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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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古の守護者達 ~遺跡での戦い~

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第1章「『悪』が求める物」
 
 
(……やっぱり破れないか。こりゃ随分強固だねぇ)
 遺跡内部の結界前。障壁を前にしながら松岡 徹雄(まつおか・てつお)が心の中でつぶやいた。
 彼はガスマスクを装着した『掃除屋』と呼ばれる裏の姿をしている。
 徹雄が今この場にいる理由。それは――
(参ったねぇ。これじゃ依頼を果たす事が出来やしない)
 ――依頼、つまり暗殺を目的とした行動だ。そしてその対象はこの中にいるザクソン教授を始めとしたマジックアイテムの調査班。
(しかしまぁ、わざわざおじさんに頼んでくるとは……年寄り一人の為に随分警戒してるねぇ、あいつらも)
 依頼という事は当然依頼主が存在する。徹雄にザクソン教授の暗殺を依頼した相手、それは『マジックアイテムの調査で精力的に活動するザクソン教授を好ましく思わない者』だった。
(おっと違った。目的は、以前本の世界に巻き込まれた広域無差別被害を憂慮しての正義の鉄槌だったね。『そういう事になってる』んだったよ)
 古狸どもの言葉を思い出し、苦笑する。とは言え依頼は依頼。それを受諾した以上は善悪や道理、常識に至るまでを考慮の対象外としてただ無言で依頼を果たす。それが松岡 徹雄という男だった。
「通れませんね……どうするんですか?」
 徹雄に同行してきたアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)が尋ねる。彼女と白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)はただ徹雄の依頼に付き合ってここまで来ただけで、特に竜造は近くの壁にもたれて不機嫌そうに暇を持て余している。
(トモちゃん、こんな所にはいないよね……ならどうなっても私には関係無いかな……)
 アユナは『トモちゃん』と呼ばれる存在を病的なまでに捜し求めていた。その為行動の価値基準は『トモちゃん』に関係あるかどうかのみで、それに関わらない今回の件に関しては結界がどうなろうとも――徹雄の依頼が果たせなくとも、ザクソンが救助されずに中で倒れようとも――構わないと思っている。
 徹雄が何らかの方針を提示する前に、入り口から新しく男女がやって来るのが見えた。男の方、火天 アグニ(かてん・あぐに)は先客の姿を認め、いつも通りの軽薄な笑みを浮かべる。
「ありゃ、カナンで見た事がある奴らじゃねぇの。こんな所でどうしたってんだい?」
 アグニとその連れ、イェガー・ローエンフランム(いぇがー・ろーえんふらんむ)は西カナンにある疫病で滅びた村、イズルートで起きた事件の際、共に他の契約者達と戦った事があった。もっとも、協力した訳では無く、あくまで互いの邪魔をしないというだけではあるが。
「えっと、私達は――」
 竜造はこういう事に協力的では無いし、徹雄は依頼の遂行中は無言になる。仕方なくアユナがこちらの目的を伝えると、当時同じく本の世界に巻き込まれていたアグニはヒュウと口笛を吹いた。
「ザクソンってーとあの変な世界に巻き込まれた時のか。暗殺たぁ爺さんも偉くなったもんだねぇ。ま、あん時ゃ色々大変だったからなぁ。んじゃ、ちょいと挨拶でもしてみっか」
 結界の前に立ち、中に呼びかける。アグニは本の世界から現実に戻った際にザクソンと接する機会があったので、向こうは何の警戒も無く結界の向こうに姿を現した。
「おぉ、お主か。随分早い到着じゃな」
「ん? 早いって何の事だい? 爺さん」
「何じゃ、依頼を受けて来た訳では無いのか? 見ての通り発掘の段階でヘマをしての、結界に閉じ込められたので学校に救助の依頼を出したのじゃよ」
「へぇ、そいつは知らなかったぜ。って事ぁ、他にも沢山来るって事かい?」
「幸いな事にの。もう少しすれば集まって来るとは思うのじゃが」
 アグニが少し考える。救助という事は来るのは契約者達だろう。ならばこの遺跡にいればイェガーの望む、正義や信念に燃える存在との戦いが行えるかも知れない。
「爺さん、この結界はどうやりゃ壊せるんだ?」
「完全には分かっておらん。先ほど魔法生物が外に放たれたがそれだけとも思えんし……何かしら結界を維持する物が周囲にあると見るのが自然じゃろうな」
「なるほどなるほど。そいつが分かりゃ十分だぜ。サンキューな、爺さん」
「すまんの、わしらも中から脱出出来ないか調べておる。外からは頼んだぞ」
 ザクソンに背を向け、ヒラヒラと手を振る。そうしてイェガー達の所に戻ったアグニは、今聞いた事を全員に伝えた。
「ほぅ、ここに来る奴がいるって事か。おっさんの依頼に付き合わされただけってのが気に食わなかったが……暇潰しくらいは出来そうだな」
 それまで関心が無いという風だった竜造が、救助の為に人が集まっているという話を聞いて反応する。その顔に浮かんでいるのは笑みだ。
 
「ふふ……皆さんお揃いですね」
 その時、遺跡の奥から一人の男が現れた。着物に身を包んだその男を見て、アグニが意外そうな声をあげる。
「お、元締めまでこんな所にいるとはねぇ」
 アグニは『悪人商会(あくとしょうかい)』とよばれる組織に所属していた。その組織の元締めが今現れた彼、両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)だ。
「ごきげんよう、アグニ。それから現状の整理、ありがとうございます」
 話を聞いていたのだろう、悪路が扇子で口元を隠しながら微笑む。
「お話にあった結界の強化ですが、恐らくは奥にあった光る石の存在が鍵でしょうね」
「光る石?」
「えぇ、私達は故あって遺跡の奥にいたのですが、結界が発動したと同時に辺りにあった石が輝き始めました。周囲に滲み出る魔力……あれはさながら、結界を護る守護石と言った所ですね」
「なるほどねぇ。て事ぁ後から来る奴らはそいつを壊しに来る可能性が高いって訳か。どうだい? イェガー。そこで待ち受けりゃあいつもみてぇな戦いが出来るんじゃねぇの?」
「……あぁ、そうだな」
 アグニがパートナーに話を振る。だが、当のイェガーは何か考え込んでいるようだった。アグニがその疑問をぶつけるより早く、突然現れたシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が場の注目を奪っていく。いつも通り、かなりテンションが高い。
「素晴らしい! 結界を護る為の守護の石! ならばそれを護り、石の本懐を遂げさせるのもまた救世!!」
「ひっ!?」
 アユナが通路に隠れ、そっと顔を出す。彼女は以前、本の世界でシメオンと出会っていたが、その時から彼の異常なまでに高いテンションに怯えを見せていた。
「その石が残ってりゃ結界は壊れねぇ……そうすりゃ邪魔も入らずにマジックアイテムが俺様の物になるじゃん!」
 更にゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)も姿を現す。マジックアイテムの独占を狙うゲドーにとって、ザクソンは邪魔な存在と言える。ここにいる者達はそれぞれ動機が違うが、守護石の前に立ち塞がる事によって自身の望む結果になるという事は共通していた。
「おい、さっき『達』っつったな。てめぇがいるって事ぁ、あのおっさんもいんのか?」
 竜造が悪路に尋ねる。ここで言う『おっさん』は先ほどまでの会話にあった松岡 徹雄の事では無い。悪路のパートナー、そして竜造とは刃を交えあった事もある三道 六黒(みどう・むくろ)の事だ。
「勿論いらっしゃいますよ」
「……ククッ、何でぇ、暇潰しどころか十分楽しめそうじゃねぇか。おい、あのおっさんはどこにいやがる」
「せっかちですねぇ。まずはやってくるお客様を出迎えて差し上げようではないですか。せっかくこれだけの方が揃っていらっしゃるのですからね」
 再び扇子で口元を隠し、微笑みながら竜造の気迫を受け流す。そしてこの場にいる三組へと視線を向けた。
「奥には大小様々な守護石が存在します。その中でも一際大きな物が五つ……白、黒、赤、青、黄と別の色を放っています。私達は守護石を護った方が良い立場とはいえ、積極的に協力する仲では無い事も確か。なら思い思いの場所に散り、好きに戦った方が良いでしょう」
「――なら、最後の一色は私が頂こうか」
 リデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)が現れる。サングラスによって隠された彼女の視線からは真意を推し量る事は出来ないが、悪路は構わずそれを受け入れる。
「ふふ、これは面白い事になりましたね。貴女もこの悪路の策に乗りますか?」
「やって来るのは正義感を持った者達なのだろう? 人命を救う為に全力を尽くす……それに立ち塞がる事で彼らの成長を促し、垣間見る事が出来るだろう。私はそれを見てみたいのだよ」
 戦いは手段でしか無いゲドー、戦う理由を重んじる六黒、戦いに臨む信念に心を燃やすイェガー、戦いでの成長を見たいリデル、そして……戦いその物に愉しさを見出す竜造。
 全く別の目的を持った五組の『悪』達は、やがて来る契約者達の前に立ちはだかるという共通の事柄の前に危うい均衡を保っていた。
「では、私がそれぞれの守護石へとご案内しましょう。さて、この采配……どう転びますかね」
 悪路が遺跡の奥へと歩き、他の者達も続いて行く。
 五つの毒が潜んでいる事。それをまだ、助けに来る契約者達は知らない――