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続・悪意の仮面

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続・悪意の仮面

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第五章

 囮として夜のヒラニプラを歩いていたイリス・クェイン(いりす・くぇいん)の前に、木本 和輝(きもと・ともき)は姿を現した。
「来ましたね、木本さん。単刀直入に言います。悪意の仮面を捨ててください」
「やっぱり囮か……」
 和輝はイリスの意図を知るやいなや、すぐに立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってください! 何で特定の女の子ばかりを誘拐しているのですか!? 悪意の仮面のせいとは知っていますが、意図がわかりません」
「……」
「せめて、悪意の仮面を外してください。それがいいものではないとわかっていますでしょう?」
 呼びかけるも、次の囮を探すことに思考が向かっているのか和輝は反応を示さない。
「そう、人がせっかく穏便に説得で済まそうと思っていたのに、それに応じないというのね。なら、こちらも強硬手段をとらせてもらうわ。クラウン!」
「任せて、イリス!」
 イリスの呼びかけに、パートナーのクラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)は透明になったまま飛び出す。
「ランスバレスト!」
「!」
 姿の見えないクラウンに和輝は一瞬行動に迷う。
 しかし、その動きで体がよろめき、和輝はぎりぎりのところで攻撃をかわした。
「危な……っ! 春華! 氷苺はん!」
 本格的に危機を感じたのか、和輝はパートナーの厳島 春華(いつくしま・はるか)雹針 氷苺(ひょうじん・ひめ)を呼んだ。
「和輝ちゃん、こっちはいつでも大丈夫ですぅ」
「さっさと上がってくるんじゃ」
 上空に、氷苺の背に春華が乗った姿で現れる。
「そう簡単には逃がさないよ!」
 クラウンはもう一度技を放つ。
 だがそれは一歩遅く、和輝は如意棒を上空に伸ばし、氷苺に引っ張り上げられた。
「よし、行くとしようぞ」
 氷苺はそう合図を出し、三人の姿は消えた。
「あー、もう逃げられちゃったじゃん! くやしい〜!!」
 クラウンは、悔しそうに地団駄を踏む。
「まだ終わってないわ。もう一度探すわよ」
 イリスの声にも若干悔しさが漂っていた。
「うん! 次は逃がさないもんね!」
 クラウンはイリスの言葉に頷き、二人は和輝たちの消えた方向に駆け出した。



 八神 誠一(やがみ・せいいち)は、協力者である八塚 くらら(やつか・くらら)と路地を回っていた。
「今までの情報から、多分マイトさんはこの辺に出そうね。木本さんの方も予想ではこの辺りですわ」
 くららの目的はマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)
 けれども情報収集も兼ねて誠一と協力し、木本の囮も引き受けていた。
「それじゃあ、この辺で別れようかねぇ。僕は遠くから見張っているから、後は……」
 誠一がそう指示を出そうとした時、視界を目的の人物である一人が横切った。
「あれは……マイトさん!」
 くららもその存在に気がついたらしい。
「くららさん、マイトさんはお願いします」
「え、でも囮は!?」
「こちらはこちらで何とかしますよぉ」
 ひら、と誠一は手を振る。
「わかりましたわ。それじゃあ!」
 くららは若干申し訳なさそうにしながら、吹っ切るようにマイトの消えた方向に駆け出した。
「さて、この後はどうしようかねぇ」
 囮をなくした誠一には、もう木本を誘き出す術はない。
 そうして、この後をどう行動しようかと思案しながら歩いていたところに、ある一角から喧騒が聞こえてきた。

「どうやら、囮に上手くかかってくれたようじゃのう」
「和輝様、大人しく捕まってください」
「というか、あえて貴仁が選ばれちゃうとか……プッ」
 房内、夜月、白羽の三人は和輝と対峙するように並ぶ。
 その中で、白羽は多少面白がっているようだった。
「貴仁……男?」
 和輝は自らが捕らえた少女……いや、少年に目を移した。
 そこには誰よりも女の子らしい衣装を着せられ、それがどう見ても女の子にしか見えないくらいに変身を遂げた貴仁の姿が。
「そうですよ、和輝さん。さて、仮面はこちらが頂きますよ……と!」
 女装させられたことに屈辱に、八つ当たりも僅かに含ませて貴仁の蹴りが放たれる。
「――っと!」
 和輝は咄嗟に腕を交差させ、顔の仮面を守った。
「危ないなぁ……。こうなったら逃げるが勝ちだ! 春華! 氷苺!」
 和輝は上空に待機する春華と氷苺を呼び出す。
「はーい、和輝ちゃん。すぐに引き上げますですぅ」
「させないよ!」
 逃げ出そうとする和輝を見つけ、駆け寄ってきた誠一は煙幕ファンデーションを投げ込んだ。
 途端、周囲に充満した煙幕によって視界が奪われる。
「む、和輝の姿が見えんぞ」
「大丈夫、氷苺ちゃん! 今私がテレパシーで……!」
 春華は和輝の位置を確認しようとして、彼にテレパシーを送る。
『和輝ちゃん、今どの辺にいるのですぅ?』
『そんなの、こっちからも君たちが見えなくちゃ指示が出せないんだよ――っと、うわ!』
 テレパシーは長く持たず、すぐに途切れてしまう。
「氷苺ちゃん、このままだと和輝ちゃんがあぶないかもですぅ。下に降りた方が良さそうですぅ」
「そのようじゃのう」
 春華と氷苺は和輝を探すために降下した。
 直後、和輝の仮面は、死角からの誠一の疾風突きに砕け散った。
「貴仁、ボクたちはあの二人の仮面を割るよ」
 近くに寄っていた白羽が、貴仁に耳打ちをする。
 白羽の指すすぐ先には、薄っすらと春華と氷苺の姿が見える。
「わかりました。俺が合図を出しますから、白羽は春華さんの方をお願いします」
「仕方ないなあ。まあ、貴仁もちゃんと女の子の格好してくれたし、今回ばかりは素直に従うわ」
「じゃあ、いきますよ。3、2、1――今だ!!」
 白羽と貴仁が駆け出す。
 背後に気配を感じて二人は振り向くも、防御は間に合わず。
 二人の仮面も次の瞬間には散ってしまった。

「なぜ、このようなことをしたのでございますか?」
 煙幕が晴れた後、仮面をなくした三人に夜月が問いかける。
「髪飾りを選ぼうとしたんだけど、流行とかわからなくて……」
「髪飾りじゃと?」
 和輝の言葉を房内が復唱する。
「女の子の流行とか知りたいと思ったんだよ。でもあんまり方法が思いつかなくて。それで仮面を被ったときにちょうどこの方法が浮かんだんだ」
「それで実行したというわけでございますね」
 夜月の問いに、和輝は頷く。
「それでも、誘拐までしたのはやりすぎだったと思う。そんなに危害を加えなければそれで大丈夫だと思っていたんだよ。仮面を被っていた時は。さすがにもう反省してるよ」
 和輝は反省の意思を言葉に表した。
「ところで、何で女の子の流行なんて知りたいって思ったの?」
 誠一の問いに、和輝は頬を赤らめた。
「プレゼントが……したくて。どんなのが喜ぶのかわからなかったから」
「ほう、実に健気なものじゃな」
 房内の言葉に、和輝はさらに俯いてしまった。
「……ねえ、俺が今回女装する必要性ってあったと思います?」
「何を言うの。貴仁の女装あって、解決にも繋がったじゃない」
「納得いかないです」
 その横では、貴仁は釈然としないまま女装の必要性について悩んでいたのだった。