぶつけてやるのじゃ!!」
 慌てふためくように退去を始めた浪士達へと向かい、レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)カノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)が視線を注ぐ。
 先発隊が騒ぎを大きくするまでの間、レギオンは、特技とスキルを活用し、ブラックコートを用いた潜入、諜報活動中心に行う為に一足早く逢海屋を訪れていた。だがここへ来て、知人の姿に、意を決する。
 光条兵器『宵ノ月』を用いた援護射撃を行い、奨護や氷藍らを手助けした。『宵ノ月』は、刀身に銃火器を仕込んだ紫の片刃長剣である。抜刀術と体術をメインにした戦闘をしているレギオンは、『東雲流』を基にした我流抜刀術と斥候活動が得意なのである。
 彼は、生還する事を最優先に考え、劣勢になったら特技や装備、スキルを用いて逃走ができるよう準備をしながら周囲に目を配らせていた。
 一方のカノンはといえば、前衛の牽制に尽力していた。
「くっ」
 不逞浪士の一人に斬りつけられた奨護に対しカノンは、ヒールを用いる。
「そろそろいいんじゃない?」
 ――陽動には充分だろう。
 そう判断した彼女に、一同が頷いてみせる。そこでカノンは、光条兵器である『ネメシス』を用いた。『ネメシス』は白銀の長剣であり、刃から強い光を放ち、目晦ましや灯りにも用いる事が出来る。それを応用した目晦ましで彼女は逃走のサポートをしたのだった。






「扶桑の治安を維持する為には手段も選ばないし、勇理が出来ない汚れ役は俺が引き受けよう」
 そんな事を呟きながら、逢海屋からあがってくる叫声を耳に、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は静かに目を見開いた。
「壱番隊の半数を裏道や死角……逃走経路になりそうな所に配置、分担は良いな?」
「はい!」
 隊士達が威勢良く声を上げる。
「俺はここにいる。ヘイズ――頼む」
「分かってるよ」
 それに笑って返し、ヘイズ・ウィスタリア(へいず・うぃすたりあ)は中へと踏み込んだ。
「紳撰組壱番隊部隊長ヘイズ・ウィスタリア参る」
 これが陽動とは異なる、逢海屋討ち入りの、真の幕開けとなった。
 何処か間延びした、いつもの優しさを滲ませる声ではあったが、部隊長のその声に、皆がオオオッと声を上げ着いていく。
 突入をヘイズに任せた正悟は、戸口を静かに見守っていた。
 蟻のように、そこからは不逞浪士達が逃げようと出てくる。
 ――ズン。
 その出てきた連中の首を死角から切り捨てた正悟は、再度刀を振った。
 ヒュン、という音と共に、辺りに血飛沫が舞う。
「……悪即斬、まあ何が悪かは人によって変わるがな……」
 それでも今、信じるモノがあるのだからと、そんな気持ちで彼は、逃げ出してくる輩を横に縦にと切り捨てていった。
 その様子を見守りながら、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が隊の一同を見回した。
「あちき達もコレより踏み込む。準備は良い?」
 その声に、三番隊の隊士達の声が上がっていく。
「あちきは逢海屋への討ち入りに直接出るよ。組長の責務を果たさなければならないしねぇ。捕り物ですから出来るだけ捕獲しましょうねぇ、じゃないと――……尋問も出来ませんしねぇ」
 近藤 勇理(こんどう・ゆうり)の事を想い、レティシアが静かに瞳を揺らした。だが気を取り直したように続ける。
「捕り物では某めだか師匠直伝のカニばさみを活用してドンドン転ばせないとねぇ」
 笑い混じりにそう告げて、レティシアは肩をすくめてみせる。
「まぁ、出来るだけ吐いてもらわないと行けませんから、こちらも遊郭で培った手練手管をフルに活用しないといけませんねぇ――拷問だけじゃなくて精神的にも攻めますよぅ」
「はい!」
 隊士達の声が威勢良く上がる。
「鞘の件にせよ、背後関係にせよ、聞かなきゃならないものは山ほど有りますしねぇ。まぁ、素直に答えてくれたら……少しは天国を味合わせてあげても良いけどねぇ」
 最後の一言には妖艶な笑みが溢れていたが、それに関しては隊士達は意図的に見なかった事にした。
「参番隊組長、レティシア・ブルーウォーター参ります!」
 こうして紳撰組参番隊もまた、逢海屋へと踏み込む事にしたのだった。
「俺たちも行こう」
 その後に続くように、氷室 カイ(ひむろ・かい)がそう声をかけた。大人びた赤い瞳の奧に、情の厚さが滲んでいる。ここまで関わってきた事から、彼もまた近藤 勇理(こんどう・ゆうり)の力になろうと考えていたのだった。すると雨宮 渚(あまみや・なぎさ)が言う。綺麗な薄茶色の髪が夜風で揺れていた。
「しかたないわね」
 このようにして二人もまた逢海屋へと踏み込んだのだった。
 迎え撃ったのは、逃げようとしていた、猫柄の腕輪をつけている男だった。
「攘夷の心、貴様等に潰される気はない!」
 そう叫びきりかかってきた相手を、カイが静かに交わしてみせる。
「本当の敵は誰だ? 私ではないはずだ!」
 渚の反撃に飛び退いた彼は、舌打ちしてそう叫ぶと、踵を返して窓から外へと逃げていったのだった。






 朱辺虎衆の四天王である朱雀達を逃し、関わりのある暁津藩士八川清郎達を逃した玄武は、一人残り畳の上で精神統一を図っていた。
 他につけねらわれている不逞浪士達を滅した後、紳撰組がこの場へと到達するのは時間の問題だった。
 練度こそ朱辺虎衆に分があるかも知れなかったが、数と志気では必ずしもそうは言えない。――そんな事を考えていた時、玄武は首領の言葉を不意に思い出した。
『負ける気で戦うのは、負けとぶっちゅうだ。勝つ気で行かにゃぁいかん、何事も成されん』
 負ける気で行けば負ける、勝つ気でいけと、確かに嘗てそう言われた事がある。
「首領、俺は朱雀様らあをお守りするがよ。そき攘夷のこの心を」
 思わず呟いた玄武は、それから南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)鯉之堀灰路へと視線を向けた。
「志士達は逃してくれたか?」
 意図して標準語で話した彼は、光一郎の黒い瞳をしっかりと見据えた。
「嗚呼」
 鯉之堀灰路ことオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)と共に、彼は朱辺虎衆の重鎮は兎も角、攘夷志士あるいは不逞浪士と呼ばれる者達を、玄武の依頼のままに避難誘導して戻ってきた帰りだった。
「そうか。礼を言う。後は――お前等二人も逃げてくれ。ここは俺が食い止める」
「だけど俺だって朱辺虎衆の一員じゃん」
「だからこそだ。生き残って、俺たちの思いを継いでくれ」
 玄武のその声に二人は顔を見合わせた後、立ち上がったのだった。
 入れ違うように、その部屋に紳撰組壱番隊部隊長のヘイズ・ウィスタリア(へいず・うぃすたりあ)と、参番隊組長のレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)がやってくる。
「漸く来たか、紳撰組」
「大人しくお縄に着くんだね」
 レティシアがそう言って構えると、玄武が喉でくつくつと笑った。
「俺たちにはやるべき事があるんだよッ――!」
 そう叫んで斬りかかってきた玄武を、ヘイズが受け流す。
 双方の足袋と靴が、畳の上で音を立てた。
「大丈夫か?」
 かけつけてきた黒野 奨護(くろの・しょうご)が、雅刀を抜く。
 躯を逸らして交わしたヘイズは、未だ余裕ある表情で頷いた。そして、聖剣を構える。
「大丈夫だよ、なかなかの手練れみたいだけど」
 彼がそう言うと、今度はレティシアが踏み込んだ。
 真剣と真剣が交わる甲高い音が辺りに谺する。
「こんな所で俺がやられるか――! 首領を始め、朱辺虎衆の思いは揺らぎはしないッ!」
 叫んだ玄武が踏み込んでくる。畳がささくれ立ち、かわした紳撰組隊士達の靴が、壁の間際まで後退する。足袋で闊歩する玄武は、荒れた畳を踏みながら、不敵に笑った。
「俺一人倒せもしないで、何が扶桑の都を守るだ。そもそも、何を基準に守った気で居るんだ、馬鹿馬鹿しい」
「紳撰組を愚弄するな」
 ヘイズが、スッと目を細める。するとそこへ海豹村 海豹仮面(あざらしむら・あざらしかめん)が到着した。
 六番隊の強勢に、不逞浪士達も、朱辺虎衆達も、続く部屋へと後退する。
 周囲の部屋の出口は既に、壱番隊と参番隊の隊士達が覆っている。
「海豹村に錦を飾らないとですねぇ」
 そんな間延びした声とは反対に、彼の動きは素早い。彼が両手に持つ剣が、玄武の腕を抉った。
「くっ……」
 多勢に無勢、もう駄目かと思われたその時の事である。

「わしが守ってやると言ったであろう」

 とどめを刺されようとしていた玄武の正面に、その時三道 六黒(みどう・むくろ)が立ちふさがった。 朱辺虎衆四天王は黒龍の異名を持つ彼は、舞い戻ってきたのである。
「黒龍――」
 手を引かれ立ち上がった玄武は、その後ろにいる白虎へと視線を向けた。
「皆で紳撰組を討とうではないか!」
 そんなかけ声の下、不逞浪士達を一通り逃がし終わった朱辺虎衆の面々は一致団結したのだった。
「わしらは上で控えている、どこへも逃げない」
 六黒の声が響く。すると喉で笑ってから白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が一歩前へと出た。
「朱辺虎衆と殺りたけりゃ、まずは俺を倒してからにしな」