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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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「いらっしゃいませ、御注文をどうぞ」
「じゃあ俺はこの……おおぅ!」
 席についた男がその店員の姿を見て、思わず息を飲む。
 そう、その店員とは『男子是即悩殺!』なる白黒ツートンの牛風の柄をしたバニーガール姿の衣装に身を包んだルクシィ・ブライトネス(るくしぃ・ぶらいとねす)である。
 ばっくりと開いた胸元からは、こぼれ落ちそうなたわわな胸が見え隠れしている。
「あの……ご注文は?」
「!! ……ああ、じゃあこのミートドリアを一つ……」
「はい!  ありがとうございます!」
と、客の手元のメニュー表を回収しようと屈むルクシィ。
「ゴクリ……」
「?」
「ああ、いや! 何でもない!」
 ルクシィは客に一礼して席を去る。
「(ああ……やっぱりロンドさんから貰った制服。着なきゃよかった……)」
 回収したメニューで胸元を隠すようにホールを歩くルクシィ。「全部見えるより、少し隠れている方が……」的な思考を持つ男性客達の視線を、ややノッポな体を小さくし、かいくぐるように歩く。
「(でも、退魔活動以外の依頼は初めてだからちょっと緊張しますね……)」
 そう思うルクシィが、入り口付近のテーブルで接客を行っていた和風ゴスロリ風のウェイトレス服を着た店員の銀星 七緒(ぎんせい・ななお)を見やる。
「……いらっしゃいませ、御注文をどうぞ」
「ヒャッハー! まずはビールとスマイルだぜぇぇ!」
「かしこまりました……は?」
 七緒の金色の瞳が、目の前のモヒカンを訝しげに見つめる。
「スマイルだよ! ねえちゃん!!」
「こ、こうでしょうか……?」
 引きつるように笑う七緒。
「んー、ねえちゃん。顔と服装は可愛いのに、目つきが悪いからよぉ。笑わなきゃ損するぜ?」
「あ……あははは……」
そもそも普段は人知れず退魔師として活動している七緒が、今回こうして不慣れな接客業をする事になったのは、その依頼が無くて困っている時にパートナーが蒼木屋のバイト募集の広告を持ってきたのが発端であった。そして、それは目下男客の視線を独占中のルクシィの心配もあった。パートナー達を家族同然に慕っている七緒ゆえの事である。
「んー、60点てところだな」
 モヒカンの無慈悲な採点結果に七緒の心にどす黒い感情が沸き上がってくる。それを見透かしたかのように、七緒の心に声が響く。
「(落ち着いて、七緒! アツくなったら負けよ?)」
 精神感応で響いた声に、七緒がふと周囲を見やる。
 近くのテーブルで水を配っていた絹織 甲斐子(きぬおり・かいこ)がパチンと七緒にウインクする。
「(甲斐子か……助かった。危ない所だった)」
 甲斐子は水を配ったり、空いた食器を回収しながら厨房へと戻って行く。
 道中、自分の服をチョイと掴み、
「渡された衣装が紫のゴスロリって……ホント、いい趣味してるわね……呆れる位に」
 店員の甲斐子は「必然的に酒場全体を巡回できて把握し易いから」という理由で水の配布や食器やグラスの回収という仕事を率先してこなす役を担っていた。
「(七緒がルクシィが心配だって言うものだから一緒に働きに来たけど、……七緒って姉思いの良い弟君ね、かわいい)」
「(う、うるさい! と、とにかく甲斐子……ルクシィが心配だ、出来れば少し見てやって欲しい……)」
「(……いいわ、任せて)」
 精神感応でちょっと七緒にチャチャを入れた甲斐子がクスリと笑う。
 こうして、美形店員の宿命とも言える0円スマイルをする事になった七緒を、ルクシィがやや感慨深げに見つめていた。
「(うん! 恥ずかしくても笑顔は絶やしちゃダメですね……ナオ君も頑張ってる。私も頑張らなきゃ!!)」
「よし!」と頷くルクシィが、先程までより大きく闊歩してホールを歩く。彼女なりに堂々としていようという意志はあるのだが……。
「(ポヨン)」
「……ゴクリ」「ほう……」「なるほど……」等の男達の心の声が響く。
 とまぁ、やはりその胸が弾み、余計に客達の視線を集める事になるのであった。
 男達の視線とは違った目でルクシィを見つめていた人物は、ルシオンと絵梨奈であった。
「……」
「……」
 同時に、自分の胸元に視線を落とす両者。
 厨房でツマミを作っていたジャックが絵梨奈の視線を追い、やや薄ら笑いを浮かべる。
「まぁ、局所的には完敗……オブッ!?」
 ベシリッと絵梨奈の裏拳がジャックの顔面にヒットする。ウィザードだからそこまで体術の威力は無いハズであるが、乾いた良い音がしたのは気のせいだろうか?
「僕は、いちいち真剣にああいうパラ実生の相手をしてたら体が持ちませんから!」
「いや……それでも胸は……グォッ!?」
 今度はミゾオチに肘鉄が決まる。
 絵梨奈の元に両手いっぱいに空いた食器を持ったルシオンが歩み寄る。
「牛柄のバニーとか、動物の種別舐めてるとしか思えないッス!」
 怒ると頭に牛のツノが生える体質であるルシオンが絵梨奈に、部分的な同意を示す。
「あなた……わかってるわね?」
「こう見えて看板娘目指してるッスからね!」
「へぇ……奇遇ね? つまり、接客術で勝負、と?」
「当然ッス! あたしは今お皿を両手いっぱい持ってるッスよ?」
 絵梨奈がそれを見て頷き、ジャックが作ったツマミの入った皿を両手に持つ。
「中身の無いモノなら、バランス感覚は必要ないわよね?」
「「ふふふふふ」」と顔を見合わせて笑う絵梨奈とルシオン。
 その傍を、軽やかなステップで通り過ぎるロンド・タイガーフリークス(ろんど・たいがーふりーくす)
「「!!??」」
「ん? 少女達、どうかした?」
 店内で、上半身裸ベストのモヒカン男を除けば、最も露出度の高い踊り子風の衣装に身を包んだロンドが二人に振り向く。
「尻尾……」
「尻尾ッス……」
「ああ、コレ?」
 黒猫の獣人ならではの、光沢のある毛並みの尻尾。
 両手にはたった今出来上がったばかりの湯気を立てる料理の皿。それは尻尾の先にもある。
「熱くないの?」
「全然、大丈夫よ。あたしこういうの慣れているから!」
と、ローグ特有の身のこなしもあってか、立ち尽くす絵梨奈とルシオンの間を軽々と通過していく。
「(蒼木屋の事を坊や(七緒)達に持ちかけて臨時バイトすることになったんだけど……ただ働くだけじゃつまらないさねー)」
 七緒、ルクシィ、甲斐子に「ちょっと可愛い制服(?)で働いて客に視覚的印象を与えれば仕事もスムーズにいくかなぁ〜」と、それぞれの衣装を強制配布したのは何を隠そう彼女であった。
 ロンドにしては、ただそれだけの理由の衣装と尻尾を使った店員業務だが、絵梨奈とルシオンには多大なダメージを浴びせていた。
 実際、彼女が去った後では、「ルシオン、何凹んでるんだよ?」と、大助がルシオンに声をかけている。
その時!
「あのー……困るんですけど?」
「いいじゃねぇか! ねえちゃん!!」
 ビールを運んできたルクシィの手を、先程七緒に60点の採点を下したモヒカンの男雅号印に掴んでいる。
「(あの、60点のモヒカンめ!! ルクシィに手をかけたな、許さん!)」
 丁度、厨房へ戻ったばかりの七緒が、その光景を見て瞳を怒りに染める。
 そこへ甲斐子の精神感応が入る。
「(七緒。ここは私がするわ。あなただと容赦しないでしょ?)」
「(甲斐子?)」
 七緒が見ると、甲斐子の黒髪が浮き上がり、表れた額の中心に縦の亀裂が入る。そして、第三の目が現れる。
「(お酒と女性は溺れたら大変だって、教えてあげるわ!)」
 甲斐子がスッと腕を向けると……。
「お!? な、何だ!? 腕が、勝手に……!?」
 モヒカン男のルクシィの腕を掴んでいたのとは反対の腕が、勝手にビールジョッキを掴み、それを口元へ運んでいく。
「ガッ……ゴ、ゴボボッ!?」
 いくらモヒカン男でも、蒼木屋の特注ジョッキ一杯のビールをひと思いに飲むのはキツいらしい。
 慌ててルクシィから手を離し、ジョッキの勝手に傾いていく角度を食い止めようとする。
 そこに騒ぎを聞きつけたアッシュがやって来る。
「お客様。当店の店員に手をお出しになられると、強制的に退店となりますよ?」
 威圧感たっぷりのアッシュに、やっとジョッキを引き離したモヒカンが渋々頷く。
「えっ……とー?」
 アッシュの隣でルクシィが不思議そうな顔をする中、甲斐子と七緒が顔を見合わせ、溜息をつく中、
「か、看板娘は問題の火種になっちゃいけないッスよ!」
「そ、そうよ! 目立たず、でもシッカリ笑顔で対応するのがポイントよ!」
「「……おや?」」
 こうして絵梨奈とルシオンは固い握手と共に意気投合する。
 そして、この光景は、食事を終え退店するコルネリアの後ろを行く美奈子のクイックドロウの動作で激写したデジカメの中の一枚として収まるのであった。