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【なななにおまかせ☆】スパ施設を救う法

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【なななにおまかせ☆】スパ施設を救う法

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第五章

――サバゲーが終わってから数日が経過した。
「……うーん、どうなったかなぁ」
 施設に着いたなななが呟く。数日間、広報を手伝ったりと色々と宣伝活動を行なっていたのであった。
 その間施設には来ていなかったので、今日は様子を見に来たのだ。
「あ、なななさん!」
 ボニーがなななを見つけて声を上げた。
「あ、ボニー。どうしたの? そんな慌てて」
「た、大変なんです! 来て下さい!」
 慌てた様子のボニーに連れられ、なななが施設に入ると
「……うわ」
言葉を失った。

――プールには、少し前とは比べ物にならないくらい人がひしめき合っていた。

「ぷ、プールだけじゃなく、ここの所お客様が段々と増えてきて……い、今従業員が足りないんです! 手を貸してください!」
「う、うん! わかったよ!」
 なななが頷いた。

「お待たせしました」
 封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が、更衣室から出てくる。
「あ、白花。水着入った?」
 一足先に着替え終えていた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が白花に尋ねる。
 白花が着ている黒いビキニの水着は、月夜の物だ。去年の水着が駄目になってしまったというので、貸したのである。
「ええ……ただ、ちょっと」
「ちょっと?」
「胸がキツくて……ってどうしたんですか月夜さん?」
 その場で、月夜が打ちひしがれた。
「……す、少しは成長したはずなんだけどなぁ」
 自分の胸のボリュームに、一人涙を流す月夜であった。
「所で、刀真さんは?」
「ああ、あそこ」
 月夜が指差す。そこには、一人で泳ぐ樹月 刀真(きづき・とうま)がいた。
「凄いスピードですね」
 白花が呟く。
 刀真の泳ぎは遊びでなく、トレーニングのそれだった。ただひたすら、身体を鍛えるような泳ぎばかりだ。
「さっきからずっとあんな感じなのよ……」
「無理していなければいいのですが……」
 月夜と白花が心配そうに刀真を見る。泳ぎ終えたと思うと、今度は別の泳ぎを始めていた。
「……よし、一つ気分転換でもさせますか」

「……ふぅ」
 ノルマを追え、休憩するか刀真は考えていた。
「刀真」
「刀真さん」
「ん、何だ?」
 月夜と白花が笑顔で話しかけてくる。
「鬼ごっこでもしない?」
「鬼ごっこ?」
「ええ、気分転換に一緒に遊びませんか?」
「鬼ごっこねぇ……」
 刀真は少し考える。トレーニングを終えた今、疲労感が体に残っている。これならばこの二人とやってもいい勝負になるかもしれない。
「わかった、やるよ。もう少し落ち着いたら……」
「それじゃ、刀真が鬼ね」
「は?」
「スタートです♪」
 白花の言葉を合図に、二人はプールへ潜っていった。
「ちょ、人の話を……ああ全く!」
 刀真が潜る。二人の姿を水中で確認した。距離は、月夜の方が近い。
 ならばと月夜を狙いクロールで追いかける。全力ではなく軽くではあるが、身体能力の差はある。あっという間に月夜に追いつきそうになった。
「ほら、タッ――」
 月夜に触れようとした瞬間、
「そこを狙い、撃つ!」
いつの間にか、月夜は水鉄砲を握っていた。拳銃型の物だ。
「ぐおっ!?」
 顔面に水鉄砲の水をくらった。水が鼻や器官に入り込み、たまらず刀真がむせる。
「せいこーう♪」
「いえー♪」
 月夜と白花がハイタッチを交わす。
「狙い撃つ……じゃねぇよ!」
「あ、怒った?」
「鼻に入ったんだぞ! 鼻に!」
「よし、逃げよう白花!」
「ええ、刀真さん、捕まえられるなら捕まえてくださーい」
「あ、こら待て!」
 そのまま逃げる二人を刀真は追いかける。
 鬼ごっこをやっていたはずだったが、いつの間にか忘れて二人を追いかけることに夢中になっていた。
 そして、夢中になっている自分に気づき刀真が苦笑する。
「ありがとうな、二人とも」
「え? 何か言った?」
「良く聞こえませんでした」
「ああ、絶対捕まえてやるから覚悟しろって言ったんだよ!」
 そう言って、刀真は二人をまた追いかけ始めた。

「わーい、プールだプールだー!」
 プールを目にしたエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)が、嬉しそうに駆け出す。
「あ、エリーズ、走ったら危ないですよ」
 そんなエリーズを窘める様にレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が止めた。
「大丈夫だって。レジーヌは心配しすぎ……お、ウォータースライダーがあるよ! 行ってみようよ!」
「え、ワタシはちょっと……行ってきていいですよ、エリーズ」
「えー、一緒に行こうよー」
 誘うエリーズに、レジーヌが困ったような表情をする。
「あら、ならワタシと一緒に行かない?」
 そんな二人に、アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が話しかける。
「ワタシも遊びに来たんですけど、一人なので。よければ一緒に、と思いまして」
「え、でも……」
 エリーズがエリーズをちらりと見る。
「行ってきていいですよ。えっと……」
「あ、ごめんなさい。ワタシはアルメリアです」
「あ、アルメリアさん……れ、エリーズをお願いします……」
 初対面の人と話す気恥ずかしさで、俯きながらもレジーヌがアルメリアに言う。
「はい」
 そんなレジーヌに、アルメリアは笑顔で返した。

「「きゃー♪」」
 上から、あっという間にスライダーを滑り降り、出口からエリーズとアルメリアが出てきた。
「ただいまーレジーヌ」
「お帰りなさい。どうだった?」
「面白かったよー」
「二人だったので楽しかったわ」
 エリーズとアルメリアが嬉しそうに言う。
「そう、良かったですね」
「さて、次はあなたね」
「……え?」
「一緒にスライダーで滑りましょうよ、レジーヌちゃん」
「え……で、でも……そ、その……」
 どもるレジーヌの手を、アルメリアが掴む。
「ほら、行ってきなよレジーヌ!」
 その背中を、更にエリーズが押す。
「う、うん……よろしく、アルメリアさん」
「よろしく、レジーヌちゃん」
 微笑みかけるアルメリアに、レジーヌも顔をほころばせた。

「みっねら〜る みっねら〜る こ〜うご〜うせ〜い♪ むっしさ〜ん つ〜いか〜で ドーピーングー!」
 プールにぷかぷかと浮き輪で浮かびながらご機嫌そうにペト・ペト(ぺと・ぺと)が歌う。
「……ぺト、なんだその歌?」
 そのすぐ近くのプールサイドで日本酒をあおりつつアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)が突っ込む。
「何って、元気になる歌です。温泉成分ミネラル、光合成、それに虫さんまで加えてぺトは元気百倍ですよ!」
「最後のドーピングってなんだドーピングって」
「水辺の虫さんを体内に取り込むんです。美味なのですよ……む!」
 ぺトが、浮いている小さな虫を発見した。
「とうっ!」
 即座に触手を伸ばし、虫を捕獲する。触手に絡めとられ、じわりじわりと虫が消化されていく。その様は、一言で言うとグロテスクだ。
「はぁ……美味なのですよ……」
 そしてうっとりとぺトが呟いた。
「いや、それ普通にキモい」
「アキュートさんはこの幸せがわからないのですよ。損をしているのです」
「知りたくない幸せだな」
「うむ、楽しそうでなによりだ」
 そんな二人を見て、空中遊泳中のウーマ・ンボー(うーま・んぼー)が微笑ましそうに言う。
「おいマンボウ、そんな所で泳いでないでこっちで泳げよ」
「そうです。せっかくのプールなのですよ」
「すまないが、それがし泳ぐのは空だけと決めておる。それがしに構わず、楽しんでくれ」
 そう言いながら遊泳を再開するウーマ。空中に浮かび、気持ち良さそうにしている。
「……ふむ」
 突如、アキュートが立ち上がった。
「アキュートさんどうしたのです?」
「ちょっと借り物をしてくる」
 そう言って何処かに言ったかと思うと、すぐにプールサイドへと戻ってくる。
「何を借りてきたのですか?」
「ちょっとな」
 そう言うとアキュートはプールサイドへしゃがみこみ、何か作業を始める。
「む、何をしているのだ?」
 空中に浮かんだウーマが聞いてくる。
「いやなに、ちょっとこれを試してみようと思ってな」
 そう言って立ち上がると、手に持った水鉄砲の銃口をウーマに定めた。
「ぬ!? 何をするアキュート!?」
「いや、だから試し撃ちをな!」
 そう言って、アキュートが引き金を引いた。水が真っ直ぐにウーマ目掛けて飛び出していく。
「ぬお! う、うおおおおおおおおおおおお!
 そして、大きな水しぶきを上げてプールへと墜落した。
「……浮かんでこないな」
「浮かんでこないのです」
 墜落し、沈んだままのウーマを見て、二人が呟く。
「あいつ、まさか泳げないとかないよな?」
「まさか、そんなわけないのです」
「だよなぁ、これで泳げなかったら詐欺だよなぁ……」
 二人は笑うが、一向にウーマは沈んだまま浮かんでこない。
 そっと、アキュートが覗き込む。中には沈んだウーマが、ピクリとも動かずにいた。
「って泳げないのかよ!」
 アキュートはプールに飛び込み、沈んだウーマを引き上げる。
「くっ……お、重い……! はぁっ!」
 やっとの思いでプールサイドへと引きずり出す。
「お、おい大丈夫か!?」
「水を吐いたです!」
 ぺトが言うと、ごほごほとむせるような音がウーマから聞こえてくる。
「カッ!」
そして目を見開いた。
「……お前、泳げなかったんだな」
「……お、漢は……言い訳をしないものだ……」
 苦しそうに言うウーマに、
「かっこよくねーよ」
「かっこよくないです」
アキュートとぺトがハモった。

「ぶはっ! よし、俺の勝ちだな!」
 プールの端まで泳ぎきったロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)水面から顔を出し、息を吸い込むと勝ち誇ったように言った。
「ぶはっ! ぜぇー……ぜぇー……」
 遅れて端に到着したレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)はロアとは対照的に、疲れ果てた表情で必死に呼吸を整えている。
「おいおい、もうギブアップか? 体力無いな〜」
 からかうようにロアが言うと、呼吸を整えつつレヴィシュタールが睨む。
「お……お前がケタ違いなんだ……」
「そんなことないだろ。そっちが見た目どおりもやしなだけだろ」
 ロアの身体は細身ではあるものの、鍛えられている。対してレヴィシュタールの身体は白く細いが、決して貧弱というわけではない。

「二人とも楽しそうだなぁ」
 そんな二人を、監視台からイルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)が眺めている。彼は今回、プールの監視員のアルバイトをしている。
「ロアはあんなに大きくなって……元気に泳ぐ姿が見れるとはなぁ……」
 生暖かい目でロアを見て、そう呟く。イルベルリのロアを見る目は、完全に保護者のそれだった。

「私が普通なだけだ。大体、何往復しているのかわかっているのか!?」
 レヴィシュタールが感情を露わにしつつロアに言う。
 レヴィシュタールの言う通り、ロアの体力は桁が違っていた。彼はプールに入ってから、もうかれこれ二桁の回数を往復している。しかも全力で泳いで。これについていける者等、そうはいないだろう。
「いや、お前もうちょっと基礎トレーニングとかしたほうがいいんじゃないか? それに、泳げると楽しいぞ〜?」
 だが、全く自覚の無いロアはこれ見よがしにレヴィシュタールの前を泳いでみせる。
「……ほう、調子に乗りおってからに」
 その姿に、レヴィシュタールが少しイラっとする。そして目の前を通り過ぎようとしていたロアを捕まえる。
「ん? 何?」
「こうされてもまだ余裕があるかな」
 そう言ってレヴィシュタールが牙をむく。吸血鬼特有の鋭い牙だ。
「うげ! ちょ、お前こんな所で何をする気だ!?」
「何って血を吸うのだよ。吸われて尚、そんな態度が取れるか試してくれようか!」
「やめてくれ! 俺はまだ泳いで……アッー!」 
 がぶりと、レヴィシュタールの牙がロアの皮膚を貫いた。

「わ、わあああああ! あの吸血鬼こんな公衆の面前で吸血なんて何考えてるんだああああ!」
 監視台の上から見ていたイルベルリが叫ぶ。
 血を吸われたロアの体から、段々と力が無くなっていきぐったりとしている。
「どどどどどどどうしよう! そ、そうだこういうときこそ監視員さんに頼れば……ってその監視員は僕だああああ! どうしたらいいんだああああああ!
 突然の状況に、完全にイルベルリは混乱していた。
 この後、別の監視員に発見され止められることで事態は漸く収拾がついたのであった。

「ふあー! プールなのでーーーす!」
 楽しげに水しぶきを上げながら、オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)が泳ぐ。
「オルフェ、楽しそうに泳いでるなー……」
 そんなオルフェリアの姿を、セルマ・アリス(せるま・ありす)がぼんやりと眺めている。
「ぷはっ!」
 潜っていたオルフェリアが、姿を現した。
 普段は帽子に収められている彼女の長い髪が広がり、水しぶきが日の光を反射する。
 その姿に、一瞬セルマは心を奪われる。
「ふあー! 水が気持ちいいです……あれ? セルマさん、オルフェを見ているけど何かついているですか?」
「え? ああいや、なんでもないよ」
 セルマが顔を赤くして首を横に振り、否定する。
(言えるわけないよなぁ、見惚れてたなんて……)
 セルマが心の中で呟く。
 そんなセルマを見て首を傾げたものの、オルフェリアは再度泳ぎだした。
「……綺麗だなー」
 泳ぐオルフェリアの姿を見て、セルマが呟く。
「セルマさん! セルマさん!」
 オルフェリアがプールの中から、セルマを呼ぶ。
「ん? 何ー?」
「こっち! こっち来て下さい!」
「何だろ……」
 立ち上がり、プールの端へ近寄る。
「何?」
「もっと近寄ってください」
 そう言って手招きするオルフェリアに従い、セルマが屈んだ――瞬間、
「えいっ♪」
「え?」
オルフェリアがセルマの腕を掴み、
「そぉーい!」
ぐいっと引っ張った。
「え? えええ!?」
 突然の事に対処できず、大きな水しぶきを上げプールへと落ちるセルマ。
 水の中、目を開けると目の前にオルフェリアが居た。
 長い髪が広がった、先程見惚れた光景があった。
 先程と違うのは、オルフェリアがセルマを見ている事だ。
「……ぶはっ!」
「ぷはっ」
 二人は同時に水中から上がり、息を吸い込む。
「……えっと」
 突然の事に混乱し、何と言っていいか解らなくなっているセルマに、オルフェリアは笑顔で言った。
「セルマさん、一緒に泳ぐのですよ♪」
「……はは、ははは」
 その言葉に、セルマは笑った。驚きのあまりに笑うしかない、という気持ちと何故かこみ上げてきた嬉しさに。
「セルマさん、何で笑ってるのですか?」
「いや、ちょっとね……うん、一緒に泳ごう」
「はい♪」
 満面の笑みで、オルフェリアが頷いた。
「けどオルフェ、こういう危ない事はやめようね。溺れたらどうするのさ」
「え? その時は……」
 少し考える仕草を見せると、オルフェリアは頬を赤く染める。
「えっと……まうすとぅーまうす?」
 そして、首を傾げつつ言った。
 そんなオルフェリアを見て、何となくセルマは『この娘には敵わないんだろうなぁ』と一瞬思った。

「オルフェちゃんはリア充みたいだし、羨ましいもんだねぇ」
 その光景を眺めていた不束 奏戯(ふつつか・かなぎ)がニヤつきながら呟く。
「だというのに、俺様はリア充になれてないんだよねぇ!」
 そして、不貞腐れたように叫ぶ。先程見かけた女の子をナンパするも失敗。今日はこれで何連敗か、数えるのも嫌になってきたところであった。
 その頬にはナンパ失敗の称号である赤い手形がくっきりとついている。
「おーい、そこ行く不遇さーん」
「誰が不遇だ! 俺様ってば奏戯って名前が……って、何してんの?」
 奏戯がプールを見ると、ヴィランビット・ロア(う゛ぃらんびっと・ろあ)がぷかぷかと仰向けで浮いていた。その姿はラッコを連想させる。
「実は足ツッちゃってさー」
「え、大丈夫!?」
「うーん、駄目。痛くて上がれないから、引っ張り上げて欲しいんだけどー」
「わ、わかった! 今引っ張り上げてやる!」
「ありがとー」
 そう言って奏戯が伸ばしたてをヴィランビットが掴んで、
「あれ?」
ぐいっと、ヴィランビットが引っ張った。結果、
「うおっ!?」
奏戯が引っ張られ、耐え切れずプールへ転落する。
「んー……とりあえず上がってみようかな」
 ウィランビットがプールの端に手をかけ、
「よいしょっと」
奏戯に足をかける。
「〜〜〜!?」
 抗議しようにも、水中なので奏戯の声は届かない。
「よいせ」
 足に力を籠めて、踏み抜く。
「んぶぉあっ!?」
 その足は奏戯の頭を踏み抜いた。
「んしょっと。あー、やっと上がれた……お? 足痛くない」
 何時の間にやら攣った足は治っていたようで、動作を確認するようにヴィランビットは動かしてみた。
「治った治った。さて、何処行こうかなー」
 そう言ってヴィランビットは去っていく。
 その後ろで、ゆっくりと何かが浮かんできた。

「……はぁ、はぁ……お前は何で言う事を聞けないんだ!?」
「めー……」
 リドワルゼ・フェンリス(りどわるぜ・ふぇんりす)に怒られ、牧場の精 メリシェル(ぼくじょうのせい・めりしぇる)がしょんぼりと頭を垂れる。
「めー! めー!」
「駄目だっての!」
 メリシェルが『プールに入りたい』と言うように強く鳴くが、リドワルゼが止める。
「何度も言っているがな、お前のその体毛でプールなんぞ入ったら……」
「めー!」
 説教を始めたリドワルゼの隙を突き、メリシェルがもっこもっこと足音を鳴らしつつプールへと向かう。
「って言ってる傍から!」
 即座に反応し、メリシェルを咥えて捕獲する。
「めー……」
 悲しそうにメリシェルが鳴く。
「あーもう……いいか、もう一度言うからな。お前がプールに入ったら危ないの!」
「めー!」
 リドワルゼに『何が危ない』と抗議するようにメリシェルが鳴いた。
「危ないに決まってるだろ! お前の体毛が水を吸って……ん?」
 その時、リドワルゼの視界に何かが入る。プールの上、何かが流れてきた。
「…………」
 それは、仰向けに浮いてぴくりとも動かない奏戯だった。
「……溺れてああいう事なる」
「……めー」
 流石にメリシェルも納得したように鳴いた。

 その後、セルマ達が見つけるまで奏戯は水死体のように水面を浮いていた。