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彼女はデパートを見たことが無い。

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彼女はデパートを見たことが無い。

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第一章

 とあるデパート。小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)は、一人フラフラと歩く機晶姫ニアの後ろ姿を見つめる。そして、そのニアに近寄る人を見て小さく頷く。
「これなら自分が行うよりも成功確率はかなり上がるでしょう。さて、ニア殿が自爆してしまった時のために自分は一般人の誘導といきましょうか……。皆さん頼みましたよ」
 一人呟いて秀幸は、行動を開始した。

「わぁ、沢山ありますねぇ……」
「……あまりキョロキョロしていると、転ぶぞ」
 銀星 七緒(ぎんせい・ななお)は買出し、そして社会勉強の為とシグルーン・メタファム(しぐるーん・めたふぁむ)を連れてデパートに来ていた。
「あれ……?」
 キョロキョロしていたシグルーンの視線が止まった。その先にいたのは一人の少女。
「機晶石の反応……。あの子も、機晶姫でしょうか。マスター、ちょっと行ってきます」
「あ、シグ!」
 シグルーンは少女の方へと小走りで駆け寄った。

 一人フラフラと歩くニア。
「人沢山。物も沢山。楽しそう……」
「あ、あの……」
 そんなニアに話しかけたのはシグルーン。
「……なに?」
 首を傾げるニア。
「あの、お一人ですか?」
「うん」
 シグルーンの言葉に頷くニア。
「あ、私はシグルーン・メタファムと言います。シグって呼んでください」
「私は、ニア。よろしく」
 二人が自己紹介を終わったところで七緒がおいついてきた。
「シグ、いきなり走って一体……ん? その子は?」
「この子はニアといって私と同じ機晶姫なんです。今知り合ったんですよ」
「そうか。私は、銀星 七緒。よろしく」
「うん。よろしく」
「ニアはデパートは初めてですか? 私は初めて来たんですけど、色々なものが沢山あってすごい場所ですよね」
「うん。人が一杯、色んなものも一杯。楽しい場所。ニア、こんな場所知らなかった」
「良かったら、ご一緒しませんか? 一人でいるより、きっと楽しいと思いますよ? マスターも構いませんよね」
「あぁ、構わないが」
「楽しい……。行く」
「じゃあ、早速行きましょう!」
「うん。行く」
 ニアの手を取り嬉しそうに歩きだすシグルーン。
「類は友を呼ぶ……といったところか。連れてきた甲斐があった、ようだな」
 楽しそうにニアと話しながら歩くシグルーンを見て嬉しそうに呟く七緒。
「マスター! 行きましょうー! 案内してくださいー!」
「そうだな」

 何度かデパートに来た事がある七緒は初めてのシグルーンとニアを案内しながら、必要なものを買っていく。
「わぁ、食べ物が沢山ありますねー」
「うん。美味しそう」
 三人はデパート地下の食品売り場に来ていた。
「見てるだけでも楽しいです!」
「うん。楽しい」
「あら、賑やかそうですわね。シグルーンちゃん」
 賑やかな二人の元にやってきたレモリーグ・ヘルメース(れもりーぐ・へるめーす)
「あ、レモリーグさん。こんにちは」
「こんにちは。そちらの方は?」
「ニアは、ニアっていうの。よろしく」
「ニアちゃんですわね。よろしくですわ」
「……ニア、お腹すいた」
 食品を見ていたニアがふと、そんな事を言い始めた。
「あらあら、大変ですわね。私が食べ物を分け与える義理はありませんが……、ここはデパ地下。愛くるしいあなたのお礼に、特別にここでの過ごし方をお教えしましょう。ついていらっしゃいな。シグルーンちゃんも」
「あ、待ってくださいー!」
「……待ってー」
 レモリーグの案内で向かった場所はデパ地下で試食用として食べ物を配っている店員がいるところだった。
「さて、ここで店員さんが手渡ししている食べ物はどれも無料なのですよ」
「へぇ、そうなんですかぁ」
「……いっぱい食べられる?」
「いえ、あれはあくまでも買わせるための釣りエサ。なので一個しかもらえませんわ」
「食べてもらって買ってもらおうって事ですか?」
「その通りですわ。タダ程高いものは無いと言いますからね、ふふふ……」
「……じゃあ、どうするの?」
「買わせる素振りを見せていただくのですわ。見ていらして」
 レモリーグは、食べ物を配っている店員の近くにある商品へと向かい、買う素振りを見せつつ、店員の方へ近づく。
「こちら試食になりますー。よければどうぞー」
 案の定、それを見ていた店員がレモリーグへと試食品を渡す。レモリーグはそれを食べた後、商品を手に少し迷った様子を見せ、商品を戻してニア達の方へと戻ってきた。
「こんな感じですわ。ちょっとポンコツでドンくさそうで、ニアちゃんには厳しいかもしれませんけど……」
「……そんな事ない、ニアやる」
 今度はニアが、店員の方へと向かう。
「いらっしゃいませー!」
「…………」
 そして、ジッと店員を見続けるニア。
「あ、あの……」
「…………」
「よ、よければ、どうぞ……」
 折れた店員が試食品をニアに渡す。
「……ぶい」
「ぶい、じゃありませんわ。なんという強引なやり方……。しかしまぁ、なかなかやりますわね。ニアちゃん。店員を折れさせるなんて」
「すごいねぇニアさん。よーし私も!」
 シグルーンも負けじと店員の方へと向かって行った。

「賑やかで良いことだ」
 三人のやりとりを少し後ろで見ていた七緒。
「こんにちは。七緒さん。七緒さんもお買い物ですか?」
「でなければ、こんなところまで来ないじゃろう」
 その七緒の元にやってきた水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)天津 麻羅(あまつ・まら)
「やぁ、水心子 緋雨と天津 麻羅。買出しもだが、起動して日が浅いシグの社会勉強の為にもな」
「ふむ。む、いないと思ったらレモも混じっておるようじゃの」
「あ、本当だ。あの、シグルーンさんと一緒にいるお方は?」
「ニアといってな。一人フラフラしているところをシグが見つけて、一緒に回ることになった」
「そうだったんですか」
「さて、わしらは本来の目的を果たそう」
「買い物か?」
「はい、夕飯の買出しなんです」
「なら、俺も行くとしよう。シグ達も呼ぶか」
「そうですね。それじゃあ、行きましょうか」
 七緒達はかごを手にニア達と合流して食品売り場へと入っていった。