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秋の夜長のパジャマ&コリマパーティー

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秋の夜長のパジャマ&コリマパーティー
秋の夜長のパジャマ&コリマパーティー 秋の夜長のパジャマ&コリマパーティー

リアクション

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「ふぅ〜、気持ちいい♪」
 所は『パジャマパラダイス』。阿鼻叫喚の蟹漁とは対照的に、水は水でも温かな温泉に浸かる女子達の姿があった。
 その一人、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は広い温泉の一角にゆったりと体を投げ出していた。そんな彼女の隣では、眼鏡を頭に乗せたミア・マハ(みあ・まは)が同じく温かな湯に身を浸している。
「うむ、温泉は良いものじゃのう」
 満足げな感想を漏らしたミアは、しかし何気なく横へ目をやるや否や動きを止めた。レキの一点へ注がれた視線には、明確な驚愕の色が滲んでいる。
 暫しの沈黙の後、ミアの唇からは「また、成長したのではないか?」と微かな呟きが零れる。自身の胸元へ目を落とし、それからレキの胸元を恐る恐る見遣って、沈黙。並べてみるとまた一層、野と山のような差を歴然とさせる光景に、ふるふると肩が震え始める。
 注がれ続ける視線とミアの異様な様子に、気付いたレキが怪訝と目を向ける。
「ミア、どうかしたかな?」
「い……いや、何でもない」
 しかし、それを口にすることはミアには到底出来なかった。暫しそんなミアの様子をきょとんと眺めていたレキは、気を取り直して顔を上げる。
「それなら、背中の流しっこでもしようよ」
「う、うむ。そうじゃな」
 しどろもどろとした調子ながらも立ち上がったミアは、ふと視界の端に人影を見付けた。
「こ、これが長年憧れてきた普通の世界……!」
 そこには、乳白金の髪を流し瞳に歓喜の色を浮かべて温泉に浸るフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の姿があった。今まで気付かなかった理由は、どうやら彼女は気配を消すことに長けているらしい。
 フレンディスの傍には、アリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)の姿もある。
 レキとミアは顔を見合わせると同時に頷き、彼女たちの方へ湯を掻き分け近付いて行った。一瞬泳ごうかと強く底を蹴り掛けたレキは、慌てて頭を振って欲求を振り払う。
「流石に泳いだりは……ね」
 彼女の呟きは、幸いにも誰にも聞き留められる事は無かった。おずおずと会釈するフレンディスへ、レキはひらひらと片手を振る。
「温泉、気持ちいいね」
「え? ええ、そうですね」
 警戒と緊張を綯い交ぜにしていたフレンディスの表情が、何気ないレキの問い掛けに綻ぶ。ミアはと言えば、その隣でアリッサやレティシアの胸元へそれぞれ視線を送っていた。
「ふむ、これはなかなか……」
 そのミアの目がフレンディスへ向いたところで、アリッサがばっと視界へ割り込む。
「おねーさまにそんな目、向けちゃダメー!」
「そ、そんな目とはなんじゃ」
 見透かしたようなアリッサの笑みに、ミアは言葉に詰まりながらも慌てて視線を逃がす。
 きょとんとするフレンディスと向き合いつつ、レキは興味津々といった様子で口を開く。
「キミも温泉目当てで来たの?」
「私は、普通の世界を体験してみたくて……」
 嬉しそうに笑みを浮かべたフレンディスの返答に、レキは「普通の世界?」と首を傾げる。しかし深く突っ込むことはせず、「なら一緒に色々楽しもうよ」と誘い掛けた。
「そうじゃ、スイーツを食べに行くぞ! やけ食いでもせんとやってられんからのう!」
 両腕を上げたミアの言葉に、驚きながらもフレンディスは頷き立ち上がる。アリッサも立ち上がるものの、レティシアは渋い顔をしたまま動く様子が無い。
「ほらー、レティシアちゃんも行くよー?」
「……何故、我はかような場に連れてこられているのだ?」
 心底疑問といった風にようやく口を開いたレティシアは、仏頂面のままにアリッサを見上げる。
 アリッサは悩むこともなく、「恋バナのため!」と言い切った。
「恋バナをしに来たの? 良いな、ボクにも聞かせてよ」
 嬉しそうなレキの問い掛けにも、レティシアは「我が話すことなど何一つ無い」と顔色一つ変えずに言い切る。
「なら、そなたは?」
 にやりと笑みを湛えたミアの振り向く先には、真っ赤になったフレンディスの顔があった。
「えっ? あ、私、ですか!? いないですよおっ! だって、今までそういうコト考える時間ありませんでしたし! その、私、女としての魅力に乏しいのか、昔からくの一としての才能がないのです……。確かにマスターは私が必要と言ってくれましたけど、マスターが欲しいのは家臣としての力であって、その……、そういう対象で見てないと思うのですっ!」
 慌てた様子で両手を振りながら、フレンディスは早口に捲し立てた。一通り聞き終えたミアは、「つまりそのマスターとやらのことが気になるのじゃな」と結論付ける。
「い、いえ! ですからそうじゃなくて、ええと!」
「おねーさまの恋人はアリッサちゃんだもんねー♪ ベルクちゃんには渡さないもーん」
「そ、それもその……」
 片腕へ絡み付くアリッサの言葉に困惑しながら、フレンディスは必死に言葉を探す。
 そんな彼女の視線が、丁度立ち上がったレティシアの目と絡んだ。縋るような眼差しに、しかしレティシアはふいと顔を背ける。
「フレンディス。お前は何故にあの大馬鹿者に構うのだ? そもそもあの不届き者はだな……」
 先よりも一層不機嫌なレティシアの言葉に、フレンディスは呆然と目を瞬かせる。
 そんな彼女の様子に気付いたか、レティシアは言葉を切った。
「……ふん、まぁいい。我は先に行く、付いてくるな」
「あ、レティシアちゃーん! 待ってよ、スイーツ食べに行くならアリッサちゃんも行くー!」
 すたすたと歩み去っていくレティシアの背を、アリッサが追う。彼女に腕を掴まれたままのフレンディスもまた立ち上がり、伺うようにレキとミアを見る。
「わらわたちも行くぞ。スイーツ食べ放題じゃ!」
「うん、行こう行こう……って、わっ!」
 並んで歩き出した二人だったが、直後にレキの頭が視界から消えることとなった。
 ミアとフレンディスが見下ろせば、そこには石鹸に足を滑らせ尻もちをついたレキの姿。
「だ、大丈夫ですか?」
「仕方ないのう」
「いたた……ごめんごめん」
 慌てたフレンディスと苦笑交じりのミアに助け起こされたレキが気恥ずかしげに笑みを浮かべると、レティシアを除く四人の表情には同じ笑顔が浮かび上がった。


▼▼▼


「大丈夫かなあ……」
 ひとしきり騒動を眺めていた端守 秋穂(はなもり・あいお)は、依然バリバリと海中を泳いでは蟹の捕獲を続けるラルクと救出され船室へ運び込まれていくイレブンをそれぞれ見送り、ぽつりと呟いた。秋穂自身も船へ飛び乗ってきた蟹を数匹倒しては調理場送りにしているが、如何せん心配は拭えない。
 秋穂の脳裏に、パジャマパーティーへと送った二人のパートナーの顔が浮かび上がる。当時の自身の判断に感謝しながらも、二人へのお土産を確保するべくマジシャンズケーンを握り締めた、その瞬間のことだった。
「うわっ!?」
 僅かに油断した一瞬の隙を突くように、小柄な蟹が秋穂へと躍りかかる。小柄と言えど鋭利な鋏に変わりはない。怯んだ秋穂へ鋏が迫り、秋穂が片腕で顔を庇った、刹那。
「秋穂ちゃんの邪魔するなー!」
 横合いから放たれた『サイコキネシス』に、蟹の動きが空中でぴたりと停止する。
「はぁっ!」
 そこへ、『雷術』が蟹を貫いた。痺れた蟹は、ややあって煙を上げ目から光を失う。
 それぞれの技を放った二人の姿に、秋穂はぎょっと目を丸めた。
「二人とも、なんでここに……?」
 そう、それは正にパジャマパーティーへ行っている筈のユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)セレナイト・セージ(せれないと・せーじ)だったのだ。秋穂の言葉にしょんぼりと肩を落としたユメミは、恐る恐る歩み出る。
「ごめんなさい、でも……ユメミは秋穂ちゃんと一緒がいいー! 一緒に、蟹取りたかったの……」
 その傍らで、セレナイトももまた苦笑交じりに頷く。
「ごめん、ユメミちゃんは秋穂と一緒の方が落ち着くと思って」
 それぞれの言い訳に、秋穂ははっと息を呑んだ。今度は秋穂の面持ちに、申し訳なさげな笑みが浮かぶ。
「僕こそごめんね、二人を置いて行くみたいになって。……後で一緒に蟹食べよう」
 秋穂の誘いに、二人はそれぞれ破顔して頷いた。
 その頃、極寒の水中に飛び込む人々の姿があった。
 一人は、ミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)。蟹の爪を両手に身につけ、甲羅を背負い、極めつけは全身に蟹味噌を塗り付けたその姿は、どうやら雌蟹に擬態しているつもりのようだ。
 泳ぐミゼに惹かれたのか否か、数匹の蟹が現れる。人間の頭部程度の大きさの蟹達は、一斉にミゼへ襲い掛かる。
「つぐむ様、今です!」
 ミゼの声に応えるように、蟹達、そしてミゼまでをも巻き込むような『放電実験』が放たれる。
 感電したミゼは悲鳴を上げながらも、「感電プレイ……」と恍惚とした笑みを浮かべていた。
 しかし、未だ動く蟹が数匹あった。すると、そこへ全身パワードスーツ姿の男が船の影から姿を現す。
 先程の『放電実験』を放った男、十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)だった。つぐむの肩のアンテナ部分が発光し、再度『放電実験』が放たれる。感電し痺れた蟹達へ、脇から高速で近付く姿があった。ジェットハンマーを次々蟹へ打ち下ろしていく彼の名は、ガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)。ガランは打ちのめした蟹とハンマーを順に見比べ、「悪くない」と呟く。普段剣を獲物とするガランにとって、ハンマーは使い慣れない武器だった。
「よいしょ、っと。どんな蟹料理にしようかな〜」
 ガランの倒した蟹が、ふわりと浮かび上がる。『サイコキネシス』で蟹を持ち上げた竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)は、それを次々に船へと送り届けて行く。時折動く蟹の姿があれば『シューティングスター☆彡』の一撃を撃ち込む徹底振りだった。
 四人の連携によって次々打ち上げられていく蟹を眺めながら、つぐむは満足げに頷く。
 彼の唇からは、「これだけ獲れば借金も返済出来そうだな……」と切実な声が漏らされた。


▲▲▲


 レキやフレンディスが離れて少し経った頃の温泉に、別の女子たちの姿があった。
「わ〜! 温泉、広いですね〜!」
「……そうだな」
 歓声を上げたのは、タオルに包まれた薄茶の髪を揺らす茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)。その隣で静かに頷いたのは、若松 未散(わかまつ・みちる)。そう、アイドルユニット『ツンデレーション』の二人だった。
 すらりとした肢体にタオル一枚のみを纏い、二人はそれぞれに温泉へ身を沈める。
「未散ちゃん、白い〜!」
「え、衿栖! ひっつくなよ!」
 脇からがばりと抱き付く衿栖に、ぱっと赤面した未散は慌てて両手をバタつかせる。きゃいきゃいとはしゃぐ二人へ、少し離れた位置からカメラを向ける女性がいた。
「えーっと、このスイッチを押して、あとは撮影してるだけで良いんだよね?」
 誰にともなく呟くと、茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)は指示された通りにボタンを押し込む。ジィ……と低く唸るような音を立てて稼働を始めたカメラを手に、朱里はシャッターを切っていく。
 そう、ツンデレーションの二人は女子会の機会に便乗して『アイドルの休日』というテーマの写真集を作りに来たのだった。最も本人たちにとって、それは口実に近いものかもしれない。
「あああっ!」
 ファインダーの中には、二人で戯れる内にタオルの外れてしまった未散の真っ赤な顔が映っていた。慌ててカメラから胸を隠すように、衿栖の腕が伸ばされる。ベストショットと言うべき偶然の一枚をしっかりフィルムに収め、朱里はふと空を見上げる。
「これ、ちゃんとレオンさんの所に届いているかな……?」
「……これは湯煙でもう少し加工する必要があるな」
 その頃、846プロの事務所ではリアルタイムに送られてきた写真を眺めるレオン・カシミール(れおん・かしみーる)が顎に手を当て独り呟いていた。即座に処理を施し、流れる動画への反映を確認する。
 そう、撮影風景の所々をレオンはユビキタスを用い生放送として配信していたのだった。勿論「生放送」の名目ではあるものの、時間差を付けて加工の間を挟むことは忘れない。
 更に彼は『根回し』によって『パジャマパラダイス』の写真使用許可をも取り付けていた。846プロのホームページへ掲載するばかりかアイドル活動の一環として写真を芸能誌へも売り込むこと、それによって施設の知名度が上がる可能性が高いこと、云々。それらをこんこんと説き伏せ、今こうして動画配信までも許可される段階へと至っていた。
「現地に居なくても出来ることはいくらでもある。 むしろ居ないからこそ出来ることの方が多い程だ」
 そんな彼の呟きは勿論届かないものの、すっかり温泉を堪能した衿栖と未散は湯上りの浴衣から、更に可愛いルームウェアへと着替えていた。無論、浴衣での写真も幾つも撮影を済ませている。
「一々着替えなきゃいけないの? 面倒臭いなー、早くお菓子食べたいのに……」
 ぼそりと呟かれた未散の言葉に、衣裳係として大きな鞄を手にした会津 サトミ(あいづ・さとみ)が怪訝とした目を向ける。
「あれ、みっちゃん……」
「じ、じゃない間違えた! 仕事だから食べるだけだし!」
 サトミの疑問を皆まで言わせずに言い放つと、未散は逃げるように駆け足で広間へと向かっていく。
「あった! ここですね!  ふふふ、この施設に来ると聞いた時から楽しみにしていたんです……シャンバラ中のスイーツ食べ放題!」
 一足先に辿り着いた衿栖が歓喜の声を上げ、未散も無愛想な表情を作りながらそれに続く。
「うわー、この壺プリン美味しすぎ! ふんわりとした生クリームの下には濃厚なとろとろのカスタード、そして底にはビターなカラメルソース! とろふわビターっ! です!」 
 カメラへ向けて抱えたプリンを美味しそうに食しながら、衿栖が面持ちを蕩けさせる。無論、映り込む他の生徒はレオンが即座に修正を掛けていた。何を食べるか決めかねているのか、指先を宙へ泳がせる未散へ、衿栖はおもむろにスプーンを差し出す。
「ほら、未散ちゃんも食べてみなよ〜。はい、あーん」
「……し、仕事だからなっ」
 再び赤面しながらもそっと顔を寄せた未散は、恐る恐る衿栖のスプーンからプリンを口にする。
 途端に綻んだ面持ちを慌てて繕う未散の様子を間近で見守りながら、その可愛らしい反応に衿栖もまた頬を緩めていた。
「……。今日は他のパートナーもいないし、みっちゃんを独り占めできると思ったのに……」
 そんな二人を遠巻きに見守るサトミは、鞄の紐を千切れんばかりに握り締めて呟く。
「可愛い子は好きだし、衿栖ちゃんに罪は無いけど……けど、みっちゃんは僕のものなのに……!」
「ほんと、二人とも楽しそうよね……」
 彼女の言葉に応えるように、隣でカメラを構える朱里が呟く。直後みしりと音を立てたカメラに、朱里は慌てて強張る掌を緩めた。
「あっぶなぁ! カメラ握り潰しちゃう所だったじゃん、……べ、別に羨ましいとかそういうのじゃないからね!」
 誰にともなく口にされた朱里の言い訳は、ばっちり生放送の観客に届いてしまったのだった。
「ふっふー、手を上げろー! そして僕に触らせろー!」
 そこに飛び込んできたのは、同じ事務所に所属するフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)。突然の登場に驚きながらもばっちりカメラを向けた朱里の視線の先、フィーアはツンデレーションの二人へと駆け寄っていく。
「あなたも食べます? このプリン、すっごく美味しいですよ!」
 しかし、そんなフィーアは突然差し出された壺プリンを前に思わず動きを止めた。そして恐る恐る借り受けたスプーンを差し入れ、掬い取ったそれを自分の口へ運ぶ。
「お、美味しい……!」
 眠たげな瞳をぱっと丸め、フィーアが素直に感想を零す。
「こっちも美味いぞ」と未散の差し出す生チョコレート、衿栖の更に重ねた焼きプリン、と次々スイーツを渡されるうちに、フィーアは目的も忘れ、すっかり三人でスイーツを食べることに熱中してしまうのだった。