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リアクション
★2章
――神殿入り口――
続々と戻ってきた契約者から集められた情報を元に、カールハインツは事態を把握しようと努めた。
神殿内部の状態はさておき、すでに8割以上は探索済みだろう。
壁や柱、木々が崩壊と腐敗して迷路を織りなしているものの、所詮は山という入れ物の中での神殿であるために、外側さえ意識して進めればさほど迷うことはない。
村人は人数負けでもしない限り、先手をとって行けば問題はない。理性が残っているとのことだから、記憶が残っていると考えても間違いないだろう。
ただ引き続き瘴気に侵される村人の差は果たして個人差なのだろうか。
あるグループは戻るまで村人が再び瘴気にあてられることはないと言い、あるグループは石化までして運ばないと瘴気にあてられて大変だと言った。
そして英雄ラティオの霊が浮遊し、浄化を試みている――?
「石の破壊……。いや、その前にラティオに接触できる契約者がいるならば……」
やれやれ、とカールハインツは首を振った。
――神殿内部――
ドゴォオオッ――!
爆音、爆風、爆煙――。
耳を劈く音、散り散りに弾け飛ぶ木片に石屑、空へ舞い上がる黒雲――。
「お見事です、剛太郎様」
「この程度、新兵でもこなせるものでありますッ」
コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)の言葉に大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は当然と言った口調で、手を前を振った。
同行の仲間へ、進めという合図である。
神殿のある山の頂部手前の外れ小道から進んだ先で、行き止まりを迎えた。
しかし、その袋小路は異様だった。
まるで行く手を遮るように意図させた大樹の重なりと、その隙間から見えた村人の姿に、この先へ行くべきだと全員が判断していた。
村人が何かを削っていた。
その音はまるで刃物の砥ぎ――。
人型に見えなくもない石があったのだ――!
「わらわが動きを止めよう。なに、殺さなければよいのじゃろう?」
辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の言葉に仲間が頷く。
煙がまだ晴れないが、村人のいた位置は把握していた。
ならば死に至らず、かつ、動きを止める攻撃を仕掛けてみせると、まだ晴れぬ向こうに刹那の先制攻撃が始まった。
シュッ――!
空気を裂くような音を放ちながら、ダガー、それに暗器の類を、腰を落としながら低空で投擲した。
「よし、続くよ、リリ――って、エエッ!?」
ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)はパートナーのリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)を見て驚きに声を上げた。
ブオンッ――!
両手槌で豪快な素振りをしていたからだ。
「何を驚いているのです、チーシャ。村人の力も強化されているようですし、多少強く殴ったところで大きな問題も無いでしょう」
ブオンッ――!!
「ふー、思い切っても大丈夫ですわよ。骨が折れても、傷が付いても、瘴気のついでに治せますから」
「まあ、あたしもリリィのことは言えないかっ」
大剣を手にしたナカヤノフもまた、ニヤリと笑った。
――グギャアッ!
煙の向こうからつんざくような叫びがあがった。
「ほれ、往かんかッ」
刹那は隠れ身で姿を隠しながら、煙の向こうに消えた。
それにリリィとナカヤノフも続き、剛太郎とコーディリアも続いた。
煙の晴れた先では村人が2人、脚に突き刺さった凶器に地面を転がり、残りの村人は石像を必死に叩き、削っていたところで契約者に気付き、臨戦態勢を取った。
「あれが、嘆きの石でありますかッ」
「剛太郎様、あれを破壊すれば全てが終わります」
「であれば、破壊を試みる所存でありますッ」
「援護いたします」
「村人はわたくし達にお任せを」
「斬るよりなぎ倒す感じで――いっちゃうもんねッ!」
ナカヤノフは膝を曲げ、大きく飛び上がった。
迎え撃つ村人も飛び上がり、空中での一戦の交わりは――村人の両手での2連続の斬り刻みを剣で受け止め、攻撃後の隙を剣の腹で叩いて――、
「アッ」
なんだか『小気味良い』音が聞こえた気がしたが、気にしない――。
脳天から剣の柄で叩き、地上へ突き落す。
しかし、魔物化で高揚している村人は起き上がろうとする。
「わわっ、起き上がらないでッ」
そのまま氷術で村人の足と地面を接着し磔と、すかさずリリィが近づこうとするが――シャァシャァッとうるさく叫びながら――駄々っ子のように伸びた爪の腕を振るうので、再びコブのできた脳天にハンマーを振り下ろし二段にしてふら付かせた。
「多少やりすぎても、どうにかできます。いえ、どうにでもいたしますわ」
その言葉通り、リリィはキュアポイズンで浄化を試みたあとに、ヒールを重ね掛けして村人を回復させた。
「さて、次に参りましょう……と言いたいところですが、少し数が多すぎですわ。何人かに、少し退場していただきましょう。あとで迎えにいきますから。チーシャ」
ナカヤノフは着地後バックステップでリリィの元に戻り、そこに飛びかかってきた村人を1人ずつ、武器を気持ち弱めに振るいつつも、盛大な衝突事故で弾き飛ばすように吹き飛ばした。
「剛太郎様には近づけさせませんっ」
石の傍で仕掛けを施す剛太郎を守るコーディリアはそう意気込み、弓を放つのだが、如何せん魔物化で野生感が高まったこの村人には、中々命中しなかった。
このまま近接に持ち込まれれば危うい――が、ダガーを回収した刹那が瞬間移動の如き瞬きも許さぬ間の詰めを見せ、村人とくっつかんばかりの鍔迫り合いを見せた。
「弾くからのッ! しかと狙え、ブラウンッ!」
絶妙な押し引きで村人の爪を弾くと、がら空きの懐に蹴りを入れ後退させた。
その着地の瞬間を狙い、コーディリアの一撃が村人の太ももを突き刺した。
「爆破用意完了であります。皆、撤退を――ッ!」
「わらわが最も素早いであろう? 合図さえしてくてくれるのなら、最後までここで村人を引きつけようぞ」
その言葉に頷き、4人は一斉にこの場から少し離れ、大樹や石塊の影に身を隠した。
「爆破五秒前であります。村人諸君も、自分の言葉がわかるなら身を隠すのを進めますッ。3――ッ!」
刹那も一瞬で後退し、村人も契約者に突撃しながらも、頭を抱えた。
剛太郎が紐を引く。
安全ピンが外れ、石にくくりつけた機晶爆弾爆弾が爆発し、石がポップコーンのように炸裂した。
石は破壊された――。
しかし、村人の魔物化は治る気配を見せず――。
「……ダミーに惑わされたであります……」
「ハズレじゃのう……」
「まあまあ、おかげで村人はなんとかできそうですわ」
石はハズレだが、複数の村人の救助には繋がった。
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