空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

ここはパラ実プリズン

リアクション公開中!

ここはパラ実プリズン

リアクション

   10

 カートを押して特別房を離れた悠司は、たゆたう煙を見て顔をしかめた。
「ここは禁煙じゃねーのかよ」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)が壁に寄りかかり、格子越しに月を眺めていた。
「休憩中です」
「ったく、いい気なもんだぜ」
 元々悠司は、廃墟の片付けを希望していた。外での行動はツーマンセルが基本だが、一人こっそりサボって瓦礫の傍で昼寝をしているところを白竜に見つかった。
 普通なら注意、警告、最悪の場合懲罰房行きのところを、楽な仕事の引き換えにスパイを命ぜられた。
 普段なら引き受けはしない仕事だが、悠司も爆破犯二人には興味があった。
 悠司から話を聞いた白竜は、しばらく考え込んだ。
「……仲間から、何かしらの連絡があった様子はないんですね?」
「俺の見る限りは。だけど、ありゃ脱獄する気満々だな」
 最後のセリフと二人の態度を思い出しながら、悠司は太鼓判を押した。
 アイザックもウィリアムも、恐れている様子はなかった。しかも、「もし」の話をすんなり受け入れた。自力で脱獄するのか、或いは誰かが助けに来るのか、方法は分からないがそのつもりでいるのは、ありありと分かった。
 ――もしそうなったとき、俺はどうしようかねぇ。
 内心の呟きは隠し、悠司は尋ねた。
「ひょっとして、最初から手筈が整ってるんじゃないか?」
「そこまでは君の考えることではありません」
「何だよ、協力してやったんだぜ。少しぐらい……」
「この件は忘れることです。もし周囲に知られたら、どうなるか分かっていますね?」
 看守に取り入ったぐらいなら、要領がいいとかズルイ奴だと思われるだけですむ。だが、スパイ行為をしたとなれば、「密偵」「犬」として蔑まれ、最悪、命を落としかねない。白竜はそう釘を刺している。
 クソ、と悠司は思ったが、頭を掻きながら分かってるよと答えた。
「第一、んなめんどくせーことしねえって。それよか、煙草くれよ、俺にも一本」
「構いませんが、これは黒葉のフランス製です。きついですよ」
「いいからいいから」
 悠司は貰った煙草を丁寧に胸ポケットにしまい、
「こういうの持っとくと、重宝するからさ」
と笑った。


 二本目の煙草を壁で消すと、白竜は天井のカメラに顔を向けた。
 モニターを見ていた世 羅儀は仏頂面で呟いた。
「へいへい、分かってますよー」
 白竜はこう言ったのだ。
『女性やカップルに目を奪われないように』
 ちょうどルカルカ・ルーと鷹村 真一郎のキス(寸前)シーンを見ているところだったので、ちょっと慌てた羅儀である。


 男子の懲罰房では、相も変わらず南鮪が幻のパンツを数えていた。いい加減に終わってくれないかな、とフェルブレイドの看守は欠伸を噛み殺している。
「いちまぁ〜い、にまぁ〜い、さんまぁ〜い、――ハッ!」
 その時、彼の【ナゾ究明】が閃いた。
「南門所長はちゃきちゃきの江戸っ子……!! ならばノーパンに違いない!!」
 ――何の役にも立たない推理だった。


 三日間の見学を終え、小鳥遊美羽とベアトリーチェ・アイブリンガーは再び所長室を訪れていた。
「どうだい? 少しは参考になったかい?」
「バッチリ」
 美羽は親指と人差し指で輪を作って笑った。
「それはよかった」
「あまりいいとは思えませんが」
 ベアトリーチェは心配顔だ。
「どうして?」
「だって警備に穴が……」
「穴があったら埋めればいい」
 纏はあっさり言った。
「世の中に完璧なんてありゃしない。大事なのは、ミスしたらどうフォローするかだ。人生全般においてそうだと、あたしは思ってる」
 纏は白紙の報告書を美羽に向かって、指先で押しだした。
「同じものをテレスコピウムにも渡してある。気づいたことがあったら、書いてほしい。締切は明日なんでよろしく」
「明日あ!?」
「今頃二人も、必死こいて机に噛り付いてるだろうねえ」
 くつくつと纏は楽しげに笑った。
「どうしてそんなに……」
 急ぐのか、とベアトリーチェが尋ねかけた時、ノックがして、ジュリア・ホールデンが入ってきた。
「本日の報告です。構いませんか?」
「いいよ。この二人は気にしないで言って」
 ジュリアは一つ一つ、その日あったことを上げていった。鮪が懲罰房を出たこと、フェルブレイドの看守が休暇を取ったこと、廃墟の片付けが一ヶ所終わったこと、医務室に運ばれる怪我人や病人が多いこと、新しい業者が厨房に食品を納めたいと言ってきていることetc。
 そして。
「ストーンとニコルソンの判決が出ました。有罪です。近く、本棟に移送されると思われます」
 美羽とベアトリーチェが息を飲んだ。
「――だから急ぐのさ」
 間に合うかね、と纏は呟いた。


続く

担当マスターより

▼担当マスター

泉 楽

▼マスターコメント

この度は「ここはパラ実プリズン」にご参加ありがとうございます。泉 楽です。
今回は前編という扱いにつき、刑務所内部やそこで過ごす人々の描写に終始しました。一応、思いつく限りand次回使う予定の設定は今回の話に書いてあります。次回のシナリオガイドでもある程度は書きますが、自分が登場するシーン以外も目を通しておくことをお勧めします。とはいえもちろん、皆さんのアクションで予定が変わってしまう可能性もありますが。

爆破犯二人、アイザックとウィリアムの犯行動機については本文のとおりです。共犯者、及び主犯(NPC)については、まだ不明です。こちらも次回登場予定です。もちろん(以下略)

なお、受刑者or囚人については、前者で名称を統一しました。

それでは次回「ここはパラ実プリズン2〜大脱走!!(仮題)〜」にてお待ちしております。シナリオガイド発表まで、しばしお待ちください。