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幼児と僕と九ツ頭

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幼児と僕と九ツ頭
幼児と僕と九ツ頭 幼児と僕と九ツ頭

リアクション

 再度、洞窟を抜けた探索メンバー一行は、今度は容赦しないとばかりにヒュドラに襲い掛かった。先だって奇襲されたのだ、奇襲返しはヒュドラにとって大いに驚嘆に値する出来事だろう。
 そしてその目論見は大当たりした。さっき逃げたばかりの連中が、今度は大挙して襲い掛かってきたのである。
「おらおらおらおらあっ! さっきまでほとんど出番が無かった分、暴れさせてもらうぜ!」
 先陣を切ったのは匡壱だった。片手に藤袴、片手に小太刀を構えた二刀流でヒュドラの首の1本に肉薄し、その肉体を斬りつけていく。首を傷つけられた怒りをもって、蛇の頭の1つが匡壱を飲み込まんと迫るが、その攻撃はレリウス・アイゼンヴォルフのラスターボウによる射撃、ハイラル・ヘイルの雷術によって阻まれた。
「サンキュ、2人とも!」
「いいってことよ!」
「気をつけてください! そいつら、とにかく飲み込もうとしてきています!」
 レリウスが指摘した通りだった。ヒュドラはよほど腹が減っているのか、瘴気を吐き出そうとせず、まず大口を開けて飲み込もうとしてきている。どうやらこちらが近づかずとも、向こうが勝手にやってきてくれるようだ。
「あら、それじゃ料理しに行く手間が省けるってことね」
 お料理メモ『四季の旬・仁の味』――愛称四季が前に進み出ると、それを認めたヒュドラの頭が真っ直ぐこちらに向かってきた。
「おいでませ♪ 『メラうさちゃん』、ゴー!」
 やはり大口を開けて襲いくる蛇の頭に、炎のフラワシの一撃を叩き込む。カウンターで攻撃を受けた蛇の頭はその場でのけぞり、間合いを広げた。
「うっひゃあ、四季さん、ノリノリだなぁ……」
「ははっ、こりゃのんびりしてられねえな!」
 幼児化した真は後ろに下がらせ、パートナーの原田左之助が前に躍り出る。四季の炎攻撃で顔面を焼かれた頭の1つが再び迫ってくるのを、左之助が迎え撃つ。
「うおりゃあ!」
 繰り出した槍がヒュドラの喉元に突き刺さり、蛇の頭は悶絶して左之助を振り払おうとする。
 だがここで思わぬ援護攻撃が入った。パートナーが「熱狂のヘッドセット」の使いすぎでダウンしたコハク・ソーロッドが追い討ちをかけるように、手にした2本の槍をヒュドラの目に叩き込んだのである。
「これで視界は奪いました! 決めてください!」
 さらに槍から放出された電撃を浴びたヒュドラの頭が一瞬硬直する。その隙を見逃さない真ではなかった。
「四季さん、兄さん! 今だ!」
 指示を受けたパートナー2人が再び攻撃に転した。
「メラうさちゃん、焼いちゃえ!」
「気合の……、一撃!」
 炎の拳と、かつての新撰組十番隊組長の技が、頭の1つを吹き飛ばした。
「ほう、やるではないか! これはまけてはいられんぞ!」
 その姿に触発されたのか、ソーマが紅の魔眼の力を解放する。
「さて、いっきにきめさせてもらうぞ!」
 呪文詠唱を1つ。ソーマの手からファイアストームが放たれ、別のヒュドラの首を根元から焼き上げる。悲鳴を上げのた打ち回る首に、北都が黄昏の星輝銃の弾丸を連射する。
 だがそれでもまだ倒れないのか、燃やされた首がしつこく口を開けて北都を飲み込もうとした。
「北都には、指1本触れさせませんよ!」
 突撃してくる蛇の頭にクナイがティアマトの鱗を振りかざして迎撃する。一撃の後に、クナイは光の魔法を叩き込んだ。ライトブリンガー、パラディンが使う武技である。
 この一撃により首の1本は断末魔の叫びをあげて、その長い体を湖に落とした。
 そうして契約者たちが着実に首を戦闘不能にしていく中、さらに暴れる者がいた。大型植物に飲み込まれかけた真田幸村と柳玄氷藍である。
「さっきは危うくやられかけたが、今度はそうはいかんでござるぞ!」
「右に同じく! ぶっ飛ばす!」
 それぞれが槍と弓を構え、ヒュドラの首の1体と対峙する。
「矢でも食っておけ!」
 氷藍が矢を2本つがえ、同時に発射すると、放たれた2本の矢はまるで左右から襲い掛かる蛇のようにヒュドラの目に直撃する。咆哮1つあげ、矢が飛んできたらしい方向に牙を向け、ヒュドラの首は一直線に向かってくる。
「父上! 母上!」
 やってきた首は、まず真田大助が手に持ったサバイバルナイフによる爆炎波で牽制を受け、続いて幸村が構えた槍に襲われた。
「日本一の槍、魂に刻め!」
 炎を纏わせ、蛇の脳天に全力で突き立てる。頭蓋骨を貫通し、脳を焼かれた蛇の頭は生命維持能力を失い、その場で動かなくなった。
「どいつもこいつも、かなりやってくれるじゃない……」
 契約者たちの活躍を目の当たりにし、イリス・クェインは歯噛みした。まったく、自分が幼児化してさえいなければ、あの連中以上の活躍をして見せるものを……。
「でも、こちらも何もしないわけにはいかないし……。クラウン、やっておしまい!」
「しょうがないなぁ。それじゃ、蛇退治といこうか!」
 幼児化したイリスの変わりにクラウン・フェイスが大鎌を手にヒュドラの頭と戦い始める。
「バル、こっちも負けてられないよ! というわけでお願いね」
「結局人任せかよ!」
 結奈も戦闘には参加せず、代わりにバルが戦列に加わった。
「さて皆様お立会い、ここに取り出したるは道化の鎌。この鎌の鋭さ、避けきれるかな!」
 向かってきた蛇の頭を鎌によるチェインスマイトで迎撃し、生まれた隙をついてバルが雷術による電撃を叩き込む。
「おっと、なかなかやるね。ならばこちらも……」
 2人に割って入ったのは、半ば引率者ポジションを確立しつつあったメシエ・ヒューヴェリアルだった。
 距離を置いてヒュドラの頭に狙いを定める。持っていた「ワンド・オブ・セレスティアーナ」から高温の炎が噴出し、頭のみならず首の一部をも黒焦げにした。
「ヒュー! お兄さん、やるじゃない!」
「ふふ、それほどでもないよ」
 効果的な一撃を叩き込んだという爽快感があってか、クラウンの褒め言葉にメシエはまんざらでもなかった。
「それでは、その首、いただくぞ!」
 咆哮1つ、バルは飛び上がり、両手の指を絡めて1つの拳とし、手負いの頭にドラゴンアーツによる怪力の一撃を叩き込んだ。攻撃を入れられた蛇の頭は、その勢いに乗って真下に落下していく。ドラゴンの怪力によって頭蓋骨が陥没し、それだけでも致命傷だというのに、さらに追い討ちがかかった。クラウンの大鎌がヒュドラの首の1本、その喉元を切り裂いたのである。
 喉から吹き出る血を浴びてはまずいと、近くにいた契約者たちは全力で退避した。喉を切られた蛇は、そのまま出血多量で絶命した。
「はい、一丁上がり!」
「さすがクラウン、やりますわね」
「バルもお疲れ様」
「……ホントに疲れたわ」
 戦闘に参加したパートナーを労ってやると、そんなイリスと結奈にエース・ラグランツが寄ってきて、唐突に花を差し出した。
「戦場に咲く花のような2人に、はいどうぞ」
 幼児化しているというのにいつもの癖が出たのか、女の子に花を差し出すエースはその直後、メシエに全力で頭を殴られていた。メシエ曰く、戦闘中だというのにそんなことをしている場合か、と……。