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リアクション
「俺が協力しよう、ミュラー」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が一歩前に出た。
「……話は聞いている。人の命に比べれば、富豪どもが血相を変えて手に入れたものに、どれほどの価値があろう。協力は惜しまない……条件はあるがな」
「ちょっと待った!」
エヴァルトを遮ったのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
「……おまえも協力者か? それとも説得か?」
「説得? 協力者? 違うわよ、これは取引よ! ミュラー、竜の涙を盗んだとして、これからどうするの?」
「……金にするさ」
「そう、そこだ、ミュラー!」
今度はエヴァルトが更にルカルカよりも一歩前に出た。
「宝石を盗んでも、換金等の問題がある。一刻も早く金が必要なら、安全、確実かつ早い方法がある! 絶対に助けたいんだろう? 俺を信じてくれ」
「確かに宝石は換金せねば金にならん。それだけの物の購入者をどう探す? 現れるまでに娘は死ぬな、確実に……」
とはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の言葉である。
「その通り、だから俺がヴィシャス氏を説得する! 説得には自信があるのでな。内容はこうだ。『彼も、盗みが目的ではない。どうしても金が必要なのだ。つまり、金があれば盗むこともない。なに、大商人であれば、すぐにどうこうなる額ではあるまい』という具合で」
更に更にルカルカが一歩前に出た。
「それでヴィシャスが首を縦に振らなかったらどうするの!? ルカルカの提案は、ヴィシャスの知名度を利用し、新聞広告と商人の横の繋がりで募金を募る事よ。美談として評判になる上に商人の財布はそれほど傷まない。その代わり今後狙わないという取引よ。了解してくれれば私達が商人に話を通すわ」
「それこそ、ヴィシャス氏が首を縦に振らなかったらどうする!?」
「……」
「……」
気づけばミュラーの眼前に迫ったエヴァルトとルカルカが、互いに火花を散らしていた。
「とりあえず、俺達は違法行為を見逃すわけにはいかないぜ。看過できん立場だ」
『その通り!』
夏侯 淵(かこう・えん)の本来ピッタリの落とし所に、両者は口を揃えた。
ミュラーは腹を抱えて笑った。
笑って笑って笑いまくった。
だが、目尻に溜まった涙を拭いながら出た言葉は、
「どっちも無理だ」
弛緩していた空気が一気に張りつめた。
「なぜなら……俺の計画の方が確実性は高いからだ」
「俺達の作り出す可能性を否定するのか?」
ダリルの目が鋭さを増すと、淵も薙刀に手を掛けた。
忘れてはならない――目の前にいるのは賊だ。
「このままだと逮捕ね……」
「待て! ミュラー、幾ら必要なのだ! ヴィシャス氏を説得してみせる!」
ミュラーの視線が一度だけ泳いだ。
「ふー……待てないな……。竜の涙は……俺が頂く!」
それが乱戦の合図となった。
淵の先制攻撃で始まった。
龍飛翔突でミュラーを一気に貫こうとしたが、それは日比谷 皐月(ひびや・さつき)のブロックにあった。
「オレに正義で自分の行いを正当化する気も無ければ、十把一絡げの正論で他人の感情を踏み躙る気も更々ねーよ。それぞれ手前の信じる物の為にここに立ってるんだ。無粋な事は言いっこなしにしようじゃねーか」
オートガード、オートバリア、龍鱗化のスキルを併せた防御力で、一撃を弾いた。
「賊に加担するとは……ッ」
「ハッ……元々、正義なんてモンは手前の心しか救わねーんだよ。信仰と同じだ。『信じる者は救われる』……手前の正義を信じる限り、確かにソイツは救われる。信じてやれよ、手前の正義を――オレはそれを叩き潰すから」
淵の容赦ない攻撃だが、盾――氷蒼白蓮を手にした防御のみに集中した皐月は崩せなかった。
「行けよ、ミュラー! 女の子1人くらい、救ってみせやがれ!」
皐月は盾を手にそのままじりじりと突進して、圧力をかけていく。
その圧力に押され、一旦淵が下がったのを見逃さなかった。
一気に反撃に転じ、ファランクスの構えの後、チャージブレイク。
円錐に精製した氷を穂先にランスバレストを行った。
「……チッ!」
が、ダリルのサンダークラップで粉々に砕かれた。
「焦んじゃねぇ。まだ勝機はくるさ」
皐月は再び、盾を構えた。
「答えてくれ、ミュラー」
ミュラーが竜の涙へ駆けようとしたその時、八神 誠一(やがみ・せいいち)に呼び止められた。
「手短に済ます。自分の行動を客観的に見て必ずしも正しくないという事を理解しているか? また、その行動の結果、如何なる事態になろうとも、受け入れる覚悟はあるか?」
「正しいか正しくないかはお前が判断すればいい。そして俺は、苦しむ用意はできているぜ」
「……ふ、いいねえ、その答え」
一瞬、誠一の視界に何かが過ぎった。
その感覚を信じて、煙幕を張り相手の視界を奪ってみせる。
案の定、ルカルカはエンドゲームで瞬時に決めにかかろうとしていた。
しかし、煙幕で出来た一瞬の隙に、その攻撃はミュラーに命中しなかった。
「今度は僕の番だ」
殺気看破で煙幕の中、正確に相手の位置を掴み、疾風突きで奇襲をかける。
が、相手が相手、一筋縄ではいかない。
「そら、一斉にくらわせてやれ!」
陽一がヴィシャス自前のお抱え警備員に予め渡した手榴弾――火薬の換りにしびれ粉と唐辛子粉の混合物を仕込んだ物――は、その掛け声の元投げ込まれた。
――ボウフッ!
辺りを刺激漂う白煙が覆った。
煙が煙を晴らしてしまった。
誠一は一撃で仕留められなかった反動で、歴戦の防御術を駆使し攻撃を捌き、歴戦の立ち回りで攻撃を回避しながら、追い詰められていった。
が、引くわけにもいかない。
行動予測で相手の一撃の軌道と動きを読み、実践的錯覚を用いた――武術で言う縮地の歩法で間合いを外し、ヒロイックアサルト夢想剣でカウンター攻撃を叩き込むが、ネームレスの放った瘴気の獣が、うまい具合に盾となった。
「ああ、もう、ごちゃごちゃしすぎて……ッ!」
「チッ……!」
「目標アンノウン。攻撃シマス」
あまり目立たない行動を意識しすぎて逆に、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、レッドのガトリング砲の連射にあっていた。
ただ、これでいいのだ。
魔鎧で顔まで覆い、正体を隠した唯斗は、エリザを助けたいという思いはあるものの、ミュラーにもヴィシャスにも賛同はできなかった。
あくまでここでの自分の役割は――エリザを助ける算段まで残ること。
「フッ!」
ジグザグに攻撃を回避しながら、注意を引き続けた。
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