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リアクション
「今度は大丈夫なの?」
「大丈夫だろう」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の言葉に、パートナーの剣の花嫁、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は頷いた。
「もうひとつの結界を括りとして、2つの結界が干渉しあっていたもののようだから。
その片方を破壊したのだから、今度は、壊しても再生するようなことはないだろう」
テレパシーを使ってオリヴィエと連絡を繋ぎ、結界の括り、キーとなるブリジットは樹月刀真達の手によって破壊されたことを確認していた。
2人は、もうひとつの場所、オリヴィエの名前の刻まれた、ファリアスの4ヶ所に埋め込まれた銀のプレートの場所にいる。
「ちょっと勿体無いけど。でもあまりいい仕組じゃないもんね」
「破壊はできるだろうが……むしろ、教導団に研究用として持って帰れないだろうか」
「でも、ここにあるのは、ただの銀板なんでしょ?」
ダリルは頷いた。
「そうだな。仕組は、博士に訊くか。じゃ、解除する。ルカ、離れてろ」
「気をつけてね」
調べてみると、4枚の銀板は、例えるならアンテナのようなものだと解った。
巡る力のようなものが感じられる。
これを解除する時には、力場のようなものが発生するだろうと思われたので、ルカルカはもしもの時の為に、結界に集中するダリルを護る為、身構えて備えている。
「力場って?」
「張られた電線を断ち切った時に、ワイヤーが暴れるみたいなものだ」
「うん、大体わかった。いつでもいいよ」
「ハルカ!」
呼び声に、ハルカは振り返ってぱっと顔を輝かせた。
「くまさん!?」
現れたのは、白熊ゆる族の雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)だった。
懐かしい顔に、ハルカは嬉しそうに駆け寄って、それからきょろ、と周囲を見る。
いつも共にいるはずのもう一人が居ないことに気付いたのだ。
「そあさんは何処行ってるのです?」
すると、ゆる族ながら、ベアの表情が苦しげに歪む。
「ご主人は……攫われちまった……!」
「ええっ」
「あの魔女だ。この島に渡りたがってた……」
「一大事なのです! 早く探さなきゃなのです」
おろおろとオリヴィエを見るハルカに、
「その魔女って、イルダーナを攫ったのと同一人物だろうな」
と言ったのはトオルだった。
「面倒がなくていいぜ。一緒に探そうぜ」
キアン救出の為の飛空艇を調達に行くことに決め、
「いってらっしゃい」
と送り出すオリヴィエを横目に、ブルーズはハルカを見た。
「ハルカ、おまえはこの男の守護を任せたい。というか見張っていてもらいたい。
やり遂げられるか?」
頭を撫でたブルーズに、りょーかいです! とハルカは笑って頷く。
「はかせが無茶をしないように、しっかり見張っているのです!」
「頼んだぞ」
「ちうたが」
オリヴィエの財布とハルカのお守りに改めて『禁猟区』を掛け直した後、アーヴィン・ウォーレン(あーう゛ぃん・うぉーれん)と光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)は、ハルカとオリヴィエを交互に見た。
「ここまで来て、本当に何もせん気か?」
「私がでしゃばると、返って皆の迷惑になる気がするしね」
「それは確かにそうじゃけんど」
オリヴィエの言葉に即答で同意しつつも、腑に落ちないものがある。
「でも、のんびり皆の帰りを待っている余裕はなさそうだよ、生憎」
オリヴィエは肩を竦めた。
「……そういや、元々メンテナンスに来たんじゃったな」
「メンテナンスどころじゃないけどね」
さてと、とオリヴィエは首を巡らし、遠巻きに様子を窺っている館の使用人を呼び止めた。
「腕を取りに来たんだけど。あるかな」
キアンの塒に戻り、出来る範囲で翔一朗達も作業を手伝いながら、夜になってもオリヴィエの手は止まらなかった。
「2、3日寝なくても大丈夫だし」
いつものことだから、と言うオリヴィエに付き合って、ハルカも起きていようとする。
「はかせをしっかり見張っているのです」
「別に逃げないから」
「約束したのです」
頑として譲らないので好きにさせておくことにする。
「それにしても」
と、オリヴィエの手元を見ながら翔一朗はふと、思い付いた。
「ええ機会じゃし、俺のゴーレムもちィと改造してもらいたいもんじゃのう。
ハルカ、何か面白い改造案はないか?」
ハルカは首を傾げて考え込んだ。
「目からビームが出たら面白いのです」
「よっしゃ!」
「え、君それいいの?」
振り返らないまま、オリヴィエが呆れた声を出す。
「無理なんか?」
「無理っていうか……」
キアンを救出する為の移動手段を得る為に、何人かはアヴカンの屋敷を出て行った。
見つかったと思ったイルダーナが攫われた、と聞いたリネン・エルフト(りねん・えるふと)も、速やかに行動を開始する。
「この辺は、空賊とかはいないのかしら……」
もしいるのなら、私の出番なのだけど。
リネンは、パートナーのヴァルキリー、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)と共に、飛空艇の調達に奔走した。
「商船が平和にファリアスとタラヌス間を行き来してるし、積荷が奪われてるような話もねえみたいだから、そういうのは居ないんじゃねえの」
フェイミィの言葉にリネンも頷く。
「ということは……定期便の商船を使わせて貰うしか、ないわね……」
「とすると、タラヌス側だな」
ファリアスでは鉱石の産出をしているが、それを取引して本土へ運んでいるのはタラヌスの商人である。
リネン達は定期便で一旦タラヌスへ渡り、飛空艇を貸してくれそうな商人を当たった。
「飛空艇? うーん、今は仕事が手一杯だからな……。
そうだ、あそこの酒場をあたってみな」
話を聞いた商人の一人が、一軒の酒場を指差した。
「今、運び屋は忙しくなり始めていてな。臨時雇いの飛空艇乗りが集まって来てるんだ。
少ないが、船持ちもいるって話だ。大抵あそこの酒場にいるから、まだ仕事を受けてない奴がいたら、話を聞いてくれるかもしれない」
「ありがとう」
礼を言って、二人は酒場に向かった。
一方、リネンが商人を当たっている間、パートナーの英霊、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)は、ネヴァンの居場所を確定する為の調査に動いた。
飛空艇が調達できても、何処に向かえばいいのか解らなければ、本末転倒だからだ。
調べたところ、ネヴァンはタラヌスの裕福な富豪の別荘を借り受けているらしい。
「ああ、その噂ね。この辺じゃ結構評判になったのよ」
話し掛けた相手のその返答に、ビンゴ、とヘイリーは内心で思った。
「噂?」
「あの家の旦那は、欲深で近所では有名だったんだけどね。
ある日突然、別荘の浮き島をほいって人にあげちゃったのよ。
それも余所者の、まだ若い……若いっていうか、殆ど子供よ?
本人は貸したんだ、って言い張ってるらしいけどね。
援助交際!? とか、愛人への手切れ金に違いない! だとか、持ちきりだったのよ」
「その、別荘がある浮き島って、どの辺なんですか?」
「んー、そればっかりは、行ったことないとね〜。
ああ、以前その別荘に行く時に、いつも決まった飛空艇を頼んでたみたいだから、港で聞いてみたら?
あの旦那のことだから、きっと一番立派な飛空艇を頼んでると思うわよ」
礼を言って港に戻ったところで、リネン達と合流した。
「飛空艇……何とかなりそう」
そう言ったリネンの隣りで、フェイミィがぶりぶり文句を言う。
「借り賃すごいボったくられたぜ!」
「こっちも収穫有りよ。
ネヴァンの居場所、解りそう」
小さな港町に常時使われている飛空艇の数は多くない。
程なくして3人は、ネヴァンが居ると思われる浮き島の場所を特定することができた。
「すぐトオル達に伝えましょ。そこのエロ鴉。ひとっ走り行って来て」
「オレかよ!」
一方。
「博士がテレポートとか出来れば早いと思ったのになあ」
オリヴィエは魔法が使えない、と知って、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ががっかりと言った。
「そんな物凄い魔法、魔術師だって簡単に使えないよ」
オリヴィエが苦笑する。
「知ってるよ。魔法が使えればできるってものじゃないんだよ。だからむしろ、って思ったのに」
「昔は、そんな道具も持っていたような気はするけど」
以前、オリヴィエの家には、転移装置という旧時代の遺物があったのだが、それは色々あって、家ごと破壊されてしまったのだった。
「じゃ、こういうのはどうかな。
ミサイルにしがみついて、ネヴァンの根城に打ち込んでもらう、っていうの」
「それだとレキちゃんしか島に行けないアルよ」
パートナーのゆる族、チムチム・リー(ちむちむ・りー)の言葉に周囲は、突っ込みどころは他にあるような気がしたが、黙っていた。
「それじゃ、別の方法を試してみるんだよ」
そう言うと、レキは領主アヴカンに会いに行った。
「ボク達、キアンをたす……掴まえたいんだよ。
領主権限で、飛空艇を何とかできないかな」
「ふむ」
アヴカンは考え込んだ後、ペンを手に取って何かを書き付ける。
「港へ行って、停まっている飛空艇の持ち主にこれを見せるといい。
交渉次第で船を貸してくれるだろう」
「交渉次第?」
「レンタル料は自腹でな」
「ええっ! 必要経費にならないの!?」
仕方ない、皆で割り勘なんだよ、と思いつつ、トオル達にも伝えて港へ向かう。
丁度、フェイミィが戻ってきたところだった。
「ネヴァンの居場所、見つかったぜ!」
「こっちも、船を確保できたところなんだよ」
「本当か!? じゃあ、このまま向かっちまおうぜ」
レキの言葉に、フェイミィは携帯を開く。
トオルやレキ達はファリアスから、リネンやザカコ・グーメル達はタラヌスから、その浮き小島へ向かうことになった。
「もー、遅いよ、エッツェル!」
現れたパートナーを迎えて、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が文句を言った。
「申し訳ない。道に迷ってしまいました」
「どっかで聞いたような話だなあ。
それよか、本当に遅れないでよかったよ。
例の魔女、浮き小島にいるんだって。もうすぐ飛空艇が出るよ」
「輝夜の連絡にあった、フラガラッハ、とやらですか」
その杖に興味を示し、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)はここまで来たのだ。
「言っとくけど、やりすぎ禁物だからね!」
「邪魔をされなければね」
「余計なこと口走るのも禁物だからね!」
また一方で、そんな交渉事を必要とせずに飛空艇を調達した者もいた。
借り受ける必要はなかった。
脅して、黙らせればよかったからだ。
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