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嘆きの石

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嘆きの石

リアクション

 主を見つけ、旋回のち滑空で、使い魔の紙ドラゴンがフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)の元に帰還した。
「御苦労さま……。ふむ、そうか……」
「どう? 村民は見つかった?」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が報告を待ち遠しく、急かすように聞いた。
 どうにもこの辺りは瘴気が強くなった気配すら感じていた。
 件の石が近いのだろうか――。
 それとも他の何かが原因だろうか――。
 そのどちらであるにせよ、ローザマリア達は他の契約者が石をなんとかすることを信じ、村人の救助を優先順位の頂きに位置づけた。
「困ったことに、数人がこの先三ヶ所ほどにバラついているようだ。しかも見事に殺し合いの最中であると……」
「なんてことだ……。過去の咎を今を生きる者達が負うなどと……」
 悲しき事実を耳にし、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は嘆いた。
「皆を助けたいのですが……目に見えぬ瘴気にあとどれほど耐えられぬかわかりません。わたくし達が侵されれば本末転倒。ここは――」
 上杉 菊(うえすぎ・きく)は苦渋の決断を提案しようとしたが、
「皆を助けましょう」
 ローザマリアが力強く宣言し、
「私とライザ、フィーでそれぞれ村人をこの広場まで引きつけて、そこを菊媛の秘密兵器で一網打尽っ。乗らないなんて、言わせないわよ?」
 指を立てながらウィンクした。
「ふふ、そなたは無茶を言う。が、わらわは乗ろう」
「そうだね。こんな瘴気の中で誰かを助けて誰かを見捨てるなんて」
 最も危険な役目は何か――囮だ。
 その囮役が乗り、ここで全てを終わらせる役目の自分は何も言うべきではないだろうと菊は思い、皆に幸せの歌を歌った。
 それが――答え。
 そうして3人が散った――!

「あらあら……。魔物化というより……」
 複雑化した地を華麗にバイクを乗り回し村人達の元に辿り着いたローザマリアは、思わず言葉を失った。
 今まで数多の契約者が戦ってきたよりもここの村民は――巨大化していた。
 だが――後には引けない!
 吹かしながら急発進すると、殺し合う村人の間を8の字走行し、朱の飛沫で地を焼き挑発しながら、引きつけに移る――。

「殺し合いはやめんかッ! そなたらの相手はわらわであるッ」
 村人達の風が鳴る剛腕の間をボードで駆け抜け、グロリアーナは狙い澄ました疾風突きを剣の柄で腹に叩きこんだ。
「鬼ごっこといこう……ッ」

 氷雪比翼で村人達の前に舞い降りたフィーグムンドは、それぞれの村人の拳を氷術で凍らせた。
「その氷を溶かして欲しいなら、私についてくるんだ。ついてこられれば、だけどね」

「……来ます……」
 菊は遠目からもわかる砂煙と震える大地に、用意を整えた。
 そして、3人は同時に――広場へと出た!
「菊媛ッ!」
 ローザマリアが叫ぶと、菊は事前にフィーグムンドから受け取った袋を投げ、秘密兵器――巨大扇風機のスイッチを入れた。
 豪風と共に袋が破裂し、中からしびれ粉が待った。
 巨大化した村人が1人、また1人と尻もちを付き、前のめりに倒れた。
 その激震が止んだ時、ローザマリアのサムズアップに、仲間が応えたのだった――。



「俺達がビンゴ――かもな」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)はパートナーであるアニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)の銃型HCを覗き込んで言った。
 他の契約者が紡いだマッピングを見る限り、自分達が真っ直ぐに未だ未開の部分に踏み込んできていたからだ。
「手掛かりはありませんでしたけど、石を目前に出来ているなら当たりですね」
「同行者を求めて成功だった。俺達とおまえ達を合わせて6人。これならどんな石でも壊せるぜ」
「ええ、この悲しいお話を終わりにしましょう」
 神殿入り口で同行者を探していた鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)と貴仁に纏う鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)と共に行動できたのは、こうなれば幸運でしかなかった。
「む……あれは? 倒れておる」
 アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)が前方を指差した。
「特に殺気は感じられないわね〜」
 リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)は無害を告げ、皆が倒れている人影に近づいた。
「ん……んんぅ……」
「おい、大丈夫か」
 真司が倒れている人――朝野 未沙(あさの・みさ)を起こし、揺すった。
「あー……」
 未沙の瞼がゆっくりと開き、焦点の定まらぬ瞳で一同を見渡した。
「あ、大丈夫でしたか? どうしました?」
 貴仁の言葉に未沙はゆっくりと首を傾けた。
「あー……やー……伝承を聞いて、調査に来て……」
「村人にやられたのかッ!?」
「んー……村人? あー……」
 未沙の視点が移る。
 真司、貴仁、魔鎧化した白羽、アレーティア、リーラ、そして、アニマ――。
「……つけた……見つけたぁ〜♪」
 未沙は一気に身体を起こし、光条兵器を手にアニマに飛びかかった――!
「ナッ――!」
 その咄嗟に真っ先に反応できたのは貴仁だった。
 アニマの前に立ち、光条兵器同士の鍔迫り合いとなった。
「女ッ、なんのつもりだッ!」
 貴仁の口調が荒くなるのも、無理はなかった。
「あは♪ あたし、機晶姫に目がないのッ!」
 これが通常なのか――!?
 それとも――!?
 貴仁は未沙の瞳を覗いた。
 黒い炎がたゆたっているように見えた。
 未沙は瘴気にやられたのだ――!
 助太刀をしようと真司達が武器を手に取る。
「先に行ってくださいッ! 石はもう近くのはずでしょう!? 俺が抑えていますからッ!」
 その通りだ。
 石まで間違いなく近づいており、下手をすればその先を進んだすぐにあるかもしれない。
 加えて、この未沙の様変わり――通常通りなのかもしれないが――を見て、瘴気の影響も目の当たりにした。
 これは未沙だけに起こりえた出来事ではなく、今すぐ、誰にでも起きる事なのだ。
「……わかった、済まない……ッ。石は必ず破壊するぜ!」
 真司は理解し、パートナーを集めて背を向けた。
「ふ〜っ♪」
「――ィッ!?」
 未沙のくすぐったい吐息が、貴仁の耳を撫でた。
 ――貴仁?
 魔鎧化している白羽がパートナーの名を呼んだ。
 わかる。
 纏っている自分だからこそ、わかる。
「ふ……そうですね……欲に溺れるのも……悪くは、ありませんね……」
 ――貴仁!? みんな、逃げるんだよッ!
「――!?」
 白羽に反応し、真司達が振り返った。
 事態の変化は殺気と共に一瞬で理解できた。
「なんてことに……。くそ、俺達に瘴気を浄化する術はないッ。やりあうしかないってのかよ、チクショォ……」
 ――貴仁、やめてよッ!
「ふふ……俺の、俺の最愛のパートナー鬼龍白羽は、そんなことを言いませんよ」
 ――〜〜〜〜〜ッ!?
 鎧の熱を感じながら、貴仁と未沙が襲いかかる。
「マスターやお母さんには……触れさせません」
 狙われるであろうアニマだが、自身の強い気持ちを露わに前に出て、ミサイルポッドから6連で放った。
「や〜ん、怒っちゃって可愛い♪ でも、攻撃は遅いかなーッ!」
 ドゴォッ――!
 6連ミサイルが地を抉り、煙を上げた。
「まずは……ッ!」
 ゴッドスピードで駆け抜けた貴仁がリーラの背後に回っていた。
「ふふ、面白くしてくれて感謝するわ、貴仁! だけど、戦う相手を間違えると、痛いだけよ?」
 感じ取っていたリーラは、身体から伸びた棒により薙ぎ払いを試みるが、貴仁が高く跳ねあがって回避した。
「まだァッ!」
 その棒を地面に突き刺し、リーラは自分の身体を宙に浮かし、回し蹴りを――、
「……」
 貴仁にかわされるのだが、身体を目一杯に捻ってハイキックへの連続攻撃までが一連であった。
「なっ!」
 しかし、当たった筈の蹴りの感触はなく、目の前の貴仁は霧散した。
「そんなに俺が『恐ろしい幻覚』でしたか?」
 貴仁の声は真司とアレーティアの後ろから聞こえていた。
 その身を蝕む妄執をリーラに見せるまで全て囮。
 本丸はこちらだった。
「破滅の刃……ッ」
 貴仁の強烈な一撃が――防がれた。
 一撃をイコプラが展開したシールドによって、もう一撃を2機のイコプラのサーベルによって防いだ。
 しかし、完全には防ぎきれなかったようで、胴体に傷を負い、破片を飛ばした。
「おぬし……。わらわのイコプラに傷をつけて、ただで済むと思わぬ方が賢明じゃぞ……ッ」
 更にもう1機――4機目のイコプラがサーベルで袈裟斬りを仕掛け、貴仁を後退させた。
 アレーティアが操る4機のイコプラで、奇襲の一撃は防ぐことに成功した。

「マスター、お母さんッ!」
「よそ見しちゃ、やあ〜♪」
 気を遣ったアニマの目の前に未沙が向かってきた。
 チュッ――!
 目の前でキスをされ呆気にとられたその一瞬で背後をとられた。
 ブラインドナイブス――。
「分解されると、キモチイイんだよ♪」
 しまった――と思うには、まだ早いようだった。
「そういうのは、余所でやってくれ」
「――ッ!?」
 バチィッ――!
 気付けば一撃を振り切ろうとした未沙の横っ腹に真司が迫ってきていた。
 真司の通った後に走る雷のような閃光筋――。
 雷術で肉体の電気信号を操り落雷の如く駆けた。
 シュッ――!
 だが惜しくも真司のナイフは虚空を裂いた。

 そんな激戦の決着は呆気なかった。
 ゴオオオッ、ドゴオッ――!
 それは地震。
 例えば――巨大化した村人が何人も連なって倒れ込んだような揺れ。
 その地震に思わずその場にいた誰もが片脚を付いてバランスを取ることに終始するしかなかった。
 たった1人――真司を除いては。
 リーラの咄嗟の判断で伸びた棒で宙に投げられた真司は、瘴気を払えるなら払えると信じ武器を聖化し、そして動きを止めるためのナイフ型スタンガンを使い、2人に浅い傷を負わせ、動けなくすることに成功したのだった。