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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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     ◆

 さてどうするか。そう頭を悩ませている面々は、再び面会室にいた。
「失敗したわ…………完全に」
「まさか寝てしまうとはな。でも何事もない。まだ間に合うという事だろう?」
 明子が悔しそうに呟くと、武尊が誰にともなく口を開く。
「あの者、まだ屋上前にいるので御座いましょうか」
「居るんじゃない まさか簡単に離れるとは思えないし…………」
「昴殿…………」
「あ……………ああ、その、すみません…………少し、考え事を」
 口を閉ざし、窓の外を眺める昴は武尊の言葉で我に返った。
「なんにせよ、屋上になんかがあるのは決まってるのよね。だったらそれをどうにかしないとなぁ」
「一先ずは騒ぎにならぬように動いてみるのは如何か」
「大事になる前に、で御座いましょう?」
「そう、ですね……………もしものために、避難誘導の、経路とか。確認した方が……………いい」
「じゃ、私はウォウルに怪しまれないように一旦病室戻るから、時間決めてまた此処で落ち合いましょ」
 明子の言葉に頷いた三人。と、丁度そこに、ウォウルの見舞いに来た御凪 真人(みなぎ・まこと)セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)ルイ・フリード(るい・ふりーど)シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)の四人が通り掛かる。
「あの、すみませんけど今、あなた方が話していたのって」
 そんなことを言いながら真人が四人に近付いてきた。
「え………? いや、その――」
「何も、『何を話していたのか』って言うのを聞いたんじゃなくてね? 今『ウォウル』って、言ってなかった?」
 いきなりの事で若干の戸惑いを見せている四人に、ごめんごめん、と言いながらセルファが補足を入れる。
「確かに言ったけど………ニヤケ眼鏡がどうしたの?」
 不思議そうな顔をしながら明子が尋ねると、今度はルイ苦笑しながら返事を返した。
「ニヤケ眼鏡…………? いやね、私たち一応ウォウルさんのお見舞いに来たのです。そしたら貴女たちが彼の話をしていたので」
「それで、ウォウルさんの知り合いなのかなって、思ったんだよ」
 ルイの補足を入れる様に、セラエノ断章が言葉を続ける。いきなり声を掛けられた四人も、「あぁ、なるほどね」と合点し、今までの経緯を話し始める。
昨晩からこの病院で起こっている出来事、その対処法に悩んでいる事、そしてこれからの動き。真人、ルイ等はその話を真剣に聞いていた。ただ静かに、数度頷きながら聞き続けた。話が一区切り付き、新しく来た四人が「わかりました」とそれぞれ、思い思いの言葉でつなげると、セルファが「要は――」を口を開く。
「屋上に行ければ、まずは何があるかがわかるって事よね。寧ろ、それ以外はわからない」
「そうなりましょうな。手前共もそれを掴みたかったのですが、如何せん妨害の手の者がおりまして……」
「なかなか強い……男でした」
 天地と昴は悔しそうに、しかし何処か目を輝かせながら呟く。昨晩の事を思い返しているのか、言葉を並べる度に手に力が籠っていた。
「だったら、それは大丈夫じゃないでしょうか? 彼……あぁ、ウォウルさんとは特別親しい訳ではありませんが、かなり大勢の方々が彼を助けに来てくれていたみたいですし、前に。その人たちに事情を説明すればきっと何かしらの形で協力してくれると思います」
「ルイ……私たちは協力しないの?」
「……いえ、そんな事は言っていませんよ。我々も全力で協力します。それに、今床に伏しているウォウルさんが一人で逃げられるとは思えません。我々はウォウルさんや他の入院患者さんの保護を優先に行おうかと、そう思っているだけです」
「それならいいわね。あのニヤケ眼鏡とか他の患者さんを守ってくれるなら、私も思う存分戦えそうだし。ってかあのバカ……こんな大事になるなら前もってはっきり言っときなさいよ、全く……」
 ルイとセラエノ断章のやり取りを聞いていた明子は、大きくため息をついて頭を抱えた。
「兎に角、これからまだ他のコントラクターの方がいらっしゃると思うので、彼らに協力を要請した方が良いのは明確です。僕たちも協力しますしね」
 真人はそう助言すると、いつしか座っていたソファーから立ち上がった。
「さ、我々は一応ウォウルさんの来ましたし、一度顔を出しに行きましょう」
「うん、そうよね。ま、弱ったあの人も見てみたいってのはあるけど」
「こらこらセルファさん、そんな物言いは……」
「良いんじゃない 私、一か月前に助けてあげようとしたとき脅かされたし。うん、そのくらいの楽しみがあってもバチは当たんないと思う」
「はっはっは、まぁ、そうですね」
「セラ、真人さんまで……はぁ、ルイさんちょっと心配ですよ」
 面会室に残る面々に簡単に挨拶を済ませ、真人、ルイたちは一路、ウォウルの病室へと向かう。
「うむ、なんだか便りになりそうな方々が来たな。これで我らの目的も大きく一歩、前進できそうだ」
「と、なると、適当なところで私も病室行こうかな。荷物は置かせてもらうとしても、これから本腰入れて屋上に乗り込むとなると、適当な理由を着けなきゃいけないしね」
「手前共は此処で暫く待っている事にします。その………」
「私は……行かない」
「との事ですので」
「人見知り………なのか?」
 苦笑を浮かべる天地の横、昴はそっぽを向いてそう答え、その様子を見て武尊が首を傾げた。
「んー、わかった。まぁ向こうには結構人来るみたいな感じだったし、私も適当に切り上げてくるから、そしたら動きましょう」
 そう言うと、明子も席を立ち、三人を残してウォウルの病室へと向かうのだ。



     ◆

 明子、武損、昴と天地のいた面会室を抜けて廊下を進んだ突き当り、ウォウルの病室を目指す真人、セルファ、ルイ、セラエノ断章の四人はそこで、病室の前に佇む三つの人影を発見した。
「あれ…… あそこで何してるんだろう」
 セラエノ断章がそう呟くと、三人も目を凝らして扉の前を見る。歩きながら近付けば、その人影の正体がわかったらしく、更に首を傾げた三人。
「ねぇ……入りづらくない?」
「そうですかね……気にしなくてもウォウルさん、普通にしてると思いますけど。でも……やっぱりちょっと」
「二人は良いだろう……俺など、俺など手負いの彼を……」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)カムイ・マギ(かむい・まぎ)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の三人は、本当に申し訳なさそうにしながら病室に入れずにいた。
「何やってるの?」
 やってきた四人の中、先行していたセルファ、セラエノ断章が三人に声を掛けた。
「お見舞い だったら入れば良いのに」
「いや、その……」
「あはは……ねぇ……」
「なんだ、その……入りづらいと言うか、合わせる顔がないと言うか…」
 セラエノ断章の言葉に、顔を見合わせる三人。
「だったら一緒に入ればいいのです。私たちと一緒にっ!」
「い、いきなりテンション高いですね。ルイさん……」
「えぇ! 深刻そうな顔をしては、病人が心配してしまう! ならばこちらだけでも元気でいなければっ! いけないのですっ!」
 不思議なポーズを突如として取り始めたルイに押され、レキ、カムイ、エヴァルトは思わず笑った。
「さぁ、その笑顔です! 行きましょう!」
 彼にがっしりと肩を掴まれるエヴァルト。セルファ、セラエノ断章に手を握られて引っ張られるレキとカムイ。真人が扉に手を掛け、挨拶と共に部屋へと入って行く。
「ウォウルさん、大丈夫ですか?」
「おや、これはこれは皆さん。いらっしゃい」
 ベッドで横になっているウォウルは窓から扉に顔を向け、入ってきた一同を見やる。
「いやはや、病院と言う事なので贅沢は言えませんが、随分手狭ですみません。適当に場所を見つけて寛いでくださいね」
 彼の言葉に反し、一同は病室を見回した。そして一同の感想は一致する。
『いや、広いだろ。寧ろ広すぎだろ』と。