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ティーカップパンダを探せ!

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ティーカップパンダを探せ!

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【9・電波少女、錯乱する】

3日目 A.M. 09:00

「あ……ああ…………」
 ついに、なななにとっての時間制限が過ぎてしまった。
 宇宙艦隊どうこうを信じていなかった面々も、なななが叫び出したり暴れたりするのではという点についてはやはり心配せざるをえない。
 たとえそれが妄想であったとしても、その人物にとって重大な意味を持つのであれば、やはり無視してよいものでもないのだから。
「間に、合わなかった……」
 がくん、吊られた状態で手足を投げ出し。放心状態になるななな。
 アホ毛にそえていた両手も、今更なにをしても無駄と言わんばかりにだらりと垂れ下がってしまっている。
「宇宙警察の大艦隊の、総攻撃がはじまるわ。もう、おしまいよ」
 なななの頭のなかでは、とある選択肢が駆け巡っていた。
 こうなってしまっては、もうこの世界はおわり。となればはやく宇宙警察と連絡をとって自分を回収してもらわなければ命が危ない。電波が届かない今の状態では、巻き添えになりかねないのだから。
 だがそれは、こうして協力してくれた皆を見捨てるということで――
「う、うぅぅううううううううう……!」
 ついに苦しそうに呻き出したなななに、叶白竜はひとまずロープをたぐりよせて崖の上まで引き上げるが。
 ゆすっても叩いても、彼女はこちらに反応しない。
「安心してください。宇宙警察はこの白竜が迎撃します。宇宙警察の大艦隊の規模は? 駆逐艦、巡洋艦の数は? こちらはイコンによるパラミタと地球防衛軍を編成します」
 真剣に、淡々と、そして無表情に説得を試みようとするが。
「もう、だめよ……なにをしても……大艦隊の規模は、それこそ、百や千みたいなレベルじゃないんだもの……」
 なななの目からは生気が失われようとしはじめていた。
 説得する者、心配そうに見守る者、見てみぬ振りを貫く者。誰に対しても、まっとうな反応を示さず自分の世界に浸透してしまっているななな。これはかなり危険な状態だった。
「待ってくれ!」
 そこへさらに近づいてきたのはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)
 クレアは腕時計をなななの眼前に示す。そこに表示されている時刻は、8時30分。
「何を言っている、まだ時間は過ぎていない。早く宇宙警察に連絡するがいい」
 もちろん、時間は8時30分ではない。事前に時間を遅らせておいたのだ。
 要するに、クレアは適当な嘘をついてごまかしているだけだが。
 聞いているのかいないのか、なななは呆けたままの状態で反応がない。
 いよいよマズイかと、クレアはテクノコンピューターを取り出し、これまで軍が集めた情報の取りまとめを行なっていく。
 念のためなななに禁猟区のスキルをかけておくのも忘れない。今のままでは、イヌネコにすらあっさり倒されてしまいそうな勢いなので。
「宇宙警察への連絡を遅らせてまでアルミ箔巻いてるんですから、きっと見つかりますよぉ」
 パティはそう言ってなななを励ますが。やはりこたえてはくれなかった。
「うぅ……どうしよぉ。ねぇ、クレアさん。どうしましょぉ」
「こうなったら、一刻もはやくティーカップパンダを見つけるしかないな」
「で、でもぉ、いまさら発見できたとしても、なななさんは……」
「だからってなにもしないわけにもいかないだろう。こういう場合、ひとつの問題を解決すれば糸口が見えてくるものなんだよ」
 言われて、パティも付近の茂みの捜索をはじめる。
 そして。つぎになななに近づいてきたのは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)
 彼女は黙ったままでいたかと思うと、おもむろにテレパシーを行使しはじめる。
『な、ななななななな! なが7つのなななさんですね。魔法の国から来ました騎沙良詩穂です、よろしくお願いします☆』
 なんだか意味不明な世界に突入している発言(声には出していないが)に、聞く者がいれば顔をしかめそうだったが。
 なななはぼんやりと、詩穂のほうに目線を向けると、
『宇宙警察の攻撃は既に始まっていると見たほうがいいここがまだ安全となるとブラジルの方面にでも侵攻しているのかだとすると今からでも侵攻の中止を進言すればいやでもななななんかの発言が今更受理されるとは思えないむしろ反旗を翻したととられたらそうよなななはもう宇宙刑事失格でどこにも居場所なんかない』
 頭のなかの電波を発信してきた。
(わあ……なかなかに、電波が爆発してる感じだね。でも、負けないよ!)
 ヘンな対抗心が芽生えた詩穂は、傍に控えさせておいた自分のティーカップパンダを指し示して。
『こちらは詩穂のティーカップパンダのパンちゃんとティーくんです☆ パン食には紅茶が合いますよね? それでつけた名前なんです♪』
 説明しよう! 2人合わせて『パン・ティー』だ。
 可愛らしいティーカップパンダの名前に隠された恐るべし秘密である。
 よい子のみんな、世の中には知らなきゃよかったという事もあるぞ!
 と、宇宙的な意思の解説が終わる頃には、
「ティーカップ……パン、ダ……そうだ……はや、く……さがさ……なきゃ……」
 なななが、かすかに声をもらした。どうやら、シャンバラ教導団としての使命感が、わずかだけ心に残っていたらしい。
 そこに詩穂はわずかに希望を抱きながら、秘密兵器である薔薇のティーセット&パラミタ動物図鑑を取り出す。
 これもまた『パン・ティー』の組み合わせである。
 もはや言及したら負けである。
 その影響というわけではないだろうが、なななの目にわずかだけ光が戻りはじめていた。
『なななさん! 詩穂も協力するから、場所がわかったらテレパシーで教えてね☆』
 あとは行動あるのみとばかりに、詩穂は空飛ぶ魔法↑↑で崖下へと降り。崖に空いた小穴を中心に、捜索をはじめていった。
「ああ……ななな、は……」
 それを見送り、なななはどうすればいいかを考えはじめた。

 クゥ〜マ〜ッ……

 と、そのときなにかみょうちきりんな叫びがかすかに場に轟いた。
 かと思うと、
「わーっはっはっ!」
 謎のマシン音と共に天から響く笑い声。
「大きい事はいいことだ!」
「ダイナマイッボディ!!」
 やがて雲の中から現れる光の筋。イコン高機動型シパーヒーに照らされながら、操縦席から飛び降りて来るのは、
 赤い仮面の全裸の男。
 と、ブラジャー付けた巨大パンダ。
 誰の目も丸くなって、純情な女性陣は目をそらせる。なななはぼけっとしているのみ。
 赤仮面の正体は変熊仮面(へんくま・かめん)
 ブラジャーを付けた体長18mの巨大パンダは巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)
「大きいことは、いい事じゃけん!」
 わざわざパンダ模様に体を黒白に塗ったイオマンテは、変熊のイコンに吊り下げられて空を飛んできたのだった。
 とまあ細かいことはそのくらいにしてとりあえず変態が登場である。
「……宇宙、警察の方……じゃ、ないわよね……」
「え、宇宙警察? まぁ、宇宙的なジャスティシアってことならそうかも……。そんな気がしてきた……。うむっ! そう、俺様が宇宙警察であるっ!」
 ぼんやり調子のなななには、全裸で堂々と胸を張る。
「大艦隊が迫ってるのに……気楽なものだね……」
「大歓待……? あぁ、ありがと……」
 会話がまるで噛み合わない。
 あまりのムチャクチャぶりに、なななのほうが逆に平静をとりもどしはじめていた。
「ふふふ……聞いて驚け。このパンダ、バストのトップとアンダーの差が57.5?。これぞまさしく『Tカップ』パンダ! こっちの方が絶対いいって!」
「肉、肉、野菜、肉、野菜、たまに笹!」
 変熊が賞賛するイオマンテは、意味不明なことを言いながらブラジャーつけてマッスルポーズをとっていた。
 フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)戸次 道雪(べつき・どうせつ)立花 眞千代(たちばな・まちよ)シュバルツ・ランプンマンテル(しゅばるつ・らんぷんまんてる)たちは、そんな彼に唖然とする思いだった。
 もっとも、フィーアはななながおかしくなったことのほうが気になっており。
 眞千代とシュバルツはティーカップパンダ探しに勤しみ、イオマンテの存在感に圧倒されているのは道雪くらいだったが。
「それで、大艦隊っていうのはどこにいるんだ? ぜひ見てみたいんだけど」
「え……? ダメ、ダメダメダメダメ! あれを目にした頃には……もうきっと生きてられないんだから……それより、ティーカッパンダが……」
「あれがティーカップパンダだよ。間違いない」
 なななの話を聞きたくて、イオマンテを指差して適当なことをのたまうフィーア。
「だから…………なななが、探してるのは……繁殖期のティーカップパンダで……」
「繁殖? ワシに任せろ!」
 轟音立てて腰を振りはじめるイオマンテ。
 色んな意味でげんなりしはじめたなななを見かねて、詩穂が戻ってくるや、
「馬鹿で変な熊が現れちゃったのね。なななさんに悪影響だから帰ってよ」
 辛辣な言葉をあびせてきた。
「ば、馬鹿だと? せっかく苦労して色塗ったのに……。侮辱しやがって!」
「いや、塗ったとか言っちゃってるじゃない。侮辱もないもないじゃない。そんなでかキモい物体」
「ぐぬぬぬ! もう許さん! 行けいっ、イオマンテ!」
 正義の鉄槌を下すのだ、とばかりに指示する変熊。
 イオマンテもさんざんなる罵声に逆切れし、肉食獣の本能を剥き出しにして暴れ始め。
「おおう。あの熊、ついに本性を現したようじゃのう」
「パンダ探しを邪魔をするなら、あたしが容赦しないよ!」
「関係ない人に迷惑をかけるものではないのだよ」
 感化されていきり立つ眞千代とシュバルツ。道雪だけはなんか楽しそうだったが。
 それからは大変だった。
「テメェの“空“っぽの頭ァ、“スタンドイン“してやるよ……?」「俺様に逆らうつもりなら容赦なしだ!」「私の仲間に手出しはさせないのだよ」「ウガアアアアアアアア!」「ううむ、さすがに口から光線などは出ないんじゃのう」「痛っ! おいこら、私たちはまったく関係ないであろう」「わあ。なんで、こんなになるんでしょ〜ねぇ?」「大艦隊には、どんな兵器が搭載されているんだ?」「だから……いま、それどころじゃ……あいた! だ、だれ、なななのアホ毛つかんでるの!」「なななさんの電波は、詩穂が守ります!!」
 暴れ始めた変熊とイオマンテに、眞千代とシュバルツがぶつかって。ちゃんと捜索に勤しんでいたクレアとパティをも巻き込んでの騒動になり、フィーアや道雪、なななも戦闘に参加させられてそこに詩穂も加勢に入り――。
 と、暴動のことを知らせに行った白竜が飛空船で待機していた教導団のメンバーを連れてくる頃には、ほとんどの人間(とクマ)が死屍累々の状態にされてしまっており。
 とりあえず暴れ疲れた様子の変熊とイオマンテは、教導団が隔離しておくこととなったのであった。
「ああ……ひどいめに遭った……でも、ちょっと落ち着いてきたかも」
 予想外すぎる事態にすっかり毒気を抜かれたなななは、ふと頭上を見上げて。
 アホ毛にくっついていたアルミ箔がさっきのゴタゴタではがれているのに気がついた。