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コンビニライフ

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コンビニライフ

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―――現在。
 店内で考え事をしていたセルシウスに渋い声で呼びかけたのは、レジで働く店員の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)であった。
「店長代理殿! レジのヘルプを頼みます!」
「……わかった!!」
『クランマート』と書かれたエプロンをつけたセルシウスがレジへと向かう。
 この店にはレジが三台置いてある。
 一台目は小次郎。二台目は猫耳姿の金元 ななな(かねもと・ななな)……の面倒を見ながら、実際にレジを打つのは猫耳を付けたルカルカ・ルー(るかるか・るー)ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)である。
 朝の通勤時間、通学時間を迎えていた店内は猫の手も借りたい程の賑わいを見せていた。
 店員である北都は客への真摯な説明に追われ、リオンは彼の判断により清掃活動に従事している。
 空席となっていた三台目のために、小次郎はセルシウスを呼び寄せたのであった。

 やや緊張した面持ちでカツッカツッと歩を進めてレジへ向かうセルシウスを不安気に見ているのは、ルカである。
「ルカ? 大丈夫なの、あの人? さっきから『!』や『!?』マークが一杯飛び出してるけど?」
「仕方ないわよ、アコ。本物の店長が倒れてんだから……それに、何か態度も偉そうな人だし。ホラ、ななな! 袋に入れる時は重い物が下よ!」
 アホ毛を揺らすななながルカルカの言葉に頷いて、ペットボトルを慌てて袋から引っ張り出す。
 なななのエプロンの胸部には、他の店員にはない大きな若葉マークがつけてある。
 ななな本人は「階級章だー!」と喜んでいたが、それが店の健全な運営を考えての処置であるという事は、店で働く者なら誰もが知っていた。
「まぁ、見守るしかないでしょうね……」
 テキパキとレジ打ちをしながら、そう呟いたのは小次郎である。


 話は数分前に飛ぶ。
 店の裏のバックヤードに置かれた電話を取ったのは丁度商品を探しに来ていたルカルカであった。
「はい。クランマートシャンバラ国境店です。……あ、店長……え? お休み?」
 そこに「トイレ、トイレー!!」となななが走りこんでくる。
 電話を切ったルカルカが困った顔でなななを見る。
「ななな、ちょっとマズい事になったわ」
「何? 何? 何が起きてもなななにお任せ! パンチラ上等!!」
 その場駆け足をしながらなななが底抜けに明るい声を出す。
「……パンチラはさておき……」
 この店で店員としてバイトを始めて数日経つルカルカが危惧していたのは、『店長不在』という事。只でさえ、問題が多い地域にあるこの店は、事あるごとに「店長を出せ!」というクレーマーが多かった。だからこそ店長は『心の病』で本日はお休みすると言ってきた事も容易に察しがつくものであったが……。
 ルカルカから電話の内容を聞いたなななは、フンッとアホ毛を垂直に立て得意げな笑みを見せる。

「いよいよ、なななが店長っていうわけね!」

「ええ、それは断固させないから」

 新米少尉なななの付き添いとして遠くからはるばる三倍速箒でバイトに来ていたルカルカには『帝国の動向を知る諜報や騒乱防止』という目的もあった。ななな店長の誕生はそういう面で喜ばしい事ではない。しかも彼女自身、昼は学校があるため勝手知った彼女自身もずっと店に貼りつく事は出来ない。共に働く皆も恐らくそうであろう。
 ルカルカがなななの提案をあっさり否決した時、セルシウスがバックヤードに入ってくる。
「むっ……ここは店の在庫置き場か……」
「……ちょっと待って」
 積まれているペットボトルを手に取るセルシウスを見つめていたルカルカがポンと拍手を打ち、なななに向き直る。
「ななな? ちょっとこのマーク貸してね?」
「えー!? だってこれは、なななの……」
「なななにはこれをあげるわ」
「これは……何?」
 ななながルカルカから渡された猫耳付きのカチューシャを見やる。
「皆には秘密にしているんだけど、実はこれ、超高度な電波受信機よ?」
 半信半疑で頭に猫耳を付けたなななが、首をかしげる。
「何も聞こえないけど?」
「おかしいわね? なななのM76星雲からの通信速度が飛躍的に上がるはずなんだけど?」
 ルカルカの言葉に、ななながハッとした顔で天井を見上げる。
「す、凄い!! 回線がビックリする程クリア!! 従来の髪のアンテナと合わせて三本!! これがバリ3という状態ね!!」
「……でしょう? じゃあこのマーク、貰うわね?」
「うん。あー、トイレトイレ!!」
 慌ててトイレへと走っていくなななを見送ったルカルカが、置いてあった予備のエプロンに若葉マークを付け、セルシウスに渡す。
「これは……」
「いい? 貴方は今からこの店の店長代理に選ばれたのよ? これはその印なの」
「何ッ!? ……だが、私も貴公や先ほどの少女が持つその猫の様な耳の方が……」
「……これはプロ仕様なの」
 ピョコンと揺れるルカルカの猫耳。
「そうか……私はまだまだなのだな」
 額に手を置き、考え込むセルシウス。
「いや……そう本気で落ち込まれても……」
「しかし、店長代理は嬉しいが、私は右も左もわからぬぞ?」
「平気よ。そこは私達バイトでフォローするわ」
 こうして、セルシウスはルカルカの機転により、急遽コンビニの店長代理、いや店員の一人として働く事になったのであった。