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冒険者の酒場ライフ

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冒険者の酒場ライフ

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「PPPH? 何だそれは?」
「Bメロの『タンタタンッ』のリズムに合わせ、手拍子をし、その後、声をあげながら右手を上に挙げて垂直飛びをするだけの事さ」
シンがさも当たり前の顔でセルシウスに語る。
「……そ、それをして一体何を得るのだ?」
「一体感!」
「……」
「ああ、パンパンパンの部分でお好みのメンバーの名前を叫んでも大丈夫でゴザルよ?」
 ビシッとジョニーがセルシウスにVサインをする。しかし、その顔は先程までの応援で洪水の様な汗で覆われている。
「……強制なのか」
「出来ないでゴザルか?」
 フッと笑ったセルシウスが、
「我が国家の威信にかけて、貫徹してみせよう!!」
…………演奏中
「(……あの金髪さん、これまで見たどんなファンの人より、キレが違うわね)」
 キーボードを演奏しながら、輝がセルシウスを見つめる。
 ベースを弾くシエルも同じ意見であった。
「(やたらと動きがダイナミックなのよね、あの金髪君……何者?)」
 瑞樹だけは演奏と歌う事に必死で覚えていなかったらしい。
 そんな中、熱狂のステージは、遂に最後の曲を迎えようとしていた。
「えっと……」
 照明の暑さもあるのだろう。額に汗の滲む瑞樹が置いてあったペットボトルの水を一口飲んだ後、言葉を紡ぐ。
「次が、今日最後の曲になります。そして、私達の新曲です」
「「「えええぇぇぇーー!」」」
「「「おおおぉぉぉぉーー!!」」」
 悲鳴と歓声が入り乱れた声が飛んだ後、瑞樹が口を開く。
「……その前に、少しだけメンバーとお話してもいいでしょうか?」
「え?」
 輝が瑞樹のアドリブに思わず声を出す。
 振り向いた瑞樹が輝を見る。
「マスター……いえ、輝さん。私、今日が夢みたいです。最初に誘われた時は戸惑いもあったけれど、こんな場所に、こんな夢のような時間に連れてきてくれて、本当に、ありがとうございましたッ!!」
「瑞樹……ううん。キミが頑張ったからこういう素敵なステージが出来たんだよ?」
 瑞樹が輝にニコリと笑い、そのまま顔をシエルに向ける。
「シエルさん、ギターのコードを中々覚えられない私に、何度も教えてくれてありがとうございました!」
「瑞樹ちゃん……」
 グッと熱いものがこみ上げてきそうになったシエルが、無理やり笑う。
「本ッ当、大変だった! ……けど、輝が言ってたでしょう? 瑞樹ちゃん、キミが必死に私達に追いつこうと頑張ってくれた。だ、だから、こ……こんな素敵なステージになったのよ?」
 シエルの震える言葉に頷いた瑞樹が舞台袖に顔を向ける。
「瑠奈ちゃん」
「うにゃ?」
 舞台袖にいた瑠奈が顔をあげる。
「瑠奈ちゃんが作ってくれたこんな素敵な衣装を着て、歌う事ができて、私、良かった!」
「お姉ちゃん……」
 瑞樹が再び観客へとその顔を向ける。
「そして、皆さん! 今日は本当にありがとうございます!! 最後の歌は、皆さんと、シャンバラとエリュシオンの国境にある、このお店のために歌います。……聞いて下さい。『届け、この想い』」
 輝のキーボード、シエルのベースがリズムを刻み、瑞樹のギターがややアップテンポな曲を奏でていく。

「私達の声、聞こえていますか?
私達の歌、響いていますか?
私達の想い、届いていますか?

小さな声かもしれないけれど
拙い歌かもしれないけれど
この想いだけは、あなたに伝えたいから
力一杯、この歌を歌うから

私達の声が、歌が、想いが、そして心が
同じ夜空の星を見つめるあなたに
どうか あなたに伝わってくれますように……」


 必死に歌うステージ上の三人を見つめていたセルシウスの瞳に涙が浮かぶ。
「セルシウス殿……」
 ジョニーがセルシウスの異変に気付き、顔を向ける。
「ああ、スマン! 応援を忘れるところで……」
「いや、良いでゴザル。今、貴殿は、魂で音楽を聴いておられる。それは、最も大切なファンの姿勢でゴザルよ」
「!?」
 セルシウスが見ると、ジョニーはおろか、シンや最前列の猛者達も涙を流して歌を聴き入っている。両手のサイリュームもダラリと垂らしたままである。
 舞台袖で照明演出をしていたレオンが、スイッチャーから静かに手を離し、傍の照明演出の紙を伏せる。その様子を見た瑠奈が首を傾げる。
「どうしたにゃ?」
「派手な照明等要らない……なにせ、ステージの本人達が一番輝いているのだからな」
「……ありがとうにゃ」


 同じ頃、店何の片隅でハルが開いていた846プロの売店の売り子を引き継いだ茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)も頬杖をつき、ウットリとそのメロディに体を預けていた。
 棚には、先ほどまでハルが並べた商品の他にも、輝の顔写真がプリントされた団扇。輝と未散のサイン入り写真集等、新たに時間差で持ち込まれたグッズが並んでいる。
 衿栖の手作りの輝、未散、衿栖のデフォルメ人形に視線を移す朱里。
「アイドルか……」
「朱里もしてみます?」
 顔を上げると、衿栖が朱里の傍に来ている。
「衿栖? 最後の司会は?」
「この曲が終われば、ステージは終わりです。もう私が締める必要なんてないですよ?」
 そう言って衿栖が朱里に笑う。
「それに売店はこの後が戦場でしょう?」
「うん。ハルが連れて行かれて困ってたところだったんだよ!」
「私が手伝うよ」
「ありがとう」
 二人は顔を見合わせた後、クスリと微笑み合い、ステージで声の続く限り熱唱する瑞樹と輝とシエルを見つめる。
 やがて……。
 演奏終了と共に全てを出しきった三人に、客だけでなく、裏方のスタッフ、厨房の料理人、店員までもが、惜しみない拍手を送るのであった。

 そして、最前列で戦い続けたセルシウスは、既に戦場と化した朱里と衿栖の売店へ向かうジョニーやシンと再会の約束を交わした後、心地良く疲れた体で酒場のカウンターへ向かうのであった。