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勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

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勇者、募集します ~大樹の不思議な冒険?~

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第5章(3)
 
 
 翌朝、勇者達は冴弥 永夜(さえわたり・とおや)アンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)の二人と合流した。
「今日もあの魔術師は公爵邸にいるそうだ。シャーウッドは出来る限り通常通り行動させ、ジュデッカに感付かれないようにしている」
「邸宅までの道は……私達に任せて」
 ペガサスを連れたリネン・エルフト(りねん・えるふと)が先導する。脱出の際にも使用した道を使用し、一気に本陣を陥れるというのが今回の作戦だった。
 ――だが、それは初手から覆される事になる。
 
「来たな破壊者ども! 今度こそ貴様達に引導を渡してくれる!」
 
「あれはイストリアと海上で現れた魔王軍の人ですね。これで魔王軍の関与は確定ですか」
「なるほど、あれは魔王軍か。気になるのはどうしてここに現れたのかって事だね。まさかとは思うけど……」
 突如現れた天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)に対し和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)とアンヴェリュグが冷静な観察を行う。『ここに』という疑問は魔王軍がいる事に対してでは無い。それらが関与している事はリネン達が魔物に襲われた時点で予想がついていたからだ。アンヴェリュグの疑問、それは『どうしてこの道に』という事であった。
「フン、勇者だか何だか知らんけど、俺らがいる以上は好きにさせないっちゅー事や。大人しく覚悟しぃ」
 続けて魔術師こと七枷 陣(ななかせ・じん)が姿を現す。その姿に反応したのは桜葉 忍(さくらば・しのぶ)織田 信長(おだ・のぶなが)の二人だった。
「お前は、陣!?」
「魔王軍というから誰が来ているかと思っていたが、お前とはな」
「ん? ……あ〜!? お、織田 信長!?」
「おうよ、その信長じゃ。よくもまぁ、私の前に姿を現せたものよのぅ」
「それはこっちの台詞や! 偽魔王!」
 陣の言葉に勇者達は不思議な顔をする。
「? 偽魔王? どういう事だ? 忍兄ぃ」
 その中の一人である篁 大樹が素直に問いかけた。忍は観念して真相を話し始める。
「……俺と信長は、数ヶ月前まで魔王軍にいたんだ。俺は魔王軍の騎士として。信長は……魔王として」
「えぇっ!? 私、全然知りませんでした!」
「まぁあたし達は下っ端だから魔王の顔なんて見た事も無かったからねぇ」
 同じく元魔王軍である次百 姫星(つぐもも・きらら)鬼道 真姫(きどう・まき)が驚く。なおも忍の話は続いた。
「信長は一年くらい前に魔王になってから、出来るだけ人間と共存しようとしてきた。信長自身もよくお忍びで人間の街に遊びに行ってたからな。けどある時、俺達が魔王の塔にいない時を狙って反逆を企てた男がいたんだ。そいつが――」
「あの七枷 陣じゃ」
 信長が陣を真っ直ぐに見据える。すぐにでも斬りかかりたい気持ちを抑えて、質問をした。
「お前に聞こう。私が魔王の座を追われてから、お前が新しい魔王になったとは聞いておらぬ。誰を魔王に据えた? そして、何故叛旗を翻した……?」
「誰が、ってのは答える筋合いは無いなぁ。あのお方は尊き方や。軽々しく口にはせんわ。けどお前を魔王から引き摺り下ろした理由は教えたるわ。それはな……」
 陣が指をビシッと突きつける。
 
「お前がババァだからや!」
 
「…………は?」
 当然のごとく目が点になる周囲。だが陣の言葉は止まらない。
「何が時代は頼れるお姉さま系や。そんなババァは時代遅れ、魔王軍のトップに相応しいのはロリしかないやろ!」
 
 ――ちなみに、この世界の信長は19歳である。
 
「せやから邪魔者は退けたったんや。これからの世界はあの麗しいロリ魔王様が統べる! これは世界の真理や!!」

 ※この七枷 陣はフィクションです。実在する事件・団体・七枷 陣とは一切関係がありません。
 
「……そ、そんな理由で私を陥れたじゃと……!? 許さん!」
「それはこっちの台詞や! 行け! 我が下僕達!!」
「お前達も行け! 破壊者どもを倒すのだ!」
 陣が洗脳したジュデッカの騎士を、ヒロユキが魔物をけし掛ける。潜入作戦を行おうとしていた勇者達は一転、乱戦へと巻き込まれようとしていた。
 
 
「勇者様達が見つかった!? どういう事!?」
 シャーウッド騎士団の宿舎で待機していた高島 真理(たかしま・まり)南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)から現在の状況を聞き、驚きの表情を見せていた。
「詳しい事は不明ですが、完全に待ち伏せを受けた形で攻撃を受けているとの事。ジュデッカの騎士達もそちらへ向かった者が多いようです」
「……まさか情報が漏れてた? でもあそこにいたのは信頼出来る人達だけだったのに……とにかく援護に行こう! 秋津洲は明日葉先輩にも連絡を――」
 すぐに宿舎を飛び出した二人。だが、その足はすぐに止められる事となった。突然飛んできた二本の矢が二人のすぐ目の前の地面に突き刺さったからだ。
「え……!? 明日葉……先……輩……?」
 射掛けてきたのは源 明日葉(みなもと・あすは)その人だった。真理は信じられないといった表情で彼女を見る。
「……」
「そんな、先輩がどうして……?」
「一度だけ警告しておくでござる。命惜しくば……宿舎で大人しくしているように」
 真理の言葉には答えず、明日葉が二射目を放つ。それは先ほどよりも近くに突き刺さった。
「何で!? 何で先輩がボク達の敵になるんですか!?」
「真理様! くっ……!」
 明日葉の下へ駆け出した真理に三射目が襲い掛かり、秋津洲が剣で防ぐ。明日葉の狙いが正確だったからこそ出来た芸当だ。
「落ち着いて下さい、真理様。ただ近付くだけでは的になるだけです」
「でも止めなきゃ! こんな事、先輩がする訳ないんだから!」
「それは私にも分かっております。だからこそ、何か理由があるのではないですか?」
「理由? それって……」
 ようやく落ち着いた真理が明日葉の方を見る。相変わらずこちらへと狙いを定めてはいるが――
「腕が、震えてる……? いつもの先輩ならそんな事無いのに、まるで何か迷ってるみたいな――まさか!? 先輩! 桜ちゃんはどうしたんですか!?」
「――!」
「やっぱり、桜ちゃんに何かあったんですね。それでこんな事を……」
「……仕方が無いでござろう。桜の為なら、それがしは……!」
 腕の震えが大きくなる。その迷いを振り切ろうとした瞬間、近くの屋根から声が聞こえて来た。
 
「ちょっと待ったー!!」
 
 屋根の上には魔法少女の姿をした松本 恵(まつもと・めぐむ)赤坂 優(あかさか・ゆう)。そして二人に連れられて敷島 桜(しきしま・さくら)が立っていた。
「さ、桜!?」
「お姉様……」
「いやぁ、間一髪って所かな」
「そうね。でも間に合ってよかったわ」
 弓を下ろした明日葉を見て、恵と優が安堵する。二人は普段は騎士団の給仕として働いているが、時折魔法少女として街の平和を護る二人組でもあった。そうして得た情報網で桜が人質としての役割を果たしていると気付いた恵達は、今回の戦いに紛れて桜を連れ出そうと考えていたのである。
「おぬし達が桜を?」
「うん、僕達桜ちゃんのメイドをやってたから」
「安心して。軟禁状態ではあったけど、不当な扱いは受けていなかったわ」
「そうか……かたじけない」
 下りてきた桜を抱き、恵達に頭を下げる明日葉。真理と秋津洲も安心したとばかりに近寄ってくる。
「先輩、良かったね。桜ちゃんが無事で」
「あぁ。おぬし達にも、何と言って詫びれば良いのか……」
「あ、あはは……ボク達も人質に取られてたって事に気付いて無かったから、お互い様じゃないかな」
「はい、明日葉様だけが負い目とする必要はございません」
「二人とも……重ね重ね、かたじけない。それから……ありがとう」
 最後にもう一度、明日葉が深く頭を下げる。再び顔を見せた時、既にその表情は戦士のそれとなっていた。
「憂いが無くなった以上、奴らに加担する理由はござらん。真理、秋津洲、我らが主の為に、参るぞ!」
「任せて!」
「御意」
「それじゃあ僕達は桜ちゃんを安全な場所に連れて行くね。皆頑張って!」
 明日葉達は勇者の下へ、恵達は屋敷へ。二組はそれぞれ、自分達の戦いをする為に動き出すのだった。
 
 
「リネン! フェイミィ! あの一角を散らすわよ!」
 公爵邸の上空。ワイバーンに乗ったヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が矢を放つ。それに続くようにリネンとフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が飛行タイプの魔物の群れに突撃した。
「空で私達に勝とうなんて……甘すぎる」
「そういう事だ! 喰らいな!!」
 二人はペガサスを手足のように操り、次々と落としていく。空中に関していえば、勇者達の圧勝といえた。
「でも問題は地上……」
「あぁ、あれじゃオレは飛び込みにくいぜ」
 対して地上は劣勢だった。陣が洗脳したジュデッカの騎士達を投入している為、勇者達は彼らの攻撃をかわしながら魔物だけを狙う必要があったからだ。
「とにかくやれる所から減らすしか無いわ。あたしが地上を狙うから、二人は上の敵をお願い」
 ヘイリーがワイバーンを滞空させ、地上の劣勢な箇所に向けて弓を構える。その瞬間、小型飛空艇に乗った陣がファイアストームを放ってきた。
「ハハハハッ! その隙を待っていた! 紳士の敵よ、滅びろっ!」
「くっ!」
 緊急回避。だが、避けた方向に今度は短剣が飛んで来る。七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)の攻撃だ。
(あの上司の人格はもう諦めてるけど、有効な攻撃は活用させてもらわないとね)
「! しまっ――」
 ファイアストームに気を取られていたヘイリーは完全に動きが止まっていた。だが、短剣が突き刺さる直前に何者かが空中へと飛び上がっていた。そのままヘイリーの前に浮かび、氷の盾で短剣を受け止める。
「あ、あなた……!」
 受け止めたのはリデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)だった。リデルは押さえた短剣を地上へと放り投げ、真下の魔物を石化させる。
「な、何よ。恩に着せようとでも言うつもり?」
「そんなつもりは無いさ。友の信義に応えただけだからな」
 ちらりと地上で戦っている永夜を見る。彼は乱戦になりながらも援護に駆けつけたシャーウッド騎士団の騎士達へと指示を与え、的確に魔物のみを狙って戦いを続けていた。
「さて、うちのオジョウサマも中々のお転婆でな。目を離す訳にはいかないんだ。後は自分達で何とかしてくれよ」
「あっ」
 口を開く間も無くリデルが地上へと降りて行く。ヘイリーはそれを見送りながら、不満げにつぶやいた。
「……礼くらい言わせなさいよ……バカ」