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リアクション
第十九章:ルカルカ・ルー&ダリル・ガイザック
同日 某時刻 海京中心部付近 地下ライフライン空洞
「なるほど。どうりで、陣形の中心点を割り出したにも関わらず、姿が見えなかったワケね」
自分の周囲に広がる広大な空間を見ながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は何かを得心した様子で呟いた。見渡す限り、彼女の周囲に広がる壁から天井に至るまで、びっしりと埋め尽くすようにパイプやケーブルが所狭しと施設されている。
海京の地下。水道やガスのパイプ、電気や通信のケーブルを埋設させたライフライン空洞を歩きながら、ルカルカは隣を歩く相棒――ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に語りかけた。
「まぁ、それでもわざわざ上空から観察した意味はあったわよね」
その声に頷くと、ダリルは空洞の奥をしっかりと見据えながら応える。
「ああ。ここで俺たちがボスの役割を担う個体を撃破できれば、今頃海京の各地で戦っている友軍も一気に優勢を取れるはずだ」
戦闘の趨勢を高空から判断、ボスを探し出して倒す――それがルカルカたちの立てた作戦だった。
高空から海京各地の交戦地点を俯瞰し、キメラーメンの出現地点や移動ルートを記録していく中で、ルカルカとダリルは海京各地で同時多発的に活動を開始したキメラーメンの動きに一定の法則性があることに気付いたのだ。
即ち、無作為に動いているようで、キメラーメンはとある一点を中心にして動いていたのだ。まるで、その一点を――海京中心部付近の一角を本拠地とするかのように。
そうしたキメラーメンのある種の組織だった動きを看破したことでルカルカたちは、キメラーメンの群れにはボスとしての役割を担う個体がいるという仮説を裏付け、確信を持ってボス個体を捜索することに踏み切れたが、ここで彼女たちは一つの疑問にぶち当たった。
実際に観測されたデータを基に割り出したにも関わらず、キメラーメンたちが本拠地としていると目される地点には、まるで意図的に排除したのではないかと疑いたくなるほどに、キメラーメンの姿が無かった。
そこから少しでも離れれば、至る所でキメラーメンの群れが大挙して押し寄せているにも関わらず、本来ならば一番守りを固めなければならない筈のエリアにはキメラーメンの姿はない。
その事実に腑に落ちないものを感じていたルカルカは、何度目かの熟考の後、半ば何の気なしに、ラップトップのハードディスクに記録された海京の都市マップのファイルを開いた。
半ば何の気なしに行った行動。だが、結果的にそれが思考の迷宮に活路を見出すこととなった。彼女は敵本拠地として仮定した場所の地下に、ライフラインを埋設させた空洞が通っているという事実を発見したのだ。
「そう考えると、防戦や篭城に使えないこともないし、ある意味で拠点としては優秀なのかもね」
彼女の言葉にダリルは相槌を打つ。それを聞いてから、ルカルカはなおも喋り続けた。
「そうそう。チョコレートは正義! やっぱりチョコバーは常備よね。チョコバーは、Dレーションとして効率かつ美味な携帯食。カカオには、ポリフェノールがあって薬効もあるのよ」
上機嫌で語りながらルカルカは上着のポケットからチョコバーを取り出して頬張ると、更に上機嫌になって声を上げた。
「おいちー♪ てなわけで、ルカルカたちが守る食べ物はチョコレートね。キメラーメンたちには渡さないわっ!」
地下空洞を歩きながらルカルカは言う。だが、ダリルはそれに応えず、人差し指を立てた右手でルカルカの口元を塞ぐようにして彼女が喋るのを制する。
ダリルの雰囲気に何かを感じ取ったのか、ルカルカも即座に表情を真剣なものへと切り替え、軍人としての顔に変わる。靴音すら立てないように、足すらも止めた二人の耳に飛び込んできたのは、空洞特有の反響を伴って聞こえてくる、何かがうごめく音だった。
「どうやら当たりだったようね」
ルカルカは武器を構えると、前方に見える整備用のハッチをしっかりと見据える。どうやら、何かがうごめく音は眼前の整備用ハッチの向こうから聞こえてくるようだ。
「行くよ、ダリル」
ルカルカの言葉にダリルは頷くと、彼女と同じく武器を構える。彼が武器を構えたのを確認し、ルカルカは整備用ハッチを蹴り開けた。
「……思ってた以上かも」
踏み込んだ先の区画で、ルカルカは絶句しそうになるのを必死に堪えて、何とか口を開く。その区画にいたのは、部屋の殆どを埋め尽くすほどの巨体を有する巨大なキメラーメンだった。
更に、そのキメラーメンをまるで護衛するように、大量のキメラーメンが幾重にも陣形を組んでいる。それなりに広大なスペースを有する区画の殆どが、膨大な量のキメラーメンによって埋め尽くされていた。その光景はまるで放置された建物が、群生したシダ植物に呑み込まれているようだ。
「地下深くに陣取って、大量の兵隊を仕切って、そんでもって食べ物を集めさせて……まるで蟻ね」
その異様な光景に圧倒されそうになる心を叱咤し、ルカルカは武器を構えると同時に前方へと突撃を開始した。彼女の突撃を防ごうと、大量のキメラーメンが幾重にも壁を作るようにして立ちはだかる。だが、ルカルカはそれに怯むことなく突撃すると、キメラーメンの体躯を掴む。
「ラーメンは素材の味を引き立てつつ奏でるハーモニーが決め手なのに、こんなもの許せない。汚物は抹殺よ!」
ルカルカは掴んだキメラーメンを剛力に任せて手当たり次第にボスである個体に向けて投げつけた。荒っぽい攻撃ながらも、投げつけられた方にダメージはそれほど見られない。もっとも、ルカルカにしてみれば、最初からこの攻撃にダメージを期待してはいないのだが。
キメラーメンを放ると同時、ルカルカは神速の足捌きで床を蹴った。投げつけたキメラーメンが標的に激突するよりも速く、放物線を描いて空中を飛行するキメラーメンに追いつくと、それを盾にしてキメラーメンのボスに接近する。
キメラーメンのボスも彼女の意図に気付いたのか、通常のキメラーメンよりも遥かに太く頑強そうな麺を伸ばして彼女を絡め捕ろうとするが、彼女は空中で自らが放り投げたキメラーメンを足場にして跳躍し、強引に方向転換を図ることで極太の麺を回避する。
更に彼女は跳躍の勢いを利用してボス個体の背後に回り込むと、剣を大上段に振りかぶった渾身の一撃を背後から叩き込む。それを受けてボス個体の身体が大きく震え、その振動が伝わったのか、区画全体が大きく揺れる。
自らの攻撃がクリーンヒットしたのは間違いないが、あくまでルカルカは冷静に足部のローラーを起動すると、すぐさま前方に向けて走行。ダリルとの位置を入れ替える。
直後、光条マシンガンの銃撃がボス個体を襲う。最大火力で放たれたフルオート射撃はボス個体から伸びる麺を一つ残らず撃ち落とし、引きちぎっていく。
その凄まじい掃射は、ほんの一瞬前までルカルカがいた場所も撃ち抜いていくが、既にルカルカは離脱を完了している。
ルカルカの離脱からダリルの掃射まで刹那ほどのズレも許されないほどの高度な連携を目配せ一つなくやってのけた二人は、互いの背中を守り合うように、背中合わせに立ってキメラーメンたちを見据える。
「料理人として一言言わせて貰う。『不味い』と」
麺という麺を掃射で撃ち落されたボス個体の前に躍り出ると、ダリルは光条兵器を引き抜いた。間髪入れずその刀身に自身のオーラを込めると、全身全霊の力で真一文字に振り抜く。
その一撃はボス個体を守るように陣取っていた無数のキメラーメンたちを切り裂いた。しかし、それでもなお斬撃の威力は収まらず、キメラーメンたちが身を挺して構築していた防壁の向こうにいるボスの身体にも大きな傷跡を刻む。
「ルカルカ――今だッ!」
「了解ッ! これで決めるよ!」
ダリルの放った斬撃によって切り開かれた道をルカルカは神速の足捌きで駆け抜ける。そして、キメラーメンのボスの懐に飛び込んだ彼女は剣を構えると、渾身の力を込めて振りかぶった。
「食べ物を粗末にしちゃダメ!」
まるで咆哮のような叫び声とともに、ルカルカは全身全霊の回転斬りを放つ。彼女の凄まじい膂力によって放たれた渾身の回転斬りは、周囲に残っていた通常のキメラーメンたちも巻き込み、ボス個体の有する巨大な体躯を真っ二つに断ち切った。
「美食におごる者は美食に泣けっ!」
そう言い放って武器を収めるルカルカ。今の一撃でこの区画に陣取っていたキメラーメンは、全ての個体が活動停止したのだった。それを確認し、ほっと息を吐いたルカルカは穏やかな表情になって口を開いた。
「運動したらお腹がすいちゃった。ダリル、普通の塩ラーメンを1つ。ネギ多め麺硬めで宜しく」
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