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■□■4■□■ 獣人の昔話
イベント「獣人民話をきいてみよう」では。

藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が、フィールドノートを片手に、
遊びにやってきていた。
「遊びに来ましたものの、主催者さんが
空大の学園祭の方に行ってしまわれたのですよねぇ。ちと残念ー」

気を取り直して、
友人の湯島 茜(ゆしま・あかね)や、
娘(?)の
エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)と一緒に、
民話を楽しむ。

「それでは、それがしがおばあちゃんから聞いた昔話をするであります」
まず、エミリーが語り始める。

「昔ハナアルキは他の動物とおなじく足で歩いていた。
ある日、ハナアルキの若者(当時なんと呼ばれていたのかは誰も知らない)が
昼間から横になって寝ていると、
太陽が見とがめて起きるようにいった。
若者は「自分の足は顔にあるのです」といってごまかした。
神様は若者の嘘を見破ったが、若者が熱心にそう言いはるのでそういうことにした。
すなわち、その日から若者は鼻で歩くことになったのである。
これがハナアルキが鼻で歩くようになった謂れである」

「私はハナアルキならお味噌汁、という故事を日本で聞いたことがありますが」
「多分、別の何かだと思うよ」
優梨子に、茜がツッコミを入れる。
とはいえ、ボケつつも、優梨子は昔話を真剣に記録していた。

「では、私も語らせていただきますね」
こうして、満を持してゲストのチエル・イシュ(ちえる・いしゅ)の民話が始まる。

「昔は数というものがなく、多いということも少ないということもありませんでした。

あるとき、熊の若者が森の奥で魔女に出くわしました。
魔女は煮立った鍋に魚をいれながら、
「いっぴき、にひき、さんびき、よんひき……」
と数えていました。

若者は不思議に思って何かと尋ねてみると、それは数というものでした。
これはいいことを聞いたと若者は喜んだのですが、魔女は
「それは魔女の秘密だ、誰にも教えてはいけない」
と言いました。

さて若者は村に帰ってから、魔女の教えを破って数の秘密を村人に伝えました。
それからというもの、
村人は自分が生まれてから何年過ぎたのかを知るようになり、
老いて死ぬようになったということです」

「なるほど、『文化英雄』の物語ですねー。興味深いです」
優梨子は、真剣にノートを取る。

(ああ、よかった。
てっきり『皆さんも干し首になってみませんか』とか、
蛮行に及ぶかと思っていたけど、
チエルさんの前だからかもね、きっと)
茜は、自らもパラミタパビリオンのイベント
「講演「干し首習俗」」を主催している優梨子が、大人しくしているのを見て安心する。

その後、記念撮影の準備として、
優梨子たちは、ジャタ獣人の衣装に着替えることにした。
「そのうち主催者さんも戻って来られましょうから、
一緒に写真に写れますと良いですねー」
そう言う優梨子だが。
「……うむ? いささか着付けにとまどう点が……。
エミリーさん、チエルさん、手伝っていただけませんか?」
「任せるであります」
「いいですよ」
優梨子の胸の前にエミリー、背中側にチエルが回る。

「あれ? 何か服に引っかかって……ネックレスか何かですか?」
そうたずねるチエルだが。
「母さん、首にさくらんぼやぶどうをぶら下げたままでは
うまく着替えられないであります!」
「それもそうでしたねー」
「さく……!?」
エミリーと優梨子の会話に、チエルはショックを受けるのであった。