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ティーカップパンダを探せ!

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ティーカップパンダを探せ!

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【8・残り3時間】

3日目 A.M. 06:00

「チッ、なんてザマだよ。まったく」
「こうなっちゃあ、もう細かい作戦は無意味ぜよ。攫うならなりふり構わずいくしか」
 傭兵龍騎士の一派は、ある者は重傷になり、ある者は行方不明となり、いまや戦えるのはクィントゥスも含めて五人しかいなくなっていた。
 しかしだからといって、このまま何の成果もなしに逃げ帰るつもりは彼らにはなかった。
 だからこそ朝も早くから森のなかを移動しているわけなのだが。
 そんな彼らの近くで、密かに動く影があった。
 それはバイクで偵察に出ていたスノー・クライム(すのー・くらいむ)。彼女は彼らを観察しながら、銃型HCへと話しかけている。
「どうやら、相手はかなり疲弊しているようね。それにあんまり統率もとれていないみたい。ただ、全員がワイバーン乗りだから油断はしないほうがいいでしょうけど」

「了解。引き続き、動きがあったら報告を頼む」
 会話していたのはパートナーの佐野 和輝(さの・かずき)
 彼はアニス・パラス(あにす・ぱらす)とともに鋼竜の零竜に搭乗していた。
 スノーとの連絡ののち、和輝はすぐにべつの番号へと連絡をはかる。
「もしもし?」
『はい、こちら叶』
 相手は叶 白竜(よう・ぱいろん)
 白竜はパートナーの世 羅儀(せい・らぎ)とともに、アンズーの黄山で掘削作業現場に来ていたのだが。教導団の佐野和輝に協力することになり、現在待機中なのである。
「そちらは、なにか異常はありませんか」
『ああ。問題ない』
『ティーカップパンダちゃん〜出ておいで〜』
 通信に羅儀の声が入ってくる。のんきなその声に、どうやら本当になにも異常はないようだと察する。
「引き続き、その場で留まっておいてください。そうすれば確実に包囲できる筈ですから」
『心得た』
 通信を切り、和輝は改めて操縦桿へと意識を傾けた。
「さて。それじゃ、いくかな」
「うん! がんばろーね、和輝!」
 予定の地点に傭兵どもがさしかかったのを見て、
 和輝はすぐに先行して接近し、いきなり零竜に装備させたスナイパーライフルによる狙撃を迷わず敢行する。その弾丸は一匹のワイバーンの横顔に命中して、呻き声とともに暴れ出しはじめる。
 その背に乗っていた男は突然のことに驚きながら振り落とされ。樹木に何度もぶつかりながら、地面へと激突した。背中から落ちたので、簡単には復活しないだろうと確認後、
 和輝は残りの四人を視界にとらえなおす。
「気づかれちゃったよ、和輝!」
「わかってる。これも作戦のうちだから心配しなくていい」
 和輝は慎重に、かつ追いつけないよう後退しながら、さらに銃弾を数発お見舞いしてやる。すると相手は、大きめの木に隠れるように動き。視界から外れながら、こちらを追い込むように飛翔してくる。
 さらに、
『和輝、小柄な男が別方向へむかっていくわ。どうする?』
 スノーからの通信がきて、和輝は数秒で思考を巡らせる。
(劣勢とみて逃げ出した……いや、回り込んで挟み撃ちにする作戦か。それとも、なななを先に押さえるつもりか?)
 思いつく選択肢はそのくらいだが。
「念のため、外れたほうを追ってくれ。こっちはもう視認できるからな」
 和輝はどれであっても慌てず騒がず、まずは中距離にまで近づいてきた連中へ向けマシンガンで上空に弾幕を張り。相手を低空飛行させておく。
 そこへ別の方角から弾が飛来し、一匹の翼を撃ち抜いた。
「よし、やったぜ!」
「このまままず一匹仕留めるわよ」
 やったのはトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が乗っている焔虎のアイゼンティーゲル
 こちらもスナイパーライフルを装備させており、そのまま遠距離射撃でよろめいたワイバーンの翼にもう二発攻撃をお見舞いしてやると。そいつはよろめきながら大木に激突してそのまま動かなくなった。
 たとえ修羅場をくぐった傭兵龍騎士といっても、ワイバーンはかなり扱いが難しい生物。何日も気を張って行動させていては、人間より遥かに疲労がたまりやすく。そこへきてのこの遠距離奇襲は、面白いほどうまくきまって倒すことができていた。
 だが。
 相手もさすがに警戒レベルを強めたらしく、あえてワイバーンを地におろし。ゆっくりと歩行させながら和輝のほうへ近づいてくる。
「ね、ねえ。大丈夫なんだよね。和輝」
「ああ。大丈夫だから」
 実際包囲の陣形はほぼ固まってきている。……のだが。
 唯一の不安が頭をよぎり、そしてそれは的中した。
 ふたりの傭兵龍騎士たちが、揃ってこちらへ突進してきたのである。包囲網を察してか、玉砕覚悟でもひとりづつ確実に仕留める方針に切り替えたらしい。
「く……こういうとき、なりふりかまわなくなってる相手は厄介だ」
 マシンガンで乗り手のほうを狙うが、先頭の男が構えたカイトシールドに阻まれる。
 このままだと後退が間に合いそうになくなりそうで、こうなればいっそこの場で相手をするかとも考えたが。
「こっちに来い!」
 そのとき、トマスが特技の指揮で叫んできた。
「1対1、1対多、は勝てば格好いいけど、勝利を目指す以上、負けられない以上は、確実策を。功に焦るな、実利を狙え! そうすれば、『結果』はあとからついてくる!」
 和輝は包囲網を崩すことに躊躇したが、
「いくよ、和輝! いいよね!」
 代わりにアニスが先に機体を操り、トマスたちのアイゼンティーゲル機のところまで走りはじめた。
 和輝はその間に、スノーと白竜たちへ作戦の変更を伝えておく。
「さあ。一気に畳み掛けるぞ!」
「トマス、冷静に。でないと、見えてたものが見えなくなるわ」
 トマスたちは和輝たちが合流するや、再びスナイパーライフルで狙撃の構えをとる。
 狙うのは相手側の指揮をとるクィントゥスだが、再びカイトシールドの男が庇うように前へ出てくる。防御には自信があるのか、イコンクラスの威力を持つ弾丸を盾ひとつで器用に次々弾いていく。
 だが。その盾男は、クィントゥスを庇おうとして多対1の構図に自ら持ち込んでしまった失策を、理解していなかった。
 援護射撃する和輝のマシンガンが、ワイバーンの足元を貫いた。彼自身を狙われたのであればうまく防御したのかもしれないが。騎乗しているワイバーンを狙っての攻撃に、バランスを崩され。
 そうすれば当然、盾の位置も歪んでしまい。そのわずかなずれが、弾丸の衝撃を殺しきれず。盾男はワイバーンから振り落とされ。近くの木に頭をぶつけて失神してしまった。

「くっ……またひとりやられたか。だが勝利の余韻に浸っていられるのも、今のうちぜよ」
 いっぽう。
 和輝たちの背後に回り込んだ小男は、対イコン用機晶ランチャーを構え、狙いをつけようとしたところで。
「そんな物騒な火器を使わせるわけにはいきません」
「まったく。オレはパンダちゃん探すんだから、手間かけさせないで欲しいよな〜」
 和輝の指示で、彼のさらに背後に回りこんでおいた白竜たちの声がかけられた。
 そこからの小男の反応は早かった。
 ワイバーンは前に向かせたまま、くるりと自分だけ反転し、息もつかぬままランチャーを発射させる。
 攻撃を予想していた羅儀は反射回避で近くの岩場に隠れて砲撃をかわし、そこからさらに機体を前進させ。超接近戦にもつれこませる。こうすれば、相手はまきぞえを恐れて威力の強すぎる武器を使うことができない。
 加えてこちらが装備しているのは、右手に堀削用ドリル、左手にハンマー。
 これで勝敗は決した。

 小男が、思い切り叩きのめされている頃。
 その近くでなななは今もティーカップパンダ捜索に勤しんでいた。
 相変わらず飛空船につられ、崖下を探すというあぶなっかしいやり方で。
「ななな。あんまり無理しないほうがいいよ、龍騎士たちも探し回ってるらしいし」
 なななの傍に控えているののは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)。ふたりは肩にロイヤルガードエンブレムが描かれた、金色のイーグリット・アサルトグラディウスに搭乗して警戒をしている。
「だってもう時間がないんだもん! 残り少ない時間を、かなり無駄にしちゃったし!」
 昨日の時点でなななが目を覚ました頃には、時刻はすでに夜の10時くらいになっており。そこから夜中も無理して電波を頼りに探しに出てみたものの。やはり闇の中では効率は下がるばかりで。
 本格的な捜索を朝になるまで待たされたのだから、無理もなかった。
 盲目的になってきているなななに、美羽はもう一度声をかけようとしたが、
「美羽さん! きました!」
 ベアトリーチェが敵の接近を知らせたことで、すぐに崖上へと舞い上がる。
 目に入ってきたのは、命からがら逃げてきたという形相のクィントゥス。しかもそんな満身創痍ながら取り巻きの姿が見当たらないところを見ると、どうやらもう彼ひとりしか戦力は残っていないとわかった。
「はぁ……はぁ……おい、なななとティーカップパンダをこちらに渡せ」
 クィントゥスは、簡潔に要求を告げてくる。
 飛空船が上空にある以上、ごまかしは無意味。となれば、
「そんなこと、できるわけないじゃない!」
「おとなしく退いてくだされば、私たちも追いませんけれど」
 徹底交戦の構えに、クィントゥスは静かに「そうか」とだけつぶやき。
 騎乗しているワイバーンを軽く小突いて、いきなりドラゴンブレスを放ってきた。
「!? 体勢も崩さないまま、ブレス攻撃してくるなんて!」
「どうやら、相当に追い詰められてるようですね」
 迫ってきた灼熱の猛攻を、上昇して回避すると。
 相手も急上昇して突っ込んできて。クィントゥスの振り回したバスタードソードが、グラディウスの左足部分にぶつかり派手な金属音を奏でた。
 クィントゥスはビリビリと腕が痺れるのを感じながら、再びワイバーンを小突きブレスを吐かせようとしてきたが。ベアトリーチェはそのタイミングにあわせ、持たせておいたバズーカを口内に突っ込んだ。
 直後、ブレスとバズーカの攻撃が至近距離でぶつかりあい。光と熱風が混ざり合った大爆発が巻き起こった。
「ぐあああっ!」
「きゃあ!」「んっ!」
 美羽とベアトリーチェはイコンのおかげで、軽い衝撃だけで済んだが。
 クィントゥスは口から煙を吐きながら墜落していくワイバーンから振り落とされ、地面へと叩きつけられ――そうになったが。そこは持ち前の運動神経で、近くの木をクッションにして無事に降り立った。
 けれど。クィントゥスさえも予想だにできなかったのは、
 ついさっきまでグラディウスの中にいて、しかも衝撃に軽く翻弄されたはずの美羽がイコンの外に文字通り飛び出していたことである。
 そしてクィントゥスは、はためくスカートらしきものと、白いなにかが視界に入ったのを最後に。顔面に衝撃を受けて気絶した。

 解説を加えておくと、美羽が行なったスキルはエンドゲーム。
 相手が気づかないほどの超高速キックを炸裂させた結果であった。
「ふう。意外とあっさり片がついたね」
「どうやら、他のみなさんがかなりダメージを与えてくださっていたようですから」
 ともあれ、こうして傭兵龍騎士たちは全滅されたわけだが。
 肝心なるなななの問題はまだ解決されたわけではなく。
 それどころか刻々と時間だけが流れていくばかりで。
 和輝や白竜、トマスたちがこの場に合流する頃には、既に時刻は9時を迎えようとしていた。