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リアクション
第二章
「あたしの歌を聴けーー!!」
熾月瑛菜(しづき・えいな)とパートナーであるアテナ・リネア(あてな・りねあ)のゲリラライブは、今夜は工場近くで始まった。
ギターをかき鳴らし、思うがままに声を張り上げるその姿に周りが迷惑しているのは当然だろう。
そんな二人の前に、突如トラックが止まり、横にあった荷台が開いた。
「瑛菜ーー! それがあなたのやりたい音楽なの!? 私が見てきたあなたの音楽はこんなもののはずじゃなかったわ! 私が目を覚まさせてあげる!」
瑛菜のバンド仲間である、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がギターを構えて現れる。
パートナーのグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)、上杉 菊(うえすぎ・きく)、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)もそれぞれ担当の楽器を構える。
即席のライブ会場が出来上がった。
「瑛菜様――いえ、瑛菜部長。もうお止め下さいませ。今の貴方様の御姿は、部員として見るに偲びございません」
「瑛菜、アテナ。其方ら、朝起きたらいきなりデスメタルに目覚めたわけでもあるまい? その仮面は悪しき物だ。――悪いが、外させて貰うぞ」
菊とグロリアーナは真っ直ぐ二人を見つめ、力強く言い聞かせる。
「うゅ……、アテナ、どうしちゃった、の? エリー、アテナのこと、だいすき、なのに……」
泣きそうな声でエリシュカが訴える。
彼女達の登場で演奏は一旦止んでいたが、声は届いていないようだった。
「うるさーい! あたしのライブの邪魔をしないで!」
「瑛菜おねーちゃん、それよりも早くアテナたちの歌を広めなきゃ!」
「そうだね! あたし達は音楽を聴かせる為にここにいるんだから」
そうして再び唄いだす瑛菜とアテナ。
取りつく島のない二人に、ローザマリアは一瞬怯む。
「ローザ、怯むでない」
「そうです、御方様。二人を正気に戻すのでしょう」
「ぅゆ……エリー、元のアテナに、戻ってほしい、の……」
励ますように三人が声をかければ、ローザマリアはハッとした。
「そうよね、まだ何もしてないのに諦めるのは早いわ。ライザ、菊媛、アテナ、私達の歌を届けるわよ!」
力強いローザマリアの言葉に、応えるように三人は頷いた。
「瑛菜、私には貴方の心の痛みが理解できる。同じ音楽を通じて心を通じる仲間だもの。だから――」
拍子を取るエリシュカのドラムスティックを合図に、ローザマリア達の演奏が始まる。
魂のこもった、歌への情熱を交えた音楽。
ローザマリアと菊の歌声が重なり合う。
歌うことの幸せを伝える歌詞は、やがて瑛菜たちの演奏を止めるに至った。
「あ……この、音楽は……」
「瑛菜おねーちゃん……?」
急に音が止んだ瑛菜につられ、アテナの音楽も止んだ。
その異変に先に気付いたエリシュカは、ステージを飛び降りる。
「えーい!」
アリスチョップで、エリシュカは仮面を割る。
仮面は手応えなく簡単に崩れた。
「え……エリシュカちゃん……?」
我に返ったアテナは、エリシュカの存在に驚く。
「はわ……アテナ、戻ったの〜!」
エリシュカはぎゅっとアテナに抱きついた。
そして、瑛菜の目の前にはローザマリアが降り立つ。
「瑛菜……私達の歌が聴こえたんだね」
ローザマリアがゆっくりと瑛菜の仮面を取り外す。
「瑛菜がまだ自分のやりたい音楽を忘れていないみたいで、良かった……」
「あ、ローザ……」
元に戻った瑛菜は、自分のしたことを思い出し、俯く。
「ごめん、ローザには迷惑をかけちゃったね。それだけじゃなくて、周りの人にも……止めてくれてありがとう」
「気にするでない。この仮面のせいだろう」
「そうだけど……実際に迷惑をかけちゃったのはあたしだし……」
グロリアーナの慰めるような言葉に、瑛菜は首を横に振る。
「実際にはそうかもしれませんが……それでも、気になるというなら、瑛菜様の本当の音楽で皆にお詫びすれば良いのではないでしょうか?」
菊の提案に、ローザマリアは頷く。
「そうよ。今度は迷惑にならない時間と場所で。瑛菜の音楽を届けるの。私も瑛菜の音楽が聴きたいし」
「そういうことなら……もちろん!」
瑛菜は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ローザ、私を止めてくれてありがとう」
「そんなの当然よ。だって、私たちは仲間じゃない!」
こうして、この騒音問題は友情によって無事に解決した。
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