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波乱万丈勉強会

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波乱万丈勉強会

リアクション


◆語学の章「このリアクションはよい子の味方です!」

 書類仕事をするに当たって困るのは、難しい言葉が出てくることだ。普段使わないような難しい漢字が出てきたり、勘違いして意味を覚えていたりすることもある。
 そこで最近書類の仕事が増えてきた武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、語学の勉強グループに参加し、特に漢字について学ぶことにした。
「げぇ、辞書忘れた。仕方ない……なぁ刀真、これなんて読むんだ?」
 勉強しに来て辞書を忘れたというのに、牙竜はどこか楽しそうな顔で友人、樹月 刀真(きづき・とうま)に声をかけた。
「お前。辞書忘れたって、何しに来たんだ」
 刀真は少し呆れた顔をした後、しょうがないなと牙竜が指差した単語を見る。そこにはこう書かれていた。

『童貞』

 ……意味の分からなかった良い子は、そのままの君でいてね。
「それは俺の事だ! 文句あっか! 童帝とか言うなよ。絶対だぞ!」
 つい立ち上がって大きな声を出した刀真。……全国のちびっ子の皆さん。刀真お兄ちゃんに向かって『童貞だ』と指差しちゃ駄目だからね。先生とのお約束だよ。
 勉強をしに来たはずが、なぜかエロトーク? で盛り上がっている2人はさておき。
 彼らのパートナーたちはまじめに勉強をしていた。
「ゼクスさん。分からないことがあれば聞いてくださいね」
「ゼクス、一緒に頑張ろう」
「はい、マスターありがとうございます。灯さんも」
 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)ラグナ ゼクス(らぐな・ぜくす)の3名だ。そもそも今回刀真たちが勉強会に参加したのは、言葉に疎いゼクスのためである。ゼクスもそのことが分かっているため、やる気は十分だ。
「ところで、先ほどから牙竜は何をし……『性感』、ですか。月夜さんのは」
「ひゃあっ」
 なぜか身もだえしている牙竜のテキストを覗き込んだ灯が、月夜の背中を指でなぞった。月夜が可愛らしい悲鳴を上げた。灯は何を納得したのか頷く。
「ここですね。あとはむ」
「ちょっちょっと灯、何すんのよ!」
「すみません、気になったもので」
 女性2人のきゃっきゃうふふ、な展開に周囲の目が向かうのは仕方ないだろう。
 その隙? をついて、牙竜がゼクスに問いかける。
「ゼクス『ぴーー(副音声)』はどういう意味か説明してくれ、刀真と月夜を例にし」
「ふむ、調べてみよう」
「おい牙竜! ゼクスに何させてっ」
「まあまあ」
 2人の言い争いなど気にせず、ゼクスは真面目に辞書をひく。そして目的の単語を見つけて読むが、よく分からなかった。なので、マスター(月夜)に聞いた。聞いてしまった。
「マスター、初ぴー(副音声)とはなんのことですか?」
 騒いでいた月夜と灯の動きが止まった。いや、その場の空気が凍った。
 ニコリ、と笑った月夜は無言のままゴム弾を装填した【マシンピストル】を取り出し、ためらいなく牙竜に向けて発射した。
 自主規制、な声を上げながら倒れる牙竜。彼が持ってきていたテキスト『団地妻のいけない情痴2021冬』が空を舞う。……情痴、の単語を思わず調べる刀真。良い子は調べちゃいけないよ。
「ところで、牙竜に刀真さん。これ読めますか?」
 灯がにっこりと尋ねる。復活した牙竜と辞書を見ていた刀真は思わず、それを読み上げた。『鉄拳制裁』と。
「よくできました」
「ちょっ俺は何もしてない!」
 巻き添えを食ってはたまらない。刀真が大きな声を出すが、月夜が刀真の開かれた辞書を指差した。情痴に入ったマークはごまかせない。
「ちょっと昔を懐かしんだだけ……スンマセン、マジスンマセン真面目に勉強し」
 カエルが潰れたような、奇妙な音が聞こえた。
 ちなみにこの後、「卑猥な単語は調べません」という張り紙された牙竜が廊下で正座している姿の目撃情報が相次いだが、真相は言うまい。

「あの、それでマスター。結局初ぴー(副音声)とは?」
「……あなたは知らなくてもいいの」
「はあ」
「ゼクスさんはあの2人みたいにはなっちゃダメですよ」
 良い子のみんなは真面目に勉強しようね。


「語学っていうと堅苦しく感じちゃうかもしれないけど、言葉っていうのは日常使われるものだから、そう構えなくていいんだよ」
 語学が苦手だ、という生徒を集めて授業をしているのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。明るくはきはきと喋る彼女の授業は分かりやすく、中々好評だ。
「理沙、あの方が教えてくれるそうですよ」
「でも英語じゃないんでしょ?」
「それは言わないお約束です」
 文句を言っている五十嵐 理沙(いがらし・りさ)の背中を押すセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)。語学は語学なのである。普段何語喋ってるの? とか言っちゃいけない。
 追試だけはなんとか避けたい理沙はセレスティアの助言に従い、教科書を読んでいた。テストの範囲を勉強しなおそうとしたのだが……教科書の魔力は凄まじい。3行で眠くなってしまった。そんな理沙を見かねてセレスティアがルカルカの授業へと意識を向けさせたのだ。
(可愛い女の子の授業なら多少やる気が上がるでしょうし)
 そんな思惑で仕向けた授業だったが、日常溢れた言葉を拾い上げて説明していくという内容に、セレスティアは理沙の付き添いであることを忘れて真剣に耳を傾ける。理沙もまた、やる気を出してノートに書きとめているようだ。
 授業を聞いているのはもちろん彼女たちだけではない。
 匿名 某(とくな・なにがし)大谷地 康之(おおやち・やすゆき)もそうだ。某は追試はないものの、パートナーである康之の成績がやばいことが分かったため、付き添いで参加したのだ。
(ロイヤルガードに勉強見てもらえるなんてこと、そうそうないからな。俺もちょっと楽しみだったり。どんなこと教えてくれるんだろう)
「四文字熟語で何か思いつくものある人ー」
「はいはーい! 国士無双!」
 ルカルカが生徒を見回すと、康之が手を上げて言った。意味を言え、と言われたらすげーことだ、としか答えられないが、なんとなくパッと思いついたようだ。
「おっいいのが出たね。国士無双というのは【並ぶ者がない傑出した人物(『良い子の四字熟語辞典』ツァンダ出版社より)】という意味なんだけど、なんとなく聞き覚えがある子も多いんじゃないかな」
 説明するルカルカに、そう言えばどこで聞いたんだっけと康之は首をかしげた。理沙もどこかで聞いたなと思うのだが、普段使う言葉でもないので思いつかない。
 しかし某には心当たりが合った。
「麻雀、だな」
「某くん、正解」
 にやっと笑ったルカルカは、麻雀で使われる役の名前を挙げていく。理沙が首をかしげた。
「ちょっちょっと待って。今、語学の勉強中だよね?」
 麻雀講座染みてきた授業にストップをかけるが、ルカルカはにっこりと笑って肯定した。
「教科書とにらみ合いっこして単語を覚えるよりも、遊びながら勉強した方が覚えやすいと思うの」
「まあ、そうかもしんないけど」
「テンパるって言葉知ってるよね?」
 納得言っていない理沙に、ルカルカはそんな話を振る。理沙はぱちぱちと瞬きして頷く。なぜそんな話をするのか、よく分かっていないようだ。
「実は麻雀から生まれた言葉なんだよ、これ」
「えっ? そうなの?」
「他にも立直(リーチ) とか、安全牌 とか連荘(レンチャン) とかも聞き覚えない?」
「あるある……え、それらも?」
「うん。ね? 興味湧かない?」
「湧く、かも」
 聞き覚えのある単語が麻雀から生まれたと聞き、少し興味がわいた理沙。
「俺、麻雀やりたい!」
 そして話を聞いていた康之もぜひともやりたいと騒ぎ、とりあえず某は麻雀初心者である康之に簡単なルールを教える。理沙にはルカルカが説明をした。
「え? 麻雀って点棒代わりに戦闘機賭けたり牌の表面指で削ったりして勝つゲームじゃねえの?」
「違う! いいか。麻雀ってのは」
「役を覚えるのが勝つ秘訣なんだけど、今回は勉強がメインだからね。2人には特例として答案用紙を渡すよ」
 ルカルカが理沙に役がかかれた紙を渡す。それ見て理沙は少し後悔する。暗号にしか見えなかった。しかし、教科書を読んでも頭に入らないのが目に見えている。それならば別の勉強方法として麻雀を取り入れるのもいいだろう。セレスティアは少し心配そうにしているが、問題ない、はずだ。理沙は役を必死に暗記し始めた。
「理沙は、初心者ってことで康之と組んでやろうか。某もやるよね」
「それは構わないけど、あと1人は?」
 名前を呼ばれて驚く某だが、実はやる気満々であった。
「何を騒いでいる?」
 そこに顔を出したのは理数を教えていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)である。一端落ち着いたため、ルカの様子を見に来たらしい。そして用意された麻雀卓に一瞬目を見開くが、すぐにパートナーの意図を察したのかにやりと笑った。
「手加減はしない」
「そうこなくっちゃ……あ、そうだ。勝ったら負けた子に1つ命令できるってことで。ルカが勝ったら猫耳メイドになってもらうね」
「はぁ。また妙なことを」
 ため息をつくダリルだが、止めはしない。負けなければ問題ないからだ。自分が勝ったら某たちにみっちり補修させよう、とまで考えている。
「がんばろう!」
 理沙は燃えていた。メイドの格好した可愛い子に勉強教えてもらえたらいいなぁ、と思っていた彼女からすると勝つ以外にない。
「負けたらコスプレか。燃えてきた」
 康之にしても、コスプレはご免こうむりたいし、勝ってルカルカのサインをもらいたい、とやる気十分。
「何ぃぃぃぃっ猫耳メイドなんて嫌だ!」
 あっさり皆が食いついた罰ゲームに、某だけが反対したが黙殺される。
 こうなったら、と【記憶術】【女王の加護】などのスキルを使ってでも勝つ! ルカルカが勝っても、ダリルが勝っても自分にとって不利な罰ゲームがありそうだ、と某は察知していた。
(ダリルさんは理詰めできそうだな。ルカルカさんは勘とか運とかがすごそうで、残りは初心者……いや、ビギナーズラックがあるかもな。油断は禁物だ)
 配牌、理牌を終え、某はじっと考える。親はルカルカ。普通に考えるなら早く上がろうとするはず。子がツモで上がれば親は不利だ。つまり某はルカルカが上がることを阻止しながら、自分がツモで上がることを目指すのが常套手段。とはいえ、それだけにこだわるのも危険。柔軟に対応していかなければ。
 捨て牌から相手のアガリ牌を読んでいく。もちろん表情やしぐさ、言葉から何か情報がないかと探りながら……果たして、罰ゲームは誰になるのか。

「楽しそうですね〜」
「ええ……勉強になっているのか、は分かりませんが」
 そんな彼らを見つめながら、いつでも休憩できるようにとお茶の準備をしている結崎 綾耶(ゆうざき・あや)とセレスティアはゆったりと会話していた。
「麻雀はよく分からないのですが、大福とかふぐ刺しとかお寿司用意したほうがいいのでしょうか?」
「ふぐ刺しとか要求していいのは神域の人だけだからぁ!」
 心配した綾耶の言葉へツッコミを入れる某に、
「ほお。ツッコミできる余裕があるのか、某?」
 ダリルが不適に笑いかけた。某は顔を引き締め、再び麻雀に集中する。
 とりあえず、綾耶が持ってきた【エリュシオンの茶菓子】と自作のクッキーを並べ、お茶も人数分用意した。
 綾耶にできることは、某たちが気持ちよく勉強できる環境を作ること。余念はない。
 この後の休憩時間で1人、猫耳メイドがいたが、誰であるかは名誉のために言うまい。
「やっぱりふぐ刺しがあったほうが」
「違うから!」


「なあ、俺たちもまー」
「しませんからね?」
 高円寺 海(こうえんじ・かい)が盛り上がっている麻雀組を見ながら言うと、彼に勉強を教えていた杜守 柚(ともり・ゆず)が少し拗ねた様子で返した。好きな人の役に立ちたい、と参加した彼女だ。海の目が他に移ってしまうのは少し悲しい。
「私たちと勉強するのは嫌ですか?」
「うっい、いや! そんなことはない。むしろ助かってる」
 海が慌てつつ否定した。本当に困っていた海からすると、丁寧に教えてくれる柚の存在は大きい。
 真っ直ぐに目を向けての力強い否定に、柚はほっとして微笑んだ。
「……盛り上がってるところ悪いんだけど、海。そこ間違ってるよ?」
「えっ?」
 咳払いを交えた杜守 三月(ともり・みつき)の指摘に、海は慌ててテキストを見下ろした。が、どこが間違えているのか分からない。三月は苦笑してシャーペンの先で指し示す。
「ここ、漢字間違ってるよ。正しくは、こうだね」
 言いながら三月は正しい漢字を別の紙に書いた。海はしまったという顔をして、三月の手本を見ながら書き直す。そのまま勉強に集中し始めた。
「わ、私は休憩の準備手伝ってくるね」
 顔を赤くした柚が立ち上がった。先ほどの自分たちの状況を思い返して恥かしくなったのだろう。
「いってらっしゃい」
 微笑ましいパートナーの様子に三月は笑いながら送り出す。
「海、そこ違うよ。さっき教えたよね」
「う」
「柚は優しいかもしれないけど、僕は容赦しないよ」
 君が補修になったら、3人で遊べないしね。
「追試乗り切ってバスケしよう。あ、雪合戦の続きでもいいけど」
 三月がそういうと、海もやる気が沸いてきたのか、目つきが変わる。
「絶対勝つ」
「そうそうその意気」

「あのお、すみません。休憩する時、私たちも混ざっていいですか?」
 柚は綾耶にそう声をかけた。
 綾耶は某たちを見た。麻雀もそろそろ終わりそうな雰囲気だ。それに、休憩するなら大勢の方がいい。綾耶とセレスティアに異議はなかったので微笑んで頷く。
「ありがとうございます。あ、並べるの手伝いますね」
「お願いします」
 勉強会に参加した人数は多かったものの、テキパキと準備が進み。麻雀の方から歓声と悲鳴が聞こえた。どうやら終わったようだ。
「海くん、三月ちゃん。少し休憩しませんか?」
「そうだね。一気につめすぎてもしょうがないし」
 柚が声をかけると、三月のスパルタに白旗を上げかけていた海がホッとし、その様子に柚は思わず笑ってしまった。
「笑うな、柚」
「ふふ、すみません……あ。クッキー作ったんです。これ食べて機嫌直してください」
「子ども扱いしてないか?」
「そんなことないですよ」
「そうだよ。子ども扱いなんてしてないよー、海くん?」
「三月……後で覚えてろ」
 和やかな雰囲気で柚のクッキーを食べながら休憩し、また勉強の再開だ。どうも海が苦手なのは語学だけではないらしいので。
「次は私の番ですね。さあ、海くん。なんでも聞いてください」

 ちなみに妨害行為をしようと麻雀に参加したOBKのメンバーもいたが、全員猫耳メイドになった。
「うふん。あら、あちしってば似合うじゃない」
 あらたな道に目覚めた者がいたとかいないとか。