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死骸の誘う暗き穴

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死骸の誘う暗き穴

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 一方逃げたチカは、レキたちを振り切っていた。しかし、他にもこの洞窟内にはチカを探そうと歩きまわっている生徒たちが、数多くいる。
 そして今、チカを追いかけている生徒も、そんな生徒のひとりだった。
「きゃあああっ!」
「フハハ! 待ちたまえ、チカ!」
 白衣に身を包んだ少年、ドクター・ハデス(どくたー・はです)が高らかに笑いながら、逃げるチカの後を追っていた。だが、彼がチカを追う目的は、彼女を救出することではない。
「大人しく、我が秘密結社に入りたまえ!」
 彼の目的は、チカを自分の持つ組織『オリュンポス』にスカウトすることだった。 
「キミが骸骨を操っているのだろう! そのネクロマンサーとしての卓越した技術! 是非、我が組織で有効活用するのだ!」
 ハデスは、チカがこの骸骨たちを操っていると考えていた。現在、ハデスを含めて二名しかいない組織としては、そんなスゴ腕のネクロマンサーは是非とも欲しい人材なのだ。
 だが、そんなこと知るかと言わんばかりに、チカは猛スピードでハデスから逃げていた。
「ちぃっ! すばしっこいヤツなん、……ぬわっ!」
 ハデスが舌打ちしたその時だ。
 突如、ハデスの足元の土が盛り上がり、そこから多くの骸骨が出現した。
「こ、これは……まずいぞ」
 戦闘が苦手なハデスの額から、冷や汗が流れた。だが、骸骨たちは容赦なく、ハデスへ向かって、地を蹴った。
「ぬああっ! や、やめ、」
 逃げ出そうと、ハデスが背を向ける。骸骨の手が、逃げるハデスの白衣を掴むその刹那、
「――ブリザード」
 ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)のスキルが発動した。凍てつく氷の嵐が骸骨たちを包み、骸骨たちは一瞬にして氷漬けへとされてしまった。
「た、助かった! いやー、キミ! 危ないトコロを助けてもらってすまなかったね!」
「……別に助けたわけじゃない」
 フンと鼻を鳴らし、ニコは視線をハデスから、氷漬けにされた骸骨たちに向けた。
「貴方たちにこれ以上、死者を虐められたくないからやっただけだよ」
 骸骨の入った氷の柱に、ニコは優しい手つきで触れた。真っ白なニコの指が、氷の表面を撫で上げる。
「……ごめんね。ことがすんだら、すぐに出してあげるから」
 そう言ってニコは氷漬けになった骸骨を見つめる。その顔は哀しげに曇っていた。
「うむ! その慈愛に満ちた考え! 素晴らしい! なぁキミ? ウチの組織で働かないか! 今ならすぐにナンバー3だぞ?」
「…………」
 空気を読まずに語りかけるハデスを黙殺し、ニコは愛おしげに氷の中の骸骨を見つめ続けていた。
「……あ。この氷漬けの骸骨、一体だけ持って帰ってもよいかね?」
「どうやら、キミも氷漬けにされたいみたいだね?」
 空気をまったく読まずに喋るハデスに対して、そう告げるニコの顔は至って真剣だった。


 一方そのころ、マキと雅羅は別のルートを進んでいた。
 現在、マキと雅羅は、乃木坂 みと(のぎさか・みと)の持つ『サンタのトナカイ』に乗り込み、周囲を多くの生徒たちに警護されながら進んでいる。
「……大丈夫かい、マキ嬢?」
 みとの相棒で、マキの護衛をかって出た相沢 洋(あいざわ・ひろし)が、マキの様子を心配する。それにマキは静かに頷いた。
「は、はい……私は大丈夫です」
 さすがにこんな状況なので元気はないが、マキはまだ平然としている。
 そう、マキは。
「ふむ……それじゃ。むしろ問題なのは、こちらか?」
 そう言って洋は視線をもう一人の搭乗者、雅羅に向けた。雅羅はこれ以上ないほど震えながら、周囲を挙動不審に見回していた。
「大丈夫か、雅羅嬢?」
「へ、へへへ平気よ! ふ、ふん! このぐらい怖くもなんともないんだから!」
「……ならよいのだが」
 半分呆れ様子で、洋は返事を返す。そんな洋の様子に、トナカイを運転していたみとが小さく笑みをこぼした。
「大丈夫ですわ、雅羅さん。この上なら、安全ですから。それに、周囲の皆さんも警護して下さってますし」
 みとの言葉に、マキたちの周囲を警護しているリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が、うんうんと何度も頷いた。
「そうですわ! わたしくたちがついてますもの。雅羅さんたちは安心してください」
 自信満々に胸を張ってリリィは告げる。
 それに警護している全員がそうだそうだと、同意を示した。
「そうだねぇ。これだけ守ってるんだから、なんとかなるよ〜」
 緊張感のない間延びした声で答えるのは、同じく警護にあたっている永井 託(ながい・たく)だ。のんびりとした口調で、怯える雅羅たちに話しかける。
 だが、そんな緊張感のない様子でありながら、しっかりと彼は周囲を警戒していた。『歴戦の立ち回り』で、いつ襲われても対処できるよう隙なく構え、『殺気看破』で周囲の気配を読んでいる。
「それにしても、君たちは何でこんな、気味の悪い洞窟なんかに来たんだい?」
 そんな臨戦態勢を取りながらも、託は二人の緊張をほぐそうと話しかけた。
「この洞窟、何か面白いものでもあるのかな?」
「そ、それは……その」
 だが、マキの答えは要領を得ない。視線を託から外し、俯いてしまう。
「まあ、いいじゃない」
 気まずそうにするマキに、リリィがそう優しく助け船を出した。
「こんなことになったんですもの。答えたくないようなことだってありますわ。元気を出して下さい」
 そう言って、リリィはポンとマキの肩に手を置いた。
「大丈夫ですわ。チカさんもすぐ助けて差し上げます。種モミ剣士であるわたくしにかかれば、敵の骸骨たちもすりつぶして『小麦のようなもの』にしてみせますわ!」
 えっへんと胸を張るリリィ。物言いはかなり物騒だが、自信にあふれるその言葉に、震えていた雅羅も何とか元気を取り戻す。
 そんな雅羅たちを尻目に、佐野 和輝(さの・かずき)は、マキへと近づいていった。彼は男だが、その姿は現在、女性にしか見えない。相棒である魔鎧のスノー・クライム(すのー・くらいむ)を装備することにより、彼は外見性別を反転させられるのだ。
「マキ。少しお話してもいい?」
 すっかり口調も変わり、人当たりのいい本物の女性のように、和輝はマキに話しかける。その声に、マキも警戒を解いて、和輝のほうを見た。
「マキから見て、チカはどんな子だったの?」
 緊張を解くためと、チカの情報を得るための質問。これならいいだろうと、和輝は心の中で頷きながら尋ねる。
「教えて。チカって子のこと」
「え、ええっと……チカはその、すっごい可愛い子なの。すごい臆病で、しかも人見知りが激しいの」
 そうマキは答える。それに頷きながら、和輝は何やら違和感を抱いた。
(なんだ? なにか引っかかる。別におかしなことは言ってないはずだが?)
 どことなく違和感のあるマキの返答に、和輝は表情ひとつ変えることなく、相槌を打つ。さらにもう一回、和輝がチカについて踏み込もうとしたその時だった。
「……っ! 和輝、和輝っ! 近くに何かいるよ!」
 和輝のパートナー、アニス・パラス(あにす・ぱらす)が大きな声でそう告げる。彼女は、周囲に使い魔たちを走らせ、周囲を警戒していたのだ。
 アニスの言葉に警護していた全員にも緊張が走る。
「アニス。何かって、骸骨か?」
「えっとねー、……ううん。なんか、人間の女の子みたいだよ?」
 サラリと告げるアニス。その言葉を聞いて、最初に動いたのはマキだった。
「ま、マキさん!」
 雅羅の声が響く。それと同時に、和輝が叫んだ。
「スノー!」
「まかせて!」
 和輝の身体を守っていた魔鎧の姿を解き、スノーがマキを後ろから抱きとめる。
「お、落ち着いて、マキさん!」
「は、放して! 近くにチカがいるのに!」
 必死にマキはジタバタと抵抗している。それを見かね、ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)は彼女の肩に止まると、彼女だけに聞こえるように歌を歌った。ルナの持つスキル『驚きの歌』だ。聞き手に、驚きのショックを与えるこの歌の効果で、ビクンとマキの身体が反応し、動きを止めた。
「マキさぁん、無茶はしちゃダメですぅ」
「……はい」
 ルナの歌で走りだすタイミングを逃したマキは渋々、みとの運転するトナカイのソリへと戻った。
 それを確認し、洋とみとの二人は頷き合う。
「よし。これより、例の少女の後を追う。みと、最速で彼女に追いつけ」
「了解です、洋さま。敵が出現したら、どういたしますか?」
「支援魔導砲撃を許可する。遠慮はいらん。なぎ払え」
 その言葉にみとが頷き、トナカイは走りだした。