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君と僕らの野菜戦争

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君と僕らの野菜戦争
君と僕らの野菜戦争 君と僕らの野菜戦争

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 ところで。
 ジョージ農園では、まだウェリントンとの戦いが続いていました。
 敵が予想外に粘るので総力戦です。
「え〜っと、私たちって確かナスビのモンスターと戦っていたんですよね?」
 波羅蜜多実業高等学校からやってきていたリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は、少し離れたところからウェリントンを見やって絶句していました。
 倒されても倒されてもまた復活し、そのたびに姿を変えていくウェリントンは、もやは形容しがたい不気味な巨大モンスターへと変貌を遂げてしまっています。
 温室育ちのヤワな野菜と思っていたのに、意外にもワイルドです。
 リリィの放ったプランと落としのおかげでビニールハウスは崩れ落ち、屋外の戦闘になってしまっています。
 広く場所が取れるようになって、戦線は益々拡大しウェリントンも猛威を振るっているのです。
「もうこれ、食べれるってレベルじゃねえぞ。早くぶっ潰してしまおうぜ」
 リリィの連れ合いのカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)は、降伏も弱まりもしないウェリントンにげんなりした様子です。
 といいますか、ウェリントンが食べれない状態になってしまっているのは痺れを切らしたカセイノが毒虫を呼んで毒攻撃とかしてしまったからなのですが、それでもウェリントンはあまり応えた様子もありません。
 元々紫色なので、毒が回っているのか素顔なのかわかりませんしね。
「もう、アレやるしかないだろ。派手に使ってみたかったんだ」
「崩壊する空ですか? 周りに人が大勢いるので危険だと思うのですが」
「んなマヌケはこんな戦場にいねぇ! 全員かわすだろ、ウェリントン以外は」
 台詞が終わるより先に、カセイノは術を発動させます。もう問答無用です。
 魔力が充溢し大気が渦巻き始めます。巨大な嵐のようなうねりが巻き起こり、全てを飲み込み始めました。
「ちょ、ちょっと、そんないきなり。まだ誰も気づいてないのに……きゃああああっっ!」
 あろうことかリリィが渦に飲み込まれ上空高くに舞い上がっていったではありませんか。
 あとは光の玉が落下し撃破してくれるのを待つだけです。
「……むちゃしやがって」
 カセイノは空に向かって敬礼しました。
 空にはリリィの顔がキラリと浮かんでいるように見えましたから。
 ……。
 こちらはさておき、なりふり構っていられないのは誰も同じです。
「やばいよ、これ。なんかラスボス戦みたになってきちゃったよ」
 湧き出すザコを蹴散らしながらウェリントンに近づこうとしていた、蒼空学園のセイバー藤原 歩美(ふじわら・あゆみ)は、一緒にやってきていた先輩の健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)に相談口調で声をかけました。
 その純真でつぶらな瞳は、先輩ならきっと何かすごいことをやってくれるだろうと期待に輝いています。
「本陣は乱戦になっているようですし、それでもあのナスビお化けはなかなか死なないし、これ私が突撃してもいいんですか?」
「ああ、いくがいいさ。この不毛な戦いを止められるのは歩美、君だけだ」
 勇刃は、ウェリントンの直属ナスビ十二人衆と切り結びながら、力強く答えてくれます。
「とはいえ、君の実力では少々不安が残るな。見ろよ。レベルの高い歴戦の戦士たちだって、仕留めあぐねている。まあ、あれが彼らの真の実力とは思わないけどな」
「野菜祭りみたいなものだからでしょうか? 皆さん、戦いを楽しんでるようですね」
「だが、お遊びもそろそろ終わりだ。俺が力を貸してやるから、一気に決めるんだ」
「あ、ありがとうございます。私、全力でがんばりますっ!」
 言うなり、歩美は爆炎波の術を編み上げ始めます。これには勇刃もびっくりです。
「健闘先輩、お許しください! では、いきますねっ!」
「いや、ここからじゃ術の範囲外だ。もっと近づいてから……えっ!?」
「爆炎波!」
「な、なあああっっ!?」
 歩美の術は勇刃を中心に破裂しました。
 衝撃と爆風に巻き込まれ勇刃は華麗なフォームで吹っ飛びます。
(ああ、なんて人生だったんだ……)
 一瞬脳裏に走馬灯を走らせながら、人間爆弾と化した勇刃はウェリントンに突撃していきます。
 たいした勇姿ですが、残念ながら彼の突撃だけでウェリントンを完全に仕留めるのは難しかったでしょう。彼の突撃だけならば。
 ほぼ同時に。
 竜巻にゴウゴウと鳴っていた空にヒビが入り、光属性の魔力が降ってきます。
 崩壊する空。
 カセイノの術に巻き込まれていたリリィも竜巻の隙間から転がり落ち、ウェリントンに降りかかってくるではないですか。
「ええいっ、もうどうにでもなってください!」
 リリィは半ばパニックになりながら、それでもバニッシュを放ちます。
「正義の鉄槌!」
 勇刃も半ばやけくそなのでしょうか、勢いに任せ自分のダメージを無視して術を撃ちました。
 ドオオオオンッッ!
 轟音と共に地面が揺れ、リリィと勇刃は化け物となったウェリントンの身体に突撃します。
「ぐはああああっっ!」
 強襲を受けたウェリントンは悲鳴を上げます。
「ここだ!」
 ズブリ! とウェリントンの身体に拳をめり込ませた勇刃は、硬くて手触りの気持ち悪い“核”を見つけます。
「行け、歩美! 俺の死を無駄にするな!」
「はいっ、先輩!」
 歩美は勇刃の誘導通りに、渾身の攻撃を放ちます。
 狙い過たず彼女の剣はウェリントンの“核”の部分を切り裂くことに成功しました。
「ぐはああああっっ!」
 ウェリントンはもう一度悲鳴を上げます。
「やったか?」
「……多分」
 これまで変形を繰り返していたウェリントンが、耐えられなくなったようにゴボリと身体を歪ませます。
 ぶくっぶくっと膨れ上がり鈍い光を放ち始めます。どうやら本当に最期のようです。
「危ない、爆発しますよ!」
 リリィが即座に防御結界を張り巡らせます。
「くくく……、よくぞこの私を倒した。後は美味しく食べるがいい……」
 ウェリントンのその言葉が終わると同時に、彼は爆発し四散します。
 弾けとんだウェリントンはただの砕けたナスとなりびちゃびちゃと空から降ってくるのでした。
 他の部下たちも、ウェリントンがやられたのがわかると蜘蛛の子を散らすように逃げていきます。
 野性の野菜{?}となり、森の奥ででも静かに暮らすことでしょう。
「終わったな。お疲れさん」
 最初から戦っていたラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が終戦を宣言します。
「まあ、腹ごなし程度にはなったな」
「後は、料理班に任せましょうか」
 リリィは空を仰ぎました。
 お天道様は何事もなかったかのようにさんさんと輝いています。
 これからもよい農業日和となるでしょう。
 野菜たちの戦いは終わったのです。